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NCGMが発表した学術論文

NCGMはCOVID-19対応にあたるほか、学術論文を発表することによって、COVID-19対応を通じて得た経験や研究成果を、人類共有の財産として蓄積・継承してまいります。このページでは、NCGM発の掲載済み論文(職員が筆頭著者または責任著者の論文、またはCOVIREGI-JPやREBINDなどを主に用いた論文)について紹介しています(editorialを除く)。
2024年09月20日現在、352報を掲載しています。
これらの論文も含め、NCGM職員が携わったCOVID-19関連論文数は全体で517報となっています(こちらのリストをご参照ください)。

2024年9月掲載

日本におけるCOVID-19第7波の無症候者を対象とした商用検査施設によるSARS-CoV-2ゲノムの定点サーベイランスの分子疫学【new】

我が国におけるCOVID-19のゲノムサーベイランスは、発生動向調査(NESID)の枠組みで有症者から採取されたSARS-CoV2ゲノムをGISAIDに登録することで行われている。一方、商用検査会社による検査サービスでは、無症状の人から採取した検体中のウイルス塩基配列も解析しているものがある。我々は、オミクロン系統が主流であった第7波の間に、SBコロナウイルス検査センター株式会社(SBCVIC)が解析した合計1,248本のSARS-CoV-2ゲノム配列と、GISAIDにある同じ時期のNESIDからの配列1,764本を、時間系統樹と伝播ネットワーク法を用いて比較し、SBCVICはPANGO系統のBA.2からBA.5への移行をNESIDより早く検出したことを見出した。SBCVICとGISAIDで検出されたBA.5系統はしばしば異なるサブクラスターを形成していた。この結果は、無症状の人を対象とした商用検査による定点ゲノムサーベイランスが、医療機関からの全数届出による疾患サーベイランスに比べて管理しやすいアプローチであることを示唆している。

Shiino T, Takeuchi JS, Ohyanagi H, Kimura M, Kazuyama Y, Ikeda M, Sugiura W.
Molecular epidemiology of SARS-CoV-2 genome sentinel surveillance in commercial COVID-19 testing sites targeting asymptomatic individuals during Japan’s seventh epidemic wave.
https://doi.org/10.1038/s41598-024-71953-8
Sci Rep. 2024; 14(1):20950.(2024/9/9)

2024年8月掲載

2020-2021年のCOVID-19パンデミック時の子どものメンタルヘルスに関するオンライン研修【new】

国立国際医療研究センターは、子どもや青少年のメンタルヘルスを改善する取り組みを継続し、2020-2021年に、琉球大学、フィリピン大学マニラ校、国立精神保健センター、フィリピン児童青年精神医学会と共同で、COVID-19パンデミック時の子どもや青少年のメンタルヘルス治療、ケア、プロモーションの状況、課題、優れた実践例についてのオンライン研修を実施した。3つの一般的な精神保健のテーマに関する15のオンデマンド講義とウェビナーで構成されたこの研修では、専門的な医療施設だけでなく、子どもや青少年の精神保健上の懸念に取り組む地域社会の力を高めることで、ケアの提供を強化する必要性が確認された。

Estrada CA, Usami M, Satake N, Gregorio E Jr, Leynes C, Balderrama N, Fernandez de Leon J, Concepcion RA, Timbalopez C, Cainghug VK, Tsujii N, Harada I, Masuya J, Kihara H, Kawahara K, Yoshimura Y, Hakoshima Y, Kobayashi J.
2020 and 2021 web-based training program on children's mental health during the COVID-19 pandemic.
https://doi.org/10.35772/ghmo.2024.01008
GHM Open. 2024.(2024/8/19)

HER-SYSのワクチン接種歴の妥当性:次期パンデミックに向けたサーベイランスシステム効率化への示唆【new】

本研究は、日本のCOVID-19サーベイランスシステム(HER-SYS)のワクチン接種歴情報の妥当性を、COVID-19ワクチン接種レジストリ(VRS)と個人毎リンケージにより検証した。2021年2月~2022年3月に国内3自治体のHER-SYSに登録されたCOVID-19症例19,260人のうち初回接種歴ありの人数はHER-SYS上で3,257人、VRS上で8,323人であった(感度37.2%、陽性的中度95.0%)。国家システムをリアルタイムにリンケージできれば、パンデミック下のHER-SYSへのデータ入力の作業負担軽減および正確な情報に基づく効果的な感染対策が期待される。

Horie Y, Ishiguro C, Mimura W, Maeda M, Murata F, Fukuda H.
Validity of vaccination information in the COVID-19 surveillance system in Japan: Implications for developing efficient and highly valid data collection systems in future pandemics.
https://doi.org/10.35772/ghmo.2024.01007
GHM Open. 2024.(2024/8/19)

COVID-19のパンデミックにおいて日本の子どもにおける摂食障害の重症度に変化なし【new】

本研究によってパンデミック前と後で子どもの摂食障害(Eating Disorder)のBMIや平均年齢に有意差はなかったことが示唆された。これらの所見から、EDの子どもの数は増加しているものの、パンデミック中にその状態が重症化したわけではないことが示唆された。EDの子どもの中には入院する子どもも多く、日本には児童思春期精神医学の専門病棟がほとんどないため、EDの子どもが増えると、神経発達障害や重度の自傷行為、自殺企図など、他の精神障害を持つ子どもの治療が困難になる。本研究の限界は、1施設のデータを用いたことであり、生命の危機に瀕したEDの小児を治療している小児科や救急科での対応ケースにも考慮が必要である。

Usami M, Sasaki Y, Itagaki K, Yoshimura Y, Inazaki K, Hakoshima Y, Mizumoto Y.
No change in the severity of eating disorders in Japanese children during the COVID-19 pandemic.
https://doi.org/10.1002/pcn5.237
PCN Reports. 2024; 3:e237(2024/8/15)

日本在住ミャンマー人のCOVID-19ワクチン接種、検査、医療受診に関連する要因の横断的研究

2023年3月から4月にかけて、日本に6か月以上滞在しているミャンマー人207名を対象に、オンライン調査を実施した。社会経済的特徴、COVID-19ワクチン接種歴・検査歴・医療歴、それらのサービスを利用する際に直面した困難について、多肢選択式で質問したところ、回答者のワクチン接種率、検査・医療の受診率は良好であった。しかし、30歳未満のCOVID-19ワクチン接種率およびいわゆる単純労働者の医療受診率は有意に低かった。長い待ち時間と複雑な予約手続きが主な困難であった。これらの知見は、将来の公衆衛生上の緊急事態に備え、在住外国人の健康管理改善に応用できると考えられる。

Thandar MM, Iwamoto A, Hoshino HA, Sudo K, Fujii M, Kanda M, Ikeda S, Fujita M.
Factors associated with the uptake of COVID-19 vaccination, testing and medical care among Myanmar migrants in Japan: a cross-sectional study.
https://doi.org/10.1186/s41182-024-00621-4
Trop Med Health. 2024; 52(1):53.(2024/8/6)

COVID-19流行下におけるがん患者の外来化学療法実施に関する単施設後方視的調査

COVID-19流行下においても、がん患者への治療は不可欠である。本研究では、外来化学療法の実態とその管理体制について検討した。当院の乳腺・腫瘍内科ではCOVID-19流行の状況に応じた化学療法患者対応指針を立案し、発熱時のフローチャートを作成した。また外来化学療法の実施件数、発熱性好中球減少症(FN)の頻度等に関して、実態調査を行った。緊急事態宣言前と比較して、1回目の東京都の宣言後に実施件数が減少したが、それ以外の期間では実施件数の減少は認めなかった。FNの発生頻度や重症度、流行前後の一次予防のためのペグフィルグラスチムの使用量に差は認めなかった。適切な治療指針を作成することで流行下でも外来で安全に化学療法を実施できた。

Shimanuki Y, Shimomura A, Ogawa C, Komuro M, Terakado H, Nishimura T, Shimizu C.
A retrospective single institutional analysis of outpatient chemotherapy in patients with cancer during the COVID-19 pandemic.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01134
Glob Health Med. 2024.(2024/8/3)

2024年7月掲載

COVID-19流行下における在留外国人と日本人の自殺率の動向比較

人口動態調査死亡票を用いて、在留外国人と日本人におけるCOVID-19流行前後の自殺率の推移を比較した。2016~2021年の自殺者数は、在留外国人1,431人、日本人121,610人であった。COVID-19流行前後を通じ、日本人の自殺率は在留外国人より高かった。日本人では流行初期(2020年4~6月)に自殺率が低下した後上昇したが、この自殺率の一時的な低下は在留外国人ではみられなかった。また在留外国人男性では日本人男性と比べ、自殺率の上昇が2021年末まで持続していた。在留外国人と日本人の自殺率の動向は異なっており、健康危機における、それぞれの状況に合わせた自殺対策の必要性が示唆された。

Taniguchi Y, Tamiya N, Iwagami M, Yamagishi K, Miyawaki A, Masuda R, Kihara T, Komiyama J, Tachikawa H, Takahashi H, Iso H.
Different trends in suicide rates among foreign residents in Japan and Japanese citizens during the COVID-19 pandemic.
https://doi.org/10.1186/s12939-024-02234-z
Int J Equity Health. 2024; 23(1):150.(2024/7/31)

2024年6月掲載

無症候性または軽症のCOVID-19に対するエンシトレルビルの有効性と安全性:多施設共同無作為化フェーズ2b/3臨床試験の探索的解析

この第2b/3相無作為化プラセボ対照試験は、COVID-19に対するエンシトレルビルの有効性と安全性を評価したものである。対象患者はSARS-CoV-2に感染した無症状もしくは軽症の患者である。本試験は、日本、韓国、ベトナムの57医療機関で実施され、参加者はエンシトレルビル125mg群、250mg群、プラセボ群に無作為に1:1:1の比率で割り付けられた。合計572人がintention-to-treat集団に組み入れられた。エンシトレルビル125mg群では、プラセボ群と比較して、COVID-19の14の症状または発熱のいずれかを発症するリスクが77%減少し、症状または発熱が悪化するリスクが29%減少した。ウイルスRNA、力価、感染性ウイルスクリアランスまでの期間は、プラセボに対して統計学的に有意に短縮していた。エンシトレルビルによる治療でCOVID-19症状の発症または悪化のリスクが低減する可能性が示され、エンシトレルビルは抗ウイルス効果を示し、忍容性も良好であった。

Katagiri D, Tsukada A, Izumi S, Shimizu Y, Terada-Hirashima J, Uemura Y, Kusaba Y, Takasaki J, Takoi H, Tamura-Nakano M, Hojo M, Takano H, Noiri E, Abe S, Azuma A, Sugiyama H.
Efficacy and Safety of Ensitrelvir for Asymptomatic or Mild COVID-19: An Exploratory Analysis of a Multicenter, Randomized, Phase 2b/3 Clinical Trial.
https://doi.org/10.1111/irv.13338
Influenza and Other Respiratory Viruses. 2024; 18(6):e13338. (2024/6/18)

平時における保健システム強化 ーパンデミック条約とユニバーサル・ヘルス・カバレッジー

COVID-19パンデミックの経験を踏まえ、2021年にパンデミック条約起草のための政府間交渉機関が設立され、2024年の第77回世界保健総会で議論の結果が提出された。その議論の過程で、国立国際医療研究センターは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの観点から、主に以下の点で技術的インプットを行った:①パンデミック中の必須保健サービス提供の維持、②変化する保健人材需要への対応、③パンデミック製品の公正な分配、④保健セクター以外の社会保障システムの整備。これらの要素は、健康危機への対応と準備の強化だけでなく、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成にも重要であり、両者に焦点を当て協調した取り組みがシナジー効果を生む可能性がある。

Yokobori Y, Nozaki I, Hachiya M, Fujita M, Egami Y, Miyano S, Nagai M, Komada K, Norizuki M, Ichimura Y, Tsuboi M, Kawachi N, Takakura S.
Strengthening health systems during non-pandemic period: Toward universal health coverage in the pandemic agreement.
https://doi.org/10.35772/ghm.2024.01035
Glob Health Med. 2024. (2024/6/16)

2024年5月掲載

酸素需要のあるCOVID-19患者におけるポリミキシンB固定化カラムによる直接血液灌流法(多施設共同研究)

ポリミキシンB固定化ファイバーを用いた直接血液灌流法(PMX-DHP)は、酸素需要のあるCOVID-19肺炎に有効であることを、我々の施設から報告(文献1,2)してきた。今回、2020年9月28日から2022年3月31日までにNCGMセンター病院あるいは東京医大病院に入院した酸素需要のあるCOVID-19患者を対象に、PMX-DHPの有効性と安全性を評価した。主要評価項目は、治療15日後の臨床的改善率とし、副次評価項目は病勢悪化の割合とした。Synthetic Control群(対照群)にはCOVIREGI-JPのデータを用いた。15日目の改善率はPMX治療群と対照群で差がなかったが、悪化率はPMX治療群で0.38倍低く、29日目の死亡率はPMX治療群で0%、対照群で11.1%であった。PMX治療後、血中酸素濃度は改善し、尿中β2-MGとL-FABPは有意な減少を示し、IL-6は治療中に一旦減少したが持続しなかった。今回の研究では、PMX治療はCOVID-19中等症患者において酸素化の改善を伴い、病態の悪化を予防した。活性化した各種血球細胞を除去するPMX治療は、患者の転帰を効果的に改善する可能性が示唆された。

Katagiri D, Tsukada A, Izumi S, Shimizu Y, Terada-Hirashima J, Uemura Y, Kusaba Y, Takasaki J, Takoi H, Tamura-Nakano M, Hojo M, Takano H, Noiri E, Abe S, Azuma A, Sugiyama H.
Blood perfusion with polymyxin B immobilized columns in patients with COVID-19 requiring oxygen therapy.
https://doi.org/10.1038/s41598-024-63330-2
Sci Rep. 2024; 14(1):12550. (2024/5/31)

COVID-19感染とパーキンソン病様症状の関連

本研究では2020年2月から2021年11月までの期間、COVID-19回復後に当院の外来を受診した患者を対象にアンケート調査を行い、COVID-19感染とパーキンソン病様症状の発現との関連性を検討した。最も多かった症状は不眠で、141人(27.9%)が経験した。動作緩慢は66人(13.1%)が経験し、有症状期間の中央値は90日であった。歩行障害、安静時振戦、便秘、傾眠を経験した患者の割合は、それぞれ9.1%、5.0%、4.8%、2.8%であった。今回の研究ではCOVID-19感染後に新規にパーキンソン病と診断された参加者は認めなかったが、COVID-19感染とパーキンソン病の関係を解明するには、今後も継続的な調査が必要である。

Maruki T, Morioka S, Kutsuna S, Kimura Y, Mochizuki H, Ohmagari N.
The potential association between COVID-19 and Parkinson's diseaselike symptoms.
https://doi.org/10.35772/ghmo.2024.01003
GHM Open. 2024.(2024/5/23)

mRNA COVID-19ワクチンブースター接種と死亡との関連: VENUS Study

国内2自治体の成人(18-64歳)と高齢者(65歳以上)におけるmRNAワクチンのブースター接種後の死亡リスクをnested case-control デザインで評価した。成人・高齢者の各コホート内での死亡ケースに対してコントロールを1:5で時点マッチングした。マッチした日付より前21日間のmRNAワクチン接種の有無を比較し、そのオッズ比(OR)を推定した。成人での3・4回目接種後0~21日のORは、それぞれ0.62と0.38であった。高齢者では3~5回目の接種後のORは、それぞれ0.36、0.30、0.26であった。mRNAワクチンのブースター接種によって死亡リスクの増加は確認できなかった。

Mimura W, Ishiguro C, Maeda M, Murata F, Fukuda H.
Association between mRNA COVID-19 vaccine boosters and mortality in Japan: The VENUS study.
https://doi.org/10.1080/21645515.2024.2350091
Hum Vaccin Immunother. 2024; 20(1):2350091.(2024/5/17)

2024年3月掲載

オミクロンおよびデルタ株流行期におけるCOVID-19関連死亡患者の臨床経過および死因の比較:日本における後ろ向き観察研究

COVID-19オミクロン株はデルタ株と比較し重症化率が低いことが知られているが、日本国内ではオミクロン株流行期である第6波以降、軽症-中等症患者の死亡数が増加し、その原因は明らかになっていない。我々はデルタとオミクロン株流行期に入院し死亡退院したCOVID-19患者の主死因、経過、背景を後ろ向きに記述し、比較検討した。デルタ株流行期の主な死因は80%が肺炎(n=16/20)だったが、オミクロン流行期のそれは29%(n=7/24)であり、肺炎以外(入院前・入院後合併症)で死亡した患者が約2/3を占めていた。患者属性や臨床像の変化に伴い、致死的な併存疾患を持つ患者のための医療基盤確立とCOVID関連合併症の注意深いモニタリングが不可欠と考えられた。

Sakurai A, Morioka S, Tsuzuki S, Matsunaga N, Saito S, Arai N, Yamamoto N, Hara T, Hojo M, Hiroi Y, Yamada K, Ohmagari N.
Difference in clinical courses and causes of COVID-19-related deaths in hospitalized patients infected with omicron and delta variants: A retrospective study in Japan.
https://doi.org/10.35772/ghmo.2023.01025
GHM Open. 2024.(2024/3/30)

COVID-19が相対的貧困者に与える経済面、生活面、精神面の影響

日本における相対的貧困者1,000名を対象に2021年9-10月オンラインでCOVID-19の経済面・生活面の影響、同病への恐怖、社会支援とK6スコアによるSPD (重度の精神的苦痛)有無を調査した。SPDの有病率は17.9%であった。多変量ロジスティック回帰分析により、SPDとの関連因子として、①収入減少とそれに伴う生活への影響(携帯電話の停止、炭水化物が多く肉・魚や野菜が少ない食事への変更等)、②労働環境に関係する影響(テレワーク、性自認に対する不当な扱い等)、③直接的な精神・心理的影響(精神疾患の悪化、コロナ恐怖尺度点数が平均以上等)が明らかとなった。

Murakami H, Kanda M, Sawayanagi T.
Serious psychological distress and Coronavirus disease 2019 impact among population affected by relative poverty in Japan: an online cross-sectional study.
https://doi.org/10.23736/S2724-6612.22.02373-9
Minerva Psychiatry 2024; 65(1):28-36.(2024/3/22)

レセプトデータからCOVID-19入院患者とその重症度を特定するアルゴリズム開発およびバリデーション

2020~2021年のレセプトデータからCOVID-19の全入院・中等度以上の入院・重度の入院を特定するアルゴリズムを開発し、その妥当性を評価した。傷病名(ICD-10: U07.1, B34.2)のアルゴリズムは、全入院では全期間を通じて高い感度(90.4~94.9%)と低い陽性的中度(9.3~19.4%)を示した。傷病名と処置のアルゴリズムは、時期によって変動したが、最も高かった時期の感度・陽性的中度は、全入院93.9%・97.1%、中等度以上の入院90.4%・87.5%、重度の入院92.3%、85.7%であった。特異度と陰性的中度は全期間を通して約99%であった。

Ishiguro C, Mimura W, Terada J, Matsunaga N, Ishiwari H, Hoshimoto H, Miyo K, Ohmagari N.
Development and validation of claims-based algorithms for identifying hospitalized patients with COVID-19 and their severity in 2020 and 2021.
https://doi.org/10.2188/jea.JE20230285
J Epidemiol. 2024. Online ahead of print.(2024/3/9)

小児におけるCOVID-19感染後の罹患後症状の発生率と関連要因の検討:一般住民におけるケースコントロール研究

本研究では、大阪府八尾市において2021年3月から2022年4月にCOVID-19に罹患しHER-SYSに登録された5歳~17歳児1,800人の罹患後症状をアンケート調査で評価し、性・年齢等をマッチさせた非感染者1,341人(対照群)と比較した。その結果、感染者における罹患後症状は6.3%と、非感染者での遷延する症状と比べて約3倍高いこと、また、罹患後症状がある児においては、感染から半年以上経過後も10.5%が深刻な生活への支障があることが明らかとなった。感染前に2回以上COVID-19ワクチンを接種していた児においては、罹患後症状の割合が半減した。オミクロン株流行期の軽症者を中心とする小児集団においても、COVID-19罹患が遷延症状の頻度を高めること、また、感染前のCOVID-19ワクチン接種がこれに対して抑制的に働く可能性が示唆された。

Hosozawa M, Hori M, Hayama-Terada M, Arisa I, Mph YM, Kitamura A, Takayama Y, Iso H.
Prevalence and risk factors of post-coronavirus disease 2019 condition among children and adolescents in Japan: A matched case-control study in the general population.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2024.107008
International Journal of Infectious Diseases. 2024;143:107008.
(2024/3/8)

唾液サンプル中のSARS-CoV-2 RNA検出におけるグアニジン系および非グアニジン系不活性化剤を使用したdirect RT-PCRの診断精度の解析

唾液サンプル中のSARS-CoV-2 RNA検出における、グアニジン系および非グアニジン系不活性化剤を使用したdirect RT-PCRの診断精度を評価した。結果から、不活化唾液の感度は生唾液よりも低く、グアニジン系処理の方が非グアニジン系処理よりも感度が低いことが分かった。ただし、感染拡大に貢献する集団では、どちらの処理法でも十分な精度が得られることが示された。不活性化剤をRT-PCR用に収集された唾液サンプルに添加することで、十分な診断精度を維持しながら検体搬送時や処理時のウイルス伝播リスクを減らすことができることが示唆された。

Katsuno T, Kimura M, Terada-Hirashima J, Kazuyama Y, Ikeda M, Moriya A, Kurokawa M, Motohashi A, Isaka E, Morishita M, Kawajiri K, Hakkaku K, Saito S, Terayama Y, Sugiura Y, Yamaguchi Y, Takumida H, Watanabe H, Morita C, Tsukada A, Kusaba Y, Tsujimoto Y, Ishida A, Sakamoto K, Hashimoto M, Suzuki M, Takasaki J, Izumi S, Hojo M, Sugiyama H, Sugiura W.
Diagnostic accuracy of direct reverse transcription-polymerase chain reaction using guanidine-based and guanidine-free inactivators for SARS-CoV-2 detection in saliva samples.
https://doi.org/10.1016/j.jviromet.2024.114909
Journal of Virological Methods. 2024; 326:114909.
(2024/3/5)

多施設データベースに基づくCOVID-19罹患の気管支喘息患者に関する観察研究

COVID-19を合併した喘息患者の臨床的特性と重症度、ワクチン接種との関連に関しては不明な点が多い。本研究では喘息とCOVID-19の重症度の関連性を調べるため、2020年1月から2022年12月の間に690施設に入院した患者のデータを収集し、ロジスティック回帰を用いて多変量解析を実施した。結果として、COVID-19の入院患者72,582人中、3731人に喘息の罹患があった。2020年1月から2021年6月までとワクチン接種が普及し始めた2021年7月から2022年12月までのいずれの期間も、喘息は死亡や侵襲的機械換気のイベント増加と関連はなかった。喘息患者では、前半期間で高齢、BMI上昇、男性、慢性腎臓疾患が、後半期間ではワクチン未接種と高血圧が機械換気のイベント増加と関連があった。

Tsukada A, Terada-Hirashima J, Takasaki J, Nokihara H, Izumi S, Hojo M. Sugiyama H.
Clinical trends among patients with asthma hospitalized for COVID‑19 based on data from a nationwide database: an observational study.
https://doi.org/10.1186/s12890-024-02917-x
BMC Pulm Med. 2024; 24(1):105.
(2024/3/2)

2024年2月掲載

尿バイオマーカーを用いたCOVID-19のリスク評価について(レビュー)

コロナ禍において早期の重症化リスク評価は、行政と患者の双方にとって重要である。我々は最近、微小循環障害マーカーである、尿中の肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)によるCOVID-19の重症化予測性能をPreliminaryな集団で報告した(Katagiri D, Noiri E, Crit Care Explor. 2020, PMID: 32766565)。また開発済みのPoint of Care検査(POCT)を用いて、1週間以内の重症化リスクを88.9%の精度(感度100%、特異度87.7%)で検出できることも報告している(Katagiri D, Noiri E, Crit Care Explor. 2023, PMID: 36910457)。特に欧米ではOTC家庭検査によるセルフケアが進んでおり、大きな関心を集めている。今回のReviewではCOVID-19を取り上げたが、将来の未知のウイルス性呼吸器感染症に対する有用なリスクマネージメントツールとなることが期待される。

Noiri E, Katagiri D, Asai Y, Sugaya T, Tokunaga K.
Urine oxygenation predicts COVID-19 risk.
https://doi.org/10.1007/s10157-023-02456-5
Clin Exp Nephrol. 2024. Online ahead of print.
(2024/2/24)

未分画ヘパリンを投与されたCOVID-19症例における出血性合併症の頻度とリスク因子

欧米ではCOVID-19に対する抗凝固療法に低分子ヘパリンが使用され、先行研究で有効性と安全性が示されているが、本邦で使用されている未分画ヘパリン(UFH)については知見が少ない。本研究ではUFHを投与されたCOVID-19症例における出血性合併症の頻度と危険因子、死亡率への影響ついて調査した。研究期間内にNCGMに入院したCOVID-19症例は1035例であり、この内UFHを投与されたのは516例だった。UFH投与群の2.3%が輸血や外科的処置を要する出血や頭蓋内出血を発症し、特に治療用量のUFHを投与された症例では9.2%と比較的に高かったが、これらの重大な出血性合併症の有無によって60日死亡率に有意差はなかった。また、出血性合併症の危険因子は年齢60歳以上、重症COVID-19であった。

Sato L, Iwamoto N, Kakumoto Y, Tsuzuki S, Togano T, Ishikane M, Okumura N, Yamada G, Inada M, Suzuki T, Hojo M, Takasaki J, Sasaki R, Kimura A, Teruya K, Okamoto T, Hayakawa K, Hara H, Iseki K, Ohmagari N.
Unfractionated Heparin Safety in COVID-19: Incidence and Risks of Bleeding Complications in Japan.
https://doi.org/10.5551/jat.64448
J Atheroscler Thromb. 2024. Online ahead of print.
(2024/2/14)

国立健康危機管理研究機構に子どものメンタルヘルスは必要か?-COVID-19の経験を通じて-

国立健康危機管理研究機構は、国が推進するエビデンスに基づく政策決定に資する子どものメンタルヘルスに関する情報を発信すべきである。前身であるNCGMが持つ児童精神科の臨床・研究機能を活用し、子どものメンタルヘルスへの早期介入は費用対効果の観点からも有用である。特に、COVID-19などの感染症によるパンデミック時における子どもの心身の健康を守るために、自殺、登校拒否、摂食障害、インターネット依存症、神経発達障害などの問題を網羅する児童精神科の臨床・研究機能は、日本の新たな健康危機管理体制の中で必要な機能であると考えた。

Usami M, Satake N, Katsuyama H, Okudera K, Uchiyama Y, Imamura M, Hayakawa T, Yanai H, Aoyanagi N.
Is children's mental health an important function of newly national organization for health crisis management in Japan?
https://doi.org/10.1002/pcn5.175
Psychiatry Clin. Neurosci. Rep. 2024;3:e175.
(2024/2/13)

COVID-19流行開始3年後のNCGM職員におけるビタミンD欠乏とその決定要因

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ビタミンDは骨の健康に関する栄養成分として知られているが、免疫機能の維持にも重要な役割を担っている。ビタミンDは食事から摂取できるものの、紫外線を受けて皮膚で産生されるビタミンDの寄与が大きい。COVID-19流行下で医療従事者には感染予防行動の徹底が求められ、日常生活における紫外線暴露の減少によるビタミンDの低下が懸念される。本研究では、2023年6月に実施したNCGM職員抗体調査の参加者2543名を対象に、血中25-ヒドロキシビタミンD濃度(25[OH]D)を測定した。ビタミンD不足(25[OH]D 20~29 ng/mL)、欠乏(25[OH]D <20 ng/mL)の割合はそれぞれ44.9%、45.9%であった。ビタミンD欠乏のオッズを高める要因は、女性、若年、脂が乗った魚の摂取頻度の少なさ、ビタミンDサプリメントの不使用、飲酒習慣がないこと、喫煙であった。余暇に日中、屋外で行う身体活動時間が長いほどビタミンD欠乏が少ない傾向があったが、日焼け止めを常用している人ではそうした関連は認めなかった。

Ito A, Yamamoto S, Oshiro Y, Inamura N, Nemoto T, Tan T, Konishi M, Mizoue T, Aoyanagi N, Sugiyama H, Sugiura W, Ohmagari N.
Vitamin D deficiency during the coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic among healthcare workers.
https://doi.org/10.1016/j.clnesp.2024.02.005
Clin Nutr ESPEN. 2024; 60:210-216.
(2024/2/7)

オミクロン株の流行によるCOVID-19患者の急激な増加に対する日本の対応

オミクロン株が流行によるCOVID-19患者の急激な増加に対する日本の対応から得られた教訓を記した。大きく分けて3つの教訓があった。①患者数が増加した場合、患者ケアパスウェイを調整し、状況の変化や新たな科学的エビデンスの出現に応じて患者の流れをコントロールすること。②他の疾患を持つ患者、特に救急医療を必要とする患者へのケアを確実に継続すること。③IPC対策を通じて病院内での感染拡大を防ぐ。適切な政策によるHCW労働力を維持すること。これらの対策はそれぞれ、感染症の発生やパンデミック発生時の状況に合わせて実施する必要がある。超高齢社会におけるケアパスウェイを調整した日本の経験は、他国にも役立つ貴重な教訓となる。

Moriyama Y, Takaya S, Nishijima T, Sobel H L, Ohmagari N.
Maintaining health-system functionality in response to the surge of COVID-19 cases due to the Omicron variant, Japan.
https://ojs.wpro.who.int/ojs/index.php/wpsar/article/view/1048
Western Pac Surveill Response J. 2024; 14(5):1-6.
(2024/2/6)

 

2024年1月掲載

Good症候群の患者におけるCOVID-19の再発とウイルス変異:症例報告

Good症候群による免疫不全がありSARS-CoV-2感染を繰り返した一例を経験した。患者は2021年8月、COVID-19で入院した。レムデシビルを3回投与しSARS-CoV-2 PCRは陰転化したが、発症から272日目に再入院し、当時はオミクロン株が優勢にも関わらずデルタ株に感染していた。レムデシビルとカシリビマブ/イムデビマブを投与し著効した。系統解析では、レムデシビル耐性変異を含む変異がSARS-CoV-2ゲノム全体に蓄積していた。抗ウイルス薬とモノクローナル抗体の適切な使用が、免疫不全をもつCOVID-19患者の回復や多重変異を有するウイルスの出現の防止に役立つ可能性がある。

Iwasaki M, Hashimoto M, S.Takeuchi J, Kusaba Y, Kimura M, Terada-Hirashima J, Sugiura W, Hojo M.
Relapse of COVID-19 and Viral Evolution in a Patient With Good Syndrome: A Case Report.
https://doi.org/10.7759/cureus.52592
Cureus. 2024; 16(1): e52592.
(2024/1/19)

定量新型コロナウイルスS-IgG抗体検査による血清抗ウイルス活性の診断精度解析

COVID-19罹患もしくはワクチン接種により誘導される抗スパイクIgG(S-IgG)抗体量は、発症や重症化予防効果との相関が示唆されるが、どのくらいのS-IgG抗体価が必要十分であるかは不明である。本研究ではCOVID-19回復者の血液検体を用いて定量S-IgG抗体検査試薬による細胞感染系を用いたin vitro抗ウイルス活性の診断精度について検討した。その結果S-IgG抗体量は血清抗ウイルス活性と高い相関を示した。またROC曲線を用いて適切なカットオフ値を設定することで、試薬基準値と比べ極めて良好な診断精度を発揮した。簡便な定量S-IgG抗体検査は抗ウイルス活性推定に有用な手法である。

Iwamoto N, Takamatsu Y, Asai Y, Tsuchiya K, Matsuda K, Oshiro Y, Inamura N, Terada M, Nemoto T, Kimura M, Saito S, Morioka S, Maeda K, Mitsuya H, Ohmagari N.
High diagnostic accuracy of quantitative SARS-CoV-2 spike-binding-IgG assay and correlation with in vitro viral neutralizing activity.
https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2024.e24513
Heliyon. 2024; e24513.
(2024/1/13)

新型コロナウイルスの受容体結合ドメインを基にしたmRNAワクチンは、マウスにおいて様々なオミクロン株に対して有効である

本研究では、SARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)のみを発現するmRNAワクチンの効果を検証した。パンデミック初期株のRBDを基に作製したmRNAワクチンは、パンデミック初期株やオミクロン・BA.5株の感染に対して有効であったが、BA.5株感染に対する効果は限定的であった。一方、パンデミック初期株またはBA.4/5株のRBDを基に作製したmRNAワクチンから成る2価ワクチンは、パンデミック初期株、BA.5株ならびにXBB.1.5株感染に対して高い有効性を示した。これらの結果から、RBDを標的にしたmRNAワクチンがSARS-CoV-2感染に対して有効であることが明らかになった。

Uraki R, Imai M, Ito M, Yamayoshi S, Kiso M, Jounai N, Miyaji K, Iwatsuki-Horimoto K, Takeshita F, Kawaoka Y.
An mRNA vaccine encoding the SARS-CoV-2 receptor-binding domain protects mice from various Omicron variants.
https://doi.org/10.1038/s41541-023-00800-0
NPJ Vaccines. 2024; 9(1):4.
(2024/1/3)

2023年12月掲載

新型コロナウイルス・オミクロン株EG.5.1系統は、初期のオミクロン系統よりもハムスターで伝播しやすい

2023年9月ごろから日本をはじめ世界で主流となっているEG.5.1系統の株(EG.5.1株)の増殖性および病原性をデルタ株やXBB.1.5株と比較した。デルタ株を感染させたハムスターは全ての個体で体重が減少していたものの、EG.5.1株およびXBB.1.5株を感染させたハムスターは体重減少を示さなかった。また、ハムスターの肺や鼻におけるEG.5.1株の増殖能は、デルタ株と比べると低いものの、XBB.1.5株と同程度であった。EG.5.1株に感染した個体と非感染個体の間で飛沫を介した感染伝播が起こるかどうかを調べたところ、EG.5.1株は、BA.2系統の株と比べて、ハムスターでの飛沫伝播効率が良いことがわかった。また、XBB.1.5株は、伝播したウイルスは肺で検出されないが、EG.5.1株では、伝播したウイルスは肺で検出された。これらの結果から、EG.5.1株はXBB.1.5株と性質が異なる可能性が示唆された。

Uraki R, Kiso M, Iwatsuki-Horimoto K, Yamayoshi S, Ito M, Chiba S, Sakai-Tagawa Y, Imai M, Kashima Y, Koga M, Fuwa N, Okumura N, Hojo M, Iwamoto N, Kato H, Nakajima H, Ohmagari N, Yotsuyanagi H, Suzuki Y, Kawaoka Y.
Characterization of a SARS-CoV-2 EG.5.1 clinical isolate in vitro and in vivo.
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2023.113580
Cell Rep. 2023; 42(12):113580.
(2023/12/15)

日本のデルタ株およびオミクロン株流行期のCOVID-19入院患者に対する、mRNAワクチンの重症化予防効果の検討

日本のCOVID-19入院患者レジストリであるCOVIREGI-JPのデータを用いて傾向スコアマッチングによる後ろ向きコホート研究を行い、ワクチン接種回数に応じた酸素投与率や死亡率を比較した。デルタ株流行期に入院したワクチン2回接種済の患者は、0-1回接種の患者と比べて酸素投与率が低かったが、死亡率には差がなかった。オミクロン株流行期に入院したワクチン2回接種済の患者は、0-1回接種の患者と比べて酸素投与率、死亡率がどちらも低かった。3回接種済の患者は2回接種の患者と比べて酸素投与率、死亡率のどちらも差がなかった。その時点で流行している変異株の特徴と、ワクチンの効果を考慮してワクチン接種の方針を検討する必要がある。

Suzuki T, Asai Y, Tsuzuki S, Nomoto H, Matsunaga N, Kodama EN, Hayakawa K, Ohmagari N.
Real-world effectiveness of full and booster mRNA vaccination for coronavirus disease 2019 against disease severity during the delta- and omicron-dominant phases: A propensity score-matched cohort study using the nationwide registry data in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.jmii.2023.12.002
J Microbiol Immunol Infect. 2023:S1684-1182(23)00216-5.
(2023/12/10)

2023年11月掲載

ベトナム北部のHIV感染者におけるCOVID-19の心理社会的および行動的影響に関する多施設観察研究

2020年の前回調査に続き、2021年6月から2022年1月にかけてベトナム北部の11のHIV診療施設で第二回調査を実施した。本調査には、計7,808人のHIV感染者が参加し、抗SARS-CoV-2抗体検査や、COVID-19の心理社会的・行動的影響に関する自記式アンケート調査を実施した。抗体保有率は1.2%と低く、コロナ禍におけるHIV治療は維持され、危険な健康行動の増加も観察されなかった。一方、経済的影響は甚大で、失業や経済状況の悪化、過度な飲酒はうつ症状と強く関連した。ソーシャルサポートの強化が、COVID-19の悪影響を軽減し、HIV感染者のメンタルヘルス改善に役立つ可能性がある。

Matsumoto S, Nagai M, Tran LK, Yamaoka K, Nguyen HDT, Dinh Van T, Tanuma J, Pham TN, Oka S, Van Tran G.
Multicenter observational survey on psychosocial and behavioral impacts of COVID-19 in people living with HIV in Northern Vietnam.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-47577-9
Sci Rep. 2023; 13(1):20321.
(2023/11/21)

高度および中等度免疫不全状態にあるCOVID-19患者の隔離解除プロトコル(2023年2月)

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免疫不全状態にあるCOVID-19患者は、ウイルスを長期間にわたり排出する可能性があるが、免疫不全の程度に応じた隔離解除基準は国際的にも存在せず、隔離期間の不適切な延長・短縮に繋がる可能性がある。本研究ではリアルワールドデータを用いた論文を網羅的に検索し、院内の複数の専門家との検討を経て、国立国際医療研究センター病院で患者を背景疾患と使用する免疫抑制剤の種類によって高度、中等度の2つの群に分類し、COVID-19患者の隔離解除プロトコルを2023年2月に開発した。このプロトコルは他の医療機関にとっても有用な資料となりうるが、今後のCOVID-19の流行状況や変異株の状況を考慮しながら、プロトコルの継続的な検証が必要である。

Kamegai K, Iwamoto N, Ishikane M, Yamamoto K, Horii K, Kubota S, Hangaishi A, Shimazu H, Togano T, Yamashita H, Yamada Y, Ohmagari N.
A novel protocol for de-isolating moderately and severely immunocompromised COVID-19 patients.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01053
Glob Health Med. 2023:5(6); 366-371.
(2023/11/15)

COVID-19 回復者血漿を用いた治療の有効性・安全性の検討

回復者血漿療法は、COVID-19から回復した患者の血漿をCOVID-19感染患者に投与する治療方法であり、COVID-19の重症例に対する治療の可能性として検討されている。本論文は、プロトコル論文であり、試験の目的は中等症から重症のCOVID-19患者における回復血漿療法の有効性と安全性を評価することである。対照群を設定しない非盲検単群介入試験を実施した。回復したCOVID-19既感染者から採取した血漿を適格性基準を満たした患者に投与した。主要エンドポイントは、人工呼吸を開始した患者または輸血後14日以内に死亡した患者の割合であった。副次的エンドポイントは、臨床的改善、ウイルス量、有害事象の発生などであった。

Terada M, Saito S, Kutsuna S, Kinoshita-Iwamoto N, Togano T, Hangaishi A, Shiratori K, Takamatsu Y, Maeda K, Ishizaka Y, Ohtsu H, Satake M, Mitsuya H, Ohmagari N.
Efficacy and Safety of Treatment with Plasma from COVID-19-Recovered Individuals.
https://doi.org/10.3390/life13112184
Life 2023; 13(11):2184.
(2023/11/9)

解熱鎮痛剤の使用とBNT162b2 mRNAワクチン2回目接種後の抗体価の関連に関する観察研究

ワクチン接種後の発熱や痛みを軽減することを目的に解熱鎮痛剤は広く使用されているが、ワクチンによってはその使用が免疫原性やワクチン効果に負の影響を及ぼす可能性が指摘されている。本研究は、BNT162b2 mRNAワクチンの2回目を接種したNCGM職員1,498人について、解熱鎮痛剤の使用と接種3か月後に測定したSARS-CoV-2スパイクタンパクIgG抗体価の関連を検討した。結果、症状を経験した後に使用した場合でも、予防的に使用した場合でも、使用しなかった場合と比較してIgG抗体価が統計学的有意に低下するということは認められなかった。新型コロナワクチン接種後の獲得免疫(抗体産生)が解熱鎮痛剤により減弱されないことが示唆された。

Inoue Y, Li Y, Yamamoto S, Fukunaga A, Ishiwari H, Ishii M, Miyo K, Ujiie M, Sugiura W, Ohmagari N, Mizoue T.
The association between antipyretic analgesics use and SARS-CoV-2 antibody titers following the second dose of the BNT162b2 mRNA vaccine: An observational study.
https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2023.10.037
Vaccine. 2023:S0264-410X(23)01220-3.
(2023/11/7)

COVID-19は保健分野の開発援助にどのような影響を与えたか? - 2015年から2020年までのドナー別支出傾向分析

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保健分野の開発援助は、低中所得国における医療財政の重要な要素である。本論文ではCOVID-19により、世界の健康安全保障の重要な転換点となった2020年と2015年から2019年における平均の開発援助に起こった変化を経済協力開発機構のデータベースを用いて検証した。2020年には、G7(米国を除く)とビルゲイツ財団は全開発援助の総出額が14%増加したが、5か国では26分野の内半分以上の分野で過去5年平均の拠出額より2020年は減少した。保健分野への支出額は相対的に増加したが、三大感染症等への拠出が5年間平均と比べ2020年には減額した国もあった。低中所得国の保健ニーズに一貫して対応するためには、COVID-19の支出額と他の保健分野の影響の検証が必要である。

Wakabayashi M, Hachiya M, Fujita N, Komada K, Obara H, Nozaki I, Okawa S, Saito E, Katsuma Y, Iso H.
How did COVID-19 impact development assistance for health? – The trend for country-specific disbursement between 2015 and 2020.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01049
Glob Health Med. 2023:5(6); 328-385.
(2023/11/5)

2023年10月掲載

吸入シクレソニドは、COVID-19における抗体の産生やウイルスの除去に影響を及ぼさない

無症候性または軽度のCOVID-19患者における高用量吸入シクレソニドの有効性を評価するためにRACCO studyでの2群においてSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質に対する抗体産生能やウイルス量の変化の違いについて評価した。臨床経過における抗体産生能力や最大抗体力価、ウイルス量変化量についていずれも2群間で有意差は認めなかった。これにより、高用量の吸入シクレソニド使用は、SARS-CoV-2に対する抗体産生を阻害せず、ウイルス除去にも影響を及ぼさないことが示され、喘息やその他の疾患で吸入ステロイドを使用しているCOVID-19患者に対して、安全に使用できることが示唆された。

Suzuki M, Matsunaga A, Miyoshi-Akiyama T, Terada-Hirashima J, Sadamasu K, Nagashima M, Takasaki J, Izumi S, Hojo M, Ishizaka Y, Sugiyama H.
Inhaled ciclesonide does not affect production of antibodies or elimination of virus in patients with COVID-19: Subanalysis of a multicenter, open-label randomized trial.
https://doi.org/10.5582/ddt.2023.01078
Drug Discov Ther. 2023.
(2023/10/30)

BA.5株流行期における高齢者に対する2価ワクチンの有効性:VENUS Study

2019年から2023年までの1自治体のHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)、VRS(ワクチン接種記録システム)データが個人単位でリンケージされたデータを用いて、65歳以上の個人を対象に2価ワクチンの有効性を評価した。81,977人(平均年齢78.3歳、男性40.8%)が研究に参加し、そのうち57,396人が2価ワクチンを接種した。COVID-19に対する有効性は、2価ワクチン追加接種後14日以上で57.9%と推定された。本研究結果は、2価mRNAワクチンが65歳以上高齢者に対しても中程度の有効性があることを示した。

Mimura W, Ishiguro C, Terada-Hirashima J, Matsunaga N, Maeda M, Murata F, Fukuda H.
Bivalent Vaccine Effectiveness Among Adults Aged ≥65 Years During the BA.5-Predominant Period in Japan: The VENUS Study.
https://doi.org/10.1093/ofid/ofad475
Open Forum Infect Dis. 2023; 10(10):ofad475.
(2023/10/17)

COVID-19の心血管疾患への影響

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は単なる呼吸器疾患に留まらず、全身の血管内皮細胞への感染やサイトカインストームにより、血栓症、脳卒中、心筋梗塞、不整脈などの心血管疾患を発症しやすくする。心血管疾患は基礎疾患としてCOVID-19の予後を悪化させ、診療体制にも大きな影響を与える。また、Long COVIDと呼ばれる後遺症、感染後の心血管疾患発症リスクの増加が問題である。

廣井 透雄.
Impact of COVID-19 on Cardiovascular Disease.
https://doi.org/10.7133/jca.23-00018
脈管学. 2023; 63 (7):109-113.
(2023/10/10)

2023年9月掲載

COVID-19回復者血漿研究の参加者推移の検討:次のパンデミックに備えるために

今後の新興感染症発生時に迅速かつ的確に回復者血漿採取を進めるために、COVID-19の回復者血漿採取研究の参加者の経時的な推移を検討した。2021年11月5日までに回復者血漿採取研究に参加した1179人から提供された1299検体を分析した。全体で35.9%が回復期血漿採取の適格者だったが、適格率は徐々に低下し、1年後には20%未満になった。この間、重症だった参加者が減少し、発症から120日以上経過した参加者が増加した。2021年8月23日以降、発症からの日数とワクチン接種を参加基準に追加したところ、適格率は大きく改善した。新興感染症の発生時には、速やかに回復期血漿の研究体制を構築・運営するとともに、経時的な適格率のモニタリングが望ましい。

Suzuki T, Asai Y, Takahashi K, Sanada M, Shimanishi Y, Terada M, Sato L, Inada M, Yamada G, Akiyama Y, Oshiro Y, Shiratori K, Togano T, Takamatsu Y, Maeda K, Matsunaga A, Ishizaka Y, Nomoto H, Iwamoto N, Saito S, Kutsuna S, Morioka S, Ohmagari N.
Trends of participants in convalescent plasma donation for COVID-19 in Japan as the pandemic evolved.
https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2023.e20568
Heliyon. 2023; 9(10):e20568.
(2023/9/29)

NCGM職員におけるCOVID-19感染前の中和抗体価とオミクロンBA.5株への感染リスク及び後遺症との関連

2022年夏、日本で大流行したオミクロンBA.5株による感染や後遺症のリスクが、従来型ワクチンで誘導される中和抗体価と関連するかどうかを調べるため、2022年6月に実施したNCGM職員抗体調査に参加した職員のうち、従来型mRNAワクチンを3回接種してから6カ月以上経過していた人を対象にコホート内症例対照研究を行った。オミクロンBA.5流行期(2022年7~9月)にCOVID-19に感染した243名と、各感染者と背景要因をマッチさせて選んだ非感染者243名との間で、感染前の野生株とオミクロンBA.5株に対する中和抗体価および抗RBD抗体価を比較した。感染前の中和抗体価および抗RBD抗体価は非感染群よりも感染群で低く、感染群のオミクロンBA.5中和抗体価は非感染群よりも72%低かった。一方、感染群において、感染前の中和抗体価および抗RBD抗体価は後遺症の発症とは関連しなかった。本研究から、感染前のオミクロンBA.5株に対する中和抗体価が高いことは同株への感染リスク低下と関連すること、また感染前の抗体価は後遺症のリスク低下には関連しないことが示唆された。

Yamamoto S, Matsuda K, Maeda K, Horii K, Okudera K, Oshiro Y, Inamura N, Nemoto T, Takeuchi JS, Li Y, Konishi M, Tsuchiya K, Gatanaga H, Oka S, Mizoue T, Sugiyama H, Aoyanagi N, Mitsuya H, Sugiura W, Ohmagari N.
Preinfection Neutralizing Antibodies, Omicron BA.5 Breakthrough Infection, and Long COVID: A Propensity Score-Matched Analysis.
https://doi.org/10.1093/infdis/jiad317
J Infect Dis. 2023:jiad317.
(2023/9/26)

デルタ株流行期の高齢者における新型コロナワクチンの有効性評価: VENUS Study

日本の4自治体のHER-SYS、VRS、医療レセプトデータを用い、高齢者におけるBNT162b2の有効性をコホート研究により評価した。65歳以上の407148人が研究へ組み入れられ、感染、症候性感染、入院に対する有効性(95%信頼区間)は78.1%(65.2 to 87.8%)、79.1%(64.6 to 88.9%)、93.5%(83.7 to 100%)であった。有効性を評価するためにCOVID-19関連データと既存データの二次利用に関する知見を提供した。

Mimura W, Ishiguro C, Terada-Hirashima J, Matsunaga N, Sato S, Kawazoe Y, Maeda M, Murata F, Fukuda H.
Effectiveness of BNT162b2 against infection, symptomatic infection, and hospitalization among older adults aged ≥65 years during the Delta variant predominance in Japan: The VENUS Study.
https://doi.org/10.2188/jea.JE20230106
J Epidemiol. 2023.
(2023/9/23)

COVID-19入院患者の治療における大都市圏と非大都市圏の相違についての比較研究

COVID-19治療の地域差を見るため、本研究では47都道府県を大都市圏と非大都市圏の2つの地域に分けた。さらに重症度が中等症Ⅱ以上の症例に焦点をあて、傾向スコアマッチングで症例背景を揃え、各流行期における治療と転帰を比較した。結果、大都市圏では非大都市圏に比べ、第2波と第3波ではNon-IMVが、第4波ではIMVが有意に多く使用されていた。第2波では大都市圏で死亡者数が多かったが、第3波と第4波では同程度であった。一部の項目で傾向に差は見られたが、全体を通して死亡率や提供された治療に明確な差は見られなかった。首都圏で重傷者が多いとの報告もあったが、実際は、大都市圏と非大都市圏で大きな差は見られなかった。

Asai Y, Ohashi T, Imai K, Murata K, Tsuzuki S, Matsunaga N, Ohmagari N.
Differences in COVID-19 treatment across Japan: Analysis of the COVID-19 Registry Japan (COVIREGI-JP).
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2023.09.005
J Infect Chemother. 2023:S1341-321X(23)00210-6.
(2023/9/9)

2023年8月掲載

日本のCOVID-19ワクチン安全性監視の最新報告:オミクロン株対応ワクチンのブースター接種と乳幼児へのワクチン接種 

日本では2022年9月にオミクロン株対応の2価ワクチンのブースター接種が開始された。また、2022年10月には6ヵ月~4歳の乳幼児への集団接種が開始された。この報告では、前回の報告以降の2022年6月から2023年3月までの日本におけるCOVID-19ワクチン安全性情報を報告するものである。日本で2価ワクチン接種後の有害事象報告率は従来株ワクチンと比べて高くなく、乳幼児接種においても重篤な有害事象の報告率は米国と同様に低い値だった。最新の情報を踏まえ、2023年4月において安全性に関する追加的措置は実施されなかった。引き続き最新情報を踏まえた継続的な取り組みを行っていく。

Yamaguchi T, Iwagami M, Ishiguro C, Kitao S, Tetsuhashi M, Izumi M, Yoshihara S, Kobatake H, Banzai Y, Kinoshita N, Iguchi T, Oka A, Morio T, Nakai K, Hayashi S, Takagi R.
Updated report of COVID-19 vaccine safety monitoring in Japan: booster doses for Omicron variants and vaccinations for infants and young children.
https://doi.org/10.1016/j.lanwpc.2023.100885
Lancet Reg Health West Pac. 2023; 38:100885.
(2023/8/25)

COVID-19発生後の摂食障害支援拠点病院への拒食症・過食症患者からの相談件数増加は一過性である

COVID-19流行前後の比較で、拒食症や過食症などの摂食障害患者数の増加が複数報告されている。我々は、千葉県摂食障害支援拠点病院(国府台病院)への患者および家族からの相談数について、COVID-19流行前後の計4年間の経時的変化を統計学的に検討した。相談数の増加は一過性で、COVID-19感染者数が増加し続けている時期に、既に収束を認め、特に思春期患者からの相談数においてそれは顕著であった。思春期の摂食障害では、学校の早期再開やSNSによる間接的な交流などがCOVID-19による孤独や不安の緩和によい影響を与えた可能性がある。

Kawai K, Tachimori H, Yamamoto Y, Nakatani Y, Iwasaki S, Sekiguchi A, Kim Y, Tamura N.
Trends in the effect of COVID-19 on consultations for persons with clinical and subclinical eating disorders.
https://doi.org/10.1186/s13030-023-00285-2
Biopsychosoc Med. 2023; 17(1):29.
(2023/8/9)

2023年7月掲載

ポストコロナにおける研究者間のコミュニケーションに関する考察

COVID-19の流行により対面での交流が制限された。その影響でオンラインでの会議や学会開催が一般的となった。2023年現在、COVID-19による行動制限が解除されていく中、対面とオンラインとの両方を組み合わせたハイブリッド会議が広まっており、今後の会議や学会の標準となっていくだろう。オンラインの利便性から、ハイブリッド開催であっても、研究者はオンライン参加を好む傾向にあるかもしれない。本稿では対面での交流でしか得られない利点について考察し、ハイブリッド開催での対面参加の意義を説く。

Kaneko T, Saeki S.
Research Collaborations in the Post-COVID Era.
https://doi.org/10.31662/jmaj.2023-0034
JMA J. 2023; 6(3):358-359.
(2023/7/14)

COVID-19パンデミックのウェーヴレット解析

2019年末以降、COVID-19の国内新規感染者報告数は数か月の周期で増減を繰り返し、第1波、第2波といったようにナンバリングされて呼ばれてきた。実際、このような感染の波は、物理的な波と同様に解析することが可能で、本研究ではウェーヴレットの方法を利用して、位相差と呼ばれる波動の時間的ずれに着目し、これを都道府県ごとに計算することにより、感染波のダイナミクスを推計した。その結果、感染拡大に地理的な方向性がある地方と、偶発的な病原体の持込が支配的な地方があると推論された。この研究結果は、COVID-19の感染防御において、医療施設・設備の準備等、医療政策の策定を補助する有用な知見を与えると期待できる。

Omata K, Shimazaki A.
Wavelet analysis of COVID-19 pandemic.
https://doi.org/10.15748/jasse.10.214
Journal of Advanced Simulation in Science and Engineering. 2023; 10 (2):214-220.
(2023/7/5)

2023年6月掲載

国立国際医療研究センター病院におけるニルマトレルビル/リトナビル導入に向けた取り組みと導入後の実態調査

ニルマトレルビル/リトナビル(以下パキロビッド)は、併用薬との広範な薬物相互作用(DDI)が懸念される経口 COVID-19 治療薬である。当院薬剤部では、特例承認後に速やかに本剤を使用可能とする体制構築の一環として、処方時にDDIを簡便に確認できるツールを作成し運用に活用した。3カ月間で33名のパキロビッド処方があり、28件のDDIに関する医師からの問合せに対応した。また、パキロビッド開始に際して、一時中止すべき常用薬のあった外来患者7名に対して、電話で服薬状況や一時中止薬の再開時期等の確認を行ったが、明らかな指示の不遵守による重大な転帰となった患者は認めなかった。

茂野 絢子大橋 養賢増井 良輔霧生 彩子長島 浩二大橋 裕丈瀬戸 恵介増田 純一照屋 勝治氏家 無限大曲 貴夫西村 富啓.
Survey of efforts toward and after the introduction of nilmatrelvir/ritonavir at the Center Hospital of the National Center for Global Health and Medicine.
https://doi.org/10.11150/kansenshogakuzasshi.e22043
感染症学雑誌. 2023; 97(4):125-135.
(2023/6/30)

日本でCOVID-19パンデミック初期に、重症患者を担当した看護師の体験

Umeda_Table1

日本でCOVID-19のパンデミック初期に重症患者を担当した看護師の体験を明らかにするために、2020年2~4月に新感染症病棟に従事した看護師19人にグループインタビューを実施した。質的内容分析の手法を用い、分析した結果、初期の重症患者への対応は、不確かなことが多く、身体的にも精神的にも非常に厳しい環境での任務であったこと、そのような中でも看護師は高いモチベーションを持ちケアにあたっていたことが明らかとなった。自身の安全が脅かされながら、過酷な環境で働くことは、看護師のメンタルヘルスに影響を与える可能性がある。これらの看護師は短期的・長期的なサポートを受ける必要があることが示唆された。

Umeda A, Baba H, Ishii S, Mizuno S.
Experiences of nurses in charge of COVID-19 critical care patients during the initial stages of the pandemic in Japan.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01037
Glob Health Med. 2023; 5(3):169-177.
(2023/6/27)

COVID-19流行下で新たに子どもをもった親の孤独感、子育てのとらえ方、心理社会的要因の特徴

Umeda_Table1

COVID-19流行下で新たに子どもをもった親は、以前とは異なる状況下で子育てをしている。そのような親の特徴を明らかにするため、COVID-19罹患者数が最も多かった東京都に在住する1,144名の親に調査を行った。第1子をもった親(523名)は、孤独感や社会的孤立が顕著であった。これには対人交流が希薄な中で、未経験のことに挑まざるを得なかった親の状況が反映された可能性が考えられた。また、第2子以降の児をもった親(621名)は、子育てへの否定的なとらえ方や親の燃え尽き感が高く、複数の子どもを家庭で世話する機会の増加に伴い、子育て負担が増していることが示唆された。親の健康増進やより良い子育ての推進のために、親への支援の必要性が強調された。

Nomura S, Kisugi N, Endo K, Omori T.
Parental loneliness, perceptions of parenting, and psychosocial factors among parents having new children during the COVID-19 pandemic.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01033
Glob Health Med. 2023 ; 5(3):158-168.
(2023/6/25)

クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号におけるCOVID-19の初期対応の経験からの教訓

Umeda_Table1

ダイヤモンド・プリンセス号におけるCOVID-19の初期対応の経験を看護の視点で振り返り、次の新興感染症、Disease Xに備えるための教訓を考察した。2020年2月、筆者の一人は、COVID-19の現状の把握と検体採取者の選択支援やデータ整理のシステムを構築するために船内で活動した。その過程で、自衛隊、災害医療支援チームらから乗客の状態、乗客を支援する支援者の苦痛と疲労等があることが分かった。この教訓を活かし、次の災害に備えるためには、i)隔離によるライフスタイルの変化が健康に及ぼす影響を予測し、予防策を実施すること、ii)健康危機においても個人の人権と尊厳を守ること、 iii) 支援者への支援という 3つの重要な点が明らかになった。

Ikemoto M, Matsuo K, Tamura T, Mashino S.
Lessons learned from practices during the initial response to COVID-19 on the cruise ship Diamond Princess.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01025
Glob Health Med. 2023; 5(3):188-190.
(2023/6/25)

COVID-19流行を契機とした、看護師現任教育の方法転換:対面型教育からオンラインを活用した教育へ

国立看護大学校研修部は、政策医療を担う医療機関に勤務する看護師等を対象に多様な研修を実施しており、2019年度までの全研修は参加者がキャンパスに集う対面形式であった。しかし、2020年度、COVID-19流行により全研修中止を余儀なくされた。そこで、研修再開に向け、看護部長対象の調査を行い、その結果に基づき、オンラインを活用した研修に舵を切った。試行事業の実施を経て、2021年度以降は、全研修をオンラインにより実施している。本稿には一連の経緯、及び、このようなオンラインを活用した教育を通し得られた利点等を紹介する。

Kenmotsu Y, Kameoka T.
The COVID-19 pandemic triggered a change in continuing education in nursing: From face-to-face to online education.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01028
Glob Health Med. 2023; 5(3):191-193.
(2023/6/20)

カンボジアにおけるCOVID-19パンデミック時の助産自己学習アプリの導入と展開、及びその持続発展性

Umeda_Table1

COVID-19パンデミックの影響で、専門能力開発の機会が減少したカンボジア助産師のために、世界40カ国以上で使用されているマタニティ財団が開発した無料の助産自己学習アプリ、Safe Delivery App(SDA)のカンボジア語版を開発し、展開した。2021年6月の発行から1年半で、登録助産師の約半数にあたる3,000人以上が利用し、285人が自己学習を修了するなど、定着してきている。導入プロセスの検証では、助産協会のSNSでの広報、対面での導入研修、SNSグループでの問題解決が利用促進に有効であったこと、継続的教育プログラムの認証が活用の動機付けになっていることが明らかになった。

Nozaki I, Tsukada M, Sothy P, Rattana K, Williams K.
Introduction and roll-out of self-learning App for midwifery during the COVID-19 pandemic and its sustainability in Cambodia.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01021
Glob Health Med. 2023; 5(3):178-183.
(2023/6/20)

eConsent導入時の課題解決、COVID-19パンデミックに着目して:製薬協アンケート調査より

Umeda_Table1

eConsentはインフォームドコンセントにおける患者の理解を深めるための重要な解決策として期待されている。2022年1月、日本製薬工業協会69社にアンケート調査を実施したところ、eConsentの経験があるのは13社(25.0%)であった。eConsentの試験をCOVID-19パンデミック(2020年夏)後に実施したのは、8社17件であったのに対し、パンデミック前は5社8件であった。eConsent普及の最大の障害は、電子署名を原資料として扱うための規定が医療機関で整備されていないことであった。患者の理解を深め、より効率的に臨床試験を実施するため、eConsentの更なる普及が必要である。

Tomotsugu N, Sakuma N, Dobashi M, Someya M, Imai A, Sakoda J, Fukuda M, Yoshimoto K, Iiyama T.
Using eConsent to improve patient comprehension and solving issues for introduction, with special attention to the COVID-19 pandemic: A questionnaire survey by the Japan Pharmaceutical Manufacturers Association.
https://doi.org/10.35772/ghmo.2023.01000
GHM Open. 2023.
(2023/6/15)

2023年5月掲載

2020年から2021年までの日本におけるCOVID-19による疾病負荷の推定

現在までのところ、COVID-19が日本の社会にどの程度の負荷となっていたかは十分に把握されていない。本研究は、2020-2021年の日本におけるCOVID-19による疾病負荷を推定することを目的とした。年齢層別に疾病負担の推定値を層別化し、損失QALY(Quality Adjusted Life Year:質調整生存年)および10万人当たりの損失QALYとして示した。COVID-19によって失われたQALYの合計は2年間で286,782と推定され、人口10万人あたり年間114.0QALYであった。その71.3%は死亡による負荷と考えられた。2020年初頭から2021年末までの日本におけるCOVID-19による疾病負担の大部分は第三波から第五波に由来し、推定された疾病負荷は他の高所得国よりも小さかった。この結果に影響した間接的な要因を考慮することが今後の課題である。

Tsuzuki S, Beutels P.
The estimated disease burden of COVID-19 in Japan from 2020 to 2021.
https://doi.org/10.1016/j.jiph.2023.05.025
J Infect Public Health. 2023; 16(8):1236-1243.
(2023/5/25)

NCGM職員におけるCOVID-19ワクチン2回及び3回接種後のSARS-CoV-2スパイク抗体価の縦断的変化とその関連要因

ワクチンで誘導されるスパイク抗体価は経時的に低下することが分かっているが、その減衰速度がワクチンの接種回数や感染歴、背景要因によって異なるかは不明であった。本研究では、2021年6月~2022年6月に実施した職員抗体調査(計4回)に1度でも参加した職員のうち、従来型mRNAワクチンを2回もしくは3回接種済みの2964名の縦断データを用いて、スパイク抗体価の減衰速度に関連する要因を調べた。30日あたりの抗体価の減衰率は、ワクチン2回接種後(36%)よりも3回接種後(25%)の方が緩やかで、過去に感染歴があると減衰スピードはさらに緩やかであった(2回接種+感染:16%、3回接種+感染:21%)。ワクチン2回接種後の減衰スピードは40歳以上、女性、飲酒者(≥1回/週)で3~4%速く、3回接種後では女性は男性に比べて3%速かった。本研究の結果から、ワクチン3回接種によって抗体が維持される期間が延び、それは過去の感染歴によってさらに高まることが示唆された。また、3回接種によって背景要因による減衰速度の差が減少することが示唆された。

Yamamoto S, Oshiro Y, Inamura N, Nemoto T, Horii K, Okudera K, Konishi M, Ozeki M, Mizoue T, Sugiyama H, Aoyanagi N, Sugiura W, Ohmagari N.
Durability and determinants of anti-SARS-CoV-2 spike antibodies following the second and third doses of mRNA COVID-19 vaccine.
https://doi.org/10.1016/j.cmi.2023.05.020
Clin Microbiol Infect. 2023; 29(9):1201.e1-1201.e5.
(2023/5/24)

多地域コホート研究よるSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種と帯状疱疹リスクとの関連評価:VENUS研究

mRNAワクチン接種と帯状疱疹(HZ)の関連評価のためVENUS Studyデータ(4自治体)でコホート研究を実施した。公的保険加入住民(2020/10~2021/11)を対象とし、HZ発症率を接種28日以内と未接種時で比較するため接種状況を時間依存性変数としたポアソン回帰モデルで調整発生率比(aIRR)を推定した。対象集団339548人(中央値74歳)でBNT162b2の1回目aIRR1.05(95%CI、0.84-1.32)、2回目1.09(95%CI、0.90-1.32)、mRNA-1273は28日以内のHZ発症は0例だった。BNT162b2ワクチンでHZリスク増加は認められなかった。

Ishiguro C, Mimura W, Uemura Y, Maeda M, Murata F, Fukuda H.
Multiregional population-based cohort study for evaluation of the association between herpes zoster and mRNA vaccinations for SARS-CoV-2: the VENUS Study.
https://doi.org/10.1093/ofid/ofad274
Open Forum Infect Dis. 2023.
(2023/5/18)

2価のCOVID-19 mRNAワクチン接種後の心室頻拍を伴う心筋炎の1例 

本報告は2価のCOVID-19ワクチン接種後に心筋炎を発症した可能性のある症例について述べたものである。本症例は5回目のワクチン接種であったが、2価ワクチンは初回接種であった。心筋炎は遊離スパイク蛋白増加による直接的な損傷により生じる可能性がある。本症例はワクチン接種後の高サイトカイン血症が心筋炎を引き起こし、致命的な不整脈につながる可能性があることを示唆している。このような場合高サイトカイン血症を抑制するコルヒチンが有効であり、特に高齢者ではステロイドよりも好ましいと考えられる。この副反応は従来の方法では診断が困難であり、心筋シンチグラフィーや心臓MRI検査などのマルチモダリティ診断が重要である。

Yamamoto J, Awaya T, Nakagawa T, Tamura A, Hiroi Y.
Myocarditis with ventricular tachycardia following bivalent COVID-19 mRNA vaccination.
https://doi.org/10.1016/j.cjco.2023.05.006
CJC Open. 2023.
(2023/5/18)

日本国内におけるCOVID-19に対する回復者血漿療法の有効性:オープンラベルランダム化比較試験 

回復者血漿療法は、COVID-19患者に対する潜在的な治療選択肢である。COVID-19発症後5日以内のハイリスク患者を対象に、SARS-CoV-2に対する高い中和活性を有する回復者血漿療法の有効性を検証するための多施設共同オープンラベルランダム化比較試験を実施した。2021年2月24日から11月30日の間に25人の患者が回復者血漿(n=14)または標準治療(n=11)群にランダムに割り当てられた。主要評価項目は、0~5日目の鼻咽頭ぬぐい液中のSARS-CoV-2ウイルス量の時間加重平均変化量としたが、両群で有意差を認めなかった。またいずれの群でも死亡は認められなかった。中和活性の高い回復者血漿の早期投与は、標準治療単独と比較して、5日以内のウイルス量の減少に寄与しなかった。

Saito S, Kutsuna S, Akifumi I, Hase R, Oda R, Terada J, Shimizu Y, Uemura Y, Takamatsu Y, Yasuhara A, Shiratori K, Satake M, Sakamoto N, Miyazaki Y, Shimizu H, Togano T, Matsunaga A, Okuma K, Hamaguchi I, Fujisawa K, Nagashima M, Ashida S, Terada M, Kimura A, Morioka S, Matsubayashi K, Tsuno NH, Kojima M, Kuramitsu M, Tezuka K, Ikebe E, Ishizaka Y, Kenji M, Hangaishi A, Mikami A, Sugiura W, Ohmagari N, Mitsuya H.
Efficacy of convalescent plasma therapy for COVID-19 in Japan: An open-label, randomized, controlled trial.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2023.05.012
J Infect Chemother. 2023:S1341-321X(23)00122-8.
(2023/5/11)

BNT162b2ワクチン2回接種者におけるデルタ株感染後のオミクロンBA.1株中和抗体価:ワクチン3回接種後との比較

従来型ワクチン3回接種やデルタ株への感染でオミクロンBA.1株に対する中和抗体価が誘導されることが報告されている。しかしながら、3回目接種時とデルタ感染時で誘導されるオミクロンBA.1中和抗体価の程度に違いがあるかを比較した研究はなかった。本研究では、2021年6月と12月に実施したNCGM職員抗体調査の両方に参加した職員のうち、6月時点で従来型BNT162b2ワクチンを2回接種済みかつ未感染の人を対象として、その後のデルタ株流行期(2021年6~12月)にCOVID-19に感染した11名と、感染せずにワクチン3回目を接種した11名との間で、6月と12月調査間でのオミクロンBA.1中和抗体価の変化を比較した。6月時点では両群の全例でオミクロンBA.1株に対する中和抗体価は検出されなかった。12月時点では両群ともに同株に対する中和抗体が確認され、デルタ感染群とワクチン3回接種群との間で中和抗体価に統計的な差はなかった(抗体価平均値:108 vs 152 NT50)。従来型ワクチン2回接種者において、その後のデルタ株への感染と3回目ワクチン接種はオミクロンBA.1に対する中和抗体が同程度誘導されることが示唆された。

Yamamoto S, Matsuda K, Maeda K, Oshiro Y, Inamura N, Mizoue T, Konishi M, Takeuchi JS, Horii K, Ozeki M, Sugiyama H, Mitsuya H, Sugiura W, Ohmagari N.
Omicron BA.1 neutralizing antibody response following Delta breakthrough infection compared with booster vaccination of BNT162b2.
https://doi.org/10.1186/s12879-023-08272-2
BMC Infect Dis. 2023; 23(1):282.
(2023/5/4)

2023年4月掲載

HIV陽性成人男性におけるCOVID-19治療中に発見された多房性胸腺嚢胞の一例

多房性胸腺嚢胞(MTC)は希少な前縦隔腫瘍であり、HIV感染症や自己免疫疾患といった炎症性疾患との関連が知られている。我々は、HIV感染歴20年の52歳男性における、COVID-19治療9日目にCTで偶発的に発見されたMTCの1例を報告した。これまでHIV感染者におけるMTCは15例しか報告されておらず、その多くはリンパ性間質性肺炎や耳下腺炎などのHIV関連合併症を呈している。本症例は、それらの合併症を伴わない点においてHIVに関連するMTCとしては非典型的であり、COVID-19をはじめとする他の誘因の可能性が示唆された。本症例のみではMTCとCOVID-19の関連を指摘することは困難だが、今後のさらなる症例報告の蓄積が必要であると考える。

Hatano H, Sumiya R, Misumi K, Miyazaki H, Ikeda T, Nagasaka S.
Multilocular thymic cyst detected during COVID‑19 treatment in an HIV‑positive adult man: A case report and literature review.
https://doi.org/10.3892/etm.2023.11984
Experimental and Therapeutic Medicine. 2023:e04311-22.
(2023/4/28)

SARS-CoV-2ワクチン接種後に抗GBM抗体/MPO-ANCA両者陽性RPGNを発症した一例

SARS-CoV-2ワクチンは有用性が高く、慢性腎臓病の患者においても積極的な接種が推奨されているが、一部の患者における接種後の副反応が問題視されている。この論文ではワクチン接種直後に発症した抗GBM抗体/MPO-ANCA両者陽性の急速進行性糸球体腎炎(RPGN)の一例について報告している。治療として副腎皮質ステロイドとリツキシマブの投与、血漿交換を施行し腎機能は改善したが、約9ヵ月後にMPO-ANCAの抗体価の再上昇と肺病変の増悪を認め、再燃として再度集学的な治療を要した。本症例の経験より、ごく一部の患者において、SARS-CoV-2ワクチン接種後に両者陽性のRPGNを発症し得ること、再燃の可能性があり長期観察が必要であることが示唆された。

Terakawa K, Niikura T, Katagiri D, Sugita A, Kikuchi T, Hayashi A, Suzuki M, Takano H.
A case of rapidly progressive glomerulonephritis with double-positive anti-GBM antibody and MPO-ANCA after SARS-CoV-2 vaccination and relapse during 1 year follow-up.
https://doi.org/10.1007/s13730-023-00792-9
CEN Case Rep. 2023.
(2023/4/27)

mRNA COVID-19ワクチン(BNT162b2)がトリガーとなったSystemic Capillary Leak Syndromeの1例

過去に3回の循環血液量減少性ショックを経験し、Systemic Capillary Leak Syndrome(SCLS)と診断された60歳代の日本人男性。ファイザー社のBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン2回目接種後の2日目にSCLS発作を起こした。輸液とアルブミン投与により回復し、その後はSCLSに対してテルブタリンとテオフィリンの予防内服を開始した。文献調査によりSCLS発作は2回目のCOVID-19ワクチン接種の1-2日後に起こりやすいことが判明した。SCLSの既往がある者はCOVID-19ワクチンの接種を避け、もし接種した場合は1-2日間注意深く観察する必要がある。

Akiyama Y, Inagaki T, Morioka S, Kusano E, Ohmagari N.
Exacerbations of Idiopathic Systemic Capillary Leak Syndrome following BNT162b2 mRNA COVID-19 Vaccine (Pfizer-BioNTech).
https://doi.org/10.2169/internalmedicine.1682-23
Intern Med. 2023.
(2023/4/21)

コロナ罹患後症状と血清抗体価の関連

Miyazato_Fig1

COVID-19の回復後に持続する症状であるコロナ罹患後症状の原因・病態は未だ不明であるが、宿主の免疫応答が関与している可能性がある。この研究は、SARS-CoV-2に対する血清抗体価がポストCOVID状態の発症に及ぼす影響を調査したものである。527人のCOVID-19回復者を対象に後ろ向き観察研究を行い、高ピーク抗体価群と低ピーク抗体価群の2群に分けて比較した。結果、抑うつ気分の発生率は、抗体価が高い群で有意に高かったが、他の症状には差がなかった。この結果は、抑うつ気分とCOVID後の症状との間に病態の違いが示唆され、さらなる検討が必要であることを示唆している。

Miyazato Y, Tsuzuki S, Matsunaga A, Morioka S, Terada M, Saito S, Iwamoto N, Kutsuna S, Ishizaka Y, Ohmagari N.
Association between SARS-CoV-2 anti-spike antibody titers and the development of post-COVID conditions: A retrospective observational study.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01070
Glob Health Med. 2023.
(2023/4/12)

進化型パートナーシップ:国立国際医療研究センターにおけるCOVID-19パンデミックに対峙した臨床研究者育成モデル

Muchanga_Fig1

COVID-19以降、臨床試験数は臨床試験専門家の数を上回り、臨床試験専門家の育成が急務である。国立国際医療研究センター インターナショナルトライアル部では、開発途上国の医療従事者の「プロトコルの設計から結果公表に至る臨床試験の全段階を実施できる能力」獲得・育成を目指し、本パンデミックを機に従来の日本主導型の単一会場の研修から、「指導者育成」「ニーズ志向型研修」「公開シンポジウム」「高度な学習」の4方法を適用した発展形モデルに変更した。結果、研修者は41人(2016年)から2810人(2021年)に増加した。本モデルは高質でかつ参加者数を増やす効果的なモデルであると判明した。

Muchanga S M J, Hamana M, Siburian M D, Umano M Ruriko, Kerdsakundee N, Umano M Rejane, Ichikawa M, Iiyama T.
Evolving partnership: A National Center for Global Health and Medicine Resilient Training Model for clinical research professionals during the COVID-19 pandemic.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01004
Glob Health Med. 2023.
(2023/4/12)

重症COVID-19に対する治療の進歩

過去3年以上の重症例に対する治療経験の集積により、COVID-19による死亡率は劇的に低下した。治療オプションとしては呼吸管理と薬物治療の進歩があげられる。特に高流量鼻カヌラシステム(HFNC)はCOVID-19に対する呼吸管理として、一躍世に知られるようになり、医療ひっ迫の軽減に重要な役割を果たした。薬物治療としては抗ウイルス薬、ステロイド薬を含む免疫抑制薬、抗凝固療法が、当初は手探り状態から、大規模臨床研究を経て確立されていった。本レビューにおいては、それぞれの進歩を最新の知見に基づいて概説する。

Morishita M, Hojo M.
Treatment options for patients with severe COVID-19.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01024
Glob Health Med. 2023.
(2023/4/8)

COVID-19の法的類型が変更された場合の社会的影響:パンデミックの予防、準備、医療体制強化の必要性

日本では、2022年後半から「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」において、COVID-19の類型の変更について議論が行われている。議論のうえでは、類型変更が医療や社会全体に及ぼす影響を慎重に検討する必要がある。COVID-19の疾病負荷は大きく、この情況は長期間持続する可能性がある。対応するために、医療体制上の多くの特別な措置がとられてきた。これらの対策のうち、いくつかは今後も実施されなければならない。COVID-19の類型変更で医療が元に戻るわけではない。今後医療体制はむしろ強化する必要がある。これは将来のパンデミックに対する十分な予防、準備、対応につながる。

Ohmagari N.
Social implications of a change in the legal classification of COVID-19: The need for pandemic prevention, preparedness, and healthcare system strengthening.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01018
Glob Health Med. 2023.
(2023/4/6)

2023年3月掲載

血清IL-6、IFN-λ3、CCL17、カルプロテクチンによる臨床的な必要性のある時期を考慮したCOVID-19重症化予測

2020年1月1日から2021年9月21日のCOVID-19入院患者において、発症8日以内で酸素投与を受けていない患者における今後の酸素化障害(研究1)、酸素投与開始4日以内の患者における今後の人工呼吸器管理または死亡(研究2)について、IL-6、IFN-λ3、CCL17、カルプロテクチンの予測能を評価した。研究1でIFN-λ3のAUCが0.92(95%CI 0.76-1.00)と良好な予測能力を示し、研究2で各バイオマーカーのAUCは0.70-0.74であり、陽性バイオマーカー数がAUC 0.86(95%CI 0.75-0.97)と良好な予測能を示した。IFN-λ3が今後の酸素化障害、陽性バイオマーカー数で更なる呼吸状態悪化が予測し得ることが明らかになった。

Yamamoto K, Ohsiro Y, Suzuki T, Suzuki M, Miura S, Nagashima M, Iwamoto N, Takeuchi JS, Kimura M, Sugiura W, Nebuya S, Kurokawa M, Ohmagari N.
Validation of the severe COVID-19 prognostic value of serum IL-6, IFN-λ3, CCL17, and calprotectin considering the timing of clinical need for prediction.
PLoS One. 2023; 18(3):e0279897.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0279897
(2023/3/30)

COVID-19パンデミックにおける摂食障害診療に関する小児科医の現状と臨床的負担

MizumotoYT_Table1

コロナ禍における子どもの摂食障害は日本だけでなく世界的にも増加している。今回、千葉県内の小児科医を対象としたインターネット調査により、中学生以下の子どもが摂食障害を発症した場合、小児科医療機関や児童精神科を受診する傾向があり、小児科医の50%が摂食障害の子どもの受診が「増えた」もしくは「とても増えた」と回答であった。また、小児科医の82.3%が、摂食障害の子どもに対する心理療法に困難を感じていることがわかった。特に重症の摂食障害の子どもの小児科や児童精神科への入院が増えることによって、他の精神疾患の子どもたちの限られた児童精神科病棟への入院を困難にしているかもしれない。

Mizumoto Y, Sasaki Y, Sunakawa H, Tanese S, Shinohara R, Kurokouchi T, Sugimoto K, Seto M, Ishida M, Itagaki K, Yoshida Y, Namekata S, Takahashi M, Harada I, Sasaki S, Saito K, Toguchi Y, Hakosima Y, Inazaki K, Yoshimura Y, Usami M.
Current situation and clinical burden of pediatricians for children with eating disorders during the COVID-19 pandemic.
Glob Health Med. 2023.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01034
(2023/3/23)

SARS-CoV-2検出におけるRT-PCR法とTRC法の比較検討

2020年10月2日から2021年1月15日までに当院でCOVID-19とRT-PCR法で診断に至った鼻咽頭拭い液を-80度で凍結保存していた陽性検体37例・陰性検体32例を対象としRT-PCR法とTRC法で比較を行った。RT-PCR法とTRC法で陽性一致率・陰性一致率を比較検討した。結果、陽性一致率94.3%・陰性一致率97.1%であった。TRC Ready®システムは検出試薬を変えることにより、結核菌・非結核性抗酸菌などの精査も可能であり、簡便な操作性から幅広い診療現場で用いることが期待できる。

Ishii S, Kimura M, Miyoshi-Akiyama T, Moriya A, Kurokawa M, Isaka E, Terada-Hirashima J, Takasaki J, Izumi S, Hojo M, Sugiyama H.
Examination of the utility of the COVID-19 detection kit, TRC Ready® SARS-CoV-2 i for nasopharyngeal swabs.
https://doi.org/10.5582/ddt.2022.01106
Drug Discov Ther. 2023.
(2023/3/22)

COVID-19重症化の予測に関する検査系について

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COVID-19では、一部の患者で急速に重症化するが、誰が重症化するかを感染初期に予測することが困難である。集中的な治療が必要な患者を適切に特定できれば、効果的な医療資源の活用につながる。COVID-19の発生当初から、この予後予測に関する様々な手法が開発されてきた。現在利用可能な予測方法には、遺伝的因子、血中の液性因子、臨床検査値、画像診断などがある。これらの因子はそれぞれ特徴が異なるため、組み合わせて使用することが有用である。将来の類似した感染症への対応の備えにもなるため、継続的な研究開発が必要である。

Sugiyama M.
Tools and factors predictive of the severity of COVID-19.
Glob Health Med. 2023.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01046
(2023/3/22)

日本におけるCOVID-19感染症からの回復者ドナーを対象とした血漿採取時の安全性の検討 

特定の感染症から回復した人の血漿には、その感染症に対する抗体が存在している。回復者血漿療法はその血漿を患者に投与することで治療効果が期待される治療法である。当センターにおいてCOVID-19に対する血漿採取は 2020 年5月から2021年11月まで260例(173名)行った。本研究は初めて本邦におけるCOVID-19からの回復者をドナーに対する血漿採取であり、その安全性を確認した。血漿採取時の有害事象の発生率は6.94%であり、COVID-19罹患時に重症であったドナーが有意に高かった。有害事象の規定因子は罹患時の重症度、開始前の血圧、回復から採取までの期間が短いことであった。今後の新興感染症発生時に血漿採取を行う際には、この経験を生かし血漿採取を行う必要がある。

Kamo-Imai A, Togano T, Sato M, Kawakami Y, Inaba K, Shimazu H, Igarashi S, Tanaka K, Terada M, Kinoshita-Iwamoto N, Saito S, Kutsuna S, Hangaishi A, Morioka S, Takahashi K, Miyata S, Ohmagari N.
The safety of plasma apheresis from donors recovering from COVID-19 infection in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.transci.2023.103687
Transfus Apher Sci. 2023:103687.
(2023/3/18)

新型コロナウイルスの人工合成系の遺伝的正確性の比較

ウイルスゲノムを任意に改変可能な“ウイルスの人工合成法”は、ウイルスの性状解析に欠かせない技術である。COVID-19のパンデミック以降、複数種の新型コロナウイルスの人工合成法が確立された。そこで、Circular Polymerase Extension Reaction(CPER)法またはBacterial artificial chromosome(BAC)法を用いて新型コロナウイルスを人工合成した際の遺伝的正確性を比較した。PCRによりウイルスゲノムの鋳型を作製するCPER法では、PCR段階の複製エラーによる意図しない塩基変異が生じやすいが、BACからウイルスゲノムの鋳型を供給するBAC法では意図しない塩基変異は極めて生じにくく、CPER法よりも遺伝的に均一なウイルスを合成できることが示された。CPER法は簡便かつ迅速にウイルスを合成できるが、その使用には注意が必要である。

Furusawa Y, Yamayoshi S, Kawaoka Y.
The accuracy of reverse genetics systems for SARS-CoV-2: Circular polymerase extension reaction versus bacterial artificial chromosome.
Influenza Other Respir Viruses. 2023; 17(3):e13109.
https://doi.org/10.1111/irv.13109
(2023/3/17)

ナショナルセンター職員におけるCOVID-19に関連した差別と精神的苦痛との関連

COVID-19流行初期、医療従事者への差別が懸念されていたが、COVID-19に関連した差別が医療従事者の精神的健康に与える影響は不明であった。本研究では、2021年度に6つのナショナルセンターで行われた職員抗体調査に参加した5703人を対象に、COVID-19に関連した差別と精神的苦痛(K6において13点以上)との横断的関連を調べた。差別を経験した医療従事者は経験していない者と比べて精神的苦痛ありのオッズが1.83倍高かった。コロナ禍で差別を経験した医療従事者へのメンタルケアの必要性が示唆された。

Shrestha RM, Inoue Y, Yamamoto S, Fukunaga A, Sampei M, Okubo R, Morisaki N, Ohmagari N, Funaki T, Ishizuka K, Yamaguchi K, Sasaki Y, Takeda K, Miyama T, Kojima M, Nakagawa T, Nishimura K, Ogata S, Umezawa J, Tanaka S, Inoue M, Konishi M, Miyo K, Mizoue T.
The association between experience of COVID-19-related discrimination and psychological distress among healthcare workers for six national medical research centers in Japan.
Soc Psychiatry Psychiatr Epidemiol. 2023:1–9.
https://doi.org/10.1007/s00127-023-02460-w
(2023/3/17)

NCGM職員におけるCOVID-19ワクチンおよび過去感染で誘導されたSARS-CoV-2スパイク抗体価とオミクロンBA.5感染リスクとの関連

ワクチン接種者や感染既往者は、オミクロンBA.5に感染するリスクが低いことが報告されているが、ワクチンや過去感染で誘導された抗体とオミクロンBA.5感染との関連を定量的に調べた研究はない。本研究では、オミクロンBA.5株流行前の2022年6月のNCGM職員抗体調査に参加した2610名を対象に、感染前のSARS-CoV-2スパイク抗体価とオミクロンBA.5感染リスクとの関連を調べた。感染前のスパイク抗体価の高さは感染防御率の高さと関連しており、抗体価1000 AU/mL増加毎に防御率は3.7%上昇した。この関連は、未感染者と比べて、既感染者でより強かった。50%感染防御率に到達するのに必要な抗体価は既感染者で17000AU/mL、未感染者で27000AU/mLあった。80%感染防御率は既感染者では50000AU/mLで到達したが、未感染者では最大価(80000AU/mL)でも到達しなかった。オミクロンBA.5に対する高い感染防御能はハイブリッド免疫(ワクチン接種+過去感染)を有する集団でのみ到達可能であることが示唆された。

Yamamoto S, Mizoue T, Ohmagari N.
Analysis of Previous Infection, Vaccinations, and Anti-SARS-CoV-2 Antibody Titers and Protection Against Infection With the SARS-CoV-2 Omicron BA.5 Variant.
JAMA Netw Open. 2023; 6(3):e233370.
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2023.3370
(2023/3/16)

COVID-19禍の医学教育: 2020年のパンデミック禍のガイドライン・政策の文献レビュー

COVID-19の感染拡大に伴い、世界中のほとんどの政府が学内での感染流行を防ぐために医学生の臨床実習の機会は極めて限られたものとなった。我々は、COVID-19禍において各国がどのように対応して医学教育を実施したか明らかにするため、日米英豪4カ国の政策やガイドラインの文献調査を行った。パンデミック初期の2020年における医学教育の実施方法は各国で異なっており、特にCOVID-19の治療に学生がどの程度関わるかについては、学生が医療スタッフの一員としてCOVID-19の治療に携わった国もあれば、医学生と患者の双方の安全を確保することを優先した国もあった。今後起こりうる感染症の流行に備え、各国がどのような戦略をとっているのか、世界各国からの報告が待たれる。

Saeki S, Okada R, Shane PY.
Medical Education during the COVID-19: A Review of Guidelines and Policies Adapted during the 2020 Pandemic.
Healthcare (Basel). 2023; 11(6):867.
https://doi.org/10.3390/healthcare11060867
(2023/3/16)

尿L-FABP ELISA/POC kitを用いたCOVID-19重症化予測について

我々はパイロット研究において尿L-FABP(Liver-type Fatty Acid Binding Protein)がCOVID-19重症化予測に有用であることを報告1)してきた。今回は多施設での検討で症例数を増加させ、さらに保険収載済みのL-FABPのPOC(point of care)キットを用いたvalidationも行ったので報告する。2020年1月31日から2021年1月31日までに国立国際医療研究センター病院(NCGM)、山梨県立中央病院、Sinal Hospital (Maryland, USA)へ入院したCOVID-19患者(N=224名)を対象とした。人工呼吸器管理が必要になった症例を重症と定義し、入院4日以内の尿検体を用いて尿中L-FABPを測定した。またL-FABPに関してはPOCデータとの比較も行った。入院時軽症であったCOVID-19患者の、L-FABPによる重症化予測性能はELISAでAUC93.5%、POCでもAUC88.9%であった。非侵襲的な尿検査を用いたCOVID-19の重症化予測は、コロナ禍において有意義である。低酸素を感知して尿中に増加するL-FABPは、高い精度で患者の重症化を予測することが可能であることが示された。

Katagiri D, Asai Y, Ohmagari N, Ishikane M, Hikida S, Iwamoto N, Nagashima M, Suzuki M, Takano H, Takasaki J, Hojo M, Sugiyama H, Tokunaga K, Miyashita Y, Omata M, Ohata K, Bliden KP, Tantry US, Dahlen JR, Sugaya T, Gurbel PA, Noiri E.
Urinary L-Type Fatty Acid-Binding Protein Predicts Oxygen Demand of COVID-19 in Initially Mild Cases.
Crit Care Explor. 2023; 5(3):e0873.
https://doi.org/10.1097/CCE.0000000000000873
(2023/3/9)

NCGM職員におけるCOVID-19の累積感染と未診断感染の変遷

COVID-19は未診断例が多数存在するが、血清疫学情報と罹患情報から集団における累積感染や未診断感染を推計することができる。本研究では、NCGM職員抗体調査のデータを用いて流行初期からの累積感染の変遷を調べた。デルタ株が現れる前の2021年6月に行った調査ではわずか2%であった累積感染割合が、デルタ株流行を経た同年12月の調査では5%に増えた。2022年1月にオミクロン株(BA.1)の流行が始まり、同年6月に行った調査では16.9%に急増した。その年の夏にはオミクロンBA.5による大流行があり、同年12月に行った調査では累積感染は39.0%に達した。2022年12月調査までの感染者に占める未診断感染者の割合は30%と推計された。

Mizoue T, Yamamoto, S Konishi, M Oshiro, Y Inamura, N Nemoto T, Ohmagari N.
Cumulative and undiagnosed SARS-CoV-2 infection among the staff of a medical research center in Tokyo after the emergence of variants.
Epidemiology & Infection 2023:1-14.
https://doi.org/10.1017/S0950268823000353
(2023/3/8)

2023年2月掲載

強力な抗SARS-CoV-2活性を発揮するP1' 4-フッ素化ベンゾチアゾール含有Mpro阻害剤の同定

COVID-19の治療薬として現時点で数種の抗SARS-CoV-2薬が使用可能であるがその抗ウイルス効果は十分でない。我々はSARS-CoV-2主要プロテアーゼ (Mpro) の酵素活性を特異的に阻害し既存薬より優れた抗ウイルス活性を発揮する経口投与可能な新規Mpro阻害剤、TKB245及びTKB248を見出した。これらの化合物は特徴的なP1' 4-フッ素化ベンゾチアゾールモチーフを介してSARS-CoV-2 のMpro活性部位に強力な結合を形成しウイルスの生存に必須であるMpro機能を阻害する。本研究で創出された新規Mpro阻害剤及び研究成果はより強力なCOVID-19治療薬開発に大いに貢献し得る。

Higashi-Kuwata N, Tsuji K, Hayashi H, Bulut H, Kiso M, Imai M, Ogata-Aoki H, Ishii T, Kobayakawa T, Nakano K, Takamune N, Kishimoto N, Hattori SI, Das D, Uemura Y, Shimizu Y, Aoki M, Hasegawa K, Suzuki S, Nishiyama A, Saruwatari J, Shimizu Y, Sukenaga Y, Takamatsu Y, Tsuchiya K, Maeda K, Yoshimura K, Iida S, Ozono S, Suzuki T, Okamura T, Misumi S, Kawaoka Y, Tamamura H, Mitsuya H.
Identification of SARS-CoV-2 Mpro inhibitors containing P1' 4-fluorobenzothiazole moiety highly active against SARS-CoV-2.
Nat Commun. 2023; 14(1):1076.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-36729-0
(2023/2/25)

官僚制が規定する非正規移民のCOVID-19ワクチン接種アクセスと国民の公衆衛生

非正規移民(主に超過滞在者と非正規入国者)における、COVID-19ワクチンへのアクセスの低さは世界的な課題である。特に行政窓口での障壁は問題視されてきたものの、包括的な定量研究はされてこなかった。本研究の結果、非正規移民がワクチン接種できると答えた自治体は57.5%である一方で、実際に接種券の発行に至ったのは23.2%のみであることが分かった。また、比較として調査した(非正規移民と同様に接種資格が裁量に委ねられる)仮放免者と比べても非正規移民のアクセスが限定されていたことから、窓口職員の「違法性の意識」の影響が示唆された。移民のみならず国民の公衆衛生も高めるため、接種率の向上が望まれる。

Shimada Y, Kobayashi Y.
Undocumented immigrants suffering from inequality of vaccination access in Japan: measuring the institutional barriers and exploring the associated factors.
Public Health. 2023; 217:15-21.
https://doi.org/10.1016/j.puhe.2023.01.019
(2023/2/24)

迅速診断検査により他の呼吸器病原体が同定されたCOVID-19入院患者の特徴

2021年6月30日までに入院したCOVID-19患者42,309名を対象に、RDT(迅速診断検査)により他の病原体が同定された患者の特徴について観察研究を実施した。RDTは高齢者や重症患者で多く実施され、実施率は肺炎球菌(尿中抗原検査)が13.1%と最も高かった。経時的に実施率は減少傾向を示したが、RDT提出有無、陽性・陰性患者では異なる臨床疫学的特徴を有しており、他の病原体との共感染の評価が必要なCOVID-19患者においてRDTは依然として重要な診断手段であると考えられた。陽性率の解釈についてはRDT検査は医師の判断において検査が提出されていることから慎重な検討が必要である。

Suzuki M, Hayakawa K, Asai Y, Terada M, Kitajima K, Tsuzuki S, Moriya A, Moriya K, Uchiyama-Nakamura F, Ohmagari N.
Characteristics of hospitalized COVID-19 patients with other respiratory pathogens identified by rapid diagnostic test.
J Infect Chemother. 2023:S1341-321X(23)00042-9.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2023.02.006
(2023/2/20)

NCGM職員におけるデルタ株流行期とオミクロン株流行期のSARS-CoV-2感染リスク要因の比較

免疫回避能の高いオミクロン株の出現以来、医療従事者におけるSARS-CoV-2感染リスクを高める要因は変化している可能性がある。本研究は、NCGM職員抗体調査に参加した人のうち、デルタ株流行後の2021年12月に行った調査に参加した858人と、オミクロン(BA.1株)流行期の2022年3月に行った調査に参加した652人を対象に、それぞれの流行期におけるSARS-CoV-2感染リスク要因を調べた。感染率は、デルタ株流行期(2.2%)に比べてオミクロン株流行期(7.4%)は3.4倍高かった。COVID-19関連業務に従事したことは、デルタ株流行期およびオミクロン株流行期において感染リスクの上昇とは関連していなかった。他方、仕事以外でのリスク行動(3密空間でマスクをせずに30分以上過ごすこと)がオミクロン株流行期での感染リスクの上昇と関連していた。感染力の高い変異株が流行している間は、業務に関する感染を予防する対策に加えて、業務外での感染リスクを避ける予防的行動の重要性が示唆された。

Li Y, Yamamoto S, Oshiro Y, Inamura N, Nemoto T, Horii K, Takeuchi JS, Mizoue T, Konishi M, Ozeki M, Sugiyama H, Sugiura W, Ohmagari N.
Comparison of risk factors for SARS-CoV-2 infection among healthcare workers during Omicron and Delta dominance periods in Japan.
J Hosp Infect. 2023:S0195-6701(23)00044-0.
https://doi.org/10.1016/j.jhin.2023.01.018
(2023/2/16)

高流量鼻カニュラ療法中の重症COVID-19患者で、ウイルスが室内に飛散するかどうかの検討

重症COVID-19患者に使用する高流量鼻カニュラ(HFNC)療法がウイルスを空気中に飛散させるのかを検討した。発症から10日以内で、陰圧個室に入院して酸素投与を受けているCOVID-19患者を登録した。合計17名の患者から,22回のサンプリング(各サンプリングでは、鼻咽頭スワブ、患者から0.5m地点の空気サンプル、3m地点での空気サンプル、排気ダクト表面の検体を採取)を実施した。鼻咽頭スワブ22検体のうち、20検体からウイルス遺伝子が検出されたが、3m地点の空気サンプルでは通常の鼻カニュラ群で2検体からウイルス遺伝子が検出されたのみだった。この研究は、鼻咽頭でウイルス遺伝子が検出されていても、HFNC療法によってウイルスが飛散しない可能性を示した。

Suzuki T, Morioka S, Yamamoto K, Saito S, Iida S, Teruya K, Takasaki J, Hojo M, Hayakawa K, Kutsuna S, Miyamoto S, Ozono S, Suzuki T, Kodama EN, Ohmagari N.
Nasopharyngeal SARS-CoV-2 may not be dispersed by a high-flow nasal cannula.
Sci Rep. 2023; 13(1):2669.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-29740-4
(2023/2/15)

COVID-19罹患後症状 発症後2年までの疫学報告

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(略称:NCGM)国際感染症センターは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の遷延症状に関して、長期的な疫学的情報に加え、遷延症状が遷延するリスクを同定するために、COVID-19罹患後の患者を対象としてアンケート調査を実施し、502名から回答を得た。回答者の多く(86.4%)は軽症者(酸素投与を必要としない患者)であった。発症から6か月後、12か月後、18か月後、24か月後に何らかの罹患後症状を有した患者の割合は、それぞれ32.3%, 30.5%, 25.8%, 33.3%であった。罹患後1年以上が経過した後も何らかの遷延症状を呈する患者が4人に1人ほどいることが明らかになった。

Morioka S, Tsuzuki S, Maruki T, Terada M, Miyazato Y, Kutsuna S, Saito S, Shimanishi Y, Takahashi K, Sanada M, Ashida S, Akashi M, Kuge C, Osanai Y, Tanaka K, Suzuki M, Hayakawa K, Ohmagari N.
Epidemiology of post-COVID conditions beyond 1 year: a cross-sectional study.
Public Health. 2023; 216:39-44.
https://doi.org/10.1016/j.puhe.2023.01.008
(2023/2/13)

新型コロナウイルス・オミクロン株のXBB.1.5系統に対する治療薬とワクチンの効果を検証

2023年2月現在、日本を含む多くの国々で、BA.2系統やBA.5系統から派生したBQ.1.1系統やXBB系統などの変異株の感染例が増えつつある。特に、米国では、2022年12月ごろからXBB.1.5系統の感染例が急増し、2023年1月末には米国で最も流行している変異株になった。私達はXBB.1.5系統に対する治療薬とワクチンの効果を検証した。その結果、4種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビル、エンシトレルビル)は、XBB.1.5系統に対して高い増殖抑制効果を示した。またBA.4/5株対応2価ワクチン被接種者の血漿のXBB.1.5系統に対する中和活性は、従来株やBA.2系統に対する活性よりも低かったが、ほとんどの検体で中和活性を有することが明らかとなった。

Uraki R, Ito M, Kiso M, Yamayoshi S, Iwatsuki-Horimoto K, Furusawa Y, Sakai-Tagawa Y, Imai M, Koga M, Yamamoto S, Adachi E, Saito M, Tsutsumi T, Otani A, Kikuchi T, Yotsuyanagi H, Halfmann PJ, Pekosz A, Kawaoka Y.
Antiviral and bivalent vaccine efficacy against an omicron XBB.1.5 isolate.
Lancet Infect Dis. 2023:S1473-3099(23)00070-1.
https://doi.org/10.1016/S1473-3099(23)00070-1
(2023/2/8)

カンボジアにおけるCOVID-19予防接種プログラムの成果と残された課題

カンボジアは、全国民の95%を超える接種率を達成し、6回目の追加接種が開始されるなど、COVID-19予防接種プログラムの成功国として広く認識されている。本稿では、保健省発表や報道記事を中心に、プログラムの歴史と変遷を振り返り、その成果と残された課題について考察した。政府が十分な量の確保に成功したことや、対象者の選定や接種戦略、ワクチンの組み合わせなどで柔軟に対応してきたことなどが成功の要因として明らかとなった反面、半年ごとの定期接種を推奨するなどWHOなどの推奨に先行していることからエビデンスが不十分であることや、追加接種の接種率が下がってきていることなどの課題も明らかとなった。

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Nozaki I, Hachiya M, Ikeda C.
COVID-19 vaccination program in Cambodia: Achievements and remaining challenges.
Glob Health Med. 2023.
https://doi.org/10.35772/ghm.2023.01002
(2023/2/1)

2023年1月掲載

未診断の糖尿病の合併はCOVID-19の臨床転帰の悪化と関連し、特に入院時の急性-慢性血糖値比の高値が影響した

COVID-19入院患者において、入院時にこれまで未診断だった糖尿病の合併と重症化の関連は知られるが、その理由や大規模データでの実態は不明である。日本のCOVID-19入院患者のレジストリ(COVIREGI-JP)を用い、2021年7月から2022年1月の期間、4,747名を対象に解析した。未診断の糖尿病を合併した群では、糖尿病の合併がない群と比較して、COVID-19の臨床転帰の悪化と関連し(オッズ比2.18,95%信頼区間1.50-3.18)、特に急性-慢性血糖値比が高値の群で、低値の群と比べて転帰が悪化した(オッズ比3.33、95%信頼区間1.43-7.77)。以上より、未診断の糖尿病を合併したCOVID-19患者において、血糖値の急性期における上昇の大きさが臨床転帰の悪化と関連する事が示唆された。

Uchihara M, Sugiyama T, Bouchi R, Matsunaga N, Asai Y, Gatanaga H, Ohsugi M, Ohmagari N, Kajio H, Ueki K.
Association of acute-to-chronic glycemic ratio and outcomes in patients with COVID-19 and undiagnosed diabetes mellitus: A retrospective nationwide cohort study.

J Diabetes Investig. 2023.
https://doi.org/10.1111/jdi.13979
(2023/1/27)

COVID-19回復者血漿のIgGを用いたSARS-CoV-2変異株の中和活性についての検討

本研究では30例のCOVID-19回復者血漿のIgGを測定・精製し、SARS-CoV-2変異株に対する中和活性について解析した。中和活性は野生株の50%阻害濃度(IC50)が<6.3から81.5µg/mlの範囲、アルファ株、ガンマ株、デルタ株、カッパ株、R.1株も同等の値であった。ベータ株においては30例中18例(60%)が>100µg/mlと中和能に抵抗し、IC50の平均値もベータ株が他の株と比べ有意に高値であった(p<0.0001)。次に野生株とベータ株に対する中和活性とS-IgGとN-IgGの抗体価の間の相関性を解析したところ、S-IgGにおいて有意の相関が見られた(p<0.05)。

Tsuchiya K, Maeda K, Matsuda K, Takamatsu Y, Kinoshita N, Kutsuna S, Hayashida T, Gatanaga H, Ohmagari N, Oka S, Mitsuya H.
Neutralization activity of IgG antibody in COVID‑19‑convalescent plasma against SARS-CoV-2 variants.
Sci Rep. 2023; 13(1):1263.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-28591-3
(2023/1/23)

NCGM職員におけるCOVID-19ワクチン3回接種後の中和抗体価とオミクロンBA.1-2流行期のブレークスルー感染および症状との関連

COVID-19ワクチン3回接種者において、接種後の抗体価の高さがオミクロンBA.1-2株への感染リスク低下ならびに感染時の症状軽減に寄与するかは明らかでない。今回、2021年12月のNCGM職員抗体調査に参加したCOVID-19ワクチン3回接種直後(7~10日)の職員を集団としたコホート内症例対照研究を行った。オミクロンBA.1流行期(2022年1~3月)にCOVID-19に感染した22名と、同期間に濃厚接触を経験した非感染者21名とで、野生株・オミクロンBA.1株・オミクロンBA.2株に対するワクチン接種後の中和抗体価を比較した。ワクチン接種後の中和抗体価はいずれの株も両群で差がなかった。一方、感染者において、オミクロンBA.1の中和抗体価が低いほど、経験した症状の数が多く、また症状の持続日数が長かった。本研究から、COVID-19ワクチン3回接種直後の中和抗体価の高さは、オミクロン感染リスク低下とは関連しないが、感染時の症状軽減に寄与することが示唆された。

Yamamoto S, Matsuda K, Maeda K, Horii K, Okudera K, Oshiro Y, Inamura N, Takeuchi JS, Konishi M, Ozeki M, Mizoue T, Sugiyama H, Aoyanagi N, Mitsuya H, Sugiura W, Ohmagari N.
Neutralizing antibodies after three doses of the BNT162b2 vaccine, breakthrough infection, and symptoms during the Omicron-predominant wave.
Int J Infect Dis. 2023; 128:347-354.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2023.01.023
(2023/1/22)

維持透析患者におけるCOVID-19の影響と治療について

基礎疾患にCKDを有する患者、腎移植やネフローゼ症候群など免疫抑制患者と、維持透析など末期腎不全(ESKD)患者はCOVID-19感染、および全身状態の重症化のリスクが高いことが知られている。SARS-CoV-2陽性の透析患者は、医療体制が逼迫した際に入院調整が難航することが問題となった。その原因はいくつか考えられるが、ひとつには重症化しやすく、また使用できる薬剤に制限があることも関与すると考えられる。本稿では、血液透析を受けている日本人患者における1)感染患者数と死亡者数の推移、2)ワクチンの有効性について、3)施設における感染管理について、4)現時点で使用可能な治療薬について、文献レビューを交えて概説した。なお、COVID-19と透析に関する最新の情報については日本透析医会・日本透析医学会のHPなどを参照されたい。

Katagiri D, Kikuchi K.
The Impact and Treatment of COVID-19 in Hemodialysis Patients.
J. Clin. Med. 2023; 12(3):838.
https://doi.org/10.3390/jcm12030838
(2023/1/20)

重症COVID-19患者に対する高流量鼻カニュラ:1年間の臨床経験に基づく単施設後方視的観察研究

重症COVID-19患者における高流量鼻カニュラ(HFNC)の有効性と安全性を評価した。2020年1月から2021年1月に、呼吸状態の悪化に対してHFNCを装着した重症COVID-19患者を対象とした。HFNC装着後に呼吸状態が改善し、従来の酸素療法へ移行した場合、HFNC successと定義した。HFNC装着後に非侵襲的陽圧換気装着、人工呼吸器装着、または死亡した場合、HFNC failureと定義した。38人がHFNCを装着し、HFNC successは25人(65.8%)であった。単変量解析では、年齢、慢性腎臓病の既往、non-respiratory SOFA≧1、HFNC装着前のSpO2/FiO2≦169.2が、HFNC failureの有意な予測因子であった。多変量解析により、HFNC装着前のSpO2/FiO2≦169.2がHFNC failureの独立した予測因子であることが明らかとなった。研究期間中に、明らかな院内感染は認められなかった。

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Katsuno T, Suzuki M, Morishita M, Kawajiri K, Saito S, Horikawa Y, Ueki Y, Yamaguchi Y, Takumida H, Watanabe H, Morita C, Tsukada A, Kusaba Y, Tsujimoto Y, Ishida A, Sakamoto K, Hashimoto M, Terada J, Takasaki J, Izumi S, Hojo M, Sugiyama H.
High-flow nasal cannula for severe COVID-19 patients in a Japanese single-center, retrospective, observational study: 1 year of clinical experience.
Glob Health Med. 2023.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01054
(2023/1/13)

COVID-19パンデミックにおける全身麻酔時の感染制御の理論とエビデンスに基づく検討

COVID-19の発生に伴い、飛沫感染対策に注目が集まっている。我々麻酔科医が主に勤務する手術室は、空気感染、飛沫感染、接触感染を問わず、さまざまな感染症患者に対して手術処置や全身麻酔を行うための理論や技術が備わっており、免疫機能が低下した患者に対して安全に手術処置や全身麻酔を行うことができる環境である。ここでは、医療安全の観点からCOVID-19を想定した麻酔管理基準と、手術室内の清浄空気供給のための構造、陰圧手術室の構造について述べる。

NagaraO_Fig1.png

Nagata O, Hattori K, Maehara Y.
Theoretical and evidence-based infection control during general anesthesia in the COVID-19 pandemic.
Glob Health Med. 2023.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01018
(2023/1/7)

2022年12月掲載

院内製造したCOVID-19回復者血漿において中和抗体活性が保たれる

回復者血漿療法は歴史的に感染症の治療や予防に用いられていたが、現在もなお新興感染症の治療方法の候補として期待されており、NCGMではCOVID-19罹患者から血漿を提供いただき回復者血漿製剤を院内製造していた。新鮮凍結血漿製剤の作成においては凝固因子の活性を保つために急速凍結を行うことが一般的であるが、回復者血漿製剤において中和抗体活性を保つために急速凍結が必要かどうかは知られていない。本研究では急速凍結を行わず院内製造した回復者血漿製剤におけるSARS-CoV-2中和活性と凝固因子を測定し、凝固因子の低下がみられる一方で中和活性には有意な低下がみられないことを示した。

Inada M, Togano T, Terada M, Shiratori K, Tsuzuki S, Takamatsu Y, Saito S, Hangaishi A, Morioka S, Kutsuna S, Maeda K, Mitsuya H, Ohmagari N.
Preserved SARS-CoV-2 neutralizing IgG activity of in-house manufactured COVID-19 convalescent plasma.
Transfus Apher Sci. 2022:103638.
https://doi.org/10.1016/j.transci.2022.103638
(2022/12/29)

救急外来で偶発的に診断した新型コロナウイルス感染症の検討

様々な患者が訪れる救急外来では、搬送後に偶発的にCOVID-19が判明し、感染対策上問題となることがある。当院救急外来では偶発的にCOVID-19と判明する症例を来院時にスクリーンニングするために蓋然性を評価するチェックリストの利用や積極的なスクリーニング検査を行なって対応している。そこで本論文では2020年5月30日から2021年10月31日の期間に当院救急外来に救急搬送された症例を対象として、偶発的にCOVID-19が判明した症例について検討した。COVID-19を疑う症状に乏しくても、チェックリストによるスクリーニングを行うこと、その項目を評価できない患者や大流行期ではより積極的に検査を行うことが患者を見逃さない上で重要である。

山本 裕記, 船登 有未, 小林 憲太郎, 佐々木 亮, 木村 昭夫.
Yamamoto H, Funato Y, Kobayashi K, Sasaki R, Kimura A.
A review of incidentally diagnosed COVID-19 in the emergency department.
日救急医会関東誌. 2022; 43(4):101-106.
KANTO Journal of Japanese Association for Acute Medicine. 2022; 43(4):101-106.
https://doi.org/10.24697/jaamkanto.43.4_101
(2022/12/28)

COVID-19治療におけるステロイドとファビピラビルの地域別使用傾向について

本研究では、COVID-19治療薬として使われてきたステロイドとファビピラビルに焦点をあて、地域ごとの投与割合の時間的変化を分析した。ステロイドはその有効性が確認されて以降、全国的に投与割合が増加、どこでも有効な治療が受けられる状態であったことが確認できた。ファビピラビルの投与割合は減少傾向を見せ、第4波では東京含む多くの地域で10%以下であった。一方、一部地域では50%以上の重症患者に処方されるなど、治療方針に関して地域差があったことが示唆された。レジストリ研究は大規模な集団を対象としており、投薬状況や傾向をリアルタイムで把握できる。治療の標準化を目的としたレジストリの活用が期待される。

Asai Y, Tsuzuki S, Matsunaga N, Ohmagari N.
Regional trends in the use of steroids and favipiravir for COVID-19 treatment.
J Infect Public Health. 2022; 16(2):206-213.
https://doi.org/10.1016/j.jiph.2022.12.014
(2022/12/26)

NCGM職員におけるBNT162b2ワクチン2回および3回接種後のSARS-CoV-2スパイク抗体価と脂質異常症との関連 -性差による検討-

本研究では、BNT162b2ワクチン2回および3回接種後のSARS-CoV-2スパイクIgG抗体と脂質異常症との関連における性差を調べることを目的とした。本研究では、NCGM職員抗体調査に参加した人のうち、2021年6月の調査に参加した2回接種者1,872名と2022年3月調査に参加した3回接種者1,075名を対象に、脂質異常症の有無とSARS-CoV-2スパイクIgG抗体価の関連を男女別に検討した。男性において、脂質異常症を有する者はワクチン2回接種後の抗体価が12%低かったが、3回接種後はこの関連が消失した。女性では、2回と3回接種後のいづれの抗体価でも関連は認めなかった。脂質異常症を有する男性のワクチン有効性を注視する必要性が示唆された。

Islam Z, Yamamoto S, Mizoue T, Oshiro Y, Inamura N, Konishi M, Ozeki M, Sugiura W, Ohmagari N.
Dyslipidemia and SARS-CoV-2 spike antibody titres after the second and third doses of the BNT162b2 vaccine among healthcare workers in Japan.
Diabetes Metab Res Rev. 2022:e3606.
https://doi.org/10.1002/dmrr.3606
(2022/12/23)

トンネルの向こうの光へ:日本におけるCOVID-19をめぐる臨床現場と政策の変化、そして今後の展望

日本は2020年以降、COVID-19の波に何度も直面してきた。重症化率が比較的低いオミクロン株と全国的なワクチン接種率の高さにより、これまでの変異株に比べ、死亡率は低下している。2022年初頭には、岸田文雄首相がCOVID-19と共存する「Withコロナ」という新たなライフスタイルを提案した。しかし、治療や予防の選択肢は増えたものの、特に合併症を有する高齢者での死亡が目立つなど、オミクロン株は依然として免疫学的または社会的弱者に多大な影響を及ぼし続けている。ウイルスとの共存を本当の意味で受け入れるには、特にコミュニケーション、医療制度、ワクチン接種に関して課題が残されており、社会全体を巻き込んだ戦略を継続していく必要がある。

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Kamegai K, Hayakawa K.
Towards the light at the end of the tunnel: Changes in clinical settings and political measures regarding COVID-19 from 2021, and future perspectives in Japan.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01071
(2022/12/17)

COVID-19禍での遠隔医療通訳の変化

医療通訳を配備する日本の医療機関はまだ少数派であり、外国人に対する健康格差の拡大や医療の質の低下が懸念される。COVID-19の流行に伴い院内立ち入りが制限され、対面医療通訳の導入は更に困難であったと推察される。一方、遠隔医療通訳は機材のみで実施できることから、感染拡大の影響を受けず導入が可能であるため、COVID-19に伴う遠隔医療通訳の利用の変化や導入の課題を調査した、文献レビューを行ったところ、世界各地から遠隔医療通訳の利用の増加が示唆された。また、医療従事者と患者のみならず、医療通訳者でも遠隔通訳に不慣れである場面が多いことが示唆されており、医療機関、医療従事者、患者への包括的な支援体制の構築が望まれる。

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Saeki S, Iwata M, Tomizawa R, Minamitani K.
Challenges and the potential of promoting remote medical interpreting during COVID-19.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01056
(2022/12/15)

NCGM職員におけるBNT162b2ワクチン2回接種後のSARS-CoV-2スパイク抗体価とγ-Glutamyl Transpeptidaseとの関連

肝・胆道系疾患のスクリーニングとして用いられるγ-Glutamyl Transpeptidase(GGT)の値とCOVID-19ワクチン接種後の抗体価との関連は不明である。本研究では、ワクチン2回を接種した後にNCGM職員抗体調査に参加した1479名を対象に、GGTとSARS-CoV-2スパイクIgG抗体価の関連を分析した。未調整モデルにおいて、GGTが高値の者は正常値の者と比べて抗体価が31%低かった。しかし、年齢・性別・BMI・飲酒量で調整するとこの関連は消失した。GGT値はワクチン接種後の抗体上昇を規定する独立した要因ではないことが示唆された。

Islam Z, Yamamoto S, Mizoue T, Oshiro Y, Inamura N, Nemoto T, Konishi M, Ozeki M, Sugiura W, Ohmagari N.
Association between γ-Glutamyl Transpeptidase and SARS-CoV-2 Spike Antibody Titers among BNT162b2 Vaccine Recipients.
Vaccines. 2022; 10(12):2142.
https://doi.org/10.3390/vaccines10122142
(2022/12/14)

1次、2次、3次医療機関で治療を受けたCOVID-19患者の臨床的特徴と転帰の比較

COVID-19患者の医学的特徴や臨床経過を搬送先の医療機関のレベルに分けて比較した。COVIREGI-JPに登録された、585施設の合計59,707人の患者を分析した結果、重症化リスクが高く、搬送時の状態が悪い患者は、適切に高度医療施設に搬送されていたが、予想通り、入院後の経過は悪く、死亡率も高かった。一方、合併症ごとの死亡率を分析すると、一部の手技を要する合併症(胸水、心筋虚血、不整脈など)が生じた場合は特異的に高度医療機関での生存率が高く、COVID-19の重症度だけでなく合併症に注目する重要性が示唆された。また、全体的に、死亡例や重症例は海外の報告と比べて少なかった。

Tomidokoro D, Asai Y, Hayakawa K, Kutsuna S, Terada M, Sugiura W, Ohmagari N, Hiroi Y.
Comparison of the clinical characteristics and outcomes of Japanese patients with COVID-19 treated in primary, secondary, and tertiary care facilities.
J Infect Chemother. 2022:S1341-321X(22)00326-9.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.12.003
(2022/12/13)

パンデミック下の日本における東京オリンピック開催中と開催後の社会的接触パターン

日本における社会的接触に関するデータは2011年以来更新されていない。本研究の目的はCOVID-19パンデミック下におけるヒトとヒトの接触データを報告すること、また2021年に開催された東京オリンピックの期間中と開催後の社会的接触パターンを比較することである。オリンピック開催中と開催後、また平日と週末の接触データを取得し、COVID-19パンデミック以前のそれと比較した。一日あたり接触回数の中央値は3回(四分位範囲1-6回)であり、オリンピック開催中と終了後、平日と週末での明らかな差は見られなかったが、2011年と比較してヒトとヒトの接触頻度は明らかに低下していた。

Tsuzuki S, Asai Y, Ibuka Y, Nakaya T, Ohmagari N, Hens N, Beutels P.
Social contact patterns in Japan in the COVID-19 pandemic during and after the Tokyo Olympic Games.
J Glob Health. 2022; 12:05047.
https://doi.org/10.7189/jogh.12.05047
(2022/12/3)

COVID-19におけるPMX-DHP

COVID-19では、ウイルスによる直接細胞障害のほか内皮細胞障害や血栓性炎症の促進、免疫応答障害が起こることが知られている。エンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)治療は、ポリミキシンBがエンドトキシンの活性中心であるリピドAと結合することを利用した医療機器である。我々は第一波の時期に、合計12症例の中等症Ⅱ以上のCOVID-19に対してPMX-DHPを施行しその経験を報告している。COVID-19に対するPMX-DHPで期待できる作⽤機序として、1)サイトカインの除去、2)活性化された好中球の除去による酸素化の促進、3)エンドトキシン活性が⾼い患者におけるエンドトキシンの吸着・除去、が考えられる。

片桐大輔.
Katagiri D.
Polymyxin B immobilized fiber column direct hemoperfusion for severe COVID 19
日本急性血液浄化学会雑誌. 2022 ;13(1):52-53.
J Jpn Soc Blood Purif Crit Care. 2022; 13(1):52-53.
https://doi.org/10.34325/jsbpcc.13.1_52
(2022/12/1)

2022年11月掲載

手術室における天井からの層流空調がもたらす、気管内挿管時のエアロゾル拡散制御の有効性

気管挿管は全身麻酔に必須の手技であると同時に、COVID-19等のエアロゾル感染の要因ともなる。エアロゾルの拡散を可視化するため、労働衛生の分野で一般的に用いられるスモークテスタを用いて、気管挿管におけるエアロゾル拡散を実際に再現した。手術室ではHEAS-02-2013の空気清浄度を保つ天井から床への層流空調が装備されておりその有無と、遮蔽箱の有無、の4つの条件でエアロゾルの到達高度により拡散度を評価した。結果、層流空調はエアロゾルの拡散を有意に抑制し、遮蔽箱が追加的効果をもたらした一方、層流空調がない場合は、遮蔽箱を使っても漏出したエアロゾルがすぐに室内で拡散することが明らかとなった。

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Hattori K, Eriguchi A, Omori M, Nagata O.
Visualization of aerosol spread using a smoke tester during tracheal intubation performed in an operating room.
GHM Open. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghmo.2022.01007
(2022/11/28)

COVID-19時代到来前後の消化器内視鏡診療の記録

COVID-19の出現は、飛沫拡散やエアロゾル発生の危険が高いとされる内視鏡診療を大きく変化させた。無症候性患者を特定できないため、N95マスクを含むスタンダードプリコーションを徹底することになった。「緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」が適用されるたび、診療総数は大幅な減少に転じたが治療内視鏡は減少せず、特に重症消化管出血に対する緊急内視鏡止血術は従来以上に増加した。もともと当院は本疾患に対する都内第一位の救急搬送応需実績を誇っていたが、保護具不足などを背景に、救急医療における搬送のパンデミックパニックを招き、都心の特定感染症指定病院である当院に症例が集中した可能性がある。

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Yokoi C, Yanai Y, Suzuki K, Akazawa N, Yamamoto N, Akiyama J.
Gastrointestinal endoscopy trends in a designated hospital for specified infectious diseases in Japan during the dawn of the living with COVID-19 era.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01021
(2022/11/27)

オミクロンBA.1、BA.2流行期におけるmRNAワクチン3回接種の有効性: VENUS Study

VENUS Studyにおいて自治体データベースを用い、mRNAワクチン3回接種の有効性を明らかにした。2回接種と比較し、3回接種の感染に対する有効性はBA.1流行期で62.4%(95% 信頼区間: 56.9-67.2%)、BA.2流行期で48.1%(95% 信頼区間: 39.2-55.7%)であった。3回目接種後2~3週間および10週間以上経過した時点での有効性は,BA.1流行期では63.6%(95% 信頼区間: 56.4-69.5%)から52.9%(95%信頼区間: 41.1-62.3%)、BA.2 流行期では54.5%(95% 信頼区間: 3.0-78.7%)から40.1%(95% 信頼区間: 15.1-57.7%)に減少していた。3回接種は2回接種と比較した場合であってもBA.1期およびBA.2期おいて中程度の有効性を示し、オミクロン流行期における追加接種の重要性が示唆された。

Mimura W, Ishiguro C, Maeda M, Murata F, Fukuda H.
Effectiveness of a third dose of COVID-19 mRNA vaccine during the Omicron BA.1- and BA.2-predominant periods in Japan: The VENUS Study.
Open Forum Infect Dis.2022; ofac636.
https://doi.org/10.1093/ofid/ofac636
(2022/11/24)

メチルプレドニゾロン療法を要する糖尿病合併重症COVID-19患者における持続血糖モニタリングを用いた血糖管理

糖尿病を合併した重症COVID-19患者において,血糖コントロールは予後の改善に重要だが、高用量ステロイドによる高血糖管理にしばしば難渋する。高用量のメチルプレドニゾロン投与中、間欠的スキャン式持続血糖モニタリング(isCGM)を用いて血糖管理を行った重症COVID-19糖尿病患者では、通常の血糖測定のみを行った患者と比較してメチルプレドニゾロン投与中の血糖値は良好で、また1日の総インスリン量が多かった。isCGMの使用により遠隔での血糖モニタリングが可能となり、医療従事者の感染リスクを軽減できる。パンデミック下において,良好な血糖管理を安全に達成するため、糖尿病合併患者にisCGMの使用を検討する必要性が示唆された。

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Uchihara M, Kodani N, Bouchi R, Saito S, Miyazato Y, Sugimoto H, Umamoto K, Kobayashi M, Ihana-Sugiyama N, Ohsugi M, Tanabe A, Ueki K, Takasaki J, Hojo M, Kajio H.
Glycemic control using intermittently scanned continuous glucose monitoring in patients with diabetes requiring methylprednisolone therapy for severe COVID-19.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01053
(2022/11/20)

日本の看護大学生におけるCOVID-19のリスク認識と関連要因

COVID-19の蔓延は人々や社会に多様な考え方や認識をもたらした。看護学生は将来第一線での医療従事者となるため感染のリスクが高く、また、より多くの情報が共有され、よりストレスに曝されやすい。我々は看護大学生のCOVID-19に関する知識、態度、認識の調査・分析を行った。回答者414人の90.4%が主な情報源をメディアとし、主症状は発熱と乾性咳(96.1%、89.6%)であった。大多数(92.8%)がワクチン接種の使用を推奨し、女性であることと課外活動は、感染の恐怖と有意に関連していた。以上から、アウトブレイクの発生時の情報提供に際しては、熟慮が必要であることが示唆された。

Shimotake Y, Mbelambela EPS, Muchanga SMJ, Villanueva AF, Siburian MD, Shimomoto R, Ikeuchi K, Matsunaga Y, Minami M, Iiyama T, Suganuma N.
Knowledge, attitude, perception, and factors associated with the risk perception of COVID-19 among nursing college students in Japanese universities: A cross-sectional study.
Health Sci Rep. 2022; 5(6):e922.
https://doi.org/10.1002/hsr2.922
(2022/11/3)

高齢者における身体活動状況とCOVID-19の重症度との関連性

オミクロン株によるCOVID-19の、高齢者に特有の重症化危険因子を検討した。2022年1月1日から5月16日の間に入院した4,868人を対象に、ロジスティック回帰分析を行い重症化の危険因子を明らかにした。次に認知症、長期療養施設、身体活動状況不良という3つの要因について傾向スコアマッチングを行い、各因子の平均処置効果を推定した。年齢、男性、心血管系疾患、脳血管系疾患、慢性肺疾患、腎不全または透析、肥満、長期療養施設、身体活動状況不良が重症化と、ワクチン接種と認知症が非重症化と関連する因子であった。平均処置効果から身体活動状況不良と長期療養施設は重症化リスクと関連があり、認知症は非重症化と関連している可能性が示唆された。

Tsuzuki S, Akiyama T, Matsunaga N, Ohmagari N.
Association between physical activity status and severity of COVID-19 in older adults.
Epidemiol Infect. 2022:1-29.
https://doi.org/10.1017/s0950268822001686
(2022/11/3)

2022年10月掲載

COVID-19薬剤開発に寄与し得るヒトiPS細胞由来スフェロイドの作出

ヒトiPS細胞からSARS-CoV-2感染感受性に必要なACE2とTMPRSS2を共発現する2種のスフェロイドを作出した。分化誘導は薬剤評価への使用を念頭に大量培養及びサンプリングが容易である3次元浮遊撹拌培養で行った。作出されたスフェロイドはいずれもSARS-CoV-2に高い感染感受性を示し抗SARS-CoV-2剤であるレムデシビル及び我々が開発した5h(SARS-CoV-2のメインプロテアーゼ阻害剤))はそのウイルス複製を阻止した。スフェロイドによる新規薬剤候補化合物の抗ウイルス活性評価は化合物の薬効解析に際しより包括的なデータ解釈の機会を与えCOVID-19薬剤開発に寄与し得る。

Higashi-Kuwata N, Yabe SG, Fukuda S, Nishida J, Tamura-Nakano M, Hattori SI, Okochi H, Mitsuya H.
Generation of Angiotensin-Converting Enzyme 2/Transmembrane Protease Serine 2-Double-Positive Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Spheroids for Anti-Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Drug Evaluation.
Microbiol Spectr. 2022:e0349022.
https://doi.org/10.1128/spectrum.03490-22
(2022/10/31)

COVID-19パンデミックに対するPET/CT検査の動向、役割及び発見の総説

COVID-19のパンデミックによって、人々の生活様式や意識、医療提供体制は大きく変化した。COVID-19に手厚く対応しつつ、通常診療を維持するという医療提供体制の再配分は、医療機関に重くのしかかる課題であり続ける。単純X線写真やCT検査の貢献度が大きい一方、核医学検査であるPET/CT検査では通常の診療に重点が置かれてきた。COVID-19既感染者の核医学検査については、偶発的な所見の報告から徐々に体系的な報告に移っている。本総説では、COVID-19に関わるPET/CT検査の動向と課題、特徴的な画像所見、合併症の描出、ワクチンの影響を調査した研究や後遺症の画像化、悪性腫瘍患者への影響などについて文献をもとに報告をする。

Minamimoto R.
Oncology and cardiology positron emission tomography/computed tomography faced with COVID-19: A review of available literature data.
Front. Med. 2022.
https://doi.org/10.3389/fmed.2022.1052921
(2022/10/29)

COVID-19のPCR検査陽性が遷延した患者に肝切除術を施行した一例

COVID-19罹患後もPCR検査陽性が遷延した場合の手術施行時期について、示唆に富む一例を経験した。症例は65歳男性で中等症IIのCOVID-19で入院した。偶発的に直径8cmの肝細胞癌が指摘され、感染対策チームと協議の上、発症から8週間後に肝切除を予定した。COVID-19は速やかに改善したが、発症から11週間後までPCR検査陽性が持続した。患者の自覚症状はなく、疫学、数理モデル、ウイルス学いずれの見地からも感染性はないと判断し、発症から12週間後に肝切除術を実施した。念のため手術は陰圧室内で個人防護具を装着して行った。術後経過は良好で、医療者側のCOVID-19罹患も無かった。

Sugita A, Inagaki FF, Takemura N, Nakamura M, Ito K, Mihara F, Yamamoto K, Morioka S, Kokudo N.
Liver resection in a patient with persistent positive PCR test for coronavirus disease 2019 (COVID-19): a case report.
Surg Case Rep. 2022; 8(1):200.
https://doi.org/10.1186/s40792-022-01553-z
(2022/10/20)

2020年から2022年における日本でのCOVID-19の特徴と対応、医療体制への影響

日本でCOVID-19は法定感染症であり医療費は公費で賄われ、医療費増加の懸念があったが、感染流行の初期段階である2020年の日本の年間医療費は前年を下回る結果であった。大学病院、公立病院、私立病院、診療所の患者数、医療費、平均医療費、平均治療期間の推移(2009年~)を分析したところ、公立病院はCOVID-19患者への病床提供に力を入れており、その他の入院患者数が減少していた。また、外来患者数も減少し2019年の水準に回復していない。2020年の日本の年間医療費は、主に公立病院を中心に2020年3月以降のCOVID-19発生時の入院患者数と外来患者数の減少により、過去 10 年間で初めて減少した。

Karako K, Song P, Chen Y, Karako T.
COVID-19 in Japan during 2020-2022: Characteristics, responses, and implications for the health care system.
J Glob Health. 2022; 12:03073.
https://doi.org/10.7189/jogh.12.03073
(2022/10/14)

NCGM職員におけるBNT162b2ワクチン2回接種後の抗体価とメタボリックシンドロームとの関連

メタボリックシンドローム(MetS)では免疫能が低下していることが指摘されているが、本病態がCOVID-19ワクチン接種後の免疫反応の低下と関連しているかは不明である。本研究では、NCGM職員抗体調査参加者のうち、BNT162b2ワクチンを2回接種し、かつ健康診断データが得られた946名を対象に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体価とMetSとの関連を横断的に分析した。その結果、MetSでない者を基準とすると、MetSに該当する者の抗体価は23%低かった。MetSの5つの基準(腹部肥満、血糖高値、血圧高値、中性脂肪高値、HDLコレステロール低値)の該当数が多いほど抗体価は低くなる傾向にあった。MetSはCOVID-19ワクチンに対する免疫応答の低下と関連していることが示唆された。

Van Hoang D, Yamamoto S, Fukunaga A, Inoue Y, Mizoue T, Ohmagari N.
Metabolic syndrome and the immunogenicity of Pfizer-BioNTech vaccine: a cross-sectional study in Japanese healthcare workers.
Diabetol Metab Syndr. 2022; 14(1):149.
https://doi.org/10.1186/s13098-022-00918-6
(2022/10/13)

SARS-CoV-2に対する液性中和IgA応答はIgGより短期間で起こるが、活性は低く早期に減弱する

COVID-19および罹患後mRNAワクチン接種の液性免疫応答につき血中IgG・IgAの抗SARS-CoV-2中和活性を評価したところ、総じて中和IgA活性はIgGより低かった。また中和IgG活性の発症後35日頃と比べ、IgA活性はより早い発症後25日頃に極大となった。一方で中和IgA活性は発症後70日頃には検出限界以下まで消退し、発症後200日頃まで活性持続したIgGより短かった。中和IgA・IgG活性はmRNAワクチン単回接種で著しく上昇したが2回目接種では活性上昇はなく、その後IgA活性は早期に減衰した。血清IgAも中和活性を持ち発症早期に誘導されるが、短期間で減弱することが示された。

Takamatsu Y, Omata K, Shimizu Y, Kinoshita-Iwamoto N, Terada M, Suzuki T, Morioka S, Uemura Y, Ohmagari N, Maeda K, Mitsuya H.
SARS-CoV-2-Neutralizing Humoral IgA Response Occurs Earlier but Is Modest and Diminishes Faster than IgG Response.
Microbiol Spectr. 2022:e0271622.
https://doi.org/10.1128/spectrum.02716-22
(2022/10/11)

新型コロナウイルスワクチン接種後に急性心筋梗塞を発症した一例

新型コロナウイルスワクチン接種直後に急性心筋梗塞をきたした症例を報告する。患者は70歳女性、脂質異常症・高血圧症・2型糖尿病の既往歴がある方。2回目のmRNA新型コロナウイルスワクチンを接種した15分後に胸痛が出現した。急性冠症候群の診断にて緊急カテーテル検査を施行したところ、右冠動脈の完全閉塞が見られ責任病変に対して冠動脈形成術施行した。術後経過良好であり、第13病日に自宅退院となった。ワクチン接種後に発症した急性冠症候群の報告は稀である。mRNA新型コロナウイルスワクチンと心筋梗塞の直接的な関連は不明であり、今後の症例の蓄積が必要である。

Kurozumi A, Hara H, Nagai R, Hiroi Y.
Acute myocardial infarction immediately after second vaccination for coronavirus disease 2019.
Clin Case Rep. 2022; 10(10):e6431.
https://doi.org/10.1002/ccr3.6431
(2022/10/11)

デルタ株、オミクロン株流行期におけるmRNAワクチンの有効性:VENUS study

ワクチン接種者と未接種接種者を比較した場合、症状性感染に対する2回目の投与の有効性はデルタ株流行期で89.8%(95%信頼区間:80.5-94.7%)、オミクロン株流行期で21.2%(95%信頼区間:11.0-30.3)であった。症状性感染に対する3回目の投与の有効性は、オミクロン株流行期では71.8%(95%CI:60.1-80.1%)であった。デルタ流行期ではmRNAワクチンの高い有効性が確認されたものの、オミクロン流行期においては2回目接種後から時間が経過しており、その有効性は低下していた。一方で3回目接種後によって有効性が保たれることを示した。

Mimura W, Ishiguro C, Maeda M, Murata F, Fukuda H.
Effectiveness of messenger RNA vaccines against infection with SARS-CoV-2 during the periods of Delta and Omicron variant predominance in Japan: the Vaccine Effectiveness, Networking, and Universal Safety (VENUS) study.
Int J Infect Dis. 2022; 125:58-60.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2022.10.001
(2022/10/8)

Dihydroceramide Δ4-desaturase 1はSARS-CoV-2感染に関与しない

N-(4-Hydroxyphenyl)-retinamide (4-HPR)はセラミド合成経路に関与するDihydroceramide Δ4-desaturase 1 (DEGS1)の酵素活性を阻害することが知られている。近年、その4-HPRが SARS-CoV-2の細胞への感染を抑制することが明らかとなった。そこで本研究では、VeroE6/TMPRSS2のDEGS1ノックアウト(KO)細胞を作成し、SARS-CoV-2の感染とセラミドの合成について野生型(WT)細胞と比較した。その結果、感染実験においてDEGS1-KO細胞とWT細胞の間で培養上清中のウイルス産生量に有意な差は認められなかったが、DEGS1の基質であるDihydroceramide (DHCer)のレベルはDEGS1-KO細胞の方がWT細胞より有意に高値であった(p<0.01)。また、DEGS1-KO細胞の感染実験において、4-HPRのEC50値はWT細胞のEC50の値とほぼ同等であった。これらの結果より、DEGS1はSARS-CoV-2の細胞への感染について関与していないことが明らかとなった。

Hayashi Y, Matsuda K, Tanigawa K, Tanikawa T, Maeda K, Tsuchiya K.
Dihydroceramide Δ4-Desaturase 1 Is Not Involved in SARS-CoV-2 Infection.
Biol Pharm Bull. 2022; 45(10):1559-1563.
https://doi.org/10.1248/bpb.b22-00503
(2022/10/1)

2022年9月掲載

コロナ禍における脳卒中診療

コロナ禍における脳卒中診療の現状や取り組みを報告する。我々の施設では2020年1月から2021年12月まで4名のCOVID-19併発の脳卒中症例を経験しているが転帰不良例が多く、主幹動脈閉塞といった脳梗塞の重症度の他にCOVID-19合併による全身状態の不良も影響していると考えられた。またコロナ禍における日本の救急医療体制の現状分析によると約2割の施設が診療制限や救急応需の停止などの影響を受けていたが、我々の施設では血栓回収術についての初期診療から脳血管撮影室入室までの対応を示したプロトコールを作成するなど診療体制の整備に努め、救急応需を維持することができた。

Tamai_Fig2.png

Tamai Y, Arai N, Fujitani M, Kanayama S, Inoue M, Hara T.
Stroke treatment during the COVID-19 pandemic.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01028
(2022/9/30)

COVID-19に対する臨床工学技士の役割

要旨:COVID-19に対する臨床工学技士の業務として、人工呼吸療法、血液浄化療法、体外式膜型人工肺(ECMO)などに使用する生命維持管理装置の操作や保守管理がある。業務にあたり一番頭を悩ませたのは、医療機器の内部汚染であった。医療機器内部で発生する熱を冷ますための冷却ファンにより機器内部が汚染される可能性がある。機器内部が汚染された場合、中央管理室でメンテナンスをする際や、そのまま別の患者に使用すると二次感染が発生する可能性がある。当院では、冷却ファンではなく熱伝導により内部の熱を放熱するヒートシンク方式の人工呼吸器PB-840を優先使用し、二次感染の予防に努めた。臨床工学技士の業務は多岐に渡り、臨床業務が増加している。一方で、機器の構造を理解し、感染症に適した機器選定、感染症に使用するための工夫、使用後のメンテナンス方法など、機器に関しての専門知識が非常に重要である。

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Sato M, Fukaya T, Ogawa T, Nunose N, Hosaka S.
The role of clinical engineers in the coronavirus disease 2019 pandemic.
Glob Health Med. 2022; 4(5):294-295.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01012
(2022/9/26)

COVID-19重症者病棟での精神科リエゾンチームの取り組み

COVID-19流行期におけるCOVID-19重症者病棟では、入院患者の急増により治療やケアにあたる医師や看護師の負担が急増した。また、感染管理の観点から面会制限や家族自身が陽性者や濃厚接触者となることで対面での病状説明ができない状況となり、家族のみならず医療スタッフ側の負担をさらに増大させることになった。これらの負担を少しでも軽減すべく精神科リエゾンチームが介入し、病状説明への同席、オンライン面会の実施等をおこなった。チームの取り組みにより、患者家族のメンタルサポートにつなげることができたと同時に、医療スタッフ側のジレンマや負担の軽減にもつなげることができた。今回の取り組みを今後のチーム活動にも活かしていきたい。

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Sone H, Ogawa H, Miyaki R, Kato O.
Efforts of a Psychiatric Liaison Team in a ward with patients with severe coronavirus disease 2019.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01019
(2022/9/26)

国立国際医療研究センター病院におけるSARS-CoV-2 PCR検査への取り組みについて

COVID-19の流行拡大により、当院では2020年3月から院内SARS-CoV-2 PCR検査を実施している。検査導入初期は、検査環境の整備が十分でなくRNA抽出や試薬調整の工程を全て手作業で実施する必要があったため、1日に測定可能な検査件数に制限があった。また、手作業でPCR検査を行うために必要な知識経験が十分でなく、集中力を要する作業に苦慮しながら検査を実施していた。その後、機器の更新、運用の変更、検査要員の増員、救急外来の当直検査技師との連携などにより、現在では月間2,000件以上の検体を24時間体制で検査できるようになった。今後とも他科の協力を得つつ、COVID-19治療の新たなニーズに応えていきたい。

Motohashi_Fig1.png

Motohashi A.
The development of SARS-CoV-2 PCR testing methods at a designated medical institution for specific infectious diseases in Japan.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01010
(2022/9/26)

COVID-19禍における孤独感と飲酒に関する縦断研究

2021年2月と2022年2月に実施された日本における全国インターネット調査の縦断データを用いて、2021年時点での高い孤独感を感じていた人が、2021年から2022年においてハイリスク飲酒に変化かしたかどうかについて論じている。結果として、高い孤独感を感じていた人は、孤独感を感じていないまたは低い人と比べ、アルコール依存症のスクリーニングテスト(AUDIT)におけるハイリスク飲酒(スコア15点以上)でなかった人がハイリスク飲酒になることと有意に関連した。長期化する新型コロナウイルス感染症の影響によって対人交流が制限されたり、飲食店での酒類提供が制限されたりする中で、孤独感がハイリスク飲酒の要因になることを明らかにした。

Wakabayashi M, Sugiyama, Y, Takada, M, Kinjo, A, Iso, H, Tabuchi, T.
Loneliness and Increased Hazardous Alcohol Use: Data from a Nationwide Internet Survey with 1-Year Follow-Up.
Int J Environ Res Public Health. 2022:19, 12086.
https://doi.org/10.3390/ijerph191912086
(2022/9/24)

日本におけるCOVID-19ワクチンの安全性監視体制の第2報:ブースター接種と小児接種

日本では2021年12月にブースター(3回目)の接種が開始され、2022年2月には5~11歳の小児への集団接種が開始された。この報告では、前回の報告以降の2021年12月から2022年5月までの日本におけるCOVID-19ワクチン安全性情報を報告する。日本では、米国や英国の報告と同様に、3回目接種の副反応報告率は、1、2回目の注射の報告率より全般的に低く、5~11歳の小児における心筋炎/心膜炎の報告率も非常に低かった。最新の情報を踏まえ、2021年12月7日から2022年6月10日まで安全性に関する追加的措置は実施されなかった。引き続き最新情報を踏まえた継続的な取り組みを行っていく。

Yamaguchi T, Iwagami M, Ishiguro C, Fujii D, Yamamoto N, Sakai H, Tsuboi T, Umeda H, Kinoshita N, Iguchi T, Oka A, Morio T, Nakai K, Hayashi S, Tsuruta S.
Updated report of COVID-19 vaccine safety monitoring in Japan: Booster shots and paediatric vaccinations.
Lancet Reg Health West Pac. 2022; 27:100600.
https://doi.org/10.1016/j.lanwpc.2022.100600
(2022/9/20)

NCGM職員におけるBNT162b2ワクチン2回接種後の液性・細胞性免疫応答の経時変化:9か月間の縦断調査

COVID-19ワクチンに対する液性・細胞性免疫応答について、長期間の経時的変化を評価した研究は少ない。本研究では、ファイザー社BNT162b2を2回接種したNCGM職員100名を対象に、液性免疫(SARS-CoV-2スパイクタンパク質特異的IgG抗体[IgG-S]、中和抗体)と細胞性免疫(T細胞)について経時的に評価した。1回目のワクチン接種直後から2回目接種後8か月まで、計7回の採血を実施した。IgG-SおよびT細胞免疫応答は、1回目接種後から上昇し始めた。その力価は2回目接種後7日目で最大となった後、2回目接種後8か月 まで徐々に低下した。一方、十分な中和活性は2回目接種後7日目から獲得されていた。T細胞免疫は中和活性よりも誘導が早かったことから、十分なレベルの中和抗体を獲得する前に、T細胞の免疫応答が獲得されていることが示唆された。液性・細胞性免疫応答は、2回目接種後、6~10週間は持続するが、7か月以降は維持されなかったことから、本研究はブースター投与(3回目接種)の必要性を明確にしている。

Takeuchi JS, Fukunaga A, Yamamoto S, Tanaka A, Matsuda K, Kimura M, Kamikawa A, Kito Y, Maeda K, Ueda G, Mizoue T, Ujiie M, Mitsuya H, Ohmagari N, Sugiura W.
SARS-CoV-2 specific T cell and humoral immune responses upon vaccination with BNT162b2: a 9 months longitudinal study.
Sci Rep. 2022; 12(1):15447.
https://doi.org/10.1038/s41598-022-19581-y
(2022/9/14)

日本で1日あたりの新規感染者数が20万人を超えた深刻な感染拡大の6週間が医療体制に与えた影響

2022年7月20日から8月31日までの6週間で1日あたりの新規感染者数が20万人に近く報告され今までで最も感染が拡大していた。その期間で入院治療を要する人は最大で1,993,062人に到達し、47都道府県中27で平均病床稼働率が50%以上となった。特に神奈川県では病床使用率が98%に、東京では重症患者用病床使用率が64%まで達した。9月以降になって1日あたりの新規感染者数は減少しているが、病床稼働率及び重症患者数、死亡者数は依然として全国で高いままである。感染防止対策を徹底的に実施して、感染者数の減少、重症患者数と死亡者数の増加を防ぐ必要がある。

Karako K, Song P, Chen Y, Karako T.
An average of nearly 200,000 new infections per day over a six-week period: What is the impact of such a severe COVID-19 pandemic on the healthcare system in Japan?
Biosci Trends. 2022.
https://doi.org/10.5582/bst.2022.01390
(2022/9/12)

SARS-CoV-2の3種類の迅速抗原検査を用いた前鼻腔サンプリングの有用性の検討

新型コロナウイルス感染症を診断する検査において,前鼻腔(AN)サンプリングは鼻咽頭(NP)サンプリングよりも患者にとって利便性が高い可能性がある。本研究ではANサンプリングにおける迅速抗原検査の可能性と、検査精度に影響する要因について検討した。単施設前向き研究を行い、ANおよびNPスワブを用いた1種類の定性迅速抗原検査(ESP)および2種類の定量迅速抗原(LUMIおよびLUMI-P)の診断精度を評価した。対象は20歳以上で症候性、かつ発症から9日以内にNP検体を用いたPCR検査の適応と判断された症例とした。陽性28例、陰性100例を含む計128例が登録された。ESPを用いたAN検体の感度および特異度は0.81および1.00であり、NP検体では0.94および1.00であった。LUMIとLUMI-Pでは、ANとNPの感度はそれぞれ0.91と0.97、特異度はともに1.00であった。ANとNPの陽性一致率は、ESP、LUMI,LUMI-Pで、それぞれ0.87、0.94、0.85であった。また各サンプリング方法の一致率に有意な影響を及ぼす患者側の因子は確認されなかった。ESP、LUMI、LUMI-PはNPサンプリングと比較して、ANサンプリングにおいて実用に耐えうる診断精度を示した。またこれらの迅速抗原検査では、ANサンプリングとNPサンプリングの一致率に影響を及ぼす有意な因子はなかった。

Nomoto H, Yamamoto K, Isaka E, Miyazato Y, Suzuki T, Maruki T, Yamada G, Kamegai K, Akiyama Y, Ide S, Kurokawa M, Moriya A, Mezaki K, Yagi S, Nojima H, Yamakawa K, Ohmagari N.
Potential usage of anterior nasal sampling in clinical practice with three rapid antigen tests for SARS-CoV-2.
J Infect Chemother. 2022:S1341-321X(22)00254-9.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.09.001
(2022/9/8)

脳梗塞を合併したCOVID-19症例の開頭剖検報告

COVID-19の病態解明に病理解剖は不可欠であるが,感染性への懸念から我が国での開頭剖検の報告は極めて限られている。今回,COVID-19に脳梗塞を合併した症例の開頭剖検を行った。脳組織では異なる機序と推定される複数の梗塞巣を認めたが、国立感染症研究所の協力で行ったqRT-PCRと免疫組織染色はいずれも陰性であった。全身でのウイルス検索でも気管支で低コピー数のSARS-CoV-2を認めたのみであった。COVID-19では内皮細胞障害や凝固亢進による血栓傾向が指摘されており、感染が脳梗塞発症の一因となった可能性がある。危険因子を有する高齢者では抗凝固療法の早期からの導入が推奨される。さらに剖検時の感染力の低下も示唆されており、今後の脳病理所見の集積が期待される。

Goto R, Kawakami H, Horiuchi Y, Chikada A, Yasuda T, Suzuki T, Miyazato Y, Ishikane M, Kishino Y, Miyazaki H, Igari T, Katano H, Suzuki T, Murayama S, Arai N.
An Autopsy Report of a Case with Cerebral Infarction Complicated by Coronavirus Disease 2019 Infection.
Intern Med. 2022.
https://doi.org/10.2169/internalmedicine.9726-22
(2022/9/6)

新型コロナウイルスワクチン1回接種後にCOVID-19に罹患した患者における抗体価と中和活性の検討

新型コロナウイルスに対するワクチンはCOVID-19の発症予防に有効であることが示されている。しかしながら、初回のワクチン接種直後の免疫応答は明らかになっていない。本研究では、1回の新型コロナウイルスワクチン接種後にCOVID-19に罹患した患者の抗SARS-CoV-2抗体価(S-IgG、S-IgM、N-IgG)および中和活性を測定した。初回から2回目の検体採取までの間にS-IgGおよび中和活性は著しく上昇していた。このことから、新型コロナウイルスワクチン初回接種後には一定の免疫が成立しており、感染後素早く免疫応答が生じることが示唆された。

Okumura N, Saito S, Takamatsu Y, Takeuchi JS, Asai Y, Sanada M, Iwamoto N, Kenji M, Mitsuya H, Ohmagari N.
Antibody titers and neutralizing activity in cases of COVID-19 after a single dose of vaccination.
J Infect Chemother. 2022:S1341-321X(22)00252-5.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.08.026
(2022/9/5)

重症COVID–19肺炎の急性期の循環動態は比較的安定している~単施設・症例対照研究~

人工呼吸器管理を要する重症COVID-19の臨床経過について、重症肺炎患者と比較を行い、その特徴を検討した。2020年2月~5月に人工呼吸器管理を行ったCOVID-19患者(COVID群)と、2017年1月~2018年12月に人工呼吸器管理を行った肺炎患者(非COVID群)を対象とし、挿管日をday0としたday0,1,3のSOFAスコアの推移を調査した。対象は各群14名ずつ。平均年齢は68.3歳で両群の既往・院内死亡率に差はなかった。挿管日のSOFAスコアの各項目の平均は、COVID群が循環・中枢神経スコアで有意に低く、Day1,3も循環スコアで有意に低かった。昇圧剤の使用率、挿管日の補液量も、COVID群で有意に低かった。本研究から、重症COVID-19肺炎では非COVID重症肺炎と比較して循環動態はより安定していることが示唆された。

船登 有未, 松田 航, 植村 樹, 小林 憲太郎, 佐々木 亮 , 岡本 竜哉, 木村 昭夫.
Funato Y, Matsuda W, Uemura T, Kobayashi K, Sasaki R, Okamoto T, Kimura A.
Critically ill patients with novel coronavirus infectious disease (COVID-19) are relatively hemodynamically stable in the acute phase: a single-centered, retrospective, observational study.
⽇救急医会誌. 2022; 33: 474-81.
JJAAM. 2022; 33: 474-81.
https://doi.org/10.1002/jja2.12739
(2022/9/1)

2022年8月掲載

日本国内で初めて確認された新型コロナウイルスオミクロン株に感染した小児例

日本国内で初めて確認された、新型コロナウイルスオミクロン株に感染した小児例を報告する。患児は日本在住の1歳男児で、2021年11月12日から両親と国外に渡航していた。新型コロナウイルスに対するワクチンは未接種だった。11月28日帰国時、父親が新型コロナウイルス抗原検査陽性となった。患児と母親は同検査で陰性だったため、父親と別に隔離されたが、12月4日患児が新型コロナウイルスRT-PCR検査陽性となったため、母親とともに入院した。患児と父親が感染した株はオミクロン株だった。入院経過中に発熱・感冒症状を認めたものの、軽症で経過した。RT-PCR検査は2021年12月20日以降陰性となった。本症例の潜伏期間とRT-PCR検査が陰性化するまでの期間は、既存株での報告と同様だった。オミクロン株の重症化リスクや感染力は不明であり、今後、特に新型コロナウイルスに対するワクチン未接種の小児に感染が拡大しないか注視していく必要がある。

Horigome A, Yamanaka J, Takasago S, Iwamoto N, Saito T, Shichino H.
The first case of a child infected with SARS-CoV-2 Omicron variant in Japan, December 2021.
Jpn J Infect Dis. 2022.
https://doi.org/10.7883/yoken.jjid.2021.896
(2022/8/31)

オミクロン株流行期におけるブレイクスルー感染に対する新型コロナウイルスヌクレオカプシドタンパク質抗体の感度:NCGM職員抗体調査

COVID-19の広がりを把握するため血清疫学調査が行われており、ヌクレオカプシドタンパク質に対する抗体(N抗体)が感染の指標として用いられている。しかしながら、ワクチン接種や変異株登場により軽症者・無症状者が増える中、感染後に抗体が産生されないケースが増え、その結果、感染の指標としてN抗体は適切でないことが懸念されている。本研究では、NCGM職員抗体調査参加者のうち、mRNAワクチンを2回ないし3回接種したのちにブレイクスルー感染を起こした224名を対象に感染後の抗体を調べた。その結果、3回接種後2か月以内に感染した人ではN抗体価が有意に低く、また感度(感染者に占めるN抗体陽性者の割合)は78%と、他の時期に感染した人の感度(94%以上)と比べると有意に低下していた。3回目接種から間もない時期に感染した人については、事後的な抗体検査で一定の見逃しがあることが示唆される。このことは、血清疫学調査の計画や結果の解釈において考慮する必要がある。

Mizoue T, Yamamoto S, Konishi M, Oshiro Y, Inamura N, Nemoto T, Ozeki M, Horii K, Okudera K, Sugiyama H, Aoyanagi N, Sugiura W, Ohmagari N.
Sensitivity of anti-SARS-CoV-2 nucleocapsid protein antibody for breakthrough infections during the epidemic of the Omicron variants.
J Infect. 2022:S0163-4453(22)00480-7.
https://doi.org/10.1016/j.jinf.2022.08.015
(2022/8/26)

オミクロン株流行期における学校や施設に通う子どもとの同居と欠勤との関連:NCGM職員抗体調査

オミクロン株登場後、日本においてCOVID-19が急拡大した。この流行は子どもへの感染増大によって特徴づけられる。本研究では、学校や施設に通う子どもとの同居と医療従事者の欠勤との関連を、2022年3月に実施したNCGM職員抗体調査のデータに基いて分析した。その結果、世話が必要な小さな子どもがいる職員は、本人が感染して欠勤するリスクが高かった。子どもとの同居している場合、子どもの年齢に関わらず、職員が濃厚接触者(疑いを含む)となり欠勤するリスクが高かった。さらに、世話の必要な子どもがいる職員では、子どもが通う学校や施設がコロナ患者発生のため閉鎖され、その間、子どもを世話するため欠勤した頻度が、職員本人が感染したまたは濃厚接触者となり欠勤した頻度を上回った。医療従事者の欠勤を抑制するには、子どもへのワクチン接種の拡充や学級閉鎖の基準見直しを含め包括的な対応が求められよう。

Yamamoto S, Mizoue N, Mizoue T, Konishi M, Horii K, Sugiyama H, Ohmagari N.
Living with school-age children and absence among staff of a tertiary hospital during the Omicron epidemic in Tokyo.
J Hosp Infect. 2022:S0195-6701(22)00257-2.
https://doi.org/10.1016/j.jhin.2022.08.003
(2022/8/26)

NCGM職員における感染予防行動とその関連要因

医療従事者は職業上の新型コロナウイルス感染に加えて、会食など日常生活場面で感染する危険性もある。2020年7月、 NCGM職員1,228名を対象に日常生活におけるCOVID-19に関する感染予防行動の遵守度に関する調査を実施し、その関連要因について統計的に分析した。本調査で尋ねた6つの予防行動のうち4つはほぼ全員が遵守しており、特に医療職、女性、年齢が高い層で遵守率が高かった。本研究より、NCGM職員は平均的に日常生活で感染予防行動をよく遵守しているものの、職業、性、年齢といった背景要因による違いを認めた。職員向けの感染予防意識を高める対策を反映している結果と思われるが、院外からのウイルスの持ち込みによる感染を防止する観点から、その継続が求められよう。

Manandhar Shrestha R, Inoue Y, Fukunaga A, Hoang DV, Yamamoto S, Miki T, Konishi M, Ohmagari N, Mizoue T.
Infection prevention practices and its associated factors among hospital workers in a national medical center designated for COVID-19 in Tokyo, Japan.
PLoS One. 2022; 17(8):e0272856.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0272856
(2022/8/11)

オミクロン株の罹患後症状

オミクロン株のCOVID-19罹患後症状の種類や頻度を、他の株のそれと比較して調査することを目的とした単施設横断研究である。オミクロン株感染者53名、初期からデルタ株感染者までの対照群502名から回答を得た。オミクロン群と対照群の患者背景を揃え比較した結果、COVID-19罹患後症状を1つ以上有する患者数はオミクロン群で1名(5.6%)、対照群で10名(55.6%)であった(p=0.003)。オミクロン株のCOVID-19罹患後症状の有病率は他の株のそれに比べて少なかったが、より多くの患者の協力を得て検証する必要がある。

Morioka S, Tsuzuki S, Suzuki M, Terada M, Akashi M, Osanai Y, Kuge C, Sanada M, Tanaka K, Maruki T, Takahashi K, Saito S, Hayakawa K, Teruya K, Hojo M, Ohmagari N.
Post COVID-19 condition of the Omicron variant of SARS-CoV-2.
J Infect Chemother. 2022; 28(11):1546-1551.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.08.007
(2022/8/11)

BNT162b2接種者より得られた血清/IgGの、SARS-CoV-2各種変異株に対する中和活性

ファイザーBNT162b2ワクチン2回接種を受けたJCHO熊本総合病院医療従事者225名の血液を長期採取し、血清のSARS-CoV-2中和活性(NT50)及び血清より抽出したIgGの抗ウイルス活性(EC50)を、武漢株及び9種の変異株を用い評価した。1回目接種60日後の検体ではベータ株に対する活性低下が最も著明であった。良/平均反応者群のIgGを用い武漢株・変異株に対する経時的なEC50の変化を評価した所、全変異株に対し持続的な活性低下を認めた。しかしデルタ株に対しては比較的良好な活性の長期持続を認め、ワクチン接種の急速拡充が昨年夏みられたデルタ株主体の第5波の収束に最も貢献したと考えられた。

Amano M, Otsu S, Maeda K, Uemura Y, Shimizu Y, Omata K, Matsuoka M, Shimada S, Mitsuya H.
Neutralization activity of sera/IgG preparations from fully BNT162b2 vaccinated individuals against SARS-CoV-2 Alpha, Beta, Gamma, Delta, and Kappa variants.
Sci Rep. 2022; 12(1):13524.
https://doi.org/10.1038/s41598-022-17071-9
(2022/8/8)

COVID-19に対する未分画ヘパリンを使用した抗凝固療法の新提案、2022

SARS-CoV-2により引き起こされる凝固亢進状態は、COVID-19が重症化する病態の中で重要な役割を担っている。先行研究では抗凝固療法によりCOVID-19に関連した血栓症発症率や死亡率が減少することが示されており、研究で使用された主な抗凝固薬は低分子ヘパリンであった。日本では薬事承認の問題から未分画ヘパリンが使用されることが多いが、COVID-19に対する未分画ヘパリンの適切な使用方法は確立されていない。今回我々は海外の先行研究を参考に、未分画ヘパリンが低分子ヘパリンに比較して出血性合併症のリスクが高いことや、血栓症リスクや抗凝固療法への感受性の人種差を考慮し、日本の現状に合わせた新たな抗凝固療法のプロトコルを作成した。

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Sato L, Ishikane M, Okumura N, Iwamoto N, Hayakawa K, Iseki K, Hara H, Ohmagari N.
A novel anticoagulation treatment protocol using unfractionated heparin for coronavirus disease 2019 patients in Japan, 2022.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01030
(2022/8/6)

COVID-19禍における低中所得国への国際医療協力

国立国際医療研究センター国際医療協力局(BIHC)は、我が国を代表する国際医療協力機関として、国内外の様々な機関と協働している。BIHCは、低中所得国への技術協力や国際会議への参加、医療技術の国際展開など様々な事業を展開している。COVID-19パンデミック以降、これまでの事業形態が一変し、オンラインでの事業遂行が主流となった。国内外の人材育成事業では、参加者数が例年約400名のところ、オンライン研修を実施した2020年度は773名、2021年度は20,236名と激増した。他方、教材の新規開発や時差のある国との実施など、様々な課題も見えてきた。ポストコロナ時代は、オンラインと対面のハイブリッド型の国際医療協力が主流になると予測される。

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Tamura T, Inoue N, Murakami H.
International technical cooperation to low- and middle-income countries during the COVID-19 pandemic.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01014
(2022/8/6)

NCGM職員におけるBNT162b2ワクチン2回および3回接種後の免疫原性

COVID-19ワクチン2回接種後の免疫反応には背景要因による違いが認めらているが、3回接種後もそうした違いが持続するかは不明である。本研究では、ファイザー社BNT162b2ワクチンを接種した後に抗体調査に参加したNCGM職員1266名を対象に、2回接種後と3回接種後のSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体価とその関連要因を調べた。全集団でみると3回接種後の抗体価は2回接種後の11.7倍に上昇した。2回接種後、男性、高齢、慢性疾患、肥満、免疫抑制剤の使用が抗体価の低さと関連していた。3回接種後は高齢、慢性疾患、肥満との関連はみられなくなった一方、免疫抑制剤使用者の抗体価は依然低いこと、また男性の抗体価が女性を上回る逆転現象を認めた。本研究より、3回目のワクチン接種は、集団全体として抗体価を大幅に上昇させるばかりでなく、接種者の背景要因による抗体価の差を最小化することが示唆された。

Yamamoto S, Tanaka A, Oshiro Y, Inamura N, Mizoue T, Ohmagari N; for SARS-CoV-2 Seroepidemiological Study among NCGM staff.
Antibody responses and correlates after two and three doses of BNT162b2 COVID-19 vaccine.
Infection. 2022.
https://doi.org/10.1007/s15010-022-01898-5
(2022/8/4)

2022年7月掲載

遷延する発熱が契機となって肺外結核とHIV-1感染症の診断となったCOVID-19軽症患者の一例

COVID-19パンデミック下においても当然既存の疾患はなくなったわけではないため、PCR検査などでCOVID-19感染の確定診断がついた状態で他の疾患の併存を疑うことは重要である。しかし感染対策として隔離が必要となるため、画像検査などの精査を行うことは容易ではない。本報告では、COVID-19軽症患者において、遷延する発熱症状をもとに肺外結核とHIV-1感染の診断がついた症例をもとに、文献的考察を併せて、10日以上の発熱症状が続く場合には他疾患の精査が必要であることが明らかになった。またCOVID-19感染による潜在性結核の顕在化に関して、COVID-19感染によって引き起こされるサイトカインストームが関連していると考えられた。

Hirata K, Watanabe K, Sasaki T, Yoshimasu T, Shimomura A, Ando N, Yanagawa Y, Mizushima D, Teruya K, Kikuchi Y, Oka S, Tsukada K.
Unmasking latent extrapulmonary tuberculosis with newly diagnosed HIV-1 infection in a COVID-19 patient with prolonged fever.
Oxf Med Case Reports. 2022; 2022(7):omac079.
https://doi.org/10.1093/omcr/omac079
(2022/7/26)

COVID-19の重症化リスクを予測するために男女差にもっと注目すべきである:男性の重症化リスクは10歳以上年上の女性と同等

COVID-19に関連する健康政策の優先順位付けは、通常、年齢や他の特定の特徴を考慮して行われるが、男性の重症化リスクが高いにもかかわらず、性別については考慮されていない。本研究の目的は、COVID-19の重症度に対する性と年齢の影響を、男性と女性のリスクが同じになる年齢の差を推定することで比較することである。日本で入院していたCOVID-19患者のデータの大規模レジストリ(COVIREGI-JP)を用い、本研究を実施した。20-89歳の日本人COVID-19入院患者23,414人(男性13,360人、女性10,054人)を対象とした。COVID-19の重症度(0~5)は、入院中に最も重い治療(もしくは死亡)で分類した。重症度 2/3/4/5(非侵襲的人工呼吸/侵襲的人工呼吸/体外式膜式人工肺/死亡)、重症度3/4/5および重症度5のリスクを分析した。女性に対する男性の重症度2/3/4/5、3/4/5、および5の年齢と入院時期を調整したオッズ比は、順に2.76、2.78、2.60であった。男性のこれらのリスクは、14.1歳、11.2歳、7.5歳上の女性のリスクと同等だった。4つの先行研究においても、COVID-19の重症化に男女差が大きく影響していた。COVID-19の重症化リスクを予測する要因の一つとして男女差に着目し、公衆衛生政策において考慮すべきである。

Matsushita Y, Yokoyama T, Hayakawa K, Matsunaga N, Ohtsu H, Saito S, Terada M, Suzuki S, Morioka S, Kutsuna S, Tsuzuki S, Hara H, Kimura A, Ohmagari N.
We should pay more attention to sex differences to predict the risk of severe COVID-19: men have the same risk of worse prognosis as women more than 10 years older.
J Epidemiol. 2022.
https://doi.org/10.2188/jea.JE20220056
(2022/7/16)

自院で設定したフェーズに応じた新型コロナウイルス(COVID-19)対応の経験

2020 年前半のCOVID-19による日本の第1波では患者の収容施設や検査体制が整わず混乱が起こった。NCGMでも患者対応や問い合わせが特定の部署に集中し、総合感染症科の超過勤務時間は前年度と比較して最大3.5 倍に増加した。これは重症患者対応に人的・物的資源を含むリソースを要することや、診療状況が他部署に不透明であり、専門外の診療科が応援を出しにくい環境であることが原因であると考えられた。タスクフォースを作り、ボトルネックである重症患者数により規定される院内独自のフェーズ作成を行い、院内全体から協力を得ることで診療負荷が軽減された。今後も患者数増減に合わせて院内フェーズの変更、診療体制の変更などを検討することが望ましい。

井手 聡, 森岡 慎一郎, 須貝 和則, 木村 昭夫, 梶尾 裕, 大曲 貴夫, 杉山 温人.
Ide S, Morioka S, Sugai K, Kimura A , Kajio Y, Ohmagari N, Sugiyama H.
Experience in dealing with COVID-19 pandemic with original phasing in our hospital.
日本災害医学会雑誌. 2022; 27(2):151-158.
J. J Disast. Med. 2022; 27(2):151-158.
https://doi.org/10.51028/jjdisatmed.27.2_151
(2022/7/13)

ベトナムにおける病院の質管理及び患者安全の強化~COVID-19流行下でのオンラインを活用した技術協力

NCGMは2015年よりベトナムの病院管理者や医療従事者に対して、医療の質管理・安全分野における知識や技術の向上を目的とした技術協力プロジェクトを実施している。NCGMでの訪日研修やベトナム現地フォーラムの開催支援等を実施してきたが、COVID-19流行下では渡航が困難であった。そのためオンライン会議システム等を活用し、感染リスクを避けた研修を実施した。個人のスマートフォンからもアクセスが可能であり、アクセスの容易さからベトナム各地からの参加が確認された。オンラインプラットフォームとしてFacebook等も良好事例の共有に有用であった。地方の格差を是正する取り組みとして、オンラインを活用した技術協力は今後も推進されることが期待される。

Moriyama J, Ito T, Doi M, Seino K, Luong DH, Iwamoto A, Murakami H.
Enhancing hospital quality management and patient safety in Vietnam: a technical assistance project utilizing online solutions during COVID-19 pandemic.
Trop Med Health. 2022; 50(1):45.
https://doi.org/10.1186/s41182-022-00435-2
(2022/7/12)

重症COVID–19におけるデルタ株流行の影響と予後:単施設後方視研究

COVID-19は変異株ごとに感染性や毒性が異なり、デルタ株による第5波では重症者、死者数が増加した。本研究は第5波における重症患者の臨床的特徴と治療成績を明らかにすることを⽬的とした。当院でCOVID-19による呼吸不全で⼈⼯呼吸器を使⽤した53例(全例ワクチン未接種)を対象とした。2020年2⽉から2021年6⽉までの第1~4波(40例)と2021年7⽉から10⽉までの第5波(13例)の2群に分けて比較した。第1~4波に比較し第5波の重症COVID-19患者は発症から入院までの日数が長く、酸素化も悪い状態で搬送されていた。また若年にも関わらず生存率が低い結果となった。デルタ株の影響、搬送困難による治療の遅れなどが原因として⽰唆された。

加藤 史人, 関原 圭吾, 岡本 竜哉, 井熊 玲央, 小島原 知大, 植村 樹, 木村 昭夫.
Kato F, Sekihara K, Okamoto T, Iguma R, Kojimahara T, Uemura T, Kimura A.
Prognostic impact of delta variant in COVID–19 patients requiring mechanical ventilation in comparison with other variants: a single center retrospective analysis.
https://doi.org/10.1002/jja2.12728
⽇救急医会誌. 2022; 33(7):291-298.
Journal of Japanese Association for Acute Medicine. 2022; 33(7):291-298.
(2022/7/5)

ナショナルセンター職員におけるBNT162b2ワクチン接種後の抗体価と加熱式タバコの使用および飲酒状況との関連

喫煙と飲酒は免疫能を低下させることが指摘されているが、加熱式タバコや少量飲酒がCOVID-19ワクチン接種後の免疫原性に及ぼす影響は不明である。本研究では、2021年6~7月にJH抗体調査に参加した4つのナショナルセンターの職員のうち、BNT162b2ワクチンを2回接種し、喫煙・飲酒について回答した3433人を対象に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体価との関連を分析した。その結果、非喫煙者と比べて、加熱式タバコ使用者(紙巻きタバコ併用者も含む)の抗体価は11%低かった(紙巻きタバコのみの使用者の抗体価は19%低い)。また、非飲酒者と比べて、1合/日未満の少量飲酒者の抗体価は7%低く、1-1.9合/日では15%、2合/日以上では16%低かった。紙巻きタバコや多量飲酒に加えて加熱式タバコや少量飲酒もCOVID-19ワクチンに対する免疫反応を低下させることが示唆された。

Yamamoto S, Tanaka A, Ohmagari N, Yamaguchi K, Ishitsuka K, Morisaki N, Kojima M, Nishikimi A, Tokuda H, Inoue M, Tanaka S, Umezawa J, Okubo R, Nishimura K, Konishi M, Miyo K, Mizoue T.
Use of heated tobacco products, moderate alcohol drinking, and anti-SARS-CoV-2 IgG antibody titers after BNT162b2 vaccination among Japanese healthcare workers.
Prev Med. 2022; 161:10.
https://doi.org/10.1016/j.ypmed.2022.107123
(2022/7/1)

2022年6月掲載

デクスメデトミジンにより洞調律のまま心停止をきたした重症COVID-19の1 例

COVID-19患者は重症化し、人工呼吸管理を要することがある。今回、重症COVID-19患者において、デクスメデトミジン使用中に心停止に至った症例を経験した。症例は心血管系の既往歴や内服薬のない56歳男性で発熱、呼吸困難を主訴に救急搬送、人工呼吸管理となった。鎮静薬としてプロポフォール、ミダゾラムとともにデクスメデトミジンを0.6μg/kg/時前後で使用した。第11病日より徐脈となり、翌日洞調律のまま心停止をきたした。投与中止後速やかに心拍数の改善を認めたこと、他の薬剤を継続投与しても徐脈を認めなかった点から、デクスメデトミジンが徐脈および心停止に関与していると考えられた。

杉山 茉祐, 関原 圭吾, 岡本 竜哉, 茂野 絢子, 柴崎 貴俊, 福田 有, 瓦 安迪, 木村 昭夫.
Sugiyama M, Sekihara K, Okamoto T, Shigeno A, Shibasaki T, Fukuda Y, Wa A, Kimura A.
Sinus cardiac arrest due to dexmedetomidine in patient with severe COVID-19.
日本救急医学会関東地方会雑誌. 2022; 43(3):72-75.
KANTO Journal of Japanese Association for Acute Medicine. 2022; 43(3):72-75.
https://doi.org/10.24697/jaamkanto.43.3_72
(2022/6/30)

COVID-19流行下で新たに子どもをもった親の子育て・社会的孤立・孤独感に関するパイロットスタディ

COVID-19の流行は、子育てに大きな影響を与えている。そこで、COVID-19流行下で新たに第1子をもった親と、第2子以降の児をもった親の子育てのとらえ方、社会的孤立、孤独感を比較し、その特徴を明らかにすることを目的に、web質問紙調査を行った。東京都にて1歳6か月健康診査を受診した第1子の親24名と、第2子以降の親16名の協力を得た。分析の結果、第1子の親は第2子以降の親よりも有意に孤独感が強かった。また、孤独感が強い親ほど、子育ての困難を強く感じていた。親の孤独感や子育ての困難は、児童虐待等さらなる社会的問題につながるため、第1子の親への子育て支援を拡充する必要性が示唆された。

Nomura S, Kisugi N, Endo K, Omori T.
Parenting, Social Isolation, and Loneliness Among New Parents During the COVID-19 Pandemic in Japan: A Pilot Study.
Asia Pac J Public Health. 2022:10105395221108594.
https://doi.org/10.1177/10105395221108594
(2022/6/30)

プロトコール論文:SARS-CoV-2への追加接種としてのKD-414の安全性および免疫原性を評価するための探索的単群試験

KD-414は本邦で開発された不活化新型コロナワクチンであり、先行して行われた第Ⅰ/Ⅱ相試験で高い安全性が確認されている。本研究はmRNAワクチン(BNT162b2)を2回接種した成人を対象に、KD-414を追加接種した際の免疫原性及び安全性を検討することを目的として立案された。主要評価項目はKD-414接種7日後の中和抗体価とし、BNT162b2の2回目接種後及び3回目接種後と比較する。他に、抗IgG-S抗体等の免疫原性や有効性、安全性を探索的に評価する。本研究によりKD-414追加接種の意義が検討されれば、KD-414が将来的に新型コロナワクチンの追加接種の選択肢の一つになり得る。

Terayama Y, Tomita N, Terada-Hirashima J, Uemura Y, Shimizu Y, Takeuchi JS, Takamatsu Y, Maeda K, Mikami A, Ujiie M, Sugiura W.
Protocol of an Exploratory Single-Arm Study to Evaluate the Safety and Immunogenicity of KD-414 as a Booster Vaccine for SARS-CoV-2 in Healthy Adults (KAPIVARA).
Life. 2022; 12(7):966.
https://doi.org/10.3390/life12070966
(2022/6/27)

コロナ禍における患者中心の糖尿病管理

コロナ禍の糖尿病管理では、患者中心のアプローチが欠かせない。インスリンを使用している患者では、持続血糖測定器(CGM)による遠隔モニタリングは有効な手段である。COVID-19罹患者では、良好なアウトカムを得るために血糖管理を行うが、グルココルチコイド治療が必要な重症患者ではコントロールに難渋する。CGMの活用は、適切なインスリン増量を可能とし良好な血糖管理が得られるだけでなく、CGMを用いた遠隔モニタリングは、血糖測定のための医療者の頻回な患者との接触を減らすことができる。さらに、当院の調査で、COVID-19感染を機に糖尿病の診断となる症例を認めた。したがって、COVIDー19罹患者全例における血糖モニタリングが必要である。

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Kodani N, Ohsugi M.
The patient-centered diabetes management during the COVID-19 pandemic.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01031
(2022/6/27)

COVID-19のワクチン忌避の決定要因及び行動規制の緩和とワクチン接種意向に関する研究

COVID-19に対する集団免疫獲得のために、ワクチン接種率を高めることが世界中で重要視されている。本研究では、2021年7月にインターネット調査を実施し、5,000名から得た回答に基づいて、ワクチン忌避者の決定要因を明らかにするとともに、行動規制の緩和とワクチン接種意向の関連を分析した。分析の結果、若年者や社会経済的属性が低いことなどと、ワクチン忌避傾向に関連が認められた。さらに、公衆衛生上の影響や倫理的問題の検討は必須ではあるが、コンジョイント分析の結果から、都道府県を越えた移動が自由になるといった行動規制の緩和が認められることで、ワクチン接種意向が高まる可能性があることが示された。

Okamoto S, Kamimura K, Komamura K.
COVID-19 vaccine hesitancy and vaccine passports: a cross-sectional conjoint experiment in Japan.
BMJ Open. 2022; 12(6):e060829.
http://dx.doi.org/10.1136/bmjopen-2022-060829
(2022/6/16)

COVAXファシリティ等を通じた新型コロナワクチン支援―太平洋島嶼国を事例として―

「COVAXファシリティ」は、安全性、有効性および品質が保証された新型コロナワクチンを、途上国を含めた世界全体に公平に供給することを目的として発足した国際的な枠組みである。本稿では、そのワクチン供給の仕組みを説明するとともに、(1)COVAXファシリティを通じた供給とワクチン寄付・供与をめぐる課題、(2)太平洋島嶼国を事例としたワクチン供給、(3)太平洋島嶼国の脆弱性に焦点を当て、ドナー国からのワクチン支援のあり方に関して論じている。

若林真美, 高橋麻奈, 磯博康.
Wakabayashi M, Takahashi M, Iso H.
COVID-19 vaccine in the Pacific Islands related to COVAX Facility and bilateral assistance.
国際保健学. 2022; 37(2):51-68
Journal of International Health. 2022; 37(2):51-68.
https://doi.org/10.11197/jaih.37.51
(2022/6/16)

日本におけるCOVID-19の入院患者におけるサイレント・ハイポキシア(SH)の予測因子について

SHの早期発見は治療に重要である。COVID-19入院患者レジストリ(COVIREGI-JP)のうち、入院時低酸素状態(SpO2:70~94%)のある非転院症例で、意識障害、錯乱、認知症のない成人患者を対象とした。SHは、息切れ・呼吸困難がない低酸素状態と定義し990/1904人(52%)が該当した。非SH患者と比し、SH患者はより高齢で、女性が多く、入院時SpO2がやや高く、慢性閉塞性肺疾患(COPD)以外の慢性肺疾患(CLD)、喘息、および肥満がより少なかった。多変量解析の結果、SHの独立した予測因子は、高齢、発症から入院までの短さ、SpO2の高さ、CLDまたはCOPDがないことであった。

Hayakawa K, Morioka S, Asai Y, Tsuzuki S, Yamada G, Suzuki S, Matsunaga N, Ohmagari N.
Predictors of silent hypoxia in hospitalized patients with COVID-19 in Japan.
J Infect Chemother. 2022:S1341-321X(22)00176-3.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.06.001
(2022/6/13)

COVID-19禍におけるリスク行動と飲酒に関する横断研究

日本全国におけるインターネット調査の横断データを用いて、問題飲酒者とそのリスク行動について評価した。CAGEというアルコール依存症スクリーニングテストによって問題飲酒者を特定し、2020年4月~5月の緊急事態宣言下における居酒屋での外食、出会い、人混みへの外出などの高リスク行動と関連するかどうかについて論じている。その結果、軽度またはリスクのない飲酒者に比べ、問題飲酒者は外食、友人訪問、カラオケに行くなどのコロナ禍における自宅待機政策に反する行動との関連が見られた。問題飲酒者とその適切な政策の在り方についてさらなる研究の必要性について示唆される。

Wakabayashi M, Takada M, Kinjo A, Sugiyama Y, Iso H, Tabuchi T.
Problem drinkers and high risk-taking behaviors under the stay-at-home policy of the COVID-19 emergency declaration.
BMC Public Health. 2022; 22(1):1173.
https://doi.org/10.1186/s12889-022-13331-5
(2022/6/13)

プロトコール論文:COVID-19回復者血漿を用いた治療の有効性を検討する非盲検ランダム化比較試験

本研究はCOVID-19の軽症例や発症初期の患者に対し、COVID-19回復者血漿の有効性及び安全性を評価することを目的として立案された。回復期血漿投与群及び血漿を投与しない標準治療群における血漿投与後のSARS-CoV-2ウイルス量の時間加重平均変化を主要評価項目とし、血漿投与5日目までのウイルス量の減少を比較検討する。他に重症化予防や安全性について探索的に評価する。これまでの回復期血漿を用いた研究では有効性の程度にばらつきや矛盾が指摘されていたが、本研究では投与前に血漿の中和抗体価を評価し、高い中和活性を有する血漿を用いることで本治療の有効性をより明確に評価できるデザインとした。

Tomita N, Saito S, Terada-Hirashima J, Mikami A, Uemura Y, Kutsuna S, Nomoto H, Fujisawa K, Nagashima M, Terada M, Ashida S, Morioka S, Satake M, Hangaishi A, Togano T, Shiratori K, Takamatsu Y, Maeda K, Ohmagari N, Sugiura W, Mitsuya H.
A Multi-Center, Open-Label, Randomized Controlled Trial to Evaluate the Efficacy of Convalescent Plasma Therapy for Coronavirus Disease 2019: A Trial Protocol (COVIPLA-RCT).
Life. 2022; 12(6):856.
https://doi.org/10.3390/life12060856
(2022/6/8)

COVID-19患者対応における看護管理 ~適切な看護体制の構築を目指して~

COVID-19患者対応において、1)看護体制の継続、2)看護部全体でCOVID-19患者を受け入れるための組織風土の醸成、3)看護職員のメンタルヘルス、4)看護部門という組織としての成長、の4つの視点で看護部門を運営することが重要であった。今後も状況に応じた柔軟な看護体制を構築し、効率的に力を発揮する部門であるとともに、看護職員一人ひとりが柔軟に状況に対応することができる力の向上、経験からの学びや成長を看護管理者として支援していきたい。

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Sato T.
Responding to COVID-19: Establishing a nursing system that is appropriate for the new post-epidemic era.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01005
(2022/6/6)

COVID-19下における緊急事態宣言と人の移動に関する研究

効果的な医薬的介入が利用可能でない感染症流行下においては、自主隔離等による感染拡大防止策が重要となる。本研究では、GoogleによるCOVID-19コミュニティ・モビリティ・レポートを用い、2020年2月から2021年9月までの期間において、緊急事態宣言発出が、複数の場所における人の流れに与える影響を分析した。分析の結果、緊急事態宣言により、娯楽施設等における人の流れは抑制されるものの、緊急事態宣言が繰り返されることや長期に及ぶことによって、効果が弱まってしまう可能性があることが示された。

Okamoto S.
State of emergency and human mobility during the COVID-19 pandemic in Japan.
J Transp Health. 2022:101405.
https://doi.org/10.1016/j.jth.2022.101405
(2022/6/6)

2022年5月掲載

COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)におけるデータの代表性の評価

COVIREGI-JPには、全国最大のCOVID-19入院患者が登録されているが、施設の自発的な参加によるため、選択バイアスは避けられない。2022年3月6日までの6回の流行波において、COVIREGI-JPデータを全国データと比較し、その代表性を評価した。COVIREGI-JPの患者数は全国データの1%であり、第1波で高く、第4波以降では低下傾向を示した。COVIREGI-JPの症例致死率は、殆どの地域で全国データより高い傾向があった。刻々と変化するCOVID-19の疫学を考慮すると、COVIREGI-JPでの継続したデータ登録とその活用が望まれるが、選択バイアスは慎重に解釈する必要がある。

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Hayakawa K, Asai Y, Matsunaga N, Tsuzuki S, Terada M, Suzuki S, Kitajima K, Saito S, Ohmagari N.
Evaluation of the representativeness of data in the COVID-19 Registry Japan during the first six waves of the epidemic.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01033
Glob Health Med. 2022.
(2022/5/29)

COVAXファシリティによって世界のワクチン格差は是正できるか?

COVAXは安全性、有効性及び品質が保証された新型コロナワクチンを途上国を含めた世界全体に公平に供給することを目的として発足した国際的枠組みである。本稿では、COVAXファシリティを通じたワクチンの公平な分配実現に向けて①ワクチンを公平に分配するメカニズムと課題、②ワクチン接種の優先順位に関するガイドライン、③COVAXファシリティ参加国とのコミュニケーションの在り方に関して論じている。

若林真美, 磯博康.
Wakabayashi M, Iso H.
Can global vaccine disparities be corrected by the COVID-19 Vaccine Global Access Facility?
日本社会精神医学会雑誌. 2022; 31:134-145.
Japanese Bulletin of Social Psychiatry. 2022; 31:134-145.
(2022/5/25)

COVID-19罹患後症状の発症、遷延に関連する因子についての横断研究

COVID-19罹患後症状(いわゆる後遺症)は社会的問題となっているが、このような症状の発症に関連する因子は部分的にしか判明しておらず、遷延に関連する因子は不明である。我々は国立国際医療研究センター 回復者血漿事業に参加されたCOVID-19回復者に対してアンケート調査を行い、526名中457名から回答を得た。年齢の中央値は47歳で、378名(84.4%)が軽症COVID-19からの回復者であった。COVID-19罹患後半年経過した後も120名(26.3%)が何らかの遷延症状を呈していることが判明した。また多変量解析の結果、女性は倦怠感、嗅覚障害、味覚障害、脱毛の発症と味覚障害の遷延に関連しており、若年とBody Mass Indexが低いことは嗅覚障害と味覚障害の発症に関与していた。

Miyazato Y, Tsuzuki S, Morioka S, Terada M, Kutsuna S, Saito S, Shimanishi Y, Takahashi K, Sanada M, Akashi M, Kuge C, Osanai Y, Tanaka K, Suzuki M, Hayakawa K, Ohmagari N.
Factors associated with development and persistence of post-COVID conditions: A cross-sectional study.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.04.025
J Infect Chemother. 2022:S1341-321X(22)00139-8.
(2022/5/17)

患者から分離された新型コロナウイルス・オミクロン/BA.2変異株の性状解明

本研究グループは流行中の感染患者から分離されたオミクロン/BA.2株の性状をCOVID-19の動物モデルを用いて評価し、パンデミック初期の流行株(従来株)やオミクロン/BA.1株と比較した。オミクロン/BA.2株は、マウスやハムスターの上気道および下気道部で増殖するものの、その増殖力と病原性は、従来株よりも低く、オミクロン/BA.1株と同程度だった。また、抗体薬のカシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ、ソトロビマブや、抗ウイルス薬のモルヌピラビル(メルク)、ニルマトレルビル(ファイザー)、S-217622(塩野義)は、オミクロン/BA.2株に感染したハムスターの肺における増殖を抑えた。これらの結果はCOVID-19の対策をする上で重要な情報である。

Uraki R, Kiso M, Iida S, Imai M, Takashita E, Kuroda M, Halfmann PJ, Loeber S, Maemura T, Yamayoshi S, Fujisaki S, Wang Z, Ito M, Ujie M, Iwatsuki-Horimoto K, Furusawa Y, Wright R, Chong Z, Ozono S, Yasuhara A, Ueki H, Sakai-Tagawa Y, Li R, Liu Y, Larson D, Koga M, Tsutsumi T, Adachi E, Saito M, Yamamoto S, Hagihara M, Mitamura K, Sato T, Hojo M, Hattori SI, Maeda K, Valdez R; IASO study team, Okuda M, Murakami J, Duong C, Godbole S, Douek DC, Maeda K, Watanabe S, Gordon A, Ohmagari N, Yotsuyanagi H, Diamond MS, Hasegawa H, Mitsuya H, Suzuki T, Kawaoka Y.
Characterization and antiviral susceptibility of SARS-CoV-2 Omicron/BA.2.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04856-1
Nature. 2022.
(2022/5/16)

都市部から離島へのCOVID-19の感染拡大を防ぐための、乗船前PCR検査の有用性の検討

医療体制の脆弱な離島にCOVID-19を持ち込まないことは重要な課題である。父島は東京都心部から船で24時間かかる離島であり、東京都は父島にCOVID-19を持ち込まないために乗船前に唾液PCRを行っている。本研究ではその有用性を検討した。2020年9月1日から2021年3月21日までの調査期間中の島内感染率は0.015%(2/13,446人)であった。陽性が疑われる7名の離島への渡航を阻止し、島内での感染者数および感染拡大を最小限に抑えることができた。本研究により、乗船前のPCRスクリーニング検査の実施が有用な戦略であることが示され、他の離島にも適用可能と思われた。

Terada-HirashimaJ_Fig1.png

Terada-Hirashima J, Sugiura W, Shimizu Y, Tanaka Y, Uemura Y, Ishikane M, Kazuyama Y, Ikeda M, Wakabayashi K, Ohmagari N, Kimura M.
Investigation of the use of PCR testing prior to ship boarding to prevent the spread of SARS-CoV-2 from urban areas to less populated remote islands.
Glob Health Med. 2022.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01008
(2022/5/14)

NCGM職員におけるBNT162b2ワクチン接種後の抗体価と空腹時高血糖および糖尿病との関連

高血糖は自然免疫および獲得免疫の活性を阻害することが示唆されており、COVID-19ワクチン接種後の免疫原性への影響が懸念される。本研究では、NCGM職員抗体調査参加者のうち、BNT162b2ワクチンを2回接種し、かつ健康診断データが得られた953名を対象に、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体価と空腹時高血糖(IFG)および糖尿病との関連を横断的に分析した。その結果、正常血糖者を基準とすると、IFGを有する者の抗体価は21%低く、糖尿病患者では40%低かった。糖尿病患者のみならず糖尿病予備群においてもワクチンの有効性を注視する必要性があることが示唆された。

Islam Z, Yamamoto S, Mizoue T, Tanaka A, Oshiro Y, Inamura N, Konishi M, Ozeki M, Sugiura W, Ohmagari N.
Association of Impaired Fasting Glucose and Diabetes with SARS-CoV-2 Spike Antibody Titers after the BNT162b2 Vaccine among Health Care Workers in a Tertiary Hospital in Japan.
https://doi.org/10.3390/vaccines10050776
Vaccines (Basel). 2022; 10(5):776.
(2022/5/13)

COVID-19発症早期のインターフェロンラムダ3(IFNλ3)は、その後の酸素需要を予測できる

発症から7日以内で酸素投与が必要ない状態のCOVID-19患者の血液中のIFNλ3を測定すると、そのあとにCOVID-19が悪化して酸素投与を必要とするかどうかを予測できることがわかった。COVID-19発症から7日以内に測定したIFNλ3が7.6 pg/mL以上であれば、その後に酸素投与が必要になるかどうかを、曲線下面積(AUC)0.833(95%信頼区間[CI]0.763-0.903)、感度70.7%、特異度84.4% で予測できた。同じく、COVID-19発症から7日以内に測定したIFNλ3が7.6 pg/mL以上であれば、その後に高流量鼻カヌラ酸素投与以上の対応が必要になるかどうかを、AUC 0.928(95% CI 0.831-1.0)、感度100%、特異度 74.3% で予測できた。COVID-19患者の入院・入所先を決めるにあたり、IFNλ3の数値を参考にできる可能性があることがわかった。

Suzuki T, Iwamoto N, Tsuzuki S, Kakumoto Y, Suzuki M, Ashida S, Oshiro Y, Nemoto T, Kanda K, Okuhama A, Yamada G, Inada M, Sato L, Miyazato Y, Akiyama Y, Saito S, Morioka S, Ujiie M, Hayakawa K, Sugiyama M, Mizokami M, Kodama EN, Ohmagari N.
Interferon lambda 3 in the early phase of coronavirus disease-19 can predict oxygen requirement.
Eur J Clin Invest. 2022:e13808.
https://doi.org/10.1111/eci.13808
(2022/5/4)

2022年4月掲載

東京都はCOVID-19にどのように対応してきたか

首都圏は世界で最も人口の多い都市圏である。世界中の都市がCOVID-19への対応に苦戦するなかで、東京都の新規陽性者数と死亡者数は、他よりも低めに抑えられている。日本では、COVID-19の発生時に人々の移動を規制するような法令はない。しかし、国民は政府や地方自治体の要請に基づいて社会活動を控えるだけでなく、感染症に関する情報に基づき個人の判断でリスクを回避している。個人単位での感染防止対策の遵守は、日本の感染対策において重要な役割を果たしている。日本では医療制度の維持と死亡者数の削減に対する国民の期待が高く、この期待に応えながら、着実に社会機能を正常化していく必要がある。

Ohmagari N.
How did the Tokyo Metropolitan Government respond to COVID-19?
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01017
Glob Health Med. 2022; 4(2):67-70.
(2022/4/30)

ベンダムスチン・リツキシマブ療法後のSARS-CoV-2 ブレイクスルー感染致死症例の報告

一般的にCOVID-19の重症化予防にはmRNAワクチンが有効であるが、造血器腫瘍患者ではワクチン接種後であってもCOVID-19が重症化するリスクが高い。症例は70代の男性で、MALTリンパ腫に対してベンダムスチン・リツキシマブ(BR)療法を1年前に終了し、再発の兆候なく経過したが、COVID-19に罹患し死亡した。BNT162b2を2回接種していたがSARS-CoV-2中和活性の上昇が見られず、BR療法の関与が疑われた。ウイルス学的解析では発症後も高ウイルス量が持続し発症27,29日目に意義不明の混合アレルが検出された。このような免疫不全患者への予防と治療戦略を早急に明らかにする必要がある。

Kamegai K, Iwamoto N, Togano T, Maeda K, Takamatsu Y, Miyazato Y, Ishikane M, Mizokami M, Sugiyama M, Iida S, Miyamoto S, Suzuki T, Ohmagari N.
A Fatal Breakthrough Coronavirus Disease 2019 Case Following Bendamustine-Rituximab Therapy.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2022.04.058
Int J Infect Dis. 2022:S1201-9712(22)00258-2.
(2022/4/30)

コロナ禍で遷延する医療者の精神的負荷と関連する要因:シンガポールと日本における多施設共同研究

長引くコロナ禍で、医療者の精神的負荷が遷延している。シンガポールと日本の医師・看護師1644名を対象として、2020年9月から12月にアンケート調査を実施した。その結果、遷延する精神的負荷と関連する要因として、①最前線で対応にあたる看護師であること、②何らかの基礎疾患があること、③COVID-19患者のケアに当たっているという理由で偏見を受けたという経験、④パニックになったもしくは非協力的な患者の対応に苦慮した経験、⑤COVID-19院内アウトブレイクの経験が挙げられた。逆に、⑥医療者の年齢が高いこと、⑦病床数の多い医療機関で勤務していること、⑧個人防護具をしっかりと着脱していること、⑨COVID-19に関する知識があることは、遷延する精神的負荷と逆相関した。

Morioka S, Tan BH, Kikuchi H, Asai Y, Suzuki T, Ashida S, Kutsuna S, Saito S, Hayakawa K, Tan TT, Kodama E, Ohmagari N.
Factors Associated With Prolonged Psychological Distress Among Nurses and Physicians Engaged in COVID-19 Patient Care in Singapore and Japan.
Front Psychiatry. 2022; 13:781796.
https://doi.org/10.3389/fpsyt.2022.781796
(2022/4/28)

臨床情報の収集・分析と課題

COVID-19発生時の武漢からの99例報告は世界中の多くの論文で引用された。この事実は新興感染症発生早期の臨床情報が極めて重要であることを示している。日本ではこのような臨床情報の迅速な収集と共有が十分ではなかった。これは本邦での公衆衛生対策、臨床上の対応、そして研究開発の観点で大きな足枷となった。今後は感染症指定医療機関の研究能力の強化、研究環境の改善、特に電子カルテ等の病院内情報システムの情報の利用を容易にしてレジストリと連結して運用する、戦略的な知見の共有体制の構築、行政検査だけではなく医療機関・研究機関での微生物の検出体制および解析の体制を充実させることが必要である。

大曲貴夫.
Ohmagari N.
Clinical information: collection, analysis, and challenges.
https://doi.org/10.4091/iken.32-51
医療と社会. 2022; 32(1):5158.
Journal of Health Care and Society. 2022; 32(1):5158.
(2022/4/28)

COVID-19中等症患者における急性期と回復期の心機能に関する4症例の比較

COVID-19で入院となった中等症患者4症例に対し、急性期と回復期の心エコー図による心機能評価と、血液検査の比較をした。4症例ともに40代前後の男性で、循環器・呼吸器疾患既往はなく、4症例ともにLVEFは正常範囲内で、回復期には呼吸苦などの症状も消失していた。しかし、急性期と回復期の比較で、LVGLS、RVGLS、RVFWL、RVFAC、TAPSEなど、複数の左室機能および右室機能指標の低下を認めた。D-dimerは僅かな上昇や陽性の持続を認めた。hsTnTは3症例で微量が検出され、IL-6は2症例で異常高値を認めた。急性期とともに回復期以降も心エコー図検査による左室機能および右室機能評価などの定期的なフォローが必要である可能性が示唆された。

屋良朝仁, 葉山裕真, 廣井透雄, 川口港, 小関満.
Yara T, Hayama H, Kawaguchi M, Hiroi T, Ozeki M.
Comparison of cardiac function between acute and recovery phases in four moderate COVID-19 patients.
https://doi.org/10.14932/jamt.21-86
医学検査. 2022; 71(2):362-368.
Japanese Journal of Medical Technology. 2022; 71(2):362-368.
(2022/4/25)

日本における新型コロナウイルスオミクロン株によるブレイクスルー感染者10名の中和活性と抗体価

新型コロナウイルスオミクロン株がスパイクタンパクに多くのアミノ酸変異を有することから、既存のワクチンによる免疫から逃避する可能性が示唆されていた。我々はオミクロン株によるブレイクスルー感染を起こした10名の患者で従来株およびオミクロン株に対する中和活性を測定した。COVID-19発症(診断)後早期の検査時には従来株に対する中和活性は検出されたにもかかわらずオミクロン株に対する中和活性は検出されず、時間経過とともに上昇することが確認された。ワクチン2回接種後の時間経過による免疫の減衰だけでなく、2回の接種ではオミクロン株による免疫が誘導されにくいことがブレイクスルー感染の原因になっていることが示唆された。

Okumura N, Tsuzuki S, Saito S, Hattori S, Takeuchi S. J, Saito T, Ujiie M, Hojo M, Iwamoto N, Sugiura W, Mitsuya H, Ohmagari N.
Neutralising activity and antibody titre in 10 patients with breakthrough infections of the SARS-CoV-2 Omicron variant in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.04.018
Journal of Infection and Chemotherapy 2022.
(2022/4/22)

沖縄県・八重山地域の離島におけるCOVID-19パンデミックに対する対策についての考察

COVID-19対策における離島特有の問題として、医療資源の制限、感染者のプライバシー保護の困難さ、観光産業を中心とした島内経済への悪影響などが挙げられる。複数の有人離島を有する沖縄県八重山地域においては、無床診療所を中心とした診療や住民教育、外部への効果的な応援要請、そして高い域内ワクチン接種率が功を奏し、大きな医療崩壊を起こさずに経過している。離島地域では1つのクラスターが地域の医療体制の崩壊につながる可能性があるため、早期診断、早期治療を行い、感染を拡大させないことが不可欠である。今後の課題としては、平時からクラスター対策班を域内で組織しておくことや、そして迅速な経口抗ウイルス薬の配給が重要である。

Kamegai_K

Kamegai K, Sakai T, Teruya S, Kuba K, Ohmagari N.
Perspectives on countermeasures against COVID-19 in the remote islands of Yaeyama region, Okinawa, Japan.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01027
Glob Health Med. 2022.
(2022/4/13)

東京のCOVID-19の軽症者宿泊療養施設開設のための実装に関する報告

COVID-19患者の増加で医療施設に負担がかかったため、東京都は既存のホテルを使って軽症や無症状のCOVID-19患者のための施設を開設することにした。同様の施設は他の国でも見られ、ホテル様から病院様のものまで様々である。本報告では、この東京都が開設する施設における、患者と職員の安全を担保するための実装と実装戦略に焦点を当てた。この施設にはケア、隔離、緩衝の3つの機能があり、実装戦略としてERIC(変化を実装するための専門家による推奨)で示されたいくつかの戦略を用いて、通常ホテルに対し少ない投入で上記の機能を確立した。この経験は、低中所得国のような資源の限られた状況でも利用可能と思われる。

AkashiH

Akashi H, Kodoi H, Noda S, Tamura T, Baba H, Chinda E, Thandar MM, Naito K, Watanabe Y, Suzuki Y, Narita T, Shimazu T.
Reporting on the implementation to set up a "care and isolation facility" for mild COVID-19 cases in Tokyo.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01022
Glob Health Med. 2022.
(2022/4/9)

高齢者に対する日本のCOVID-19ワクチン優先接種政策の流行状況に対する影響

日本政府は2021年にCOVID-19パンデミックに対して、メッセンジャーRNAワクチンを主体とした大規模なワクチン接種政策を実施した。このワクチン接種においては医療従事者の次に高齢者を対象に、2021年4月から約4か月での優先接種が実施された。本論文では日本のCOVID-19に対する高齢者ワクチン優先接種政策がパンデミックにどのような影響を与えたかに注目した。同年8月の第5波極期では全体の感染者数の増加にも関わらず、高齢者の感染者や重症化の割合、介護施設クラスターの著しい減少を認めた。高齢者に対する優先的なワクチン接種は、日本の第5波における高齢者のCOVID-19感染数抑制、及び重症化予防に有効であったと考えられる。

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Nomoto H, Hayakawa K, Ohmagari N.
Impact of prioritized vaccinations for the elderly on the COVID-19 pandemic in Japan.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01015
Glob Health Med. 2022.
(2022/4/9)

日本におけるCOVID-19パンデミック等の緊急時の薬事承認制度の設立と国産ワクチン開発への課題

日本には米国の緊急使用許可のような制度がないため、特例承認された新型コロナウイルスワクチンの実用化が遅れたとの議論がある。これに対し、現在、薬機法を改正し、他に代替手段がないこと、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病の蔓延を防止するため緊急に必要とされる医薬品であること等を条件に、有効性が推定された時点で、期限を限定し緊急承認を行う制度の設立が議論されている。一方で、この制度は、新型コロナワクチンの開発に適応が困難であること、有効性の推定を慎重に行う必要があること等の課題も残る。加えて、ワクチンの開発及び生産体制強化の戦略では、財源を安定的に確保する必要性が指摘されている。

Ujiie M.
Establishment of an emergency regulatory approval system in Japan in response to the COVID-19 pandemic and challenges in developing domestically produced vaccines.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01023
Glob Health Med. 2022.
(2022/4/9)

病院薬剤師によるSARS-CoV-2治療薬およびワクチンの適正使用の推進と薬剤関連有害事象報告体制の構築

新たに開発されるCOVID-19の治療薬は、各国において迅速に承認されている。これらの新薬は、限られた症例での検証で承認されており、実臨床では、臨床試験で検知することのできなかった未知あるいは重篤な有害事象が出現する可能性がある。そのため、これらの新薬と因果関係が否定できない有害事象が発生した際には、迅速に規制当局へ事例の詳細を報告することが重要である。これまで我々は、医師と薬剤師が緊密に連携し、COVID-19に関連する薬剤と因果関係が否定できない薬物有害反応を生じた事例を4件報告した。本稿では、これらの新薬を院内で使用する際に薬剤師が行っている安全対策、および有害事象が発生した際の規制当局への報告体制を紹介する。

SetKFigure1.png

Seto K, Ohashi Y, Masuda J, Terakado H.
Promotion of proper use of anti-SARS-CoV-2 drugs and SARS-CoV-2 vaccines by hospital pharmacists and establishment of an adverse drug reaction reporting system.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01024
Glob Health Med. 2022.
(2022/4/9)

NCGM職員におけるCOVID-19流行下での慢性疾患と抑うつ症状との関連

2020年10~12月に実施したNCGM職員抗体調査の質問票データに基づき、COVID-19流行下における慢性疾患の有無と抑うつ症状との関連を調べた。COVID-19重症化リスクのある慢性疾患は、糖尿病、高血圧、心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、脳血管障害、がん等と定義した。解析の結果、慢性疾患がある人の群の抑うつ症状のオッズは慢性疾患がない人の群と比較して有意に高かった(オッズ比 1.49、95%信頼区間 1.10–2.02)。慢性疾患の有無と業務上のコロナ感染リスクを組み合わせて分析したところ、慢性疾患があり、感染リスクの高い業務に携わった医療従事者において、より高い抑うつ症状のオッズが認められた(オッズ比 1.81、95%信頼区間 1.04–3.16)。本研究において、COVID-19重症化をきたす慢性疾患を抱える医療従事者、特にその中でコロナ感染リスクの高い業務に従事している人に対するメンタルヘルスケアの重要性が示唆された。

Fukunaga A, Inoue Y, Yamamoto S, Miki T, Hoang DV, Manandhar Shrestha R, Ishiwari H, Ishii M, Miyo K, Konishi M, Ohmagari N, Mizoue T.
Association between chronic physical conditions and depressive symptoms among hospital workers in a national medical institution designated for COVID-19 in Japan.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0266260
PLoS One. 2022;17(4):e0266260.
(2022/4/7)

日本における新型コロナウイルス感染症流行後の出生性比低下に関する予備的検討

女児出生100に対する男児出生数のことを出生性比(secondary sex ratio)という。出生性比は多くの人口集団で105~106を取ることが知られているが、戦争やテロ、自然災害などのストレス環境下に人口集団がおかれた場合に、その値が低下することが報告されている。本研究は、日本における新型コロナウイルス感染症の流行が出生性比の低下と関連するかどうかについて検討したものである。具体的には新型コロナウイルス流行前の85か月(2013年1月~2020年1月)の出生性比の値をもとに、流行後の15か月間(2020年2月~2021年4月)の出生性比の値を予測し、実際に観測された値と比較した。出生性比は人口動態統計の月別の男児・女児出生数を用いて算出し、予測には自己回帰移動平均モデル(ARMAモデル)を使用した。解析の結果、新型コロナウイルス感染症の感染の流行が始まった9~10か月後(妊娠期間に相当)にあたる2020年12月に出生性比が102.81にまで低下し、95%予測区間(103.12–106.33)の下限を下回っていたことが明らかになった。さらに特定警戒都道府県(13県)とそれ以外の34県に層化して解析した場合、特定警戒都道府県においてのみ同月の出生性比の有意な低下が認められた。2021年1月から4月には出生性比の低下は認められなかったものの、引き続き出生性比の変動について注視していく必要がある。

Inoue Y, Mizoue T.
A preliminary analysis of the secondary sex ratio decline after the COVID-19 pandemic in Japan.
Am J Hum Biol. 2022:eajhb.
https://doi.org/10.1002/ajhb.23750
(2022/4/6)

COVID-19後遺症:日本の現状とその分子的背景に関する知見

COVID-19回復後も持続する不定愁訴が、「Long COVID(コロナ後遺症)」として社会的にも問題となっている。我が国の調査でも、欧米と同じ様に、疲労、呼吸困難、脱毛、無味・無臭症などの症状が高頻度に認められた。コロナ後遺症の発症機序は不明で、感染による臓器障害、自己免疫反応、長期に亘る炎症反応や精神障害など、様々な要因の関与が提唱されている。また、中枢神経系組織を含む複数の臓器でのウイルス持続感染や、その結果産生されるウイルス蛋白質による細胞毒性の関与の可能性も指摘されている。本総説では、我が国におけるコロナ後遺症の現状を概観するとともに、その分子的背景について紹介した。

MatsunagaAFigure1.png

Matsunaga A, Tsuzuki S, Morioka S, Ohmagari N, Ishizaka Y.
Long COVID: current status in Japan and knowledge about its molecular background.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01013
Glob Health Med. 2022.
(2022/4/6)

2022年3月掲載

COVID-19パンデミック中のがん診断の変化:FDG-PET/CT検査から推定した傾向

本研究では、がんの病期診断、転移・再発診断を目的としたFDG-PET/CT検査の変化からCOVID-19パンデミック期間のがん診断の傾向を推定した。COVID-19パンデミック後の悪性リンパ腫、肺癌、食道癌、大腸癌を対象としたFDG-PET/CT検査の診断結果を、パンデミック前の約2年間の結果と比較した。FDG-PET/CT検査の受診者数はCOVID-19の流行時に減少し、パンデミック期前半では全体的な受診者数が著しく減少したが、パンデミック期後半には受診者数に回復傾向がみられた。COVID-19パンデミック後には、臨床病期IV期の悪性リンパ腫、II期の食道癌の割合が増加し、悪性リンパ腫、肺癌、食道癌においてパンデミック期前半と比較して後半でより臨床病期が進行した傾向がみられた。

MinamimotoR

Minamimoto R, Hotta M, Okafuji T, Tsutui S, Tsukuda M, Nakayama H, Shida Y, Tajima T.
Change in cancer diagnosis during the COVID-19 pandemic: Trends estimated from FDG-PET/CT.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01016
Glob Health Med. 2022.
(2022/3/31)

COVID-19による臨時休校中における児童精神科通院児童の臨床的特徴と養育困難に関する症例対象研究

本研究は、COVID-19による臨時休校中に児童精神科を初診した患者を対象に、その臨床的特徴と養育困難に関する症例対象研究である。参加者は、国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科を2020年3月から5月までの閉鎖期間に来院した患者92名と、2017年4月から2020年2月までに受診した児童のうち性・年齢をマッチさせた92名の患者を対象とした。本研究の結果から、小学生の場合は学校ある時間帯の親の養育困難度が、中学生ではADHDの症状がCOVID-19感染拡大前よりも高い結果であった。COVID-19による学校の閉鎖は、学校のある時間帯、すなわち急行で自宅にいる時間帯に保護者は養育上の困難感じており、中学生では、多動・衝動性が高まる可能性がわかった。

SasakiYFigure1.png

Sasaki Y, Sasaki S, Sunakawa H, Toguchi Y, Tanese S, Saito K, Shinohara R, Kurokouchi T, Sugimoto K, Itagaki K, Yoshida Y, Namekata S, Takahashi M, Harada I, Hakosima Y, Inazaki K, Yoshimura Y, Mizumoto Y, Okada T, Usam M.
Evaluating the daily life of child and adolescent psychiatric outpatients during temporary school closure over COVID-19 pandemic: A singlecenter case-control study in Japan.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01001
Glob Health Med. 2022.
(2022/3/31)

重症COVID-19患者における血液浄化療法について

重症COVID-19患者では、内皮細胞障害、血栓性炎症の亢進が起こり、多臓器不全が進行する。そのような患者における急性腎障害(AKI)の主たる原因として、ウイルスの腎臓への直接的な影響、血行動態の変化、あるいはcross talk(遠隔臓器障害)などが提唱されているが、いまだに明確にはなっていない。血液浄化療法は、中等度から重度のCOVID-19患者の臓器障害を予防または軽減するために世界中で試みられている。ワクチンや抗体療法が普及しても、一定の割合で中等症から重症の患者が発症することは予想される。本総説では、重症COVID-19に対する、安全かつ適切な血液浄化療法について、知られているところを概説した。

KatagiriDFigure1.png

Katagiri D.
For safe and adequate blood purification therapy in severe COVID-19 - what we have learned so far.
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01004
Glob Health Med. 2022.
(2022/3/31)

COVID-19パンデミックにおける心血管系疾患への影響:日本での診療のためのフォーカスレビュー

過去の報告により、COVID-19パンデミックが心血管系疾患に及ぼす直接的・副次的な影響は大きいことが分かっている。しかし、大多数の研究は海外のもので、日本独自の調査は少ない。海外の研究で得られた知見を日本の臨床現場にそのまま応用できるかを検証することは、本邦でのCOVID-19診療を改善する上で重要である。本レビューでは、日本人患者や日本の臨床現場においてもCOVID-19と心血管系との間に密接に関係していることを確認した上で、本邦での診療で留意すべき点を示した。また、日本では、医療体制や疫学変化といった循環器診療への二次的影響は比較的小さかったことを明らかにした。

TomidokoroDFigure1.png

Tomidokoro D, Hiroi Y.
Cardiovascular considerations during the COVID-19 pandemic: A focused review for practice in Japan. 
https://doi.org/10.35772/ghm.2022.01006
Glob Health Med. 2022.
(2022/3/31)

日本におけるCOVID-19ワクチンの安全性監視体制

COVID-19ワクチンの実臨床における安全性監視は極めて重要であり、世界的に各種取り組みが行われている。日本では、厚生労働省の審議会が数週間ごとに開催され、COVID-19ワクチン接種後の有害事象について、PMDAに報告された副反応報告の個別評価や、NDBを用いた背景発現率との比較評価を行っている。2021年の審議会では主にアナフィラキシー、死亡、心筋炎・心膜炎、血小板減少症候群を伴う血栓症について検討され、心筋炎/心膜炎については添付文書の改訂等の措置が講じられた。現状として日本のワクチン安全性監視体制は上手く機能していると考えられが、日本の行政は更なる体制強化に継続的に取り組んでいく。

Yamaguchi T, Iwagami M, Ishiguro C, Fujii D, Yamamoto N, Narisawa M, Tsuboi T, Umeda H, Kinoshita N, Iguchi T, Noda T, Tsuruta S, Oka A, Morio T, Nakai K, Hayashi S.
Safety monitoring of COVID-19 vaccines in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.lanwpc.2022.100442
Lancet Reg Health West Pac. 2022;23:100442.
(2022/3/29)

SARS-CoV-2ウイルスの各種変異株に対して中和活性を示すヒト単クローン抗体の単離

SARS-CoV-2ウイルスは次々と変異するため、様々な変異株に対して幅広く中和活性を示す抗体の導出が望まれる。本研究では、イーベック社との共同研究成果として、COVID-19感染回復者の末梢血細胞からEV053273とEV053286を単離した。 前者は野生株、アルファ株およびデルタ株に対して強力に抗ウイルス活性を示す一方、後者はオミクロン株(BA.1/BA.2)を含む解析したすべての変異株に中和活性を示した。また、EV053286は、Regeneron社抗体カクテルの逃避変異株にも作用し、加えて、感染マウスモデルでも感染抑制効果を示したことから、有望な新規中和抗体候補として報告した。

Ueno M, Iwata-Yoshikawa N, Matsunaga A, Okamura T, Saito S, Ashida S, Yoshida I, Nagashima M, Asakura H, Yaoita Y, Suzuki J, Sadamasu K, Yoshimura K, Kutsuna S, Shiwa-Sudo N, Nagata N, Suzuki T, Suzuki A, Okamoto M, Kimura M, Ohmagari N, Miura R, Ishizaka Y.
Isolation of human monoclonal antibodies with neutralizing activity to a broad spectrum of SARS-CoV-2 viruses including the Omicron variants.
https://doi.org/10.1016/j.antiviral.2022.105297
Antiviral Res. 2022;201:105297.
(2022/3/24)

COVID-19 mRNAワクチン関連の間質性肺疾患

BNT162b2 (Pfizer/BioNTech)は、COVID-19ワクチンとして有効で安全性が高い。一方で副反応も報告されている。我々はCOVID-19 mRNAワクチンに関連した間質性肺疾患の2例を報告した。67歳男性と間質性肺疾患を基礎疾患にもつ70歳男性が、BNT162b2を接種後に発熱と呼吸器症状を自覚し、当院を受診した。1例は気管支肺胞洗浄および経気管支鏡下クライオバイオプシーを施行した。2例とも副腎皮質ステロイドの投与が奏効し、外来通院が可能となった。COVID-19 mRNAワクチン接種後に全身症状・呼吸器症状が出現した場合、ワクチンに関連した肺傷害の可能性を考慮する必要がある。

So C, Izumi S, Ishida A, Hirakawa R, Kusaba Y, Hashimoto M, Ishii S, Miyazaki H, Iikura M, Hojo M.
COVID-19 mRNA vaccine-related interstitial lung disease: Two case reports and literature review.
https://doi.org/10.1002/rcr2.938
Respirol Case Rep. 2022;10(4):e0938.
(2022/3/23)

日本のCOVID-19早期非重症患者におけるファビピラビルの効果:COVIREGI-JPによる大規模観察研究

ファビピラビルのCOVID-19に対する効果については複数のランダム化試験で検証されているが、軽症・早期の患者に対する検証は不十分であった。レジストリのデータを用いて、3ステップ法という手法で交絡因子を調節した上で後ろ向きに比較したところ、入院中の酸素投与(投与群のハザード比0.825、95%信頼区間0.657-1.04)・侵襲的機械換気または体外式膜型人口肺の導入(ハザード比1.02、信頼区間0.649-1.60)、30日以内の死亡(ハザード比0.869、信頼区間0.519-1.46)、いずれもファビピラビル投与群と非投与群で有意な差は見られなかった。ファビピラビルはCOVID-19治療において必須の薬剤ではないことが示唆された。

Tsuzuki S, Hayakawa K, Doi Y, Shinozaki T, Uemura Y, Matsunaga N, Terada M, Suzuki S, Asai Y, Yamada G, Saito S, Shibata T, Kondo M, Izumi K, Hojo M, Mizoue T, Yokota K, Nakamura-Uchiyama F, Saito F, Sugiura W, Ohmagari N.
Effectiveness of Favipiravir on Nonsevere, Early-Stage COVID-19 in Japan: A Large Observational Study Using the COVID-19 Registry Japan.
https://doi.org/10.1007/s40121-022-00617-9
Infect Dis Ther. 2022.
(2022/3/21)

抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)使用中の難治性COVID-19にカシリビマブ/イムデビマブを使用した症例

抗CD20モノクローナル抗体導入中など液性免疫不全がある患者におけるCOVID-19は再発、難治例が多く、ワクチンの予防効果も乏しいことが知られている。悪性リンパ腫の再発予防目的にリツキシマブが定期投与されていた50歳代女性に発症し、前医より治療後の再発を繰り返したCOVID-19に対して、我々はデキサメサゾン、レムデシビル、カシリビマブ/イムデビマブの併用療法を行い、治癒に至った。治療後の再発は認めず、SARS-CoV-2に対する中和活性も1か月以上の間、高値を維持していた。カシリビマブ/イムデビマブのような中和抗体製剤はこのような液性免疫不全のあるCOVID-19患者に対して治療、予防ともに有効な可能性がある。

Miyazato Y, Yamamoto K, Nakaya Y, Morioka S, Takeuchi JS, Takamatsu Y, Maeda K, Kimura M, Sugiura W, Mitsuya H, Yano M, Ohmagari N.
Successful use of casirivimab/imdevimab anti-spike monoclonal antibodies to enhance neutralizing antibodies in a woman on anti-CD20 treatment with refractory COVID-19.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.03.002
J Infect Chemother. 2022.
(2022/3/20)

NCGM職員におけるBNT162b2ワクチン接種後の副反応と抗体価の関連

ワクチン接種後の副反応は免疫反応(抗体産生)を反映していると考えられているが、COVID-19ワクチンに関する疫学的根拠は乏しい。本研究は、NCGM職員における縦断抗体調査に参加した者のうち、健康観察データを有する88名を対象に、BNT162b2ワクチン2回目接種後の副反応とSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体価の関連を調べた。副反応の有無にかかわらず、すべての接種者が高い抗体価を示した。副反応の内容と抗体価との関連を統計学的に調べたところ、38℃以上の発熱を経験した者は発熱なしまたは37.5℃未満であった者と比べて接種後の抗体価が有意に高かった。この関連は、2回目接種7日後、39日後、2ヶ月後でも同様であった。また、解熱剤を予防的に使用した者を除いても関連はほとんど変わらなかった。本研究より、BNT162b2ワクチン2回接種後、副反応の有無に関わらず高い抗体価が得られるが、接種後に発熱を経験した者はより多くの抗体が産生されることが示唆された。

Yamamoto S, Fukunaga A, Tanaka A, Takeuchi JS, Inoue Y, Kimura M, Maeda K, Ueda G, Mizoue T, Ujiie M, Sugiura W, Ohmagari N.
Association between reactogenicity and SARS-CoV-2 antibodies after the second dose of the BNT162b2 COVID-19 vaccine.
https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2022.02.052
Vaccine. 2022;40(13):1924-1927.
(2022/3/18)

COVID-19再感染既往患者における、mRNA-1273ワクチン2回接種後の抗体価の推移

COVID-19再感染の事例は世界中で報告されているが、再感染者の抗体価とワクチン接種による感染防御について述べた報告はほとんどない。症例は58歳男性で過去にCOVID-19の再感染を起こし、初感染から約1年3ヶ月後にmRNA-1273ワクチン接種を開始した。再感染から約1年の経過で抗スパイクIgG抗体、中和活性のいずれも低下したが、ワクチン1回接種後に両者とも急激に増加し、2回目の接種後にも比較的高値が保たれていた。本報告によりCOVID-19再感染者においては1回のワクチン接種で十分な免疫応答が得られる可能性が示唆され、またCOVID-19再感染者に対してワクチン接種を行った場合の免疫応答に関する知見を得た。

Inada M, Ishikane M, Terada M, Matsunaga A, Maeda K, Iwamoto N, Ujiie M, Kutsuna S, Morioka S, Ishizaka Y, Mitsuya H, Ohmagari N.
Antibody responses after two doses of SARS-CoV-2 mRNA-1273 vaccine in an individual with history of COVID-19 re-infection.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2022.03.017
Int J Infect Dis. 2022.
(2022/3/16)

ワクチン接種が普及する以前の日本におけるCOVID-19入院患者の第1~3波の臨床的特徴

COVID-19 REGISTRY JAPANのデータを用い553の医療施設からのCOVID-19入院患者33,554人を対象とした検討を行った。年齢層(0~17歳 [3%]、18~39歳 [22%]、40~64歳 [34%]、65歳以上 [41%])および流行波(第1波 [16%]、第2波 [35%]、第3波[49%])別に分析した。年齢中央値・併存疾患の頻度は、第2波で最も低く第3波で最も高かった。全体の致死率は5%であり、年齢層別では65歳以上で11.4%と最も高く、流行波別では第1波(7.3%)で最も高く、第2波(2.8%)で最も低かった。年齢と併存疾患を調整した後、死亡リスクは第1波で最も高かった。

Matsunaga N, Hayakawa K, Asai Y, Tsuzuki S, Terada M, Suzuki S, Ohtsu H, Kitajima K, Toyoda A, Suzuki K, Suzuki M, Saito S, Uemura Y, Shibata T, Kondo M, Nakamura-Uchiyama F, Yokota K, Saito F, Izumi K, Sugiura W, Ohmagari N.
Clinical characteristics of the first three waves of hospitalised patients with COVID-19 in Japan prior to the widespread use of vaccination: a nationwide observational study.
https://doi.org/10.1016/j.lanwpc.2022.100421
Lancet Reg Health West Pac. 2022;22:100421.
(2022/3/16)

ワクチン接種者におけるオミクロン株によるCOVID-19の感染性

日本で2021年11月29日から12月18日までに、whole genome sequencingでオミクロン株と確定診断されたワクチン接種者の患者18例(有症状15例、無症状3例)を対象に上気道検体を用いて、SARS-CoV-2 RNA定量検査と、ウイルス分離検査を行った。採取した101検体(鼻咽頭85検体、唾液16検体)を分析した結果、10例(有症者8例、無症状2例)から10例(9.9%)に感染性ウイルスを検出した。感染性ウイルスは診断後2~5日目に採取した検体で最も高い割合(41.7%)で検出され、診断後10日目以降には検出されなかった。ワクチン接種したオミクロン株感染者は、発症または診断後6~9日間は症状が消失しても上気道から感染性ウイルスを排出したが、10日目以降は排出されなかった。

Takahashi K, Ishikane M, Ujiie M, Iwamoto N, Okumura N, Sato T, Nagashima M, Moriya A, Suzuki M, Hojo M, Kanno T, Saito S, Miyamoto S, Ainai A, Tobiume M, Arashiro T, Fujimoto T, Saito T, Yamato M, Suzuki T, Ohmagari N.
Duration of Infectious Virus Shedding by SARS-CoV-2 Omicron Variant-Infected Vaccinees. 
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/28/5/22-0197_article
Emerg Infect Dis. 2022;28(5):998-1001.
(2022/3/15)

COVID-19に対するIL17遺伝子の関連と唾液中のABO血液型抗原の重要性

本研究では503人の日本人COVID-19患者を対象としたゲノムワイド関連解析を実施し、国際メタ解析(COVID-19 Host Genetics Initiative)で同定されたホスト因子の関連が日本人で再現されるか検討するとともに、新規のホスト因子の同定を目指して国際メタ解析と日本人ゲノム解析の統合解析を実施した。統合解析の結果、FOXP4-AS1、ABO、IFNAR2は日本人においてもCOVID-19発症との関連が再現されることが明らかとなった。さらに、FUT2遺伝子とABO遺伝子を組み合わせた関連解析の結果から、口腔内のAB抗原の有無がCOVID-19の発症に関わる可能性が示唆された。COVID-19の重症患者と軽症患者を対象とした統合解析の結果、IL17A/IL17F遺伝子がCOVID-19の重症化に有意な関連を示すことを初めて明らかにした。

Nishida N, Sugiyama M, Kawai Y, Naka I, Iwamoto N, Suzuki T, Suzuki M, Miyazato Y, Suzuki S, Izumi S, Hojo M, Tsuchiura T, Ishikawa M, Ohashi J, Ohmagari N, Tokunaga K, Mizokami M.
Genetic association of IL17 and the importance of ABO blood group antigens in saliva to COVID-19. 
https://doi.org/10.1038/s41598-022-07856-3
Sci Rep. 2022;12(1):3854. 
(2022/3/9)

COVID-19ワクチン(BNT162b2)接種数日後の下腿筋膜炎の一例

BNT161b2 mRNS COVID-19ワクチン2回目接種の6日後に両下肢筋膜炎を発症した30代男性の症例を経験した。下腿MRIではT2で筋膜に限局した高信号を呈していた。病変がワクチン接種部位から離れた下腿であることや、発症が接種直後でないことなどが特徴的と考えた。筋膜生検は未実施だが、接種数日後に筋膜炎と来した先行報告があり、他の筋膜炎を来す疾患の典型像とは異なることからワクチンとの関連性を強く疑った。ワクチンの安全性や副反応のさらなる理解に有用であると考え、今回報告した。

Ide S, Kurozumi A, Takeshige A, Shimomura A, Watanabe R, Inagaki T.
Fasciitis of the lower leg after COVID-19 vaccination.
https://doi.org/10.1016/j.idcr.2022.e01475
IDCases. 2022;28:e01475.
(2022/3/5)

デルタ株によるPandemicにおける感染症ICUに入室した重症COVID-19の治療成績

本検討では、術後管理に使用しているHCUに感染対策を施したICUとして運用した治療成績を後方視的に検討した。2021年8月5日から10月6日までの期間に23例が入室した。全例ワクチン未接種、23例中9例(39%)が死亡した。年齢中央値は 53 歳、BMIは30.3、入室時P/F ratioは96であった。挿管群13例(57%)は肥満(p=0.05)とSOFA score (p<0.01)が高かった。生存率も低く(p=0.05)、P/F ratioが低いこと(p=0.03)が予後因子であった。治療成績向上のため新規治療レジメンの確立と感染拡大の防止は必須である。

SekiharaKFigure1.png

Sekihara K, Shibasaki T, Okamoto T, Matsumoto C, Ito K, Fujimoto K, Kato F, Matsuda W, Kobayashi K, Sasaki R, Uemura T, Kimura A, Sugiyama H, Kokudo N.
Poor prognosis of patients with severe COVID-19 admitted to an infectious disease intensive care unit during the pandemic caused by the Delta variant in Japan.
https://doi.org/10.35772/ghm.2021.01121
Glob Health Med. 2022.
(2022/3/5)

COVID-19肺炎に対するPMX-DHPの施行タイミングについて

COVID-19の重症化には過剰なサイトカインの産生が関与している。ポリミキシンB固定化繊維カラムを用いた直接血液灌流法(PMX-DHP)は、エンドトキシンや様々な内因性物質を吸着するため、敗血症のみならず、間質生肺炎などの肺疾患にも用いられてきた。我々は以前,酸素吸入を必要とするCOVID-19患者(N=12)に対するPMX-DHPの施行経験を報告(Katagiri et al, J Clin Apher 2021)した。COVID-19肺炎に対するPMX-DHP治療を検討すべきタイミングとして、我々の見解では酸素投与が必要となった中等症Ⅱの段階を提案する。現在、COVID-19に対するPMX-DHPの効果および安全性を評価する、多施設共同前向き試験を実施中であり、今後結果を報告したいと考えている。

Katagiri D, Izumi S, Takano H. 
When should polymyxin B-immobilized polystyrene column be introduced to improve COVID-19 prognosis? 
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1744-9987.13825
Ther Apher Dial. 2022.
(2022/3/5)

2022年2月掲載

日本の三次病院でのCOVID-19入院患者における他の病原体検出の評価

2020年1月-9月までNCGMに入院したCOVID-19患者247名の入院時の他病原体検出状況について観察研究を実施した。インフルエンザを始めとする迅速検査は施行数も限られていたが、すべて陰性の結果であった。また、フィルムアレイ呼吸器感染症パネルは18例に施行されたがすべて陰性であった。細菌の共検出は患者全体の約6%と低く、諸外国の先行研究における、COVID-19入院患者での共検出頻度は低いとの報告と一致する結果であった。しかし、本研究でのサンプル数は限られており、共感染と共検出の区別、病原体の同定方法などの違いから、他研究との結果の比較には慎重な検討が必要である。

Suzuki M, Hayakawa K, Asai Y, Matsunaga N, Terada M, Ohtsu H, Toyoda A, Takasaki J, Hojo M, Yanagawa Y, Saito S, Yamamoto K, Ide S, Akiyama Y, Suzuki T, Moriya A, Mezaki K, Ohmagari N.
Evaluation of the detection of other pathogens in hospitalized patients with COVID-19 at a tertiary hospital in Japan.
https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2021.232
Jpn J Infect Dis. 2022.
(2022/2/28)

NCGM職員における肥満度とCOVID-19ワクチン接種後のSARS-CoV-2 Spike IgG抗体価の関連 ―性差による検討―

肥満はワクチン接種後の抗体産生を妨げることが懸念されている。肥満度とCOVID-19ワクチン接種後の抗体価に関する疫学的知見は少なく、結果も一貫していない。体脂肪分布は男女差が大きく、免疫機能への影響が異なる可能性があるが、性差に着目した研究はなかった。本研究では、2021年6月のNCGM職員抗体調査に参加した者のうち、BNT162b2ワクチンを2回接種した2435名の職員を対象に、肥満度(BMI)とCOVID-19ワクチン接種後の抗体価の関連を男女別に検討した。ワクチン接種後の抗体価は、男性では肥満度の増大とともに直線的に低下していたが、女性では肥満度との関連を認めなかった。男性では、内臓肥満に伴うアディポサイトカインの産生異常が慢性炎症や免疫老化を誘発し、抗体産生を妨げた可能性がある。女性で関連を認めなかった一因として、性ホルモンの影響により、肥満女性は免疫活性化に寄与する褐色脂肪組織やアディポネクチンが肥満男性よりも多いことが関係していると考えられる。本研究の結果から、肥満男性におけるワクチンの長期効果を注意深くモニタリングする必要性が示唆された。

Yamamoto S, Mizoue T, Tanaka A, Oshiro Y, Inamura N, Konishi M, Ozeki M, Miyo K, Sugiura W, Sugiyama H, Ohmagari N.
Sex–associated differences between body mass index and SARS-CoV-2 antibody titers following the BNT162b2 vaccine.
https://doi.org/10.1002/oby.23417
Obesity (Silver Spring). 2022
(2022/2/28)

COVID-19医療製品(ワクチン、治療薬、体外診断薬用医薬品)に関するWHO緊急使用リスト分析

本研究は、WHOが新型コロナウイルス感染症への対策に対する緊急使用リスト(Emergency Use Listing:EUL)に着目し分析した。緊急使用リストとは、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態において、その時点で得られている臨床データを基に、ワクチン、治療薬、体外診断用医薬品に関して安全性や有効性、品質を審査し、早期に緊急使用するための手続きのことである。この緊急使用リストにどの国の製品が掲載されているのかを調べた。日本製品は日本で製造されているアストラゼネカ社が開発したワクチンのみがEUL掲載されていた。緊急時に日本の医療製品が国際的に活用されるために、普段からの医療製品の国際公共調達を見据えた取り組みの重要性について論じている。

Wakabayashi M, Ichimura Y, Shimizu E, Nishioka T, Kono Y, Doi M, Egami Y, Kadowaki T, Iso H, Fujita N.
Global extension of Japanese medical products related to COVID-19: a survey of WHO Emergency Use Listing.
https://doi.org/10.35772/ghmo.2021.01032
GHM open. 2022.
(2022/2/26)

日本における2020年COVID-19緊急事態宣言下における切迫流産、切迫早産、早産について

2019年10月から2020年10月までに出産した女性を対象としたインターネット調査を実施し、切迫流産、切迫早産、早産の状況について尋ねた。その結果、切迫流産、切迫早産、早産のいずれかを経験した女性の割合は、緊急事態宣言前(2019年10月~2020年3月)に出産した女性では28.7%だったのに対し、緊急事態宣言中(2020年4月から5月出産)と解除後(2020年6月から10月出産)に出産した女性ではそれぞれ19.8%、18.2%に低下した。欧州や日本の先行研究でも同様の傾向が報告されており、ロックダウンやステイホームの措置により、早産のリスクである感染症や身体的ストレスが減ったことが影響している可能性があると示唆されている。

Okawa S, Hosokawa Y, Nanishi K, Zaitsu M, Tabuchi T.
Threatened abortion, threatened premature labor, and preterm birth during the first state of emergency for COVID-19 in 2020 in Japan.
https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jog.15203
J Obstet Gynaecol Res. 2022.
(2022/2/25)

日本のCOVID-19軽症入院患者におけるレムデシビルの効果:COVIREGI-JPによる大規模観察研究

レムデシビルのCOVID-19に対する効果については複数のランダム化試験で検証されているが、軽症・早期の患者に対する検証は不十分であった。レジストリのデータを用いて、3ステップ法という手法で交絡因子を調節した上で後ろ向きに比較したところ、入院中に酸素投与に至るハザード比はレムデシビル投与群で有意に低かった(ハザード比0.850、95%信頼区間0.798-0.906、p値<0.001)。侵襲的機械換気または体外式膜型人口肺の導入、30日以内の死亡については投与群と非投与群で有意な差は見られなかった(ハザード比それぞれ0.983、1.04、95%信頼区間それぞれ0.906-1.07、0.980-1.09)。軽症・早期のCOVID-19患者に対し、レムデシビルは入院中の酸素需要のリスクを軽減することが示唆された。

Tsuzuki S, Hayakawa K, Uemura Y, Shinozaki T, Matsunaga N, Terada M, Suzuki S, Asai Y, Kitajima K, Saito S, Yamada G, Shibata T, Kondo M, Izumi K, Hojo M, Mizoue T, Yokota K, Nakamura-Uchiyama F, Saito F, Sugiura W, Ohmagari N.
Efficacy of remdesivir in hospitalized nonsevere COVID-19 patients in Japan: A large observational study using the COVID-19 Registry Japan.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2022.02.039
Int J Infect Dis. 2022.
(2022/2/19)

COVID-19 mRNAワクチン接種後にMIS-Aの発症が疑われた症例

BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン初回接種後にMIS-Aと診断した症例を経験した。患者は30歳台男性で、ワクチン接種後に発熱が出現し、その後、胸背部痛、呼吸困難を自覚したため、ワクチン接種5日後に当院を受診した。入院後に全身性炎症反応の上昇に伴って呼吸不全が進行し、非侵襲的陽圧換気療法を導入した。メチルプレドニゾロン、利尿薬静注にて加療を行い、軽快した。患者の入院時のSARS-CoV-2 PCRは陰性で、過去のCOVID-19罹患の自覚はなかったが、SARS-CoV-2抗ヌクレオカプシド抗体、抗スパイク抗体が共に陽性であり、ワクチン接種前にCOVID-19の既往があったことが判明した。COVID-19の既往がある場合、ワクチン接種を契機にMIS-Aを発症しうることがあり、注意が必要である。

Miyazato Y, Yamamoto K, Yamada G, Kubota S, Ishikane M, Sugiyama M, Ueno M, Matsunaga A, Miyoshi-Akiyama T, Ishizaka Y, Ohmagari N.
Multisystem Inflammatory Syndrome in Adult after First Dose of mRNA Vaccine.
https://doi.org/10.3201/eid2804.212585
Emerg Infect Dis. 2022.
(2022/2/11)

COVID-19の診断に対するQIAstat-Dx Respiratory SARS-CoV-2 Panel (QIAstat-SARS-CoV-2)の診断精度の評価

COVID-19の診断には、迅速・簡便・正確な方法が求められている。本研究では、迅速マルチプレックスPCRアッセイであるQIAstat-Dx Respiratory SARS-CoV-2 Panel(QIAstat-SARS-CoV-2)の性能を評価した。NCGMで診断されたCOVID-19患者から採取した鼻咽頭スワブ(NPS)を使用した。治療後にSARS-CoV-2陰性が確認されたNPS検体を陰性検体として使用した。QIAstat-SARS-CoV-2の診断精度を国立感染症研究所推奨のリアルタイムPCR(NIID-RT-PCR)法と比較した。分析した45検体におけるQIAstat-SARS-CoV-2とNIID-RT-PCRの総合一致率は91.0%で、感度84.0%(21/25)、特異度100%(20/20)、陰性的中率83.3%(20/24)、陽性的中率100%(21/21)で、QIAstat-SARS-CoV-2はNIID-RT-PCR法と比較し高い一致率を示した。QIAstat-SARS-CoV-2は、COVID-19の迅速かつ正確な診断が可能であり、適切な治療や感染予防策につながる可能性がある。

Uraki R, Imai M, Ito Ishikane M, Unoki-Kubota H, Moriya A, Kutsuna S, Ando H, Kaburagi Y, Suzuki T, Iwamoto N, Kimura M, Ohmagari N.
Evaluation of the QIAstat-Dx Respiratory SARS-CoV-2 panel, a rapid multiplex PCR method for the diagnosis of COVID-19.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2022.02.004
J Infect Chemother. 2022.
(2022/2/9)

2021年の東京オリンピック・パラリンピック(Tokyo2020)の選手村の濃厚接触者検査エリアにおけるCOVID-19の感染状況

Tokyo2020が2021年7-9月に開催され、選手村の濃厚接触者検査エリアでのCOVID-19検査の結果を報告する。参加する選手、コーチ、付添医療者、パラリンピック競技伴走者等は、自国出国前と空港到着時の検査で陰性を確認後、選手村に入村した。入村者は全員、毎朝、唾液検査を行い、その陽性者は鼻咽頭PCR検査を行い、陽性確定者は選手村外のホテルに隔離され、濃厚接触者はその後、決められた場所内での居住となり、試合前後の他、14日間毎日、鼻咽頭PCR検査を行い、陰性を確認して競技へ参加した。
この結果、Tokyo2020期間中、同検査エリアの検査の合計は3,426件で、陽性者は計15名であった。このように国内では感染拡大があったが、選手村では大きな感染拡大は起きなかった。

Akashi H, Shimada S, Tamura T, Chinda E, Kokudo N.
SARS-CoV-2 Infections in Close Contacts of Positive Cases in the Olympic and Paralympic Village at the 2021 Tokyo Olympic and Paralympic Games.
https://doi.org/10.1001/jama.2022.0818
JAMA. 2022.
(2022/2/3)

COVID-19流行下でのNCGM職員における食事バランスと抑うつとの関連

2020年10月および12月にNCGMで実施した職員抗体調査において日頃の食生活やこころの健康について尋ねた。回答が得られた2457名について、食事のバランスと抑うつ症状との関連を統計的に調べた。その結果、主食(ごはん、パン、麺など)、 主菜 (肉、魚、卵、大豆製品などを使ったメインの料理)、副菜 (野菜、きのこ、いも、海藻などを使った小鉢、小皿の料理)を3つそろえて食べることが1日に2回以上あるのが1週間に1日以下の人は、ほぼ毎日食べる人に比べて抑うつ症状が多かった(オッズ比2.21、信頼区間1.54-3.17)(傾向性P値<0.001)。COVID-19流行下での医療関係者のメンタルヘルス維持におけるバランスのとれた食事の重要性が示唆された。

Miki T, Yamamoto S, Fukunaga A, Inoue Y, Ishiwari H, Ishii M, Miyo K, Konishi M, Ohmagari N, Mizoue T.
Association between eating balanced meals and depressive symptoms in Japanese hospital workers during the COVID-19 pandemic.
https://doi.org/10.1002/npr2.12230
Neuropsychopharmacol Rep. 2022.
(2022/2/2)

日本に在住する外国人を対象としたCOVID-19情報発信活動の試行錯誤と得られた3つの教訓

国際医療協力局と他3団体が連携する「みんなの外国人ネットワーク(MINNA)」では、日本に在住する外国人を対象に、COVID-19情報の発信活動を行ってきた。 2020年~21年にかけて、クリスマスやベトナム旧正月(テト)をきっかけに、会食時の注意等を呼びかける多言語アニメを作成したが、その普及が進まなかった。複数の苦心を重ねた結果、最終的には大規模Facebookページの管理者とつながったことで、数万人~30万人のアクセスを獲得した。

本論文は、MINNAの活動における試行錯誤から3つの教訓を導き出した。さらに先行研究を踏まえて、今後の情報発信の在り方についての考察を行った。

Kiyohara H, Teshima Y, Hoshino HA, Kanda M, Matsuoka S, Iwamoto A, Fujita M.
Three myths of disseminating COVID-19 information to vulnerable migrants in Japan: lessons learned during the pandemic.
https://doi.org/10.1186/s41182-022-00404-9
Trop Med Health. 2022.
(2022/2/1)

2022年1月掲載

COVID-19患者における無症候性低酸素血症のリスクファクターを調査する後方視的研究

COVIREGI-JPのデータを用いて、COVID-19患者における無症候性低酸素血症のリスクファクターを検証した。 2020年1月1日から2021年3月31日までにCOVIREGI-JPに登録された者の中で入院時に呼吸困難感の訴えがなかった者を抽出し、入院時の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が93%以下の群を無症候性低酸素血症群、94%以上の群をコントロール群に分類した。20歳未満の者、入院時に酸素吸入を行っていた者、意識障害を認めた者を除外した。 無症候性低酸素血症のリスクファクターを調査するため、多変量ロジスティック回帰分析を実施した。その結果、65歳以上、男性、BMI25kg/m2以上、喫煙、COPDを含む慢性肺疾患、糖尿病がCOVID-19患者における無症候性低酸素血症と関連する因子であることが判明した。

Akiyama Y, Morioka S, Asai Y, Sato L, Suzuki S, Saito S, Matsunaga N, Hayakawa K, Ohmagari N.
Risk factors associated with asymptomatic hypoxemia among COVID-19 patients: a retrospective study using the nationwide Japanese registry, COVIREGI-JP.
https://doi.org/10.1016/j.jiph.2022.01.014
J Infect Public Health. 2022.
(2022/1/31)

日本のCOVID-19レジストリに登録された2020年の入院患者における循環器合併症

2020年末時点で19,853名の入院患者のデータを含むCOVID-19 Registry Japanを解析した。心血管合併症の発生率は、心筋炎・心膜炎・心筋症0.098%、心室頻拍・細動0.48%、心筋虚血0.17%、心内膜炎0.062%、深部静脈血栓症0.59%、肺塞栓症0.19%、脳硬塞・出 血0.37%であった。心内膜炎を除くすべての合併症は、院内死亡率の上昇と関連していた。COVID-19の心血管系合併症は、日本では頻度が低いものの、予後不良である。

Hiroi Y, Ohtsu H, Uemura Y, Hayakawa K, Asai Y, Kutsuna S, Terada M, Sugiura W, Ohmagari N.
Cardiovascular Complications of Hospitalized Patients With Coronavirus Disease 2019 in a Japanese Registry in 2020.
https://doi.org/10.1253/circj.CJ-21-0687
Circ J. 2022.
(2022/1/29)

入院時に新たに糖尿病が診断されたCOVID-19患者の臨床的特徴

糖尿病はCOVID-19の重症化リスクであることが知られるが、日本において入院時点で新たに糖尿病と診断される患者の臨床的な特徴は明らかでなかった。この研究では、NCGM病院に入院したCOVID-19患者のうち新たに糖尿病と診断された者のCOVID-19の重症度、入院後の血糖コントロール値や予後などについて検討した。糖尿病患者62名のうち、入院時に新たに糖尿病と診断された患者は19名で約3割を占めた。また、入院時に新たに糖尿病と診断された患者は、糖尿病の既往や治療歴がある患者に比べて、入院中に重症化する割合が高く、入院初期の血糖管理に難渋した。COVID-19の流行下においても、慢性疾患である糖尿病の早期診断と治療は重要であると考えられた。

Uchihara M, Bouchi R, Kodani N, Saito S, Miyazato Y, Umamoto K, Sugimoto H, Kobayashi M, Hikida S, Akiyama Y, Ihana-Sugiyama N, Ohsugi M, Tanabe A, Ueki K, Takasaki J, Hojo M, Kajio H.
Impact of newly diagnosed diabetes on coronavirus disease 2019 severity and hyperglycemia.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jdi.13754
J Diabetes Investig. 2022.
(2022/1/24)

NCGM職員における緑茶飲用と新型コロナウイルス感染症との関連

緑茶飲用はインフルエンザや上気道感染症のリスク低下と関連している。実験研究で緑茶に含まれるエピガロカテキンガレートは新型コロナウイルスの感染を阻害することが報告されおり、本感染症に対する予防効果が期待されている。本研究では、NCGM職員抗体調査に参加した2640名を対象に、緑茶飲用と新型コロナウイルス感染(抗体検査による感染疑い例を含む)との関連を検討した。緑茶を1日4杯以上飲む人は1日1杯未満しか飲まない人に比べて新型コロナウイルス感染のリスクが低かった(オッズ比0.5、95%信頼区間 0.2~1.3)。この関連はPCR検査診断例・抗体検査陽性例に分けても、またPCR検査による確定診断例について感染時期をワクチン接種前後で分けても同様にみられた。しかしいずれの関連も統計学的には有意でなく、緑茶飲用が新型コロナウイルス感染のリスク低下に関連するかは大規模研究での検証が必要である。

Nanri A, Yamamoto S, Konishi M, Ohmagari N, Mizoue T.
Green tea consumption and SARS-CoV-2 infection among staff of a referral hospital in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.nutos.2022.01.002
Clin Nutr Open Sci. 2022.
(2022/1/13)

Comorbidities as Risk Factors for Severe Disease in Hospitalized Elderly COVID-19 Patients by Different Age-Groups in Japan.

高齢はCOVID-19の独立した重症化リスク因子(RF)である。我々は日本における高齢者COVID-19コホートの年齢を層別化し、高齢COVID-19入院患者の臨床疫学的特徴と各年齢層におけるRFを分析した。2020年10月31日までのCOVID-19入院患者の全国レジストリを用いた後方視的コホート研究を行った。ケースは年齢別にpre-old(65~74歳)、old(75~89歳)、super-old(90歳以上)に分類し、各年齢層のRFに関する多変量ロジスティック回帰分析(MLR)を行った。444病院の4,701人の患者のうち、79.3%が少なくとも1つの併存疾患を有していた。高血圧はすべての年齢層で罹患割合が高く、認知症、心血管疾患、脳血管疾患の患者の割合は年齢とともに増加した。人工呼吸器/体外式膜型人工心肺装置の管理を受けた患者の割合は超高齢者で低い傾向がみられた。全体の死亡率は11.5%であり、各年齢層では高齢前:5.3%、高齢者:15.2%、超高齢者:22.4%だった。MLRではRFが各年齢層で異なることが示された。男性はすべての年齢で有意なRFであった。膠原病、中等度から重度の腎障害、透析はより高齢で有意なRFであり、血液悪性腫瘍や転移性腫瘍は若年層のRFとして重要であった。重症化に関連するRFの多くが入院中の死亡と関連していた。

Asai Y, Nomoto H, Hayakawa K, Matsunaga N, Tsuzuki S, Terada M, Ohtsu H, Kitajima K, Suzuki K, Suzuki T, Nakamura K, Morioka S, Saito S, Saito F, Ohmagari N.
Comorbidities as Risk Factors for Severe Disease in Hospitalized Elderly COVID-19 Patients by Different Age-Groups in Japan.
https://doi.org/10.1159/000521000
Gerontology. 2022.
(2022/1/7)

本邦初のOmicron変異株(B.1.1.529系統)による輸入感染2症例の報告

本邦初のオミクロン株輸入感染2症例の報告により、世界保健機関が、懸念されるSARS-CoV-2の変異株として新規にオミクロン株(B.1.1.529)を指定した2日後に日本に上陸したことが明らかになった。報告がなかったナミビア、ペルーからの日本への海外渡航者が診断され、感染のスピードが早いことが明らかとなった。ワクチンの効果を弱めることが知られており本報告の2例もm-RNAワクチンを接種済みであった。新規に懸念される変異株として指定された初期段階において、水際対策に加え、疫学情報を常に更新することと、変異株を効率的に検出するための簡易スクリーニング検査システムの導入が必要であると考えられる。

Maruki T, Iwamoto N, Kanda K, Okumura N, Yamada G, Ishikane M, Ujiie M, Saito M, Fujimoto T, Kageyama T, Saito T, Saito S, Suzuki T, Ohmagari N.
Two cases of breakthrough SARS-CoV-2 infections caused by the Omicron variant (B.1.1.529 lineage) in international travelers to Japan
https://doi.org/10.1093/cid/ciab1072
Clin Infect Dis. 2022.
(2022/1/3)

2021年12月掲載

日本国内における流行初期のオミクロン変異株感染者11例の報告

新型コロナウイルス、オミクロン変異株の流行初期にNCGMに入院した11名の患者について、患者背景、ワクチン接種歴、症状、治療、ウイルスの排出期間などについてまとめた。小児を除いた10名に2回のワクチン接種歴があり、全員が海外からの帰国者だった。3名が無症状で、肺炎または酸素治療が必要な患者はいなかった。治療薬は1名にソトロビマブが投与された。ウイルス排出はRT-PCRのthreshold cycle(Ct)値で測定し、>30となるのに6.0日、>35に10.6日、>40に15.1日、>45に19.7日必要だった。2回のワクチンが接種され症状が軽い場合でもワクチンを接種せずに罹患した人と同じ程度の期間ウイルス排泄が続く可能性があると考えられた。

日本国内における流行初期のオミクロン変異株感染者11例の報告

Okumura N, Tsuzuki S, Saito S, Saito T, Takasago S, Hojo M, Iwamoto N, Ohmagari Norio.
The first eleven cases of SARS-CoV-2 Omicron variant infection in Japan: a focus on viral dynamics
https://doi.org/10.35772/ghm.2021.01124
Glob Health Med. 2021.
(2021/12/29)

NCGM職員におけるブレイクスルー感染とワクチン接種後の中和抗体価:ケース・コントロール研究

SARS-CoV-2変異株によるブレイクスルー感染が増えているが、それがワクチン接種後の免疫原性の低さに起因するかははっきりしない。今回、2021年6月のNCGM職員抗体調査に参加し、かつワクチン接種済みの職員をコホートとして設定し、ブレイクスルー感染に関するケース・コントロール研究を実施した。デルタ株が猛威を振るった第5波(2021/7-9)の間にブレイクスルー感染を経験した職員17名と、背景要因をマッチさせて選んだ非感染職員51名とで、野生株・アルファ株・デルタ株に対するワクチン接種後の中和抗体価を比較した。ワクチン2回目接種からブレイクスルー感染診断までの日数は中央値111日(四分位範囲:98–123)であった。全例が軽症または無症状で、早期に復職していた。ワクチン接種後の中和抗体価はいずれの株も両群で統計学的に有意な差はなかった。一方、感染の有無に関わらず、野生株と比べてアルファ株・デルタ株に対する中和抗体価は著しく低かった。本研究から、ワクチン接種3~4か月後に観察されたデルタ株によるブレイクスルー感染は液性免疫の状態とは関係なく生じていることが示唆された。免疫回避能力が高い変異株の流行期においてはワクチン接種者も感染予防を徹底する必要がある。

Yamamoto S, Maeda K, Matsuda K, Tanaka A, Horii K, Okudera K, Takeuchi JS, Mizoue T, Konishi M, Ozeki M, Sugiyama H, Aoyanagi N, Mitsuya H, Sugiura W, Ohmagari N.
COVID-19 breakthrough infection and post-vaccination neutralizing antibody among healthcare workers in a referral hospital in Tokyo: a case-control matching study.
https://doi.org/10.1093/cid/ciab1048
Clin Infect Dis. 2021.
(2021/12/24)

喫煙状況と新型コロナウイルス感染による重症化リスクについて

COVID-19の罹患、重症化、および死亡の原因を分析した多くの研究がさまざまな国から発表されている。しかし、生活習慣とCOVID-19との関連をみた研究はあまり行われておらず、喫煙のCOVID-19の影響に関して一貫した結果はまだ得られていない。そこで、喫煙状態がCOVID-19の重症度に及ぼす影響を調べるために、日本で入院していたCOVID-19患者のデータの大規模レジストリ(COVIREGI-JP)を用い、本研究を実施した。
20~89歳のCOVID-19入院患者17,666人(男性10,250人、女性7,416人)を対象とした。COVID-19の重症度(0~5)を、入院中に行った最も重い治療(もしくは死亡)で分類した。重症度3/4/5(侵襲的人工呼吸/体外式膜酸素投与/死亡)と、重症度5(死亡)の喫煙状況を、多重ロジスティック回帰を用いて重症度0(酸素投与なし;基準群)と比較した。喫煙状況は、非喫煙者、過去喫煙者、現在喫煙者、不明を4つのグループに分け、性別、年齢、入院時期、併存疾患で調整したオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を求めた。
男性の過去喫煙者では、重症度3/4/5および重症度5(重症度0を基準とした場合)のCOVID-19重症化リスクは有意に増加していた(年齢、入院時期を調整したOR(95%CI)=1.51(1.18-1.93)、1.65(1.22-2.24))。併存疾患で調整すると、ORは弱くなった。女性についても同様の傾向がみられた。現在喫煙者では、男女ともに重症度 3/4/5、重症度 5の有意なリスク増加はみられなかった。
COVID-19の重症度は、喫煙そのものよりも、喫煙によって引き起こされる併存疾患と関連していた。したがって、禁煙は喫煙関連疾患を予防するための重要な要素であり、COVID-19の重症化リスクを低減するための重要な要素であると考えられる。

Matsushita Y, Yokoyama T, Hayakawa K, Matsunaga N, Ohtsu H, Saito S, Terada M, Suzuki S, Morioka S, Kutsuna S, Mizoue T, Hara H, Kimura A, Ohmagari N.
Smoking and severe illness in hospitalized COVID-19 patients in Japan.
https://doi.org/10.1093/ije/dyab254
Int J Epidemiol. 2021.
(2021/12/11)

Foxp3+ CD4+ regulatory T cells control dendritic cells in inducing antigen-specific immunity to emerging SARS-CoV-2 antigens.

新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対する獲得免疫応答の誘導は、感染防御の観点から重要である。今回、我々はマウスモデルを用いて、宿主免疫抑制の要である制御性T細胞を一時的に除去することで、SARS-CoV-2スパイク蛋白質を取り込んだ樹状細胞が成熟して抗原提示能が上昇することを見出した。さらに、アジュバントが無くとも、スパイク蛋白質特異的な抗体産生の増強、インターフェロンγ産生T 細胞の増加が確認され、有効な獲得免疫が誘導できることが明らかとなった。本研究成果は、既存のワクチンとの併用など、制御性T 細胞を利用した新型コロナウイルスなどの新興感染症に対する免疫誘導法開発につながる可能性がある。

Uraki R, Imai M, Ito M, Shime H, Odanaka M, Okuda M, Kawaoka Y, Yamazaki S.
Foxp3+ CD4+ regulatory T cells control dendritic cells in inducing antigen-specific immunity to emerging SARS-CoV-2 antigens.
https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1010085
PLoS Pathog. 2021.
(2021/12/9)

2021年11月掲載

COVID-19陽性の維持透析患者に対してカシリビマブ・イムデビマブを安全に使用し得た一例

維持透析患者ではCOVID-19の重症化リスクが高いことが知られている。本邦でCOVID-19に承認がされているレムデシビルやバリシチニブについては添付文書上、透析患者に使用の制限がある。2021年7月に本邦で承認された中和モノクローナル抗体カクテル製剤(カシリビマブ/イムデビマブ)は、COVID-19患者の増加や医療体制の限界が議論となる中でCOVID-19重症化予防薬として期待されているが、本邦では透析患者への使用に関する報告が僅かであった。今回、本邦のいわゆる第5波で酸素需要のない維持透析中のCOVID-19陽性患者に対して、抗体カクテル療法を安全に使用できたことを英文で初めて報告した。

Terakawa K, Katagiri D, Shimada K, Sato L, Takano H.
Safety of casirivimab/imdevimab administration in a SARS-CoV-2 positive maintenance dialysis patient in Japan.
https://doi.org/10.1007/s13730-021-00671-1
CEN Case Rep. 2022.
(2021/11/27)

第1波の国立国際医療研究センター病院におけるCOVID-19患者に対するステロイドの臨床的効果

本研究では第1波の当院におけるCOVID-19患者のステロイド療法の臨床効果を検討した。2020年2月から4月にかけて入院したCOVID-19患者のカルテを後ろ向きにレビューした。7カテゴリーの順序尺度を用いた患者の臨床経過の改善を主要評価項目とし、患者の特徴、治療法、臨床経過に関するデータを、ステロイド使用群と非使用群の2群間で比較した。ステロイド群は入院中の状態が悪かったにもかかわらず、臨床経過に両群間に統計学的な差はなかった。また解熱までの日数やPCR陰性化までの日数にも両群間で統計的な差はなかった。背景に違いがありステロイドは重症患者の臨床経過を軽症患者と同様にする可能性がある。

Morita C, Suzuki M, Izumi S, Tsukada A, Tsujimoto Y, Sakamoto K, Hashimoto M, Takasaki J, Ohmagari N, Hojo M.
Clinical outcomes of corticosteroids for COVID-19 patients at the National Center for Global Health and Medicine during the first wave of infections.
https://doi.org/10.1016/j.resinv.2021.11.001
Respir Investig. 2021.
(2021/11/26)

SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質を標的とする3つの抗体試薬の感度:診断後の経過期間に関連付けた分析

SARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質を標的とする抗体検査は、一般集団におけるCOVID-19の広がりを調べる血清疫学研究で活用されている。しかしながら、感染者の抗体価は時間経過とともに低下するため、感染既往者を特定することが難しくなる。本研究の目的は、市販検査試薬の感度を、診断後の経過時間に関連づけて明らかにすることである。NCGM職員のうちCOVID-19診断歴のある20名について血清抗体価を3つの試薬で調べた。その結果、過去6カ月以内に診断された症例を陽性と判定する確率(感度)はいずれの試薬も80を超えていたが、診断6カ月を経過すると試薬によりその確率は大きく異なっていた。COVID-19流行が長期化する中、こうした試薬の特性を踏まえて、血清疫学研究を企画し、またそのデータを解釈する必要がある。

Mizoue T, Yamamoto S, Tanaka A, Oshiro Y, Inamura N, Konishi M, Ozeki M, Ohmagari N.
Sensitivity of three antibody assays to SARS-CoV-2 nucleocapsid protein in relation to timing since diagnosis.
https://doi.org/10.35772/ghmo.2021.01030
GHM Open. 2021.
(2021/11/25)

ECMO使用中の重症COVID-19患者におけるレムデシビルの血中濃度と血行動態

レムデシビルはCOVID-19に対して有効性が示されている薬剤であるが、ECMO装着中の患者における血行動態について考察した報告はない。今回我々は2020年3月の流行当初に発生した重症COVID-19でかつECMO装着とレムデシビル投与を行った患者の残血清を用いて血中濃度の測定を行った。レムデシビルは半減期が1時間弱と短く、体内でGS-441524に代謝されることで有効性を示すが、我々の測定結果ではレムデシビルの半減期が約3倍に延長され、レムデシビルとGS-441524の血中濃度はともに低値を示した。ECMO回路への吸着や放出などが主要因として考えられ、ECMOは鎮静薬や麻薬を含め様々な薬剤の血行動態に影響を与えることが知られており、レムデシビルもその一つである可能性を示唆したと考える。

Ide S, Saito S, Akazawa T, Furuya T, Masuda J, Nagashima M, Asai Y, Ogawa T, Yamamoto R, Ishioka H, Kanda K, Okuhama A, Wakimoto Y, Suzuki T, Akiyama Y, Miyazato Y, Nakamura K, Nakamoto T, Nomoto H, Moriyama Y, Ota M, Morioka S, Matsuda W, Uemura T, Kobayashi K, Sasaki R, Katagiri D, Kutsuna S, Hayakawa K, Ohmagari N.
Extracorporeal membrane oxygenation may decrease the plasma concentration of remdesivir in a patient with severe coronavirus disease 2019.
https://doi.org/10.1016/j.idcr.2021.e01343
IDCases. 2021.
(2021/11/16)

2021年10月掲載

COVID-19のデルタ変異株(B.1.617.2)に対する迅速抗原検査キットの感度の比較

COVID-19の診断にはRT-qPCRが広く使用されているが、迅速性や簡便性の面から迅速抗原検査キットは今後のCOVID-19診療や社会経済活動再生の重要な柱となる。多くの抗原検査キットが販売されているが、その感度は比較されていなかった。そこで2021年9月時点で入手可能であった厚生労働省認証品およびネット販売されていた計27種類のキットについて、第5波の主流となっていたデルタ型変異株のストックウイルスを使用して感度を比較した。その結果、これらの抗原検査キットはすべてデルタ株を検出することは可能であったが、その感度はさまざまで100倍程度の差もあることがわかった。ウイルス量が少ない時、抗原検査キットでは陰性の場合もあることに留意が必要である。

Sakai-Tagawa Y, Yamayoshi S, Halfmann PJ, Kawaoka Y.
Comparative Sensitivity of Rapid Antigen Tests for the Delta Variant (B.1.617.2) of SARS-CoV-2.
https://doi.org/10.3390/v13112183
Viruses. 2021;13(11):2183.
(2021/10/29)

日本における免疫抑制状態のCOVID-19入院患者の臨床的特徴と予後

我々は日本のCOVID-19入院患者の大規模レジストリであるCOVID-19 REGISTRY JAPANを用い、COVID-19を発症した免疫抑制状態にある入院患者の臨床的特徴と予後を解析する観察研究を行なった。また背景疾患に対する治療が臨床経過に与える影響を評価した。14,760人の症例のうち、887人(5.9%)が免疫抑制状態だった。免疫抑制状態の原因は固形腫瘍(43.3%、n=384)、3カ月以内の化学療法(15.6%、n=138)、膠原病(16.9%、n=150)、免疫抑制剤の使用(16.0%、n=142)、転移性固形腫瘍(13.5%、n=120)等だった。免疫抑制状態の患者は高齢で重症度が高く、主な背景疾患ごとのCOVID-19の死亡率は以下の通りであった:固形腫瘍 12.5% (48/384, P<0.001, 相対リスク[RR], 3.41)、転移性固形腫瘍:31.7% (38/120, P<0.001, RR, 8.43)、白血病23.1% (9/39, P < 0.001, RR, 5.87)、リンパ腫33.3% (20/60,P < 0.001, RR, 8.63)、膠原病15.4% (23/150, P < 0.001, RR 3.97)。死亡率の高い背景疾患で必ずしも侵襲的支持療法の割合が高いとは限らなかった。免疫抑制状態にあるCOVID-19入院患者の予後は背景疾患によって異なり、背景疾患の重症度を含む複数の要因が侵襲的支持療法の適応に影響していた可能性がある。

Nomoto H, Suzuki S, Asai Y, Hayakawa K, Gatanaga H, Terada M, Suzuki K, Ohtsu H, Toyoda A, Ohmagari N.
Clinical characteristics and prognosis of immunosuppressed inpatients with COVID-19 in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.10.021
J Infect Chemother. 2021.
(2021/10/28)

COVID-19ワクチン政策に関する国際動向

本研究は、160か国からのデータをもとにCOVID-19ワクチンに関する各国の政策について分析した。各国における①ワクチン種別ごとの接種状況、②国民によるワクチン種類の選択権の有無、③ワクチン接種対象者、④国民の費用負担、⑤ワクチン接種に伴う健康損害補償の有無、⑥任意接種かどうか、⑦ワクチン接種間隔の設定、⑧入国時の待機免除議論の有無について、WHOの国際的な政策的勧告との関連性を論じた。また、COVID-19ワクチン供給に関する唯一国際枠組みであるCOVAX ファシリティを通じたワクチン供給が始まる2020年2月24日と3月31日におけるワクチン接種を比較したところ、特にアフリカ諸国において2月24日以降にワクチン接種が開始されたことが本研究から明らかになった。

Wakabayashi M, Ezoe S, Yoneda M, Katsuma Y, Iso H.
Global landscape of the COVID-19 vaccination policy: Ensuring equitable access to quality-assured vaccines.
https://doi.org/10.35772/ghmo.2021.01029
GHM Open. 2021.
(2021/10/21)

入院時のCTで見られる脂肪肝は重症COVID-19のリスク因子である

臨床現場では、COVID-19の重症化リスク因子として既知の因子以外に、より簡便に重症化を予測できる因子が求められている。我々は、入院時のCT検査で容易に診断できる脂肪肝がその1つであると仮定し、2020年1月~8月までに当院に入院した222人の症例を後方視的に解析した。重症COVID-19例と非重症例を比較した単変量解析ではBMI、年齢、高血圧、脂肪肝の有無に有意差が見られたが、多変量解析では年齢と脂肪肝の有無のみに有意差が見られ、脂肪肝の存在はオッズ比6.20 (2.82 – 13.62)であった。この結果より、CTで見られる脂肪肝は重症COVID-19のリスク因子である可能性が示唆された。

Okuhama A, Hotta M, Ishikane M, Kawashima A, Miyazato Y, Terada M, Yamada G, Kanda K, Inada M, Sato L, Sato M, Akiyama Y, Suzuki T, Nakamoto T, Nomoto H, Ide S, Nakamura K, Saito S, Kinoshita N, Yamamoto K, Morioka S, Ujiie M, Hayakawa K, Kustuna S, Shida Y, Tajima T, Teruya K, Funato Y, Yamamoto M, Izumi S, Hojo M, Sugiyama H, Ohmagari N.
Fatty liver on computed tomography scan on admission is a risk factor for severe coronavirus disease.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.10.013
J Infect Chemother. 2021.
(2021/10/19)

COVID-19から回復した患者のうち、抗体価が高い患者の特徴:当院の回復者血漿研究参加者581名の解析

COVID-19から回復後に当院の回復者血漿研究に参加した日本人を対象として、COVID-19のS蛋白に対するIgG抗体が高くなる要因を検討した。581名のデータを解析した結果、年齢が高いこと、発症からの経過日数が短いこと、COVID-19の症状として発熱があったこと、COVID-19の治療としてステロイド投与を受けたこと、そして血液型がAB型であること、が高い抗体価と関係していることがわかった。これらの条件を回復者血漿採取のスクリーニングに組み込むことで、抗体価の高い参加者を効率的にスクリーニングできる可能性があることがわかった。

Suzuki T, Asai Y, Ide S, Fukuda S, Tanaka A, Shimanishi Y, Takahashi K, Terada M, Sato L, Sato M, Inada M, Yamada G, Miyazato Y, Akiyama Y, Nomoto H, Nakamoto T, Nakamura K, Togano T, Morioka S, Kinoshita-Iwamoto N, Saito S, Kutsuna S, Ohmagari N.
Factors associated with high antibody titer following coronavirus disease among 581 convalescent plasma donors: A single-center cross-sectional study in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.10.012
J Infect Chemother. 2021.
(2021/10/19)

新型コロナワクチンを公平に分配するための世界的取り組み

2020年4月24日、新型コロナウイルス感染症の対応するため、ACTアクセラレータという国際的な枠組みが提案された。ACTアクセラレータでは、「ワクチン」・「治療」・「診断」という3つの柱とそれぞれの柱を分野横断的に強化する「保健システム」の4つで構成される。本稿では、ACTアクセラレータの中でも「ワクチン」の国際的枠組みであるCOVAXに関して、日本を含めた世界の支援状況をまとめ、新型コロナワクチンへの公平なアクセスを確保の仕組みづくりについて論じている。

若林真美, 江副聡, 米田麻希子, 磯博康.
Wakabayashi M, Ezoe S, Yoneda M, Iso H.
Global effort to ensure equitable distribution of COVID-19 vaccines.
https://doi.org/10.11477/mf.1401209716
公衆衛生. 2021; 85(10):697-701.
The Journal of Public Health Practice. 2021; 85(10):697-701.
(2021/10/15)

新興再興感染症に対する国際的な危機管理対応における日本人人材の派遣を促進するための横断研究

近年のCOVID-19を代表とする世界的な感染症危機管理対応において、WHO Global Outbreak Alert and Response Network(GOARN)等の組織による迅速な国際支援の必要性が増している。そのため日本人人材の派遣促進のために派遣の障害となる要因や派遣の促進に必要な支援を特定することは重要である。今回我々は2019年12月に東京で開催されたWHO GOARN Tier 1.5 training workshopの日本人参加者を対象に、アンケートを用いた横断研究を行なった。全日本人参加者47人から回答を得られた。30代と40代が多く、専門分野はケースマネージメント(42.6%)、感染予防・管理(25.6%)、疫学・サーベイランス(19.1%)だった。GOARN派遣経験者は2名(4.6%)だった。ワークショップに参加した動機で多いものは、「国際的な新興感染症対応チームに参加したい」(44.6%)、「国際貢献をしたい」(19.1%)、「国際感染症領域における日本政府での仕事に興味がある」(14.9%)だった。またGOARN派遣の障害となる要素は、「派遣のための時間を作ること」(45.7%)、「必要な専門技術や知識がないこと」(40.4%)であり、今後の必要な支援として「定期的なシミュレーショントレーニング」(51.1%)、「派遣時の経済的支援」(44.7%)、「派遣時の技術支援」(40.4%)が挙がった。日本人のGOARN派遣支援にはより実践的なトレーニングを含む多様なサポートが必要であり、国レベルでの枠組みの構築が望ましいと考えられた。

Nomoto H, Ishikane M, Lee S, Komiya N, Maeki T, Matsui T, Morita K, Oshitani H, Saijo M, Yamagishi T, Yamamoto T, Ohmagari N.
Facilitating the deployment of Japanese human resources for responding global outbreaks of emerging and Re-emerging infectious diseases: A cross-sectional study.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.09.015
J Infect Chemother. 2021.
(2021/10/8)

COVID-19回復者における炎症性サイトカインIL-6と心筋傷害の関連について

COVID-19から回復した209例において、炎症性サイトカインであるインターロイキン6 (IL-6)が4例(1.9%)で上昇し、4例すべての症例で高感度トロポニンTが陽性であった。さらにそのうちの3例では心臓超音波検査で左室駆出率(Ejection Fraction)の低下はないものの、潜在的な左室機能低下として左室長軸ストレイン(Global Longitudinal Strain)の低下が認められた。COVID-19の回復期においてもIL-6が陽性の患者では炎症が遷延し心筋傷害が持続している可能性があり、今後の経過観察が重要であると考えられた。

thumbnailGHM

Hayama H, Ide S, Kitami Y, Hara H, Kutsuna S, Hiroi Y.
Interleukin-6 is upregulated and may be associated with myocardial injury in some patients who have recovered from COVID-19.
https://doi.org/10.35772/ghm.2021.01090
Glob Health Med. 2021.
(2021/10/7)

日本におけるCOVID-19無症状者の発生率

COVID-19の感染予防策を考える上で,疫学的な理解を深めることは重要である。本研究では、本邦におけるオフィスワーカーの無症候性陽性者の発生率を調査した。研究参加に同意したオフィスワーカーを対象に、RT-PCRスクリーニング検査を2020年9月から20年6月までの9ヶ月間実施し、合計120万件の検査を行った。検査で得られた無症候性陽性者の発生数について、厚生労働省の公表データと本調査を比較したところ、無症候性陽性者の発生率は平均0.076%であった。また,週ごとの無症候性陽性者の発生率は,経時的なCOVID-19症例の発生率と一致した。これらの結果から、無症候性陽性者がCOVID-19の感染ネットワーク拡大に影響を与えている可能性が示唆された。

Kimura M, Uemura Y, Omagari N, Ikeda M, Sugiura W.
Correlation between asymptomatic cases and the incidence of COVID-19 in Japan.
Epidem Pub Hel Res.2021; 1(2):1-3
https://geneft.com/article/correlation-between-asymptomatic-cases-and-the-incidence-of-covid-19-in-japan
(2021/10/4)

アンジオテンシン変換酵素(ACE)1遺伝子多型とCOVID-19症状の発現との関係

ACE1遺伝子多型とCOVID-19の症状、特にその重症度との関連を報告した。ACE1の挿入(I)/削除(D)の多型における民族間の違いは、西欧と東アジアの間の死亡率の明らかな違いを説明しているようである。各国で患者サンプルを用いた臨床研究が行われ、ほとんどの結果は、DD遺伝子型がCOVID-19の症状に悪影響を与えるという考えを裏付けている。一方、いくつかの国で実施された小規模な研究では逆に、ACE1II型が危険因子であるとする報告もある。そのため他の遺伝子との相互作用の可能性も考えられる。これらの研究は、COVID-19の病因、治療、および診断への新たな手がかりを提供すると期待される。

Yamamoto N, Nishida N, Yamamoto R, Gojobori T, Shimotohno K, Mizokami M, Ariumi Y.
Angiotensin–Converting Enzyme (ACE) 1 Gene Polymorphism and Phenotypic Expression of COVID‐19 Symptoms.
https://doi.org/10.3390/genes12101572
Genes 2021 Vol. 12 Issue 10
(2021/10/1)

2021年9月掲載

COVID-19患者の低ウイルス量及び陰性化検体を用いた6種のキットの検討

本研究は、COVID-19患者鼻咽頭ぬぐい液でCp値36以上の陽性13検体と陰性7検体を用いて、6種類の核酸増幅検査キットの比較検討を行った。最も高い陽性率を示したのはRNA核酸抽出液を用いたSARS-CoV-2 Detection Kit -Multi(東洋紡)で、次いでcobas® SARS-CoV-2(ロシュ)であった。また、各キットの陰性結果の数と発症から検査までの日数の間には弱い相関関係があった。キットのばらつきは病日の経過した感染性の低いスクリーニング検査では問題にならないが、治療を必要とする疑い症例に対しては高感度のキットを選択することが必要と考える。

Motohashi A, Yamamoto K, Mezaki K, Moriya A, Kurokawa M, Oki H, Ando H, Isaka E, Usami A, Ide S, Nakamura K, Nakamoto T, Nomoto H, Ohmagari N.
Negative Results of Nucleic Acid Amplification Test for SARS-CoV-2 in Clinical Practice May Vary among Six Molecular Assays in COVID-19 Patients.
https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2021.416
Jpn J Infect Dis. 2021.
(2021/9/30)

SARS-CoV-2の抗体依存性感染増強はFcγRⅡAとFcγRⅢAを介して生じるが、マクロファージの過剰なサイトカイン産生には関与しない

抗体依存性感染増強(antibody-dependent enhancement:ADE)はウイルスに結合した抗体がFc受容体を介して細胞内へと取り込まれることでウイルスに感染する現象である。我々のグループはSARS-CoV-2の感染でADEが生じるのか評価を行った。その結果、FcγRⅡAとFcγRⅢAを介してADEが生じることが明らかになった。一方でマクロファージがADEによってSARS-CoV-2に感染した場合でも、過剰な炎症性サイトカインの産生やウイルスの増殖は認められなかった。本研究によってSARS-CoV-2感染におけるADEのメカニズムの一端が明らかになった。

Maemura T, Kuroda M, Armbrust T, Yamayoshi S, Halfmann PJ, Kawaoka Y.
Antibody-Dependent Enhancement of SARS-CoV-2 Infection Is Mediated by the IgG Receptors FcgRIIA and FcgRIIIA but Does Not Contribute to Aberrant Cytokine Production by Macrophages
https://doi.org/10.1128/mBio.01987-21
mBio. 2021;12(5):e0198721.
(2021/9/28)

BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種後、水痘帯状疱疹ウイルス髄膜炎を発症した免疫正常者の1例

BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種後に水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)髄膜炎を発症した症例を経験した。患者は70代女性の免疫正常者であり、COVID-19ワクチン接種から1週間経過後に、腹部の帯状疱疹、発熱、頭痛、項部硬直が出現したため受診した。受診時に脳脊髄液のPCRでVZV陽性となったことから、VZV髄膜炎の診断となった。入院後にアシクロビル静注で加療を行い症状軽快となった。COVID-19ワクチン接種後のVZV髄膜炎は、報告時点では、海外を含め13例目の報告であり、免疫正常者では7例目であった。頻度としては決して高くはないものの、COVID-19ワクチン接種後に生じる疾患として注意する必要がある。

Maruki T, Ishikane M, Suzuki T, Ujiie M, Katano H, Ohmagari N.
A case of varicella zoster virus meningitis following BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccination in an immunocompetent patient. 
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2021.09.055
Int J Infect Dis. 2021;S1201-9712(21)00767-0.
(2021/9/26)

COVID-19とACE1 I/D遺伝子型:疾患の重症度を予測することによるハイリスク者の保護

集団中のACE1 II遺伝子型の頻度は、SARS-CoV-2の症例数およびSARS-CoV-2感染による死亡数と負の相関関係を示すことがわかった。高齢者や持病を有する人々など、高リスク者の生命を救うことは、多くのCOVID-19問題の中で優先されるべき重要な課題である。我々の予測が正しければ、DD遺伝子型とDアリルを持つグループではより多くのCOVID-19患者とより重症の患者が見つかり、このマーカーは無症候性や健康なグループでは低くなるはずである。さらに必要性が高まれば、ACE1遺伝子テストを自動化する必要がある。このような診断システムは、ハイリスク者の病気の重症度を予測できる可能性がある。

Yamamoto N.
COVID-19 and the Angiotensin-Converting Enzyme 1 D/I Genotype: Protection of People at High-Risk by Predicting the Severity of the Disease.
Diagn Pathol Open 5:173.
(2020/9/14)

ベトナムHIV感染者におけるSARS-CoV-2抗体とCOVID-19の心理社会的影響の評価

ベトナム国立熱帯病病院のHIV外来患者1243名を対象に、SARS-CoV-2抗体検査とCOVID-19の心理社会的インパクトに関する質問紙調査を実施した。 本調査は、COVID-19の第一波に伴う全国的なロックダウンが終了した直後(2020年6月/ 7月)に実施された。抗体検査では、3名(0.2%)に陽性反応が見られた。質問紙調査では、第一波で抗レトロウイルス療法の中断やHIVウイルス量の悪化は見られなかったものの、雇用や収入および健康リスク行動へのインパクトは大きく、これらはメンタルヘルスの悪化と関連していた。今後もHIV患者におけるCOVID-19の影響を継続的に監視する必要がある。

Matsumoto S, Nagai M, Luong DAD, Nguyen HDT, Nguyen DT, Van Dinh T, Van Tran G, Tanuma J, Pham TN, Oka S.
Evaluation of SARS-CoV-2 Antibodies and the Impact of COVID-19 on the HIV Care Continuum, Economic Security, Risky Health Behaviors, and Mental Health Among HIV-Infected Individuals in Vietnam.
https://doi.org/10.1007/s10461-021-03464-w
AIDS Behav. 2021.
(2021/9/7)

COVID-19パンデミックが心血管系にもたらす影響

COVID-19はもともと肺炎として、その後SARS-CoV-2ウイルスがACE2を介して血管内皮細胞にも感染し、血栓症、不整脈、心筋障害など重篤な心血管合併症を起こす事が報告されてきた。感染前に心血管系の基礎疾患を持つ患者で特にCOVID-19が重症化しやすいこと、感染回復後にも心血管系への微細なダメージが長期にわたって残存することも判明している。さらには、パンデミックの副次的影響として、新型コロナワクチンの血栓症や心筋炎などの心血管系副作用や心血管疾患の疫学・診療体制の変化も懸念されている。本レビューでは、COVID-19と心血管系の双方向の関係性について最新の知見を総括した。

Tomidokoro D, Hiroi Y.
Cardiovascular implications of the COVID-19 pandemic.
https://doi.org/10.1016/j.jjcc.2021.09.010
Journal of Cardiology. 2021.
(2021/9/6)

COVID-19入院患者の全国コホート(COVIREGI-JP)における抗凝固療法の死亡率低下効果の評価

日本でのCOVID-19入院患者に対する抗凝固療法が転帰を改善するか、COVIREGI-JPのデータを用いて評価を行った。またベースラインの交絡因子を調整するためにIPTW(inverse probability of treatment weight)法を用いた。対象となった1748例のうち、367例(治療群)に抗凝固薬が使用された。29日後の死亡率はコホート全体で7.6%(治療群11.2%、無治療群6.6%)、ステロイド治療を受けていない患者では6%(治療群12.3%、無治療群5.2%)、ステロイド治療を受けた患者では11.2%(治療群10.5%、無治療群11.8%)であった。治療群と無治療群の死亡率は同等であり(p=0.99)、ステロイド治療と併用した群では死亡率の低下傾向が認められた(p=0.075)。
合併症や血栓症のリスクが欧米とは異なるアジア人であっても、抗凝固薬が有益であることを示唆しており、抗凝固療法を推進する根拠となるものである。

Hara H, Uemura Y, Hayakawa K, Togano T, Asai Y, Matsunaga N, Terada M, Ohtsu H, Kitajima K, Shimizu Y, Sato L, Ishikane M, Kinoshita-Iwamoto N, Shibata T, Kondo M, Izumi K, Sugiura W, Ohmagari N.
Evaluation of the efficacy of anticoagulation therapy in reducing mortality in a nationwide cohort of hospitalized patients with coronavirus disease in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2021.09.014
Int J Infect Dis. 2021;S1201-9712(21)00725-6.
(2021/9/6)

小児COVID-19入院患者の臨床的特徴:COVID-19 Registry Japanより

小児のCOVID-19は軽症が多いことで知られているが、日本の小児でどのような症状が見られ、どの程度の期間入院していたかなどの情報は限られていたためこれを調査した。2020年1月~2021年2月の間にCOVID-19 Registry Japanに登録された18歳未満のCOVID-19患者を対象とした。期間中に36,460人の患者が登録され、18歳未満の患者は1,038名であった。入院時に無症状の患者は308名(29.7%)であり、隔離目的や保護者の不在等、社会的理由での入院が示唆された。有症状患者730名のうち、酸素投与を要した患者は15名(2.1%)、死亡した患者は0名であり、小児COVID-19患者は軽症であったと言える。入院期間の中央値は8日で症状の有無では変わらず、無症状の患者も長期入院していたことが明らかになった。

Shoji K, Akiyama T, Tsuzuki S, Matsunaga N, Asai Y, Suzuki S, Iwamoto N, Funaki T, Ohmagari N.
Clinical Characteristics of Hospitalized COVID-19 in Children: Report From the COVID-19 Registry in Japan.
https://doi.org/10.1093/jpids/piab085
J Pediatric Infect Dis Soc. 2021.
(2021/9/6)

2021年8月掲載

COVID-19流行下でのNCGM職員における血液型と抑うつ症状との関連

血液型がO型とA型の人は、B型の人と比べてうつ病のリスクが高いことが示唆されているが、疫学データは限られている。2020年7月にNCGM職員を対象に実施した質問紙調査のデータを利用し、ABO式血液型と抑うつ症状の関連を検討した(1228名)。解析の結果、血液型の違いは抑うつ症状と有意な関連はなかった。本研究はABO式血液型と抑うつ症状との関連を支持しなかった。

Hoang DV, Yamamoto S, Miki T, Fukunaga A, Islam Z, Konishi M, Mizoue T.
Is there an association between ABO blood types and depressive symptoms among Japanese healthcare workers during the COVID-19 pandemic?
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0256441
PLoS One. 2021;16(8):e0256441.
(2021/8/27)

新規電解水によるSARS-CoV-2とその他のウイルス、ならびにグラム陰性細菌の効率的な不活化

SAIWは、無塩素、高pH、高濃度溶存水素、および低酸化還元電位の独特な電解水である。SAIW はSARS-CoV-2、A型インフルエンザウイルスを始め、非エンベロープ型も含む6種のウイルスの力価を、30秒以内に2.9~5.5-log10減少させた。同様に、3種のグラム陰性細菌の増殖にも、1.9~4.9-log10の抑制を示した。SAIWは細胞に対するSARS-CoV-2の結合および侵入の効率を有意に低下させた。この塩素フリーの電解イオン水はマウスにおいて急性吸入毒性を示さなかったことからSAIWはより安全な消毒剤として有望であると考えられた。現在、空間噴霧としての使用の可能性を探っている。

Suzuki Y, Hishiki T, Emi A, Sakaguchi S, Itamura R, Yamamoto R, Matsuzawa T, Shimotohno K, Mizokami M, Nakano T, Yamamoto N.
Strong alkaline electrolyzed water efficiently inactivates SARS-CoV-2, other viruses, and Gram-negative bacteria.
https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2021.08.048
Biochem Biophys Res Commun. 2021; 575:36-41.
(2021/8/23)

COVID-19に対する定量抗原検査の経時的解析及び感染隔離緩和への応用可能性の検討

COVID-19の自動定量抗原検査の発症時期による診断能力の違いや感染性評価への応用については十分に検討されていない。本研究ではLumipulseⓇ SARS-CoV-2定量抗原検査を用いてCOVID-19で入院した患者68人、合計100検体の鼻咽頭ぬぐい液検体を用いて、診断能の経時的解析と隔離緩和への応用の可能性について後方視的解析を行った。検体内訳は発症初期(発症後10日まで: 51検体)と発症後期(発症後10日以降: 49検体)だった。検査の感度・特異度は,全期間で0.82(standard deviation, SD: 0.72~0.90)と0.95(SD: 0.75~0.99),発症早期で0.93(SD: 0.82~0.98)、1.00(SD: 0.39~1.00)、発症後期で0.66(SD: 0.48~0.82)、0.93(SD: 0.69~0.99)だった。ROC解析による発症後期を区別するための理想的なカットオフ値は6.93 pg/mLであり、その感度、特異度、陽性適中率、陰性適中率はそれぞれ0.76(SD: 0.61-0.87)、0.76(SD: 0.63-0.87)、0.76(SD: 0.61-0.87)、0.76(SD: 0.63-0.87)だった。自動定量抗原検査はCOVID-19の感染初期において良好な診断精度を有する。さらに適切なカットオフを設定することで、発症10日以降の感染隔離緩和時期にあたる患者を迅速に特定できる可能性がある。

Nomoto H, Yamamoto K, Yamada G, Suzuki M, Kinoshita N, Takasaki J, Moriya A, Maeda K, Kimura M, Ohmagari N.
Time-course evaluation of the quantitative antigen test for severe acute respiratory syndrome coronavirus 2: The potential contribution to alleviating isolation of COVID-19 patients.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.08.015
J Infect Chemother. 2021;27(11):1669-1673.
(2021/8/14)

日本の東京におけるCOVID-19パンデミックにおけるRSウイルス感染症の再流行

COVID-19のパンデミックから1年以上が経過し、感染対策の強化によりほとんどのウイルス性呼吸器感染症が抑制されてきた。一方で、2021年に東京では普段と異なる季節である春からRSウイルス感染症がこれまで以上に多く報告されている。この現象は、感染者の年齢分布が例年より高くなっていることから、感染を免れてきた免疫を持たない乳幼児が蓄積し、再度、小児の社会活動が再開されたことが影響していると考えられる。COVID-19との同時流行により医療負担が増大することが懸念される。また、その他のウイルス性呼吸器感染症でも同様の流行を認めないか注意深い監視を要する。

Ujiie M, Tsuzuki S, Nakamoto T, Iwamoto N.
Resurgence of Respiratory Syncytial Virus Infections during COVID-19 Pandemic, Tokyo, Japan.
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/27/11/21-1565_article
Emerg Infect Dis. 2021;27(11).
(2021/8/13)

新型コロナウイルス感染症新規患者数増加の裏にある、追えていない感染経路を見いだす質的研究

従来の知見から、流行の波と波の間に未知の感染経路を通じて感染が水面下で持続し、その後の感染者数急増への原因となっている可能性が指摘されていた。本研究では第 4 波において新規陽性患者数が減少傾向となった時期(2021年5月22日~6月29日)に、新規感染者の感染経路を探索的に調査した。その結果、当該期間に当院に入院したCOVID-19患者について感染経路が明らかでない22名のうち、14名(64%)に感染リスクの高い行動歴があった。また、感染リスクの高い場面はのべ24あり、うち21場面(88%)は飲食関連、22場面(92%)でマスクが着用されていなかった。これまで見つかっていなかった新規の感染経路は特定されなかった。感染には飲食がやはり多くの事例で関係しているとともに、感染防止に対する意識付けや十分な知識が不足していることが判明した。

Hikida S, Morioka S, Fujii N, Tajima T, Terayama Y, Sugiura Y, Ishikane M, Takasaki J, Hojo M, Ohmagari N.
A single-center descriptive study of untraced sources of infection among new cases of coronavirus disease in Tokyo, Japan.
https://doi.org/10.35772/ghm.2021.01092
Glob Health Med. 2021.
(2021/8/9)

2021年7月掲載

日本人のCOVID-19患者の呼吸不全を予測するシンプルな予測スコアリングの作成と性能評価

医療が逼迫している状況では、呼吸不全を呈する可能性のあるハイリスク患者を適切に医療機関へつなげることが、医療崩壊防止のために極めて重要である。本研究では、COVID-19の全国レジストリ(COVIREGI-JP)の6873人のデータを用いて、既往歴と症状のみから患者が将来的に呼吸不全を来すかどうかを予測するシンプルなリスクスコアリングを作成した。年齢層ごとの異質性を考慮し、若年モデル、中年モデル、高齢モデルを別々に作成し、9月10日を境に入院日で分類した導出コホートと検証コホートで性能を評価した。モデルの判別能と校正は良好で、今回開発したリスクスコアリングは、流行期での医療資源の有効活用に応用されることが期待できる。

Yamada G, Hayakawa K, Matsunaga N, Terada M, Suzuki S, Asai Y, Ohtsu H, Toyoda A, Kitajima K, Tsuzuki S, Saito, Ohmagari N.
Predicting respiratory failure for COVID-19 patients in Japan: A simple clinical score for evaluating the need for hospitalization.
https://doi.org/10.1017/S0950268821001837
Epidemiol Infect. 2021.
(2021/7/30)

日本全国の空港・港における渡航者のCOVID-19の疫学とリスク

2020年8~10月に日本全国の空港/港の検疫所でのCOVID-19の疫学と感染リスク因子について分析した。17の空港/港検疫所において146の国から来日した15万7507人のうち陽性者は0.35%であった。3-19歳の若年者、女性、ビジネス/レジデンストラック(travel corridor)利用者で陽性者が少ない一方で、WHO南東アジア地域からの渡航者、低~低中所得国からの渡航者、有症状者、鼻咽頭検体検査を受けた者、よりCOVID-19の発生率が高い国からの渡航者で、陽性者が多かった。低所得国からの渡航においては流行状況が過小評価されている可能性も考慮は必要だが、COVID-19の流行状況に基づいた渡航制限の正当性が示された。また、厳格なtravel corridorはCOVID-19患者の流入のリスクも減らしうると考えられる。

Tsuboi M, Hachiya M, Ohtsu H, Akashi H, Miyoshi C, Umeda T.
Epidemiology and risk of COVID-19 among travelers at airport and port quarantine stations across Japan: a nationwide descriptive analysis and an individually matched case-control study.
https://doi.org/10.1093/cid/ciab659
Clin Infect Dis. 2021;ciab659.
(2021/7/28)

出口戦略としての SARS-CoV-2 治療薬・ワクチン開発の現状と課題

新興感染症を制圧するためには治療薬の開発が重要である。しかし新興感染症では、パンデミック発生時点では有効な治療薬は存在しないことが多い。このような状況下で先ず取られる治療薬の開発手段は既存薬の中から治療効果がある薬剤の探索 repurposing であり、この 1 年間様々な COVID-19 治療薬の候補が検討されてきた。その結果、抗ウイルス剤としては Ebola の治療薬として開発が進められていた remdesivir、サイトカインストームを抑えるための抗炎症薬としては dexamethasone の 2 剤が治療薬として承認された。いずれの薬剤も海外での臨床試験の結果に基づく承認である。我が国でも多くの候補薬が提唱され、臨床試験が進められてきたが、明確な結論が得られた試験は数少ない。その中の一つ喘息治療 ciclesonide の有効性と安全性を検証する単盲検無作為割付比較試験(Randomized clinical trial:RCT)では、目標症例数 90 例の登録完了に 181 日を要した。 一方で同時期に実施されていた、ciclesonide の「観察研究」では 180 日間でその 30 倍にも達する 3,000 人が登録されており、現場の医師にとって RCT に参加するハードルが高いことがわかる。要因は様々であろうが、RCT を実施するにあたって投入できる人的リソースの不足などが課題として挙げられよう。今回のパンデミックを教訓に、これらの課題を解決すべく、また次の新興感染症も見据えた RCT を支援する司令塔の役割を担う組織の設立が切望される。SARS-CoV-2 は感染を拡大しつつ、変異の選択と淘汰を経てヒトを宿主とするウイルスとしての姿を整えつつあるようであるが、ヒトとの共存関係が落ち着くまでには相当の時間を有するのであろうか。予防ワクチンが開発・実用化され、治療薬についても間違いなく研究開発が進展しており、COVID-19 の制御が可能となり、社会活動の再開ができる日はそう遠くないことを期待する。

杉浦 亙
Confronting COVID-19: Current Issues of SARS-CoV-2 Therapeutic Drug/Vaccine Development.
https://doi.org/10.3820/jjpe.26.91
薬剤疫学. 2021;26(1):91-97.
(2021/7/26)

入院前の抗血小板療法、抗凝固療法がCOVID-19入院患者の重症度に与える影響

COVID-19は凝固異常や肺血栓症を引き起こし、予後を悪化させることが多くの論文で報告されている。本研究では入院前の抗凝固療法と抗血小板療法が入院時のCOVID-19の重症度に影響を与えるかどうかを検討した。2020年2月9日から2020年7月31日までにCOVID-19に罹患して日本国内の342施設に入院した合計4265人の日本人を対象とした。基礎疾患を考慮した傾向スコアマッチング法(プロペンシティスコア)を用いた解析では、入院前の抗凝固療法と抗血小板療法が入院時のCOVID-19重症度をわずかに減少させる傾向がみられた。しかしながら、この差は統計学的に有意ではなかった。

Togano T, Uemura Y, Asai Y, Hayakawa K, Matsunaga N, Terada M, Ohtsu H, Suzuki S, Toyoda A, Hara H, Sato R, Ishikane M, Kinoshita-Iwamoto N, Hangaishi A, Ohmagari N.
The influence of pre-admission antiplatelet and anticoagulation therapy on the illness severity in hospitalized patients with COVID-19 in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.07.016
J Infect Chemother. 2021.
(2021/7/24)

COVID-19流行に伴う日本の感染症への影響:予防・抑制対策から得た教訓

国内の定点医療機関の患者報告数によればCOVID-19の流行期間中に飛沫、接触、経口で感染する感染症の減少が見られた。2021年6月6日時点で季節性インフルエンザの累積患者数は704人、水痘では8,144人、マイコプラズマ肺炎では356人、ロタウイルス胃腸炎では45人となっている。昨年の数字(563,487人、31,785人、3,518人、250人)と比較し大幅に減少している。これは日本だけでなく世界的にも発生数が減少しており、実施されてきたCOVID-19予防・抑制対策が飛沫感染、接触感染、経口感染に有効だと考えられる。これらの対策が今後の感染症対策として重要な知見になると見込まれる。

Sawakami T, Karako K, Song P, Sugiura W, Kokudo N.
Infectious disease activity during the COVID-19 epidemic in Japan: Lessons learned from prevention and control measures.
https://doi.org/10.5582/bst.2021.01269
Biosci Trends. 2021.
(2021/7/13)

“silent hypoxia”を呈するCOVID-19症例の臨床的・放射線画像の特徴

COVID-19患者の一部にみられる臨床上の特徴として、“silent hypoxia”と呼ばれる、低酸素血症があるにも関わらず呼吸困難を認めない、という現象がある。本研究では、当院に2020年1月~8月に入院した270人のうち“silent hypoxia”を呈した8人の臨床的・放射線画像の特徴を記述した。年齢の中央値は61歳、5人 (62.5%) が男性であった。CTでは全例浸潤影を認め、必要とした最大FIO2の中央値は55%であった。2人(25.0%)が挿管を、1人(12.5%)は 体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とした。“silent hypoxia”を呈する患者は予後が悪い可能性が示唆された。

Okuhama A, Ishikane M, Hotta M, Sato L, Akiyama Y, Morioka S, Suzuki S, Tajima T, Yamamoto M, Teruya K, Izumi S, Ohmagari N.
Clinical and radiological findings of silent hypoxia among COVID-19 patients.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.07.002
J Infect Chemother. 2021;S1341-321X(21)00185-9.
(2021/7/13)

世界各国のCOVID-19と肝胆膵領域手術について:A single topic conference of EWALT 2021要旨

「COVID-19と肝胆膵領域手術」というトピックにつきThe Eastern and Western Association for Liver Tumors (EWALT)が2021年4月23日に開催された。フランス、イタリア、アメリカ、および本邦におけるCOVID-19感染症のこれまでと現状、および肝胆膵外科手術への影響につき議論が行われた。各国におけるCOVID-19の予防や術前診断に対する工夫、周術期COVID-19罹患患者の予後や手術適応基準に関する提言が紹介された。また、COVID-19の蔓延による人的・物的な社会的資源の減少、肝胆膵領域手術の減少、それに伴う若手外科医への教育の難しさなどが問題点として挙げられた。

Ito K, Takemura N, Hasegawa K, Kokudo N. 世界各国のCOVID-19と肝胆膵領域手術について P321 Figure 1(E)

COVID-19 and liver surgery in France, Italy, Japan, and the United States: A report of a single topic conference of Eastern and Western Association for Liver Tumors (EWALT) 2021.
https://doi.org/10.35772/ghm.2021.01062
Glob Health Med. 2021.
(2021/7/5)

COVID-19治療に関する伝統中国医学の現状と課題

伝統中国医学(TCM)は長い歴史を持ち貴重な中国の伝統的医療法である。これまで、SARSやH7N9インフルエンザなどの感染症の抑制と予防に重要な役割を果たしてきた。中国ではTCMによるCOVID-19に対する治療が検討され、中国臨床試験(ChiCTR)にTCMに関する臨床試験が150件以上も掲載されている。TCMはCOVID-19患者の症状を効果的に緩和し、軽症から重症・重篤化する進行を遅らせ、重症・重篤患者の全死因死亡率を減少させる効果が示された。また、TCMによるSARS-CoV-2に対する抗炎症作用、免疫調節作用、臓器保護などが検討されている。TCMによるより良いサービスの提供には、多施設ランダム化比較試験、治療の有効性、エビデンスの検証等の研究が期待されている。

Qi F, Tang W.
Traditional Chinese medicine for treatment of novel infectious diseases: Current status and dilemma.
https://doi.org/10.5582/bst.2021.01263
Biosci Trends. 2021.
(2021/7/1)

2021年6月掲載

COVID-19ワクチン接種のFDG-PET/CT画像への影響

FDG-PET/CT検査は悪性腫瘍、炎症性疾患、心疾患、脳疾患の診断に用いられている。COVID-19ワクチン接種後に、腋窩や鎖骨窩のリンパ節に対してFDGの集積が反応性に認められる傾向があり、診断に影響を及ぼす可能性がある。FDGの集積の傾向としては、COVID-19ワクチン接種側の腋窩や鎖骨窩のリンパ節に認められることが多く、1回目よりも2回目の接種後により強く認められる。この所見は通常は接種後12-14日で消失することが多いが、接種4~10週後まで認められたとする報告もある。COVID-19ワクチン接種予定日の近くにFDG-PET/CT検査が予定されている場合、身体や疾患の状況も踏まえ、FDG-PET/CT検査日の調整が必要となる場合がある。

Minamimoto R, Kiyomatsu T. P319_minamimoto_Fig1.jpg
Effects of COVID-19 vaccination on FDG-PET/CT imaging: A literature review.
https://doi.org/10.35772/ghm.2021.01076
Glob Health Med. 2021; 3(3): 129-133.
(2021/6/27)

COVID-19抑制のために導入された日本の行動変化: 季節性インフルエンザの予防・抑制への影響

日本でCOVID-19が感染拡大する中、季節性インフルエンザとCOVID-19の同時流行が懸念されていた。従来、年間1,000万人以上が季節性インフルエンザに感染していたが、過去10年と比較し2020-2021年のインフルエンザ流行シーズンでの患者数はわずか14,000人と推定される。季節性インフルエンザの流行が発生しなかった要因として、COVID-19抑制のための対策が関係していると考えられる。マスク、手洗い、閉鎖空間や人混みを避けるなどの基本的な感染対策が徹底されており、加えてCOVID-19抑制のために発せられた3回の緊急事態宣言に伴う行動変更が、人流や人と人の接触を減らした。この行動変化は今後の季節性インフルエンザ流行を抑えるための貴重な指標となる。

Sawakami T, Karako K, Song P. P318_song_Figure2.jpg
Behavioral changes adopted to constrain COVID-19 in Japan: What are the implications for seasonal influenza prevention and control?
https://doi.org/10.35772/ghm.2021.01066
Glob Health Med. 2021; 3(3): 125-128.
(2021/6/25)

本邦におけるCOVID-19患者に関する入院時の重症度および入院中の経過に関するリスク因子の検討

COVID-19レジストリ研究(COVIREGI-JP)のデータを利用し、入院時の重症度、入院中の最悪重症度、死亡率などに関するリスク因子について解析を行った。2020/1/16~2020/3/31の期間に入院した3829例のうち3376例を本研究の解析対象とした。入院時に重症であることのリスク因子は年齢、男性、心血管疾患、慢性呼吸器疾患、糖尿病、肥満、高血圧だった。脳血管疾患、肝疾患、腎疾患・透析、固形癌、高脂血症は入院中の重症度とは相関が認められたが、入院時の重症度とは相関しなかった。これらの因子のうち、高血圧と高脂血症は死亡率との相関が比較的小さかった。入院時の重症度、入院中の最悪重症度、死亡率に影響するリスク因子は一貫しておらず、それぞれ異なる因子に影響されることが示唆された。中でも、高血圧、高脂血症、肥満は重症度に影響はするものの、死亡に対する影響は小さい可能性があった。

Terada M, Ohtsu H, Saito S, Hayakawa K, Tsuzuki S, Asai Y, Matsunaga N, Kutsuna S, Sugiura W, Ohmagari N.
Risk factors for severity on admission and the disease progression during hospitalisation in a large cohort of patients with COVID-19 in Japan.
https://doi.org/10.1136/bmjopen-2020-047007
BMJ Open. 2021;11(6):e047007.
(2021/6/15)

本邦におけるCOVID-19回復者血漿の確保・備蓄のための体制構築について

当院ではCOVID-19回復者血漿の確保・備蓄を2020年4月より行っており、実施体制や体制構築について概説する。国立感染症研究所(NIID)、日本赤十字社(JRC)との連携体制をとり、当院では患者リクルート・抗体測定・血漿採取、NIIDでは血液中のSARS-CoV-2 PCR検査、JRCでは感染症スクリーニングを行った。適格性は同意時と血漿採取時の2点で評価した。同意時にELISA法で抗体価を、中和活性をIC50として測定し、回復者の血漿提供適格性を確認し、適格者において血漿採取を行った。2020年9月17日時点で100人以上の患者の治療に使用できる量の血漿を採取した。

Terada M, Kutsuna S, Togano T, Saito S, Kinoshita N, Shimanishi Y, Suzuki T, Miyazato Y, Inada M, Nakamoto T, Nomoto H, Ide S, Sato M, Maeda K, Matsunaga A, Satake M, Matsubayashi K, Tsuno H, Kojima M, Kuramistu M, Tezuka K, Ikebe E, Okuma K, HamTerada Maguchi I, Shiratori K, Sato M, Kawakami Y, Inaba K, Igarashi S, Yamauchi R, Matsumura M, Ishimaru K, Zhang B, Kuge C, Ishihara M, Gouda M, Tanaka K, Ishizaka Y, Ohmagari N.
How we secured a COVID-19 convalescent plasma procurement scheme in Japan.
https://doi.org/10.1111/trf.16541
Transfusion. 2021;61(7):1998-2007.
(2021/6/7)

2021年5月掲載

下痢を併発したCOVID-19患者の便中SARS-CoV-2 ウイルス量に関するパイロット調査

本研究では環境水の人糞汚染の潜在的な指標として提案されているトウガラシマイルドモットルウイルスを対照として、COVID-19患者13名の便中SARS-CoV-2ウイルス量を評価することを目的とした。4人の患者の便からSARS-CoV-2のRNAが検出され,そのうち3人が下痢症状を呈していた。長期(22日)の下痢症状を有した1名の患者の便からは,高レベルのウイルスRNAが検出された。しかし、VeroE6/TMPRESS2細胞を4週間使用した結果、いずれの患者の便からもSARS-CoV-2を分離することはできなかった。今回の結果は、下痢症状のあるCOVID-19患者の便からSARS-CoV-2のRNAが検出される可能性を示唆している。

Akiyama Y, Kinoshita N, Sadamasu K, Nagashima M, Yoshida I, Kusaba Y, Suzuki T, Nagashima M, Ishikane M, Takasaki J, Yoshimura K, Ohmagari N.
A pilot study of viral load in stools of patients with COVID-19 and diarrhea.
https://doi.org/10.788/yoken.JJID.2021.018
Jpn J Infect Dis. 2021.
(2021/5/31)

腎移植歴のあるCOVID-19患者の剖検例

腎移植歴のあるCOVID-19患者は重症化リスクが高いことが知られている。今回腎移植歴があり免疫抑制薬内服中の患者がCOVID-19に罹患し、当院にて人工呼吸管理を含めた集中治療を行い、一時呼吸状態は改善したものの、その後全身状態が悪化し入院29日目(発症43日目)に死亡に至った症例を経験した。剖検では肺胞内や肺胞道の広範な器質化を認め、免疫組織化学検査では肺の器質化が進行していない領域において少量のSARS- CoV-2ウイルス抗原が検出され、免疫抑制によりウイルス排除が遅延した結果、肺組織への傷害が長期間持続していた可能性が示唆された。

Tsukada A, Suzuki M, Kishino Y, Misumi K, Igari T, Nakajima N, Sato Y, Suzuki T, Katsuno T, Kusaba Y, Tsujimoto Y, Sakamoto K, Hashimoto M, Terada J, Takasaki J, Izumi S, Hojo M, Sugiyama H.
A Kidney Transplant Patient Who Died of COVID-19-associated Severe Acute Respiratory Distress Syndrome: A Case Report.
https://doi.org/10.2169/internalmedicine.7089-21
Intern Med. 2021;60(14):2297-2300.
(2021/5/29)

NCGM職員の新型コロナウイルス抗体保有率(2020年10,12月調査)

COVID-19流行の第2波を経た2020年10月(戸山)と12月(国府台)に、NCGMの全職員を対象に抗体調査を行った。アボット社(IgG)とロシュ社(IgGを含む成熟抗体)の定性試薬検査のいずれかが陽性であった場合を抗体陽性と定義した。参加者2,563人のうち、陽性者は18名(0.70%)であり、同時期の東京都住民の陽性率(1.94%、同じ定義で再計算)を下回った。同一部署での陽性者の集積はなく、また職業上のリスク要因(COVID-19患者のケアなど)は抗体陽性と関連していなかった。市中あるいは家庭内での感染が主な感染源であることを示唆する知見である。NCGMが取り組んできた、院内感染と市中感染に対する包括的な対策が職員の感染リスクを最小限に抑えることに寄与したと考えられる。

Yamamoto S, Tanaka A, Oshiro Y, Ishii M, Ishiwari H, Konishi M, Matsuda K, Ozeki M, Miyo K, Maeda K, Mizoue T, Sugiura W, Mitsuya H, Sugiyama H, Ohmagari N.
Seroprevalence of SARS-CoV-2 antibodies in a national hospital and affiliated facility after the second epidemic wave of Japan.
https://doi.org/10.1016/j.jinf.2021.05.017
J Infect. 2021;83(2):237-279.
(2021/5/25)

COVID-19回復期における高感度トロポニンを用いた心筋障害の評価と関連要因の検討

日本人のCOVID-19感染症罹患後の209名(平均年齢45±19歳)を対象に、回復期(COVID-19発症日より平均56日後)の心筋障害について高感度トロポニンT(hsTnT)を用いて調査した。左室駆出率(EF)は全例で60%以上であり、79%が酸素投与不要な軽症であったが、hsTnTは65%で陽性であり、残存する微小心筋障害の可能性が考えられた。また、hsTnTの値は重症度、性別、基礎疾患、ACE阻害薬またはARBの使用と相関を示していた。 日本人におけるCOVID-19回復期の心筋障害について報告した論文は本研究が初めてであり、特に軽症例などでは心筋障害見過ごされる可能性があることから、年齢を問わず長期の評価が望ましいと考える。

Ide S, Hayama H, Asai Y, Terada M, Nomoto H, Kutsuna S, Ohmagari N, Hiroi Y.
Evaluation of High-Sensitivity Cardiac Troponin T Levels in Japanese Patients Recently Recovered From Coronavirus Disease 2019.
https://doi.org/10.1253/circj.CJ-21-0219
Circ J. 2021;85(6):944-947.
(2021/5/15)

SARS-CoV-2の迅速抗原検査はどの程度ウイルス培養結果に関連するか?

SARS-CoV-2に対する核酸検出検査(NAAT)は感染性が消失した病後期にも持続的に排出され、感染伝播に寄与しない感染例を検出することに繋がることも多い。ウイルス学的に感染性を評価する手法としてはウイルス培養検査があるが、医療機関における検査実施は困難である。抗原検査はNAATと比べて感度が低いとされるが、比較的高いレベルのウイルス量が必要になるため、ウイルス培養との関連が予測されている。本試験では迅速抗原検査とウイルス培養との関連について調査した。検体利用についての書面同意を得た患者21例から得たウイルス量の高い検体(感染研法のCt>30)26検体を用いて、VeroE6細胞およびVeroE6/TMPRSS2細胞を用いたウイルス培養とウイルス保存液を用いてエスプラインSARS-CoV-2で検査を行った。抗原検査陽性の検体は45%(9/20)、抗原検査陰性の検体は17%(1/6)がウイルス培養陽性となった。両者で有意差は無かったものの、ウイルス量が高い検体を用いたことやサンプルサイズが小さいことも影響としていると考えた。ROC曲線で抗原検査陽性とウイルス培養陽性を示すウイルス量のカットオフを算出したところ、それぞれ2.1×105 copies/mL(感度 75%、特異度 100%)、5.4×105 copies/mL(感度 90%、特異度 81%)と近い値をとった。迅速抗原検査は感染性を予測するのに有用なツールになり得ると推測される。

Yamamoto K, Nagashima M, Yoshida I, Sadamasu K, Kurokawa M, Nagashima M, Kinoshita N, Maeda K, Takasaki J, Teruya K, Ohmagari N.
Does the SARS-CoV-2 rapid antigen test result correlate with the viral culture result?
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.05.006
J Infect Chemother. 2021;27(8):1273-1275.
(2021/5/12)

遺伝素因は、合併症を有する感染者のCOVID-19症状の悪化に寄与し、東洋と西洋の間に見られる死亡率の大きな差を説明できるか?

併存症を持つ人々は、さまざまな要因に対し脆弱になる遺伝的素因を持っており、たとえばSARS-CoV-2感染で重症化する可能性が高くなると仮定した。ACE1遺伝子多型、とくにDD型は、多くの併存疾患と関連しており、DD型保因者はACE1活性が明らかに高い。そのため、これらの人々は生得的に軽度のACE1 / ACE2不均衡がある可能性があり、COVID-19重症化のリスクが高い状態にあることが想定された。実際、患者データからDD型と重症化との関連が示唆された。ただACE1遺伝子の多型だけではすべてを説明することは難しいことから、他の遺伝的、非遺伝的要因の組み合わせも考慮すべきであると考えられた。

Yamamoto N, Yamamoto R, Ariumi Y, Mizokami M, Shimotohno K, Yoshikura H.
Does Genetic Predisposition Contribute to the Exacerbation of COVID-19 Symptoms in Individuals with Comorbidities and Explain the Huge Mortality Disparity between the East and the West?
https://doi.org/10.3390/ijms22095000
Int J Mol Sci. 2021;22(9):5000.
(2021/5/8)

COVID-19の改善後に出現した脱毛が時間経過とともに改善することを示した報告(脱毛の前後の写真あり)

2020年3月下旬にCOVID-19を発症した49歳日本人男性に認めた脱毛について、改善後の写真を添えてその経過を報告した。この患者は酸素投与を必要としない軽症の状態だったが、COVID-19発症から約2か月後(5月下旬)に脱毛を認めた。脱毛は5か月後(8月)から改善傾向となり、1年後(2021年3月)には頭髪は完全に元通りとなっていた。この経過は、さまざまな身体的・精神的ストレスをきっかけに生じる一過性の脱毛である「休止期脱毛」に一致している。この症例ではCOVID-19自体は軽症だったが、重症化するかもしれないという不安や、退院後の周囲の偏見などの心理的負担が契機になったと思われる。COVID-19の後に生じる脱毛の原因を解明するためにさらなる研究が必要と考える。

Suzuki T, Kutsuna S, Saito S, Kawashima A, Okuhama A, Kanda K, Sato L, Inada M, Akiyama Y, Ide S, Nakamura K, Nakamoto T, Yamamoto K, Ishikane M, Kinoshita N, Morioka S, Hayakawa K, Ohmagari N.
Clinical course of alopecia after severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 infection.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2021.04.088
Int J Infect Dis. 2021;107:255-256.
(2021/5/4)

2021年4月掲載

中和抗体活性の上昇を認めたCOVID-19の無症候性再感染をおこした日本人男性(日本で初めて確認された再感染例)

COVID-19の再感染事例が世界中から報告されているが、再感染の臨床的特徴に関する抗SARS-CoV-2スパイク抗体や中和抗体活性の量や役割などについては明らかとなっていない。我々は日本人COVID-19の再感染例について、初感染と再感染時の疫学や臨床経過と抗体価の推移を解析した。 症例は58歳男性で初感染時には酸素2Lを必要とする中等症のCOVID-19を発症し、第30病日でPCRを2回陰性確認し退院となった。約2か月半後、患者の家族3名がCOVID-19を発症し、患者本人もPCR陽性であったが無症候であった。中和抗体のIC50は初感染後50.0μg/mL、再感染後14.8μg/mL、再感染から47日後も20.1μg/mLと高い中和活性を示した。COVID-19再感染例は中和抗体活性上昇を伴う無症候という形で現れる可能性がある。

Inada M, Ishikane M, Terada M, Matsunaga A, Maeda K, Tsuchiya K, Miura K, Sairenji Y, Kinoshita N, Ujiie M, Kutsuna S, Ishizaka Y, Mitsuya H, Ohmagari N.
Asymptomatic COVID-19 re-infection in a Japanese male by elevated half-maximal inhibitory concentration (IC50) of neutralizing antibodies.
https://www.jiac-j.com/article/S1341-321X(21)00124-0/pdf
J Infect Chemother. 2021;27(7):1063-1067.
(2021/4/24)

COVID-19の臨床像

COVID-19の臨床像についての総説である。SARS-CoV-2感染者の約3~4割は無症候性感染者とされるが、発症者の潜伏期は約5日でありインフルエンザ様症状を呈する。嗅覚障害・味覚障害は新型コロナウイルス感染症に特異度の高い症状である。発症者の約2割が発症から7~10日目に重症化するのが典型的な経過である。高齢者や基礎疾患を持つ患者、肥満などがリスクファクターである。急性期を脱して回復した後も症状が遷延するLONG COVIDと呼ばれる、いわゆる後遺症の病態が注目されている。

Kutsuna S.
Clinical Manifestations of Coronavirus Disease 2019.
https://doi.org/doi: 10.31662/jmaj.2021-0013
JMA J. 2021;4(2):76-80.
(2021/4/15)

既存のCOVID-19重症化予測モデルの日本のコホートにおける予測能評価と予測モデルの更新

欧米諸国で開発されたCOVID-19の重症化予測モデルを日本のコホートに用いた場合の性能は不明である。2020年1月から6月までに当院にCOVID-19で入院した160名の患者のデータを検証に用いた。先行研究をレビューして選択した4つの重症化予測モデルの判別能と校正を評価し、各モデルを当院のコホートに対して再校正した。さらに重症化予測因子の尿中β2MGを予測モデルに追加することでモデルの更新を行った。先行研究の4つのモデルは日本のコホートでの重症化を過大推定していた。Bartolettiらの開発した予測モデルが判別能、校正とも最良だった。尿中β2MGでモデルの性能向上は認めなかった。予測モデルを異なるコホートで用いる際は性能を評価することが重要である。

Yamada G, Hayakawa K, Asai Y, Matsunaga N, Ohtsu H, Hojo M, Hashimoto M, Kobayashi K, Sasaki R, Okamoto T, Yanagawa Y, Katagiri D, Terada M, Suzuki M, Sato L, Miyazato Y, Ishikane M, Morioka S, Saito S, Ohmagari N.
External validation and update of prediction models for unfavorable outcomes in hospitalized patients with COVID-19 in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.04.008
J Infect Chemother. 2021;27(7):1043-1050.
(2021/4/12)

COVID-19パンデミック下での病院の収容力

米国、英国、スイス、トルコ、シンガポール、インド、パキスタン、日本の8カ国にある3次医療機関における人口100万人当たりのCOVID-19患者数と各病院における最大のCOVID-19入院患者数との関係、および各国における人口100万人当たりのCOVID-19死亡者数と各病院の集中治療室(ICU)における最大のCOVID-19患者数との関係を調べたところ、いずれもゆるやかな正の相関を認めた。COVID-19以外の患者の治療は0-70%減少したものの、パンデミックのピーク時にも救急外来の活動がいずれの病院でも減少しなかったことは注目に値する。医療システムへの負担軽減の様々な方策が講じられているものの、将来患者数が急増した場合に過負荷となりうる病院は依然多く存在する。

Kokudo N, Sugiyama H.
  Hospital capacity during the COVID-19 pandemic.
https://doi.org/10.35772/ghm.2021.01031
Glob Health Med. 2021;3(2):56-59.
(2021/4/11)

COVID-19流行下でのNCGM職員における健康的な生活習慣と抑うつ症状との関連

NCGMにおいてCOVID-19業務に携わった職員を主な対象とし、健康的な生活習慣と抑うつ症状との関連を調査した(1228名)。生活習慣に関する情報(BMI、喫煙状況、余暇の運動、飲酒、睡眠時間)を使用し、健康的な生活習慣指標を作成した。解析の結果、健康的な生活習慣指標の合計点が高い人は、点数が低い人と比較して抑うつ症状が少なかった。本研究により、COVID-19流行下におけるメンタルヘルス対策として、健康的な生活習慣の重要性が示唆された。

Fukunaga A, Inoue Y, Yamamoto S, Miki T, Nanri A, Ishiwari H, Ishii M, Miyo K, Konishi M, Ohmagari N, Mizoue T.
  Association Between Adherence to Healthy Lifestyles and Depressive Symptoms Among Japanese Hospital Workers During the COVID-19 Pandemic.
https://doi.org/10.1177%2F10105395211007604
Asia Pac J Public Health. 2021.
(2021/4/8)

COVID-19の微生物検査についてのレビュー

日々、代わり続けるCOVID-19に関わる微生物学的検査方法について、日本において、2021年1月時点で承認されている検査機器および検査試薬を中心にレビューを行った。それぞれの検査の特性について核酸検出検査、抗原検査、抗体検査についてもレビューした。また特性を生かしつつ、臨床での活かし方(重症例の診断と感染性の除外)について私案を含めて記載した。

Yamamoto K, and Ohmagari N.
  Microbiological Testing for Coronavirus Disease 2019. 
https://www.jmaj.jp/detail.php?id=10.31662%2Fjmaj.2021-0012
JMA Journal. 2021;4(2):67-75.
(2021/4/2)

複数のSARS-CoV-2抗体迅速キットの結果の一致性

2020年7月にNCGM職員を対象に、SARS-CoV-2抗体の有無を3種類の迅速検査キット(キットA、B、C)と2種類の高精度な定性試薬(アボット社製、ロッシュ社製)を用いて調べた。IgG抗体の陽性率はキットによって大きく異なっていた(キットA:0.41%、キットB:2.36%、キットC:0.08%)。またいずれかのキットで陽性となった51例は、全例がアボットとロッシュの抗体検査で陰性であった。本研究において、抗体陽性率は使用するキットによって大きく異なっており、高精度な検査の結果と一致しなかったことから、臨床現場や調査でキットを使用する際には、事前にそのキットの検査精度を十分に評価しておく必要性が示唆された。

Yamamoto S, Tanaka A, Kobayashi S, Oshiro Y, Ozeki M, Maeda K, Matsuda K, Miyo K, Mizoue T, Sugiura W, Mitsuya H, Sugiyama H, Ohmagari N.
  Consistency of the results of rapid serological tests for SARS-CoV-2 among healthcare workers in a large national hospital in Tokyo, Japan.
https://doi.org/10.35772/ghm.2021.01022
Glob Health Med. 2021;3(2):90-94.
 (2021/4/2)

本邦のCOVID-19回復者における心筋傷害について

2020年5月から9月にCOVID-19感染症から回復した209例において、心筋傷害マーカーの高感度トロポニンT (hs-TnT)が135例(65%)で陽性であり、hs-TnTが高いほど心臓超音波の左室長軸ストレイン(LVGLS)の低下を認めた。ドイツからhs-TnTと心臓MRIによるCOVID-19回復者の心筋傷害が71%と報告されているが、日本でも高頻度に心筋傷害が残存すること、MRIより施行が容易な心臓超音波のLVGLSの有用性を示した。COVID-19の既往は将来の心血管イベント発症のリスクになる可能性もあり、hs-TnT陽性、LVGLS低下では長期的なフォローアップが必要と思われる。

Hayama H,Ide Satoshi , Moroi M, Kitami Y, Bekki N, Kubota S, Uemura Y, Hara H, Kutsuna S, Ohmagari N, Hiroi Y.本邦のCOVID-19回復者における心筋傷害について
  Elevated high-sensitivity troponin is associated with subclinical cardiac dysfunction in patients recovered from coronavirus disease 2019.
https://doi.org/10.35772/ghm.2021.01025
Glob Health Med. 2021;3(2):95-101.
(2021/4/2)

NCGM職員のCOVID-19関連業務への従事とうつ症状の関連

2020年7月にNCGM職員を対象に実施した質問紙調査のデータを利用し、COVID-19関連業務への従事に関する変数とうつ症状の関連を検討した(1228名)。解析の結果、COVID-19関連病棟への所属や業務中のウイルスへの曝露リスクは、うつ症状と有意な関連がなかった。その一方、勤務時間が長い群ではうつ症状が多く見られ(1日あたりの勤務時間が11時間以上の群で8時間以下の群の1.45倍)、医師よりも看護師でこの傾向は強く認められた。本研究結果は、COVID-19関連業務の量的な側面が心理的な負担になっていることを示唆するものである。

Inoue Y, Yamamoto S, Fukunaga A, Hoang DV, Miki T, Islam Z, Miyo K, Ishii M, Ishiwari H, Konishi M, Ohmagari N, Mizoue T.
  Association between engagement in COVID-19-related work and depressive symptoms among hospital workers in a designated COVID-19 hospital in Japan: a cross-sectional study. 
https://doi.org/10.1136/bmjopen-2021-049996
BMJ Open. 2021;11(4):e049996.
(2021/4/1)

2021年3月掲載

肝硬変患者のCOVID-19治療中に発症した巨大門脈血栓症

COVID-19患者では血栓症を発症しやすいことが知られており、門脈血栓を発症した例も報告されている。本論文では、アルコール性肝硬変、破裂後の食道静脈瘤を基礎疾患にもつ60歳台の男性が、COVID-19の治療中に巨大な門脈血栓症を発症したことを特徴的なCT画像と共に報告した。本症例は入院時のCTで血栓を認めず、基礎疾患も考慮して、入院時からは血栓予防目的の抗凝固療法を行わなかったが、入院経過中に巨大な門脈血栓症を認めた。これまでの研究で血清D-ダイマー値が3.0μg/mL以上のCOVID-19患者には抗凝固療法を行うことで予後を改善する可能性が示唆されているが、本症例のように出血リスクの高い症例への抗凝固療法の適応は慎重に検討しなければならない。

Miyazato Y, Ishikane M, Inada M, Ohmagari N.
  Acute portal vein thrombosis with COVID-19 and cirrhosis.
https://doi.org/10.1016/j.idcr.2021.e01094
IDCases. 2021;24:e01094.
(2021/3/27)

NCGMでのCOVID-19患者に対する高流量鼻カニュラ療法の臨床経験

COVID-19患者への高流量鼻カニュラ療法(HFNC)は、エアロゾル生成の懸念により限定的である。HFNC使用経験の蓄積が望まれるため、今回当院での使用状況について報告した。2020年1月から9月の間に266人のCOVID-19患者が入院し、呼吸状態の悪化により15人にHFNCを装着した。8人は呼吸状態の悪化を回避できたが、7人は重症化を回避できなかった。HFNCを装着する場合は全例陰圧個室で管理し、研究期間を通して明らかな院内感染は確認されなかった。HFNCを適切に使用すれば、院内感染を起こさずに、挿管率を減少させることができ、更には医療体制の逼迫の改善にも繋がる。施設環境や人工呼吸器の使用状況に応じて、HFNCは十分に検討されるべきである。

Katsuno T, Suzuki M, Hojo M, Terada J, Nakamura K, Suzuki T, Miyazato Y, Sugiyama H.
 Clinical experience with high-flow nasal cannulas for coronavirus disease 2019 patients in Japan.
https://doi.org/10.1016/j.resinv.2021.02.011
Respir Invest. 2021;59(4):569-572.
(2021/3/26)

COVID-19のPCR検査における鼻咽頭スワブ、鼻腔スワブ、唾液の診断制度について

COVID-19のPCR検査には検体として鼻咽頭スワブ、鼻腔スワブ、唾液が用いられているが、それぞれの検体の診断精度については未だ議論中である。COVID-19と診断された患者からこれらの3種類の検体を同時採取し比較した。一致率はすべての検体では鼻腔スワブ検体、唾液検体でそれぞれ70.2%、54.4%であったが、発症9日目までの検体では87.0%、65.2%であった。また感度はすべての検体では67.5%、37.5%であったが、発症9日までの検体では86.4%、63.6%であり、発症から早期の患者においては鼻腔スワブは唾液検体よりも信頼性が高く、鼻咽頭スワブの代替となりうると考えられた。

Tsujimoto Y, Terada J, Kimura M, Moriya A, Motohashi A, Izumi S, Kawajiri K, Hakkaku K, Morishita M, Saito S, Takumida H, Watanabe H, Tsukada A, Morita C, Yamaguchi Y, Katsuno T, Kusaba Y, Sakamoto K, Hashimoto M, Suzuki M, Takasaki J, Hojo M, Miyoshi-Akiyama T, Sugiyama H.
 Diagnostic accuracy of nasopharyngeal swab, nasal swab and saliva swab samples for the detection of SARS-CoV-2 using RT-PCR.
https://doi.org/10.1080/23744235.2021.1903550
Infect Dis (Lond). 2021;53(8):581-589.
(2021/3/24)

COVID-19回復者血漿中のSARS-CoV-2に対する中和活性の評価

本研究では43名の回復者の血漿中のIgGの感染阻害効果を詳細に解析した。ほぼ全例(42例)でSARS-CoV-2に対する結合抗体の存在が確認されたが、そのうちの27例 (63%) のIgG分画が有意な中和活性を示し、その活性の強さは患者の重症度に相関していた。一方で16例では有意な中和活性は認められなかった。さらに中和活性の上昇を認めた患者の約半数(~41%)でピークから約1か月以内に中和活性の減少が認められた。このような中和活性の推移の特徴は血漿療法に用いるドナー血漿の選択に有用であるだけでなく、回復患者血漿輸注による受動免疫の持続、さらには再感染の可能性などの検討にも有用と考えられる。

Maeda K, Higashi-Kuwata N, Kinoshita N, Kutsuna S, Tsuchiya K, Hattori SI, Kouki Matsuda , Takamatsu Y, Gatanaga H, Oka S, Sugiyama H, Ohmagari N, and Mitsuya H.
 Neutralization of SARS-CoV-2 with IgG from COVID-19-convalescent plasma.
https://doi.org/10.1038/s41598-021-84733-5
Sci Rep. 2021;11(1):5563.
(2021/3/10)

無症候性新型コロナウイルス感染症を診断するための空港検疫における効果的なスクリーニング戦略について

空港検疫で無症候性新型コロナウイルス感染症を診断・隔離するための戦略を検討した。空港検疫での検査で陽性のため療養施設に入所した者を対象に、1~7日目に9種類の検査(鼻咽頭PCR、鼻前庭PCR、唾液PCR(2種類)、唾液LAMP、舌下PCR、唾液・鼻咽頭抗原定量検査、鼻咽頭抗原定性検査)を行い、鼻咽頭PCR検査を対照として各検査の感度を測定した。97人・日のサンプルが採取され、各検査法の感度は46~81%であったが、ウイルス量が多い検体(104copy/sample以上)に限定すると、72.7~100%となった。空港検疫の特殊性および一定程度の頻度で偽陰性が発生することから、たとえ陰性であっても公共交通機関を避け、デジタルツール等を活用し、14日間の自己隔離を徹底することが重要であると考えられた

Norizuki M, Hachiya M, Motohashi A, Moriya A, Mezaki K, Kimura M, Sugiura W, Akashi H, Umeda T.
 Effective screening strategies for detection of asymptomatic COVID-19 travelers at airport quarantine stations: Exploratory findings in Japan.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01109
Glob Health Med. 2021;3(2):107-111.
(2021/3/9)

COVID-19と気管支喘息:疫学と治療に関する最新の知見

CODID-19感染には、気道上皮細胞のACE2受容体が必須となる。喫煙によりACE2発現は増加するため、COPD患者ではCOVID-19に罹患しやすく、重症化しやすい。
一方、喘息患者ではACE2受容体の発現は高くないことから、COVID-19に罹患しやすくない。疫学的にも、喘息患者はCOVID-19に罹患しづらく、C重症化因子とはならないことが明らかにされつつある。
COVID-19蔓延期における気管支喘息治療に関して、未だ明確なエビデンスに欠けるため成人喘息患者では吸入ステロイドや生物学的製剤を含めて通常の治療を継続することを推奨している。

Hojo M, Terada-Hirashima J, Sugiyama H.
  COVID-19 and bronchial asthma: current perspectives.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01117
Glob Health Med. 2021;3(2):67-72.
(2021/3/9)

日本におけるCOVID-19パンデミック時の子どものメンタルヘルス・ケア

COVID-19は、日本でも非常に深刻な問題を引き起こしており、先の緊急事態宣言時に全ての学校が一斉閉鎖されるなど、子どものライフスタイルの変化に伴うメンタルヘルスの問題が懸念されている。子どもたちの健全な心を育むためには、COVID-19を正しく恐れながらも、子どもたちの心の変化を肯定的に捉え、健全な心の成長を促すことが重要である。社会の閉塞感や不安感は、子どもたちの不安感や孤独感を増大させ、世の中の不景気と親の失業などの影響から児童虐待の増加も懸念されている。また、感染への不安から受診を控える傾向がある一方で、摂食障害の急増が続いており、大人たちは子どもたちのメンタルヘルスの問題に常に関心を寄せる必要がある。

Usami M, Sasaki S, Sunakawa H, Toguchi Y, Tanese S, Saito K, Shinohara R, Kurokochi T, Sugimoto K, Itagaki K, Yoshida Y, Namekata S, Takahashi M, Harada I, Hakoshima Y, Inazaki K, Yoshimura Y, Mizumoto Y.日本におけるCOVID-19パンデミック時の子どものメンタルヘルス・ケア
  Care for children's mental health during the COVID-19 pandemic in Japan
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01081
Glob Health Med. 2021;3(2):119-121.
(2021/3/6)

2021年2月掲載

COVID-19流行初期における発熱外来受診者を対象とした厚生労働省による受診の目安についての評価

2020年のCOVID-19流行第1波ではPCR検査の普及が追いつかず、発熱が4日以上続く等が含まれた厚生労働省独自の受診の目安(今回MHLW criteriaとした)を設けた上で、保健所の判断で個々の症例についてPCR検査が実施されていた。今回、PCR検査が可能となった3月9日からの1ヶ月間、当院のPCR外来(発熱外来)を受診した患者277名を対象に評価したところ、陽性率は9.0%であり、MHLW criteiraは感度100%、 特異度10.7%であった。特異度を改善するためにcriteriaを変更し検討を行ったが、感度が低下する結果となった。単施設研究でかつ様々なlimitationはあるが、新興感染症の流行早期は患者を見逃さないことに主眼を置くべきであり、このcriteriaは妥当なものであったと考える。

Ide S, Hayakawa K, Yamamoto K, Tsuzuki S, Tanuma J, Ohara K, Yamada G, Okuhama A, Kanda K, Suzuki T, Akiyama Y, Miyazato Y, Nakamura K, Nomoto H, Nakamoto T, Ujiie M, Saito S, Morioka S, Ishikane M, Kinoshita N, Kutsuna S, Tanaka K, Ohmagari N.
  Positive ratio of polymerase chain reaction (PCR) and validity of pre-screening criteria at an outpatient screening center during the early phase of the COVID-19 epidemic in Japan
https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2020.813
Jpn J Infect Dis. 2021.
(2021/2/26)

COVID-19がザンビア共和国心臓CT/カテーテル検査に与えた影響―医療技術等国際展開推進事業を通してみえた課題―

心血管疾患は、ザンビア共和国の成人の主要死因の1つである。ザンビア政府は日本製CT装置と心臓用血管造影装置をザンビア大学付属教育病院(UTH)に設置したが、教育や人材不足のため十分に活用されずにいた。2017年に開始された本事業では多職種協働医療チームに集中研修を施すことでUTHの医療技術を飛躍的に向上させ、ザンビア初(アフリカ南部地域2番目)の冠動脈CTと経皮的冠動脈形成術(PCI)治療に成功した。 しかし2020年に発生したCOVID-19のパンデミックによりアフリカ地域で都市封鎖(ロックダウン)が導入されたため、インフラの不備に苦しむザンビア国では医療材料の供給が途絶え、価格が高騰し甚大な被害が臨床現場で起きており事業の継続が望まれる。

Kono Y, Shimizu E, Matsunaga F, Egami Y, Yoneda K, Sakamoto K, Mubita M, Sichizya V S , Wakamatsu K, Terashima M, Fujita N.
  Enhancing the use of computed tomography and cardiac catheterizationangiography in Zambia: A project report on a global extension ofmedical technology in Japan.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01107
Glob Health Med. 2021;3(1):52-55.
(2021/2/18)

COVID-19流行期での肺血栓塞栓症の発症と特徴

COVID-19による外出自粛生活に伴い、肺血栓塞栓症(PE)の発症数の増加が予測される。当院でPEの診断・治療を受けた患者を、感染流行期の2020年1月16日から8月31日までの期間と感染流行前の2017-2019年の同時期で比較した。PEの発症数が2017年50件、2018年44件、2019年58件に対して、2020年には75件と大幅に増加し、特に院外発症が顕著だった。流行期の院外発症患者は、例年に比べて高齢で、血栓性の基礎疾患がない患者の割合が多く、PEの重症度が高かった。PEに対する一般市民の認知度を高め、積極的な運動習慣と水分摂取を取り入れた新しい生活様式を促す事が必要である。

Tomidokoro D, Hayama H, Okazaki T, Hara H, Hiroi Y.
 The effect of the COVID-19 pandemic on incidence and characteristics of pulmonary embolism.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01119
Glob Health Med. 2021;3(2):122-124.
(2021/2/15)

日本のWHO協力センターによるCOVID-19対策への取組み

WHO西太平洋地域事務局が2020年8月25日に開催したCOVID-19対策に関するWHO協力センターの経験共有とネットワーキングを図る会合において、NCGMが日本国内のWHO協力センターの活動について発表を行った。WHOとの協力としては、コンサルタント派遣、COVID-19検査の強化、ガイドライン策定への参加等が、研究としては、COVID-19の臨床データに関するレジストリーの開発・拡大等が挙げられた。日本のWHO協力センターは、保健医療システム強化の様々な要素に関する幅広い専門性を有していることから、これらを生かして西太平洋地域各国のCOVID-19対策に貢献することが期待される。

Fujita M, Umeda T, Fujita N, Nishioka T, Iwamoto A, Ohmagari N, Ishikane M, Akashi H, Kokudo Norihiro.日本のWHO協力センターによるCOVID-19対策への取組み
Japanese WHO Collaborating Centres (WHO CCs) fight against COVID-19.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01093
Glob Health Med. 2021;3(2):115-118.
(2021/2/11)

COVID-19に対するレムデシビルの治療効果を検証するための医師主導治験

2020年2月NCGMはNIHが主導するCOVID-19に対するレムデシビルの有効性を検証するための国際共同医師主導治験に参画した。3月から4月にかけて国内で症例登録を行い、5月にはGlobal治験の結果としてPreliminary reportが発表された。今回の治験はCOVID-19の流行初期に迅速に実施されたが、今後も発生しうる新興・再興感染症に対して迅速に研究開発を行うためには日本国内の感染症研究のためのネットワークや運営組織の構築が必要であると考えられた。また日本が国際共同治験を主導するためには、さらなる人材育成、組織構築など国を挙げての取り組みが必要であると考えられた。
Saito S, Hayakawa K, Mikami A, Izumi S, Funazaki H, Ashida S, Sugiura W, Sugiyama H, Kokudo N, Ohmagari N. COVID-19に対するレムデシビルの治療効果を検証するための医師主導治験
  Investigator initiated clinical trial of remdesivir for the treatment of COVID-19 in Japan.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01106
Glob Health Med. 2021;3(2):62-66.
(2021/2/11)

ダイアモンド・プリンセス号におけるSARS-CoV-2ゲノムを用いた伝播動態解析

ダイアモンド・プリンセス号で2020年1-2月に起きたCOVID-19の集団発生について、本研究ではウイルスゲノムを用いてマルコフ連鎖モンテカルロ法とベイズ推定による分子系統解析を行い感染拡大経緯を推定した。系統解析では単一の感染源が示唆された。推定塩基置換速度を用いた合祖理論による解析では推定感染者数は1月下旬から2月5日頃まで増加、以後緩徐に一定となった。Birth-Deathモデルによる解析では集団感染は1月21日頃始まり、実効再生産数は、航海中が2~3、2月4日に6.1へ達し、以後1.5まで低下したと推定された。感染の大部分は検疫前に発生した一方、検疫後も緩徐な感染拡大が生じた可能性があり、さらなる感染対策の必要性が示唆された。
Hoshino K, Maeshiro T, Nishida N, Sugiyama M, Fujita J, Gojobori T, Mizokami M.
  Transmission dynamics of SARS-CoV-2 on the Diamond Princess uncovered using viral genome sequence analysis.
Gene 2021;779:145496.
https://doi.org/10.1016/j.gene.2021.145496
(2021/2/3)

2021年1月掲載

NCGM職員の新型コロナウイルス抗体保有率(2020年7月調査)

Covid-19入院患者を多数受け入れてきた国立国際医療研究センターにおいて、Covid-19に関する業務に携わった職員を主な対象として2020年7月、抗体調査を実施した。測定には、アボット社製(IgG)とロシュ社製(IgGを含む成熟抗体)の定性検査試薬を用いた。参加者1,228名のうち、いずれかの検査で陽性であった人は2名(0.16%)であり、同時期の東京都住民の陽性率(0.41%、同じ定義で再計算)を下回った。多面的な院内感染対策により、Covid-19患者のケアに携わる医療従事者の感染リスクを地域住民と同程度、あるいはそれ以下に低減できることが示唆された。
Tanaka A, Yamamoto S, Miyo K, Mizoue T, Maeda K, Sugiura W, Mitsuya H, Sugiyama H, Ohmagari N. Seroprevalence of antibodies against SARS-CoV-2 in a large national hospital and affiliated facility in Tokyo, Japan.
  Seroprevalence of antibodies against SARS-CoV-2 in a large national hospital and affiliated facility in Tokyo, Japan
J Infect. 2021;82(4):e1-e3.
https://doi.org/10.1016/j.jinf.2021.01.010
(2021/1/29)

Overview: 日本国内でのCOVID-19に関する流行とその対応について

2020年1月にCOVID-19が日本で確認されたがこの一年間の状況についてまとめる。第1波では4月に緊急事態宣言が発令されたことで新規感染者数は2桁程度まで大きく減少した。その後、経済活動の再開により再度感染状況が悪化したが第2波では緊急事態宣言の発令なしに落ち着きを見せた。第3波では2020年11月から継続的に感染者が増加し、2021年1月7日に緊急事態宣言が再度発令された。第3波では主要都市のCOVID-19患者向け受入病床の使用状況が50%を超え、逼迫している。この状況は医療機関・医療従事者へと労働的負担だけでなく経済的な負担を大きく強いることになり、今後も継続的にCOVID-19と戦うために強力な対策と追加の支援が早急に必要となる。
Karako K, Song P, Chen Y, Tang W, Kokudo N.
  Overview of the characteristics of and responses to the three waves of COVID-19 in Japan during 2020-2021.
Biosci Trends. 2021;15(1):1-8.
https://doi.org/10.5582/bst.2021.01019
(2021/1/29)

COVID-19流行下でのNCGM職員における同居者の有無と抑うつ症状の関連

国立国際医療研究センターにおいて、COVID-19に関する業務に携わった職員を主な対象とし、2020年7月に抗体調査、質問調査、採血を行った。本調査に参加した1,228名(男性353名および女性875名)において同居者の人数と抑うつ症状との関連を調べた。その結果、同居者がいる人は一人暮らしの人に比べて抑うつ症状が少なかった。本研究により、COVID-19流行下において特に一人暮らしの医療従事者に対するメンタルヘルスケアの必要性が示唆された。
Miki T, Yamamoto S, Inoue Y, Fukunaga A, Islam Z, Ishiwari H, Ishii M, Miyo K, Konishi M, Ohmagari N, Mizoue T.
  Association between living with others and depressive symptoms in Japanese hospital workers during the COVID‐19 pandemic.
https://doi.org/10.1111/pcn.13206
Psychiatry Clin Neurosci. 2021;75(4):148-149.
(2021/1/28)

日本のCOVID-19拡大下における介護保険居宅サービス利用の変化

本研究では、居宅要介護高齢者の介護保険サービス利用における、COVID-19拡大による変化を記述した。研究デザインは後方視的記述研究であり、株式会社SMSが提供する事業者向け経営支援サービス「カイポケ」のデータを用いた。COVID-19拡大開始前後(前2019年7月~12月、後2020年1月~6月)における65歳以上居宅介護保険サービス利用者数の変化について、分割時系列分析を行った。その結果、通所系サービスの利用は減少しており、特に緊急事態宣言が先行した7県で顕著であった。一方、訪問系サービスの利用は維持されていた。こうしたCOVID-19による影響については引き続き注視し、またアウトカムについても影響を検証していく必要がある。
Ito T, Hirata-Mogi S, Watanabe T, Sugiyama T, Jin X, Kobayashi S, Tamiya N. 
  Change of use in community services among disabled older adults during COVID-19 in Japan.
https://doi.org/10.3390/ijerph18031148
Int J Environ Res Public Health. 2021;18(3):1148.
(2021/1/28)

インドール環を有する5hはSARS-CoV-2 Mproを特異的に阻害しウイルス複製を強力に抑制する

COVID-19に有効な抗ウイルス薬は現状ではレムデシビル(RDV)のみである。我々はSARS-CoV-2のメインプロテアーゼ(Mpro)を阻害、ウイルス増殖を強力に抑制する小分子化合物5hを見出した。細胞を用いた実験で5hのEC50(ウイルス増殖の50%抑制濃度)は4.2 µMと強力で、蛍光免疫染色法での観察ではRDVがウイルス複製を許す一方、5hは完全に抑制、RDVと5hの併用は強力な相乗効果を発揮した。X線結晶解析等で5hはMproに共有結合を介して結合、Mproの酵素活性をブロックしてウイルスの増殖を抑制することが示された。これらの結果は5hがCOVID-19治療薬開発に大きな示唆を与える。
Hattori SI, Higashi-Kuwata N, Hayashi H, Allu SR, Raghavaiah J, Bulut H, Das D, Anson BJ, Lendy EK, Takamatsu Y, Takamune N, Kishimoto N, Murayama K, Hasegawa K, Li M, Davis DA, Kodama EN, Yarchoan R, Wlodawer A, Misumi S, Mesecar AD, Ghosh AK, Mitsuya H.
  A small molecule compound with an indole moiety inhibits the main protease of SARS-CoV-2 and blocks virus replication.
Nat Commun. 2021;12(1):668.
https://doi.org/10.1038/s41467-021-20900-6
(2021/1/28)

COVID-19患者のECMO管理中に人工肺排気口からウイルス漏出が起こりうる

COVID-19重篤患者は人工呼吸器での対応が困難となった際に、体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とする場合がある。しかし人工肺の構造上、ウイルス血症を呈している場合に血中から人工肺膜を通過し環境中に漏出する懸念があると以前から報告されていたが、実際に漏出するかどうかは不明であった。本論文ではECMO管理を要した患者5名のうち3名に使用した人工肺の排気口からウイルスRNAが検出されたことを報告した。これは人工肺からウイルスが漏出する可能性を示唆しており、COVID-19患者に使用した人工肺を扱う際に感染管理上注意を要する。また人工肺にカバーをかけ汚染を防ぐ取り組みを報告した。
Ogawa T, Uemura T, Matsuda W, Sato M, Ishizuka K, Fukaya T, Kinoshita N, Nakamoto T, Ohmagari N, Katano H, Suzuki T, Hosaka S.
  SARS-CoV-2 Leakage from the Gas Outlet Port during Extracorporeal Membrane Oxygenation for COVID-19.
ASAIO J. 2021;67(5):511-516.
https://doi.org/10.1097/mat.0000000000001402
(2021/1/21)

COVID-19回復者の抗体価上昇因子の解析

本研究は、COVID-19の回復者84名の血清のスパイク蛋白抗体を測定し、どのような背景のある患者で高い抗体価がみられるのかを検討したものである。多変量解析を行ったところ、抗体価の上昇因子として男性、糖尿病を有する、急性期の経過中のCRP値が高値である、という3つの因子が関連していることが分かった。国内外において回復者血漿療法がCOVID-19の臨床研究が行われているが、本研究によって、抗体価の高い回復者の条件が判明し、効率よく回復者の臨床研究へのリクルートが進められることが期待される。
Kutsuna S, Asai Y, Matsunaga A, Kinoshita N, Terada M, Miyazato Y, Nakamoto T, Suzuki T, Saito S, Endo M, Kanda K, Kenji M, Takasaki J, Hojo M, Ishizaka Y, Ohmagari N.
 Factors associated with anti-SARS-CoV-2 IgG antibody production in patients convalescing from COVID-19.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.01.006
J Infect Chemother. 2021;27(6):808-813.
(2021/1/18)

COVID-19肺炎の回復期にも血痰やブラ形成が起こりうる

COVID-19の主な症状は発熱や咳嗽であり、両側の胸膜直下に広がるすりガラス影が一般的な胸部CT所見として報告されている。本論文では発熱や咳などの症状が改善したCOVID-19肺炎の回復期に血痰が生じ、CT検査で新たなブラ形成を指摘された症例を報告した。臨床経過や検査所見から急性期に生じた肺胞障害が血痰やブラ形成の原因である可能性が高いと考えた。肺胞障害の回復期にも血痰やブラを原因とした気胸などの合併症がおこる可能性があるため、肺胞障害を示唆する所見があった症例については、症状改善後も経過観察が必要である。
Sato L, Kinoshita N, Nakamoto T, Ohmagari N.
  Hemoptysis and a Newly Formed Lung Bulla in a Case of Convalescent COVID-19 Pneumonia.
Intern Med. 2021;60(5):803-805.
https://doi.org/10.2169/internalmedicine.5684-20
(2021/1/15)

重症度の異なるCOVID-19患者の回復者血漿中にSARS-CoV-2-RNAは検出されなかった

COVID-19の治療法として期待されている回復者血漿ではドナー血液の厳格な品質管理が必要だが、回復者血漿中にSARS-CoV-2 RNA(RNAemia)が存在するかの知見は乏しい。今回、軽症から重症のCOVID-19に罹患した回復期ドナー100人を対象にRNAemiaを調べた。軽症77人(77.0%),中等症19人(19.0%),重症4人(4.0%)のCOVID-19既感染者を検査した。発症から検査までの期間の中央値は68.5日(四分位範囲、21-167日)であり、いずれの血漿中からもRNAemiaは検出されなかった。また軽症者,中等症者,重症者において、発症から少なくとも21日後,27日後,57日後にはRNAemiaは検出されなかった。本研究は回復者血漿採取の適切な時期の決定や使用の安全性に関わる有用な知見になると思われる。

Nomoto H, Kutsuna S, Okuma K, Kuramitsu M, Tezuka K, Ikebe E, Saito S, Kinoshita N, Terada M, Endo M, Suzuki T, Miyazato Y, Nakamoto T, Inada M, Hamaguchi I, Ohmagari N.
  No SARS-CoV-2 RNA detected in the convalescent plasma of COVID-19 patients with different disease severity.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2021.01.004
J Infect Chemother. 2021;27(4):653-655.
(2021/1/10)

2020年12月掲載

COVID-19に対する迅速抗原検査の有用性:感染性についての予測因子

迅速抗原検査は安価で、必要なリソースが少ない検査であるが、検討数がそれほど多くなく、感度についての議論が残っている。また病早期には感度が高いが、その特性を利用して感染性の予測因子として用いることができないかを検討した。RT-qPCRの結果を対照として、迅速抗原検査は病早期ならば比較的高い一致率(κ 0.5)をもち、特にコピー数が高い検体(1000コピー/アッセイ感染研法)であればかなり一致率が高かった(κ>0.8)。結果が乖離しやすい状況は発熱がないか、ウイルス増殖をおさえ得る薬剤の使用に関わっていた。迅速抗原陰性の結果は、多変量解析の結果、平熱、病日が11日以降、つまり隔離解除可能な状況に対する予測因子となる可能性があった。

Yamamoto K, Suzuki M, Yamada G, Sudo T, Nomoto H, Kinoshita N, Nakamura K, Tsujimoto Y, Kusaba Y, Morita C, Moriya A, Maeda K, Yagi S, Kimura M, Ohmagari N.
  Utility of the antigen test for coronavirus disease 2019: Factors influencing the prediction of the possibility of disease transmission.
Int J Infect Dis. 2021;104:65-72.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2020.12.079
(2020/12/26)

中国・武漢在住邦人のチャーター便による避難がもたらしたCOVID-19流行の予防効果:数理モデル研究

日本政府はCOVID-19の流行を受け2020年1月末に武漢市へチャーター便を派遣、邦人566名が帰国した。感染症流行対策としての避難は日本では前例がなく、その効果に関しては議論がなされていないためその効果を算出した。一般的なSIRモデルに報告の遅れや行動変化、無症状者等を追加し流行を記述するモデルを構築し、湖北省と武漢市における感染者数から感染率、報告割合のパラメータを推定した。チャーター便による避難が行われなかった場合、武漢在住邦人の累積患者数は2020年2月8日の時点で25(95%信頼区間20-29)人、2月15日の時点で34(28-40)人に達し、避難が一週間遅れた場合は14人、二週間遅れた場合は23人の患者数増加に繋がると推定された。

Asai Y, Tsuzuki S, Kutsuna S, Hayakawa K, Ohmagari N.
  Effect of evacuation of Japanese residents from Wuhan, China, on preventing transmission of novel coronavirus infection: A modelling study.
J Infect Chemother. 2021;27(3):515-520.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2020.12.011
(2020/12/16)

COVID-19肺炎へのポリミキシンB固定化繊維カラムを用いた直接血液灌流(PMX-DHP)

PMXは、グラム陰性菌感染症に伴う敗血症病態の改善を図る医療機器として認可されている。一方で間質性肺炎の急性増悪に対する肺酸素化能の改善効果も知られている。PMXではエンドトキシン除去以外に、サイトカインストームに関与する炎症性メディエーターのほか、肺組織を直接的に傷害する活性化白血球などの細胞成分の吸着除去も報告されている。そのため、COVID-19肺炎患者に対しても、PMXの炎症低減効果が病態改善に働く可能性が考えられる。今回、我々はいわゆる新型コロナ第1波と言われた時期に、酸素需要のあった12症例に対してPMXを施行した。特徴的な回路凝固の経験や、サイトカインの動態を含めて報告した。

Katagiri D, Ishikane M, Asai Y, Izumi S, Takasaki J, Katsuoka H, Kondo I, Ide S, Nakamura K, Nakamoto T, Nomoto H, Akiyama Y, Miyazato Y, Suzuki T, Kinoshita N, Ogawa T, Togano T, Suzuki M, Hashimoto M, Sakamoto K, Kusaba Y, Katsuno T, Fukaya T, Hojo M, Sugiyama M, Mizokami M, Okamoto T, Kimura A, Noiri E, Ohmagari N, Hinoshita F, Sugiyama H.
  Direct hemoperfusion using a polymyxin B-immobilized polystyrene column for COVID-19.
J Clin Apher. 2021;36(3):313-321.
https://doi.org/10.1002/jca.21861
(2020/12/15)

入院中のCOVID-19患者に対するフローチャートを用いた眼科コンサルト

COVID-19患者における眼合併症の多くは基本的に視力低下を生じないが、入院患者では診断治療の遅れから重篤な視力低下をきたす眼症状を合併する可能性がある。自然治癒が見込まれる結膜炎や神経内科にコンサルトすべき複視から、重篤な視力低下につながる可能性がある角膜疾患や眼圧上昇など多彩な眼疾患に対し、眼症状やリスクを中心に眼科医にコンサルトすべきタイミングをフローチャートにまとめた。眼科医の常駐しない施設において、またCOVID-19の第三波、第四波、あるいは来たる未知の感染症に対するパンデミックの際にも、このフローチャートは有用と思われる。

Yashiro S, Ueta T, Kutsuna S, Okamoto T, Nagahara M, Ohmagari N. 2_2020_GHM_yashiro.jpg
 Using flowchart for ophthalmic consultations in hospitalized patients with COVID-19.
Glob Health Med. 2020;2(6):395-397.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01091
(2020/12/14)

2020年11月掲載

COVID-19パンデミックにおける“ステイホーム”の課題:居住に関する脆弱性を持つ9つの人口集団の検討

居住に関する脆弱性を持つ様々な人口集団におけるCOVID-19の社会経済的影響、感染と重症化リスク、対応策ならびに課題を概観する枠組みを作成し、わが国の9つの人口集団に適用して検討を行った。居住の脆弱性を捉える視点として国際的なホームレスの定義を援用し、路上生活者などの住居を持たない人々、インターネットカフェや無料低額宿泊所など暫定的な住居に起居する人々、及び困窮する非正規労働者・LGBTQ・外国人など不安定な居住状況に陥りやすい人々の3つのカテゴリーに分けて分析した。各人口集団特有の課題と共通する課題を整理することをとおして、分野・セクターを超えて対応する必要性を提示した。

Fujita M, Matsuoka S, Kiyohara H, Kumakura Y, Takeda Y, Goishi N, Tarui M, Inaba M, Nagai M, Hachiya M, Fujita N.
 “Staying at home” to tackle COVID-19 pandemic: Rhetoric or Reality? Cross-cutting analysis of nine population groups vulnerable to homelessness in Japan.
Trop Med Health. 2020; 48(1):92.
https://doi.org/10.1186/s41182-020-00281-0
(2020/11/23)

プロトコル論文:無症状~軽症COVID-19患者に対するシクレソニド吸入剤の有効性及び安全性を検討する第Ⅱ相試験

今回我々は、COVID-19に対する治療薬候補の1つである吸入シクレソニドの有効性及び安全性を検討するために、多施設共同非盲検ランダム化第Ⅱ相試験を行った。日本国内の22の病院から、胸部単純写真で肺炎がないCOVID-19患者を90名登録し、シクレソニド400μgを1日3回、7日間にわたって吸入するシクレソニド投与群と、対症療法のみを行う対症療法群のいずれかに無作為に割り付けた。両群とも必要に応じて鎮咳剤および解熱剤等を投与する対症療法は行った。主要評価項目は投与8日後の肺炎増悪割合の差であり、独立した放射線科医がブラインド下で投与前と投与1週間後のCT画像を比較して評価した。解析はFisherの正確検定を行って評価し、有意水準は両側10%とした。

Terada-Hirashima J, Suzuki M, Uemura Y, Hojo M, Mikami A, Sugiura W, Ohmagari N, Sugiyama H.
 The RACCO Trial to Assess the Efficacy and Safety of Inhaled Ciclesonide for Asymptomatic and Mild Patients with Covid-19: A Study Protocol for a Multi-center, Open-labeled, Randomized Controlled Trial.
JMIR Res Protoc. 2020;9(12):e23830.
https://doi.org/10.2196/23830
(2020/11/18)

COVID-19流行初期における感染症外来での電話相談

2019年12月、中国武漢でCOVID-19が確認された翌月に国内初の症例が報告されると、感染症外来への電話での問い合わせが増加した。国内におけるCOVID-19流行初期には、社会の混乱や情勢を反映し感染症外来への電話相談が急増した。第1波では東京都の陽性者数と電話相談数が連動する傾向にあった。これらの相談に対し、国際感染症センター、国際診療部をはじめとする院内各部署、および地域の連携医に協力を仰ぎ即座に対応を行った。第2波では、病院内や地域に適切な医療体制が整備されていたため、電話相談の増加はなかった。新興感染症発症の初期段階では、関連情報を迅速に集約し、状況に応じた対策につなげる必要がある。

Osanai Y, Kinoshita N, Hayakawa K, Tanaka K, Hamano T, Kutsuna S, Ujiie M, Morioka S, Yamamoto K, Isikane M, Saito Sho, Sugiura Y, Ohmagari.COVID-19流行初期における感染症外来での電話相談
 Telephone consults at the Infectious Disease Outpatient Clinic during the early period of the COVID-19 epidemic
Glob Health Med. 2020;2(6):392-394.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01085
(2020/11/16)

帰国後のCOVID-19に対する自主検疫により透析が中断され問題となった症例

米国で維持透析を受けていた47歳の透析患者が、ルールに則って自主検疫を行い、帰国後7日間透析を受けずにホテルに滞在していた結果、呼吸困難と全身倦怠に陥り、当院に入院して緊急透析を実施することとなった。このケースは、コロナ禍における維持透析患者の国境を越えた移動について、患者の安全と生命を守る為、社会的かつ医学的な制度整備が必要と考えられたので社会への警鐘を鳴らす目的で報告した。

Arai Y, Katagiri D, Hinoshita F.
 A case of dialysis interruption caused by voluntary quarantine against the coronavirus disease (COVID-19) after returning from overseas to Japan.
Ther Apher Dial. 2020.
https://doi.org/10.1111/1744-9987.13608
(2020/11/15)

鼻咽頭ぬぐい液を対象とした新型コロナウイルス遺伝子検出POCT試薬「スマートジーン新型コロナウイルス検出試薬」の検討

COVID-19は,SARS-CoV-2による感染症であり,2020年世界的パンデミックを起こし,日本においても国を挙げた対応が余儀なくされている。COVID-19診断には主として臨床材料から病原体遺伝子を検出する方法が用いられる。2020年8月に新しい検査法として,株式会社ミズホメディーから全自動遺伝子検出装置Smart Gene用の新型コロナウイルス検出試薬が販売された。この遺伝子検出法は,鼻咽頭を拭ったスワブを専用の抽出液に懸濁した後,専用のテストカーリッジに4滴滴下するだけのワンステップで検査が可能なPoint of care testing遺伝子検出法である。本検討は,凍結保存していた鼻咽頭拭いウイルス輸送培地25検体を対象に,この新しい検査法とTaqManプローブを用いた定量リアルタイムone-step RT-PCR測定結果を比較評価することを目的として行った。検討の結果,陽性一致率100%(10/10),陰性一致率100%(15/15),全体一致率100%(25/25)であり,本検討のうち最も低RNAコピー数の検体は6.41 copies/testだった。この新しい遺伝子検出法は,簡便な操作性からクリニックや中核病院まで幅広い診療現場で利用可能であり,フレキシブルなPCR検査対応により診療及び感染管理に役立つことが期待される。

守屋任, 山元佳, 秋山徹, 木下典子, 須藤務, 本橋亜耶乃, 宇佐見彩香, 猪坂英里奈, 安藤ほなみ, 大木仁, 黒川正美, 目崎和久, 田中暁人, 荘司路, 小関満, 木村基, 大曲貴夫.
  鼻咽頭ぬぐい液を対象とした新型コロナウイルス遺伝子検出POCT試薬「スマートジーン新型コロナウイルス検出試薬」の検討
http://journal.kyorin.co.jp/journal/jscm/detail_j.php?-DB=jscm&-recid=1152&-action=browse
日本臨床微生物学会雑誌. 2021;31(2):103-107.
(2020/11/11)

新型コロナウイルスのPCR検査が退院後に再陽性となった4例の報告

2019年度の流行初期にCOVID-19患者及びSARS-CoV-2の無症状病原体保有者が病原体消失の確認による退院基準を満たした後、PCR検査で再陽性となった4例について、当該症例からの二次感染のリスクを評価した。評価は、積極的疫学調査により収集された臨床情報を用いて、発症からの再陽性時までの期間、PCR検査のCt値、中和抗体の存在、接触者調査の結果を用いて行い、結果、当該症例の感染性は低いものと考えられた。再感染症例の感染性評価に必要となる検査体制及び医療機関との連携体制については課題も残る。今後もCOVID-19の病態を解明し、適切な医療を提供するため、引き続き、PCR検査再陽性者の感染性の評価に関する知見の蓄積が望まれる。

氏家無限,加藤康幸,黒木淳,寺島俊和,伊藤稔之,麻岡大裕,白野倫徳,柿木康孝.
  A Review of Four Cases of COVID-19 with a Repeat-positive PCR Test for SARS-CoV-2 after Hospital Discharge.
http://journal.kansensho.or.jp/Disp?style=abst&vol=95&mag=0&number=1&start=32
感染症誌. 2021;95:32-36.
(2020/11/9)

胸部単純CTによる肺動脈-大動脈径比とCOVID-19の臨床重症度との関連

COVID-19では、肺血管内皮障害や肺血栓塞栓症などによる肺高血圧と重症化の関連が報告されているが、感染リスクから心エコーや侵襲性から心臓カテーテルによる肺高血圧症の確定診断は難しい。本研究ではCOVID-19の確定診断で入院時に胸部単純CT検査を施行した103名において、肺動脈-大動脈径比(PA/Ao ratio)が予後と有意に関連し、> 0.9の場合、重症化(酸素需要4L/分以上、挿管管理、人工心肺装置や死亡)を予測できる事を示した。肺炎精査で施行されることが多い胸部単純CTで簡便にCOVID-19の予後を予測でき、日常臨床で極めて有用な指標であると考える。

Hayama H, Ishikane M, Sato R, et al.
  Association of plain computed tomography-determined pulmonary artery-to-aorta ratio with clinical severity of coronavirus disease 2019.
Pulmonary Circulation. 2020;10(4):2045894020969492.
https://doi.org/10.1177/2045894020969492
(2020/11/5)

発熱外来を受診した非COVID-19患者の中に占める重症患者の内訳

2020年3月11日から4月24日に国立国際医療研究センター病院の発熱外来を受診した1,470人のうち、84人(5.7%)が入院した。84人中45人(53.6%)がCOVID-19患者であった。非COVID-19入院患者39人のうち、9人が生命を脅かす重大な疾患であった。その内訳は、急性心不全(3人)、敗血症性ショック(2人)、HIV/AIDSに伴うニューモシスチス肺炎(2名)、扁桃周囲膿瘍(1人)、壊死性筋膜炎(1人)であった。COVID-19をスクリーニングする外来であっても、COVID-19以外の重大な疾患が隠れていることがあるので注意深く診療する必要がある。

Akiyama Y, Morioka S, Wakimoto Y, Kawashima A, Kanda K, Okuhama A, Suzuki T, Miyazato Y, Nomoto H, Ide S, Nakamoto T, Nakamura K, Ota M, Moriyama Y, Takaya S, Yamada K, Taguchi M, Sugito E, Izuka S, Ishiguro K, Kobayashi T, Miyake W, Kubota S, Ishikane M, Kinoshita N, Yamamoto K, Ujiie M, Kutsuna S, Hayakawa K, Saito S, Ohmagari N.
  Non-COVID-19 Patients with Life-threatening Diseases Who Visited a Fever Clinic: A Single-Center, Observational Study in Tokyo, Japan
Intern Med. 2020;59(24):3131-3133.
https://doi.org/10.2169/internalmedicine.5614-20
(2020/11/2)

日本国内におけるCOVID-19第一波と第二波の比較

COVID-19 Registry Japanのデータを用いて、日本国内におけるCOVID-19の流行状況を第一波(2020年1月26日~5月31日)、第二波(6月1日~7月31日)として比較した。第一波においては入院時に重症であった症例が多く、発症から入院までの日数が長い傾向にあった。第二波においては若年者の割合が高く、基礎疾患を有する割合が低かった。さらにすべての年齢層において死亡率が低い傾向にあった。これらの結果から第一波においては医療体制がよりひっ迫した状態であったことが示唆された。

Saito S, Asai Y, Matsunaga N, Hayakawa K, Terada M, Ohtsu H, Tsuzuki S, Ohmagari N.
  First and second COVID-19 waves in Japan: A comparison of disease severity and characteristics.
J Infect. 2021;82(4):84-123.
https://doi.org/10.1016/j.jinf.2020.10.033
(2020/11/2)

COVID-19回復期に出現した、川崎病などに特徴的な爪所見(Beau's nail、leukonychia)

COVID-19は小児の重篤な病態として、川崎病に類似した小児多系統炎症症候群pediatric inflammatory multisystem syndrome:PIMS)が報告されているが、成人でも関連性が注目されている。Beau's nailやleuknychiaは川崎病との関連が指摘されており、今回COVID-19のため酸素やステロイド投与などを受けた日本人成人男性が発症約2ヶ月後にそれらの爪所見を呈したため報告した。COVID-19における病態把握のためには爪所見も重要である。

Ide S, Morioka S, Inada M, Ohmagari N.
  Beau’s lines and leukonychia in a patient with coronavirus disease.
Intern Med Advance Publication. 2020.
https://doi.org/10.2169/internalmedicine.6112-20
(2020/11/2)

2020年10月掲載

COVID-19回復後に遷延する症状と遅発性合併症

COVID-19で当院 国際感染症センターに入院し2020年2月~6月に退院した78名を対象として、COVID-19回復後に遷延する症状と遅発性合併症に関する電話インタビュー調査を行い、63名より回答を得た。COVID-19急性期症状である呼吸困難、倦怠感、咳嗽、嗅覚障害が発症から120日経過しても残存することがわかった。具体的には、呼吸困難(7名 11.1%)、倦怠感(6名 9.5%)、嗅覚障害(6名 9.7%)、咳嗽(4名 6.3%)であった。加えて、COVID-19から回復した症例の24.1%に脱毛を認めた。脱毛は発症から約2か月間経過してから発症し、約2か月半続くことがわかった。今後、どのような症例に症状が出現・遷延しやすいのか、脱毛などの遅発性合併症が起こりやすいのかに関する検討が必要である。

Miyazato Y, Morioka S, Tsuzuki S, Akashi M, Osanai Y, Tanaka K, Terada M, Suzuki M, Kutsuna S, Saito S,  Hayakawa K, Ohmagari N.
 Prolonged and late-onset symptoms of coronavirus disease 2019.
Open Forum Infectious Diseases. 2020.
https://doi.org/10.1093/ofid/ofaa507
(2020/10/21)

川崎病様の膜様落屑を回復期に認めた成人重症COVID-19症例

COVID-19は小児の重篤な病態として、川崎病に類似した小児多系統炎症症候群(MIS-C; Multisystem Inflammatory Sndrome in Children)が報告されている。MIS-Cは川崎病のように回復期に膜様落屑を認めたり一部後遺症として冠動脈病変を呈する。最近では成人でも同様の病態(MIS-A; Multisystem Inflammatory Sndrome in Adult)が報告されている。治療にECMOまで要した重症COVID-19患者で回復期に川崎病に類似した膜様落屑を手足の指先端に認めた症例を経験した。欧米からは成人のCOVID-19重症例でMIS-Aの報告もあり、これらではMIS-Cのように冠動脈病変に注意する必要がある。

Nakamoto T, Ishikane M, Sasaki R, Ohmagari N.
 Periungual desquamation in a Japanese Adult recovering from severe COVID-19.
Int J Infect Dis. 2020.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2020.10.029
(2020/10/17)

重症度別のCOVID-19患者病室の環境表面と空気汚染

重症度別にCOVID-19患者病室の環境表面および空気汚染を調査し、SARS-CoV-2による環境汚染は重症度に伴って増加しないことが明らかになった。SARS-CoV-2が検出されたのは、2人の重症患者が共有する聴診器の表面、人工呼吸器の挿管チューブ、そのケアをしている看護師のガウンのみであった。これらの結果から、COVID-19患者の周囲の環境や医療機器に汚染が発生する可能性があることから、環境や医療機器の適切な清掃、PPEの適切な着脱が必要であることが示唆された。本研究ではSARS-CoV-2による空気汚染は確認されなかったが、陰圧環境が影響していた可能性があり、さらなる研究が必要である。

Nakamura K, Morioka S, Kutsuna S, Iida S, Suzuki T, Kinoshita N, Suzuki T, Sugiki Y, Okuhama A, Kanda K, Wakimoto Y, Ujiie M, Yamamoto K, Ishikane M, Moriyama Y, Ota M, Nakamoto T, Ide S, Nomoto H, Akiyama Y, Miyazato Y, Hayakawa K, Saito S, Ohmagari N.
  Environmental surface and air contamination in severeacute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) patient rooms by disease severity.  
Infection Prevention in Practice. 2020;2(4):100098.
https://doi.org/10.1016/j.infpip.2020.100098
(2020/10/13)

東京の『夜の街』におけるCOVID-19:2020年3-4月

2020年3月9日から4月26日にNCGMの発熱相談外来および感染症外来でSARS-CoV-2のPCR検査を受けた者を対象に、疫学および臨床情報を解析した。COVID-19の夜の街クラスターの特徴を記述し、夜の街への曝露とPCR検査結果の関連を検討することを目的とした。1,517人が研究に含まれ、196人(12.9%)が夜の街群に分類された。傾向スコアマッチングを行った結果、PCR陽性率は夜の街群で63.8%、非夜の街群で23.0%と、夜の街群で有意に高かった。同産業におけるCOVID-19の感染リスクを軽減する対策が必要である。

Takaya S, Tsuzuki S, Hayakawa K, Kawashima A, Okuhama A, Kanda K, Suzuki T, Akiyama Y, Miyazato Y, Ide S, Nakamura K, Nomoto H, Nakamoto T, Hikida S, Tanuma J, Ohara K, Ito T, Baba T, Yamamoto K, Ujiie M, Saito S, Morioka S, Ishikane M, Kinoshita N, Kutsuna S, Ohmagari N. 
  Nightlife clusters of coronavirus disease in Tokyo between March and April 2020. 
Epidemiol Infect. 2020;148:e250.
https://doi.org/10.1017/S0950268820002496
(2020/10/13)

2020年9月掲載

上海の小中学生におけるCOVID-19流行に伴う学校閉鎖中の抑うつ症状

中国上海の小中学生2,427例を対象に、COVID-19流行による学校閉鎖が行われる直前と閉鎖1~2ヵ月間後に抑うつ症状を調査した。予想に反し、抑うつ症状がある割合は学校閉鎖中にむしろ減っていた。学校閉鎖に伴う生活上の変化として、「家に居られる」「親と一緒に居られる」「自分のやりたいことができる」ことに調査に参加した小中学生の7割以上が満足していた。上海の小中学校において、Covid-19流行に伴う学校閉鎖後の心の健康状態の悪化は認められなかった。学校閉鎖の長期的な影響についてさらなる研究が必要である。

Xiang M, Yamamoto S, Mizoue T.
 Depressive symptoms in students during school closure due to COVID-19 in Shanghai.
Psychiatry Clin Neurosci. 2020.
https://doi.org/10.1111/pcn.13161
(2020/9/30)

日本におけるCOVID-19入院患者の臨床疫学的特徴:COVID-19 REGISTRY JAPAN初報

COVID-19 REGISTRY JAPAN(COVI-REGI)は、国立国際医療研究センターが中心となって立ち上げたCOVID-19の症例データベースである。227の医療施設から登録された2638例を検討の対象とした。年齢中央値は56歳(四分位範囲[IQR]:40~71歳)で、症例の半数以上が男性であった。症例の60%近くがCOVID-19確定例または疑い例と濃厚接触歴があった。併存疾患は高血圧(15%)と合併症を伴わない糖尿病(14.2%)が最も多かった。入院中経過は、酸素非投与患者(61.6%)が最多で、次いで酸素投与患者(29.9%)、侵襲的機械的換気またはECMOを使用した患者(8.5%)であった。66.9%の患者が自宅退院し、7.5%が入院中に死亡した。欧米諸国の報告と比し、併存疾患が少なく、死亡率が低い傾向にあることがわかった。

Matsunaga N, Hayakawa K, Terada M, Ohtsu H, Asai Y, Tsuzuki S, Suzuki S, Toyoda A, Suzuki K, Endo M, Fujii N, Suzuki M, Saito Sho, Uemura Y, Shibata T, Kondo M, Izumi K, Terada-Hirashima J, Mikami A, Sugiura W, Ohmagari N. 
  Clinical epidemiology of hospitalized patients with COVID-19 in Japan: Report of the COVID-19 REGISTRY JAPAN.
Clin Infect Dis. 2020:ciaa1470.
https://doi.org/10.1093/cid/ciaa1470
(2020/9/28)

軽症・中等症・重症のCOVID-19患者の抗体価の推移

本研究では、重症度の異なる81人のCOVID-19患者(軽症者46人、中等症者19人、重傷者16人)の血液を経時的に収集し、新型コロナウイルスのスパイク蛋白の抗体を測定し推移を解析した。その結果、軽症者や中等症者と比べると、重症者は抗体価が高い傾向があることを示した一方、中等症者や重傷者も発症から60日以降は減衰する傾向があることも示した。 これらの結果は、無症候性感染者や軽症者だけでなく、中等症・重症患者も長期的には抗体価が低下していくことを示唆している。また、この研究結果から、回復者の血漿を採取すべき適切なタイミング、血漿採取に適した患者が明らかとなり、回復者血漿の臨床研究がより効率的に行われることが期待される。

Kutsuna S, Asai Y, Matsunaga A.
  Loss of Anti-SARS-CoV-2 Antibodies in Mild Covid-19.  
N Engl J Med. 2020;383(17):1695-1696.
https://doi.org/10.1056/NEJMc2027051
(2020/9/23)

COVID-19を通じて明らかになったグローバルヘルス研究開発分野の課題

COVID-19の世界的流行は、グローバル化した世界の脆弱性を浮き彫りにした。研究開発(R&D)もその例外ではなく、市場主導のインセンティブが乏しいため感染症分野は無視されてきた。しかし、現在のCOVID-19危機と将来に起こりうる類似の人類に対する脅威に対処するために、新たな取り組みが始まっている。本論文ではグローバルヘルスR&D分野の状況を考察し、主要な感染症(HIV/AIDS、結核、マラリア)を除き感染症に対する資金調達が不足していることを示した。また、COVID-19流行を発端とした取り組みと、開発からアクセスまでを一気通貫した新たな取り組みについて論じた。最後に、市場の失敗に対応したR&Dのために、政府、産業界、国際慈善団体との連携による新たな資金調達モデル(GHITモデル)を紹介し、今後アクセスを高めるための戦略を提示した。

Nakatani H, Katsuno K, Urabe H.  Global health landscape challenges triggered by COVID-19. Inflamm Regen. 2020;40:34. https://doi.org/10.1186/s41232-020-00144-5
(2020/9/15)

COVID-19後の公衆衛生対応の強化に向けて 米国CDCの概説と日本版CDC構想への論点整理

COVID-19の拡大を受け、日本版CDC等の創設について議論されているが、米国CDCの広範なミッションや機能に基づいた議論には至っていない。本稿では、収集した情報をもとに米国CDCについて概説し、日本版CDCを構想する上で検討するべき論点を整理した。米国CDCは「健康、安全、セキュリティの脅威から米国を守る」ことをミッションとし、実地疫学、緊急準備と対応、サーベイランス、検査・調査法の開発、情報発信、人材育成、検疫、予算配分などを業務としている。日本版CDCを構想する際には、対象疾患や課題のスコープ、組織体制、ミッション、科学的中立性の担保、人材育成のあり方などについて議論する必要がある。

杉山 雄大, 今井健二郎, 東 尚弘, 冨尾 淳, 田宮菜奈子   COVID-19後の公衆衛生対応の強化に向けて:米国 CDC の概説と日本版 CDC 構想への論点整理 日本公衛誌. 2020. 67(9): 567-572.
https://doi.org/10.11236/jph.20-069
(2020/9/14)

COVID-19患者の重症化を予測する血液検査マーカーの開発

COVID-19では、軽症であったヒトが急激に重症化するという特徴がある。感染初期の軽症時に将来の重症化を予測できれば、重点的な治療が必要な人に注力した対応が可能となり、結果として重症化や死亡を効率よく防ぐことが出来るといえる。今回の研究では、入院患者の血液を使って、重症化前にその兆候を捉えることが出来る血液検査マーカーの探索を実施した。その結果、CCL17、インターフェロンラムダ3、IP-10、IL-6、CXCL9が、その有用な因子であると考えられた。特に、CCL17は、COVID-19が確認された早期から、将来の重症者で低値を取ることがわかり、COVID-19に特徴的な性質であった。今後、複数の施設で協力し、多数患者での検証を進める。

Sugiyama M, Kinoshita N, Ide S, Nomoto H, Nakamoto T, Saito S, Ishikane M, Kutsuna S, Hayakawa K, Hashimoto M, Suzuki M, Izumi S, Hojo M, Tsuchiya K, Gatanaga H, Takasaki J, Usami M, Kano T, Yanai H, Nishida N, Kanto T, Sugiyama H, Ohmagari N, Mizokami M.
  Serum CCL17 level becomes a predictive marker to distinguish between mild/moderate and severe/critical disease in patients with COVID-19.
Gene. 2020;766:145145.
https://doi.org/10.1016/j.gene.2020.145145
(2020/9/14)

医療従事者が適切に個人防護具を使用すると、新型コロナウイルスの感染を防ぐことができる

COVID-19の患者に直接対応する医療従事者49名(看護師31名、医師15名、そのほかの職種3名)を対象に前向きコホート研究を行い、2週間毎に血清抗体価を測定した。ELISA法では7名の血清で抗体が陽性と判定されたが、中和抗体法では陰性だったことから、いずれも偽陽性と判断した。この結果から、参加者全員が新型コロナウイルスには感染していなかったことが判明した。この研究により、個人防護具を適切に使用すると医療従事者の新型コロナウイルス感染を防ぐことができると示された。医療従事者が安全に職務を全うできるように、個人防護具が安定供給されるような体制を整備することが必要である。

Suzuki T, Hayakawa K, Ainai A, Iwata-Yoshikawa N, Sano K, Nagata N, Suzuki T, Wakimoto Y, Akiyama Y, Miyazato Y, Nakamura K, Ide S, Nomoto H, Nakamoto T, Ota M, Moriyama Y, Sugiki Y, Saito S, Morioka S, Ishikane M , Kinoshita N, Kutsuna S, Ohmagari N.
  Effectiveness of personal protective equipment in preventing severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 infection among healthcare workers.
J Infect Chemother. 2020.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2020.09.006
(2020/9/9)

2020年8月掲載

ポリミキシンB固定化カラムによる直接血液灌流法(PMX-DHP)を用いてCOVID-19による呼吸不全から回復した症例

ポリミキシンB固定化カラムによる直接血液灌流法(PMX-DHP)の抗炎症作用がCOVID-19に対して有効かどうかは明らかになっていない。今回、我々はPMX-DHPが効果的に作用し機械換気を回避することができた症例を経験したので報告する。症例は83歳男性。10日間持続する発熱があり、COVID-19と診断され入院した。胸部CTでは広範な非区域性のすりガラス影を認めた。ロピナビル/リトナビル内服を開始したが、呼吸不全が進行した。PMX-DHPおよび補助療法としての副腎皮質ステロイドの使用によって呼吸状態が改善した。急速に進行するCOVID-19症例においては、早期のPMX-DHP使用が肺局所の炎症を抑え、機械換気を回避できるかもしれない。

Kusaba Y, Izumi S , Takasaki J, Suzuki M, Katagiri D, Katsuno T, Matsumoto S, Sakamoto K, Hashimoto M,  Ohmagari N, Katano H, Suzuki T, Hojo M, Sugiyama H.
 Successful Recovery from COVID-19-associated Acute Respiratory Failure with Polymyxin B-immobilized Fiber Column-direct Hemoperfusion.
Internal Medicine. 2020;59(19):2405-2408.
https://doi.org/10.2169/internalmedicine.5413-20
(2020/8/29)

都市間移動及び行動パターンを考慮した確率的状態遷移モデルを用いた東京におけるCOVID-19流行の分析

東京でのCOVID-19の感染広がりが5月下旬に収まり、ロックダウンせずに東京は一時的に感染者増加を落ち着かせることに成功した。しかしながら、緊急事態宣言解除後に経済活動再開に伴って感染拡大の第2波の危険性が存在する。本研究では経済活動が再開される中でグループ別に行動パターンをもたせた確率的状態遷移モデルを用いて、3月から7月末までの感染広がりをシミュレーションした。その結果、6月以降の活動が再開されると、再度感染者が著しく増加することがわかった。また、行動パターンをいくつか変更しテレワーク導入によって感染の危険性が高いエリアに滞在する時間が減るとそれに伴って感染者数の増加が落ち着くことがわかった。

Karako K, Song P, Chen Y, Tang W.
 Shifting workstyle to teleworking as a new normal in face of COVID-19: analysis with the model introducing intercity movement and behavioral pattern.
Ann Transl Med. 2020;8(17):1056.
http://dx.doi.org/10.21037/atm-20-5334
(2020/8/24)

GRL-0920はSARS-CoV-2の感染・複製を完全に阻止する

本研究では、SARS-CoVとSARS-CoV-2のメインプロテアーゼ (Mpro) の高い構造類似性に着目し、SARS-CoVに対する活性が報告されている化合物とその誘導体を合成、SARS-CoV-2に対する活性を評価した。その結果、顕著な細胞毒性無しに、SARS-CoV-2に対して強力な活性を発揮するインドールクロロピリヂニルエステル誘導体、GRL-0920 (EC50 = 2.8 µM) を同定した。ファビピラビル、ロピナビル、ネルフィナビル、ニタゾキサナイド、ナファモスタット、ハイドロキシクロロキンには有意の活性を認めなかった。GRL-0920はCOVID-19に対する治療薬開発のリード化合物として有用な情報を与えると期待される。

Hattori S-i, Higshi-Kuwata N, Raghavaiah J, Das D, Bulut H, Davis D, Takamatsu Y, Matsuda K, Takamune N, Kishimoto N, Okamura T, Misumi S, Yarchoan R, Maeda K, Ghosh A, Mitsuya H.
 GRL-0920, an Indole Chloropyridinyl Ester, Completely Blocks SARS-CoV-2 Infection.
mBio. 2020;11:e01833-20.
https://doi.org/10.1128/mBio.01833-20
(2020/8/20)

SARS-CoV-2感染後に一過性の大血管炎を新たに生じた成人男性の一例

我々は、SARS-CoV-2感染後に一過性の大血管炎を新たに生じた成人男性の一例を経験した。SARS-CoV-2感染後、大血管炎の症例報告は世界初である。血管炎、動脈硬化の既往歴のない71歳男性がCOVID-19の診断で入院した。加療後、呼吸器症状は改善したが弛張熱を認めた。熱源精査目的に造影CT、18F-FDG PET/CTを施行したところ、大動脈に大血管炎を示唆する所見を認めた。NSAIDSによる対症療法で自他覚症状は改善し退院した。退院1ヶ月後の外来で施行した画像検査では大動脈における炎症所見は消退していた。血液検査では高安大動脈炎に特異的なHLA-DR4が検出された。本症例より、特定のHLAを保有している個人においてはSAR-CoV-2感染後に自己免疫現象としての血管炎を発症する可能性が示唆された。

Oda R, Inagaki T, Ishikane M, Hotta M, Shimomura A, Sato M, Nakamoto T, Akiyama Y, Yamamoto K,  Minamimoto R, Kaneko H, Ohmagari N.
 Case of adult large vessel vasculitis after SARSCoV-2 infection.
Ann Rheum Dis. 2020.
http://dx.doi.org/10.1136/annrheumdis-2020-218440
(2020/8/11)

CTサーベイランスはCOVID-19のアウトブレイクの追跡に役立つ

COVID-19肺炎は、コンピューター断層撮影(CT)で両肺の末梢側に斑状のスリガラス影の散在といった特徴的所見を示すことが知られている。すなわち胸部CTで臨床診断がある程度可能であり、PCR検査結果が判明する前に、おおまかなトリアージが行える利点がある。このため多くの医療施設においてCOVID-19肺炎疑い患者に対し、初診時にCTを施行されている。我々はこれを利用して、COVID-19感染疑い患者の動向を調査するべく「ウイルス性肺炎画像診断サーベイランス」(以下、CTサーベイランス)を企画し、日本医学放射線学会(JRS)の支援のもと2020年3月より開始した。この解析の結果、政府が発表するPCR陽性患者の日次動向と地域分布に類似性を認め、CTサーベイランスの蓋然性が明らかになった。また日次動向では3月の3連休以降のoutbreakについても同じく観察された。CTサーベイランスの手法は、本COVID-19肺炎の追跡に役立つだけではなく、迅速かつ集約的データ収集のモデルとして応用可能であると思われた。

Machitori A, Noguchi T, Kawata Y, Horioka N, Nishie A, Kakihara D, Ishigami K, Aoki S, Imai Y.
 Computed tomography surveillance helps tracking COVID-19 outbreak.
Jpn J Radiol. 2020.
https://doi.org/10.1007/s11604-020-01026-z
(2020/8/7)

アジア・オセアニア地域の産婦人科学会ウエブサイトでの一般女性向けCOVID-19情報提供状況

本稿では、アジア・オセアニア地域の産婦人科学会サイトにおける一般女性向けCOVID-19情報提供の現状をレビューした。アジア・オセアニア産婦人科連合に加盟する28学会中、アクセス可能だった19学会サイトのうち、9サイトにおいてCOVID-19特設サイトがあったが、これらはすべて学会員対象情報であった。また2サイトにおいて、一般女性むけ特設サイトがあったものの、そこでCOVID-19情報を提供していたのは日本産科婦人科学会のみであった。学会員のみならず一般女性に対しても専門家集団である産婦人科学会からの信頼できるCOVID-19情報の提供が望まれる。

Kikuchi S, Komagata T, Obara H.
 Do the Asia and Oceania Federation of Obstetrics and Gynecology members' websites provide information targeting women in the context of the COVID‐19 pandemic?
J Obstet Gynaecol Res. 2020;46(10):2193-2194.
https://doi.org/10.1111/jog.14377
(2020/8/7)

SARS-CoV-2 PCRをいつ反復するべきか?:典型的な肺所見があるときに限りPCRを反復すべき

SARS-CoV-2 RT-PCR(以下、PCR検査)は偽陽性を疑うような状況で検査を反復するが、どのような対象に反復するべきか明確ではない。2020年3月9日から4月24日までにPCR検査を1803例に対して行い、364例(20%)がCOVID-19と診断された。45例が診断のためにPCR検査を反復したが、COVID-19と診断されたのは5例のみであった。4例は典型的な肺所見を示していたが、症状持続のため検査を反復した1例も陽性となった。ただし、この1例は偽陽性が強く疑われ、結核性胸膜炎と確定診断された。以上からPCR検査反復は典型的な肺所見を有する症例に絞ったほうが有用と考えられた。

Yamamoto K, Saito S, Hayakawa K, Hashimoto M, Takasaki J, Ohmagari N.
 When should clinicians repeat SARS-CoV-2 RT-PCR?: Repeat PCR testing targeting patients with pulmonary CT findings suggestive of COVID-19.
Jpn J Infect Dis. 2021;74(2):161-165.
https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2020.531
(2020/8/3)

2020年7月掲載

尿中バイオマーカーを用いたCOVID-19患者の重症度評価

COVID -19では無症状の患者も多い中、発症から10日程度で急速に悪化し人工呼吸器や人工肺が必要になる患者が存在する。早期段階での重症化予測は、適切な医療機関への搬送や医療リソースの確保の上で重要である。今回、入院患者を対象として入院時の尿中L型脂肪酸結合蛋白 (L-FABP)およびβ2 マイクログロブリン(β2MG)を測定した。発症から10日以内の尿検体を用いて、L-FABPとβ2MGによる重症化予測能をROC解析により評価したところ、AUCが0.844 – 0.918と高い精度で重症化リスクを判別できることが明らかとなった。尿検査は侵襲性が低いため、今後患者数を集積してより研究を進める予定である。

Katagiri D, Ishikane M, Asai Y, Kinoshita N, Ota M, Moriyama Y, Ide S, Nakamura K, Nakamoto T, Nomoto H, Akiyama Y, Miyazato Y, Suzuki T, Okuhama A, Kanda K, Wakimoto Y, Morioka S, Saito S, Yamamoto K, Ujiie M, Hayakawa K, Kustuna S, Yanagawa Y, Terada J, Takasaki J, Izumi S, Hojo M, Hinoshita F, Sugiyama M, Noiri E, Mizokami M, Ohmagari N, Sugiyama H.
 Evaluation of Coronavirus Disease 2019 Severity Using Urine Biomarkers.
Crit Care Explor. 2020;2(8):e0170.
https://doi.org/10.1097/CCE.0000000000000170
(2020/7/31)

ケーススタディ:新型コロナウイルスはどのようにして伝播するのか?

COVID-19の63歳男性患者と70歳男性患者がクルーズ船から搬送された。両患者は個室隔離となり、入院時にはSARS-CoV-2 PCR陰性であった妻が付き添った。重症化し挿管管理となった63歳男性患者の妻は入院中にSARS-CoV-2 PCRが陽転化したが、入院中無症状であった70歳男性患者の妻はSARS-CoV-2 PCRは陰性であった。病室の環境調査を行い、新型コロナウイルスの伝播様式を調査した。先行研究と比較し、本研究では環境汚染が軽度であった。本調査結果のみでは明確な感染経路を特定することができず、今後は患者の重症度別の環境調査結果が待たれる。

Morioka S, Nakamura K, Iida S, Kutsuna S, Kinoshita N, Suzuki T, Suzuki T, Yamamoto K, Hayakawa K, Saito S, Ohmagari N. 
  Possibility of transmission of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 in a tertiary care hospital setting: A case study.
Infection Prevention in Practice. 2020:100079.
https://doi.org/10.1016/j.infpip.2020.100079
(2020/7/30)

血液維持透析COVID-19症例の透析排液からのSARS-CoV-2 RNA検出

血液維持透析患者におけるCOVID-19症例については、世界中から報告があるものの、その透析排液の感染性について調べた報告はなく、透析回路の扱いについても決められた指針はない。我々は、当院で経験した血液透析患者の透析排液から、SARS-CoV-2 RNAを検出した。RNAの検出は感染性を意味するものではないため、感染性の評価については更なる研究が必要であるが、本研究からは、COVID-19血液透析患者の回路の取り扱いについては標準・接触予防策の徹底と個人防護具の適切な使用の重要性が示唆された。その他にも、我々の報告からは、透析患者における炎症反応の遷延の可能性・それに伴うβ2ミクログロブリン吸着カラムの有用性が示唆された。

Okuhama A, Ishikane M, Katagiri D, Kanda K, Nakamoto T, Kinoshita N, Nunose N, Fukaya T, Kondo I, Katano H, Suzuki T, Ohmagari N, Hinoshita F.
 Detection of SARS-CoV-2 in hemodialysis effluent of patient with COVID-19 pneumonia, Japan.
Emerg Infect Dis. 2020;26(11):2758-2761.
https://doi.org/10.3201/eid2611.201956
(2020/7/30)

COVID-19患者のFDG-PET/CT画像に関する文献レビューと考察

COVID-19におけるFDG-PET/CT画像に関しては、肺炎像へのFDGの集積を示す報告が大半である。これは糖代謝を表現するFDG(フルオロデオキシグルコース)が炎症細胞に集積する特徴に基づき、FDG-PET/CTが炎症性疾患の診断に有用であるという事実を反映した所見である。我々はCOVID-19既感染者に合併した疾患の診療のために実施したFDG-PET/CT検査の画像からCOVID-19の病態を推測する所見を得たことから、既報との比較および考察を行った。FDGの集積は肺炎像の他、リンパ節、脾臓や骨髄にも認められ、特に免疫系との関連が示唆されるリンパ節における所見は経時的に変化する。そしてこれらの所見が早期に消退することから、COVID-19では全身性の一過性の過剰な免疫反応が生じていることが推測された。

Minamimoto R, Hotta M, Ishikane M, Inagaki T.P194_GHM_Minamimoto.jpg
 FDG-PET/CT images of COVID-19: a comprehensive review.
Global Health & Medicine. 2020.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01056
(2020/7/20)

COVID-19既感染者のPET/CT検査を実施して

COVID-19既感染者のPET/CT検査経験を通じて検討課題があったことから、今後の検査体制について議論を深める目的で報告した。核医学検査室は規定により、出入り口が1箇所であること、検査室滞在時間が長いことに加え、検査種によって待機時間や待機場所も考慮する必要があり、他の検査室とは異なる。PCR 検査の陰性を確認後、通常検査として実施するが、陰性化から比較的短い時間で検査依頼される場合や臨床症状から感染疑いが否定できない場合、緊急性を要するケースなど、感染リスクに遭遇する可能性がある。COVID-19の実態が判明していくにつれ、対応方法は変化していくが、本報告がCOVID-19 に対する安全かつ有効な核医学検査法確立のための一助となることを期待する。

齋藤 郁里, 堀川 大輔, 竹内 智弥, 水沼 文孝, 山田 唯, 弘中 さつき, 梶原 宏則, 堀田 昌利, 松永 太, 南本 亮吾.
 COVID-19 既感染者の PET/CT 検査を実施して.
日本放射線技術学会雑誌, 76 巻 (2020) 7 号:761-767.
https://doi.org/10.6009/jjrt.2020_JJRT_76.7.761
(2020/7/20)

SARS-CoV-2感染およびCOVID-19死亡率はACE1 I / D遺伝子型と強く相関している

SARS-CoV-2感染の主な特徴の1つは、特定の地域や民族に対する顕著な影響である。とくにアジアに比較して、欧米などでそのインパクトは大きい。そのため、レニンーアンギオテンシン系遺伝子群に焦点を当てて、とくに欧州人と東アジア人の遺伝素因の差異に関する比較研究を行った。その結果、ACE1 II遺伝子型頻度が増すと、SARS-CoV-2の感染者数と感染による死亡者数が減少するという、強い負の相関があることを見出した。このことから、ACE1 II遺伝子型はCOVID-19の感染率と臨床転帰に影響を与える可能性があることやCOVID-19感染リスクと症状の重症度を予測するマーカーになる可能性があること、さらにACE1とACE2のインバランスを是正する治療法開発の重要性が示唆された。

Yamamoto N, Ariumi Y, Nishida N, Yamamoto R, Bauer G, Gojobori T, Shimotohno K, Mizokami M.
 SARS-CoV-2 infections and COVID-19 mortalities strongly correlate with ACE1I/D genotype.
Gene. 2020.
https://doi.org/10.1016/j.gene.2020.144944
(2020/7/3)

家族全員が挿管管理となった、COVID-19による重症家族内クラスター症例

COVID19によるクラスターは世界中で報告されている。今回、我々は基礎疾患の無い若年者を含めた家族3人全員が挿管管理となった重症家族内クラスター症例を報告する。腎移植後の67歳男性がSARS-CoV-2に感染し、重症肺炎のため挿管管理となった。その後、同居していた妻と次男も感染し、重症肺炎のため同様に挿管管理となった。同居していない長男のみ、感染を免れた。家庭内ではsocial distanceの確保が困難であるため、多くのウイルス量に暴露したことが重症化に繋がった可能性がある。医療崩壊を防ぐために、軽症者は自宅待機する場合があるが、家庭内隔離が不十分であれば、家庭内の感染拡大や重症化に繋がる可能性を考慮しなければならない。

Katsuno T, Suzuki M, Ishikane M, Kinoshita N, Tsukada A, Morita C, Kusaba Y, Sakamoto K, Yamaguchi Y, Tsujimoto Y, Hashimoto M, Terada J, Takasaki J, Izumi S, Okuhama A, Ide S, Moriyama Y, Matsuda K, Takamatsu Y, Mitsuya H, Hojo M, Sugiyama H.
 A familial cluster of severe coronavirus disease 2019 that required intubation of all family members.
Infectious Diseases. 2020;52(10):755-758.
https://doi.org/10.1080/23744235.2020.1784999
(2020/7/2)

2020年6月掲載

日本の海外渡航者におけるPCR検査の実施

COVID-19の流行に伴い、今年4月には日本の海外渡航者数は昨年比で99.8%減少した。その後、海外渡航が一部に国で再開されつつあるが、渡航者に対して事前にSARS-COV-2のPCR検査証明書の提出を義務付ける国も複数認められる。
当院では、事前のPCR検査を義務付けられた海外渡航者に対して、自由診療で検査を行う体制を整備した。検査実施に当たり、2次感染を予防のため、事前の感染リスクを評価・確認し、適切な感染対策下で検査を実施する。また、本人に偽陽性を含めた検査限界等の説明と注意事項の伝達を確実に行う。
経済活動の再開に伴い、このような診療の社会的ニーズは今後も高まることが予想され、適切な検査診療体制の構築が望まれる。

Ujiie M, Ohmagari N, Inoue H.
 Testing for COVID-19 at travel clinics in Japan.
J Travel Med. 2020;27(5):taaa107.
https://doi.org/10.1093/jtm/taaa107
(2020/6/27)

COVID-19患者は比較的徐脈を呈し、発熱が7日続く場合に急激な悪化を起こしやすい

当院で診療した、2020年2月までに入院したCOVID患者11名について重症度を4グループに分けて後方視的に検証を行った。その結果、ほぼすべての症例で相対的徐脈を認め、細菌性肺炎と異なる点であることが示された。また、発熱が7日以上持続する患者で突然悪化する傾向が見られた。

Nakamura K, Ide S, Saito S, Kinoshita N, Kutsuna S, Moriyama Y, Suzuki T, Ota M, Nomoto H, Mizoue T, Hojo M, Takasaki J, Asai Y, Terada M, AkiyP05_Nakamura_GHM.jpgama Y, Miyazato Y, Nakamoto T, Wakimoto Y, Ujiie M, Yamamoto K, Ishikane M, Morioka S, Hayakawa K, Sugiyama H, Ohmagari N.
 COVID-19 can suddenly become severe: a case series from Tokyo, Japan.
Global Health & Medicine. 2020;2(3):174-177.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01054
(2020/6/27)

武漢からチャーター便で帰国した日本人のPCR検査の結果と無症候性感染者の臨床像

2020年1月下旬、中国の武漢市がロックダウンとなり、現地の日本人はチャーター便で帰国した。この際、COVID-19のスクリーニングとしてPCR検査を国立国際医療研究センターで実施した。帰国者566人のうち11人が陽性となり、このうち6人は無症候性感染者であった。また帰国時のPCR検査で陰性であった帰国者のうち2名は後にCOVID-19を発症しており、帰国時のみのPCR検査だけでは見逃しが生じ得ることが示された。

Kutsuna S, Suzuki T, Hayakawa K, Tsuzuki S, Asai Y, Suzuki T, Ide S, Nakamura K,  Moriyama Y, Kinoshita N, Hosokawa N, Osawa R, Yamamuro R, Akiyama Y, Miyazato Y,  Nomoto H, Nakamoto T, Ota M, Saito S, Ishikane M, Morioka S, Yamamoto K, Ujiie M, Terada M, Nakamura-Uchiyama F, Sahara T, Sano M, Imamura A, Sekiya N, Fukushima K,  Kawana A, Fujikura Y, Sano T, Suematsu R, Sakamoto N, Nagata K, Kato T, Katano H,  Wakita T, Sugiyama H, Kokudo N, Ohmagari N.
  SARS-CoV-2 screening test for Japanese returnees from Wuhan, China, January 2020. 
Open Forum Infect Dis. 2020;7(7):ofaa243.
https://doi.org/10.1093/ofid/ofaa243
(2020/6/20)

COVID-19に対する集中治療室での持続血液濾過(CRRT)施行時の注意点

COVID-19患者がひとたび重症化し、多臓器不全の一環として、重度の急性腎障害(AKI)を発症した場合、集中治療室での持続血液濾過透析(CRRT)が考慮される。我々はAKI合併COVID-19症例に対して、サイトカイン吸着膜を用いてCRRTを施行した。CRRT排液は医療スタッフが扱うため、その潜在的な感染リスクを評価する必要がある。我々の検討ではCRRT排液から複数回、SARS-CoV-2 genomic materialが検出された。集中治療室でのCRRT施行時には、医療者の感染管理に注意しながら安全に行う必要がある。

Katagiri D, Ishikane M, Ogawa T, Kinoshita N, Katano H, Suzuki T, Fukaya T, Hinoshita F,  Ohmagari N.
 Continuous Renal Replacement Therapy for a Patient with Severe COVID-19.  
Blood Purif. 2021;50(1):129-131.
https://doi.org/10.1159/000508062
(2020/6/11)

国内で初となるHIVと新型コロナウイルスとの共感染事例

世界中に感染が拡大しているCOVID-19であるが、HIV感染症患者が新型コロナウイルスに感染するとどうなるのか、重症化しやすいのかも含めてまだ良く分かっていない。また、HIV感染症患者が新型コロナウイルスに感染した事例もまだ世界では報告が少なく、報告の集積が待たれるところである。我々は日本で最初となるHIV感染症患者におけるCOVID-19の事例を報告した。この症例はHIV感染症に対する治療(抗レトロウイルス療法:ART)が行われていないHIV感染による免疫状態のコントロールが不十分であった.HIVウイルス量はCOVID-19の急性期に減少し,回復期に増加したことが観察された。これまでの報告では、未治療のHIV患者では非HIV患者と比較して重症化リスクは高くないことが示唆されているが、ART開始に伴う免疫再構築症候群が起こらないか慎重な経過観察が必要となる。

Nakamoto T, Kutsuna S, Yanagawa Y, Kanda K, Okuhama A, Akiyama Y, Miyazato Y, Ide S, Nakamura K, Yamamoto K, Ohmagari N.
 A case of SARS-CoV-2 infection in an untreated HIV patient in Tokyo, Japan.
J Med Virol. 2021;93(1):40-42.
https://doi.org/10.1002/jmv.26102
(2020/6/3)

中等症から重症のCOVID-19患者における尿の取扱に関する注意喚起

気道検体や便からのSARS-CoV-2 RNAの検出や排泄期間については今までに報告されているが、尿からのウイルス排出に関しては情報が少ない。今回、国立国際医療研究センターに入院した20人のCOVID-19患者の尿中のSARS-CoV-2 RNAの検査を行い、中等症、重症患者、それぞれ1名ずつに、尿中からSARS-CoV-2 RNAを認めた。中等症患者ではSARS-CoV-2 RNAが尿中に1回確認されたのみであったが、重症患者では4日空けて連続して尿中から確認された。中等症以上のCOVID-19患者では、医療従事者は感染管理上、尿の取扱についても注意を払う必要がある。

Nomoto H, Ishikane M, Katagiri D, Kinoshita N, Nagashima M,Sadamasu K, Yoshimura K, Ohmagari N.
  Cautious handling of urine from moderate to severe COVID-19 patients.
Am J Infect Control. 2020;48(8):969-971.
https://doi.org/10.1016/j.ajic.2020.05.034
(2020/6/2)

2020年5月掲載

重症COVID-19肺炎に対するステロイド療法:適切な投与量と投与期間について

重症COVID-19肺炎の治療は確立されていない。しかし重症化は高炎症状態と関連しており、ステロイド療法が有効な可能性がある。コロナウイルス感染症である中等呼吸器症候群での経験からその有効性に否定的な意見もあるが、COVID-19ではステロイド療法を受けた患者の方が経過良好であったとの報告もみられている。中国や欧米で行われたステロイド療法は短期間・低用量が主であるが、十分なエビデンスは無い。重症COVID-19肺炎は長期間の人工呼吸器管理を強いられることが多く、長期間のステロイド療法の意義を検証する価値があると考えている。COVID-19に対するステロイド療法の文献をもとに、その適切な投与量と投与期間についての私見を述べた。

Matsuda W, Okamoto T, Uemura T, Kobayashi K, Sasaki R, Kimura A.P171_GHM_Matsuda.jpg
 Corticosteroid therapy for severe COVID-19 pneumonia: optimal dose and duration of administration.
Global Health & Medicine. 2020;2(3):193-196.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01046
(2020/5/30)

入院時の咽頭拭液を使用したPCR検査でSARS-CoV-2 RNAが偽陰性であった症例
(中国武湖北省漢市からの旅行者、2020年1月)

中国湖北省武漢市からの旅行者で、入院時の咽頭拭液を使用したPCR検査でSARS-CoV-2 RNAが陰性であったが、後日の再検査で陽性が判明した症例報告である。本症例は、国立国際医療研究センター病院で初めて診療したCOVID-19確定例であった。臨床的または疫学的(本症例は同じ団体旅行に確定例がおり濃厚接触あり)にCOVID-19が疑われる場合は、真に陰性であることが証明されるまでは、標準、接触、飛沫予防などの適切な感染予防管理措置が必要である。

Ishikane M, Miyazato Y, Kustuna S, Suzuki T, Ide S, Nakamura K, Morioka S, Katano H, Suzuki T, Ohmagari N. 
   A Case of COVID-19 Patient with False-negative for SARS-CoV-2 of Pharyngeal Swab, from a Chinese traveller Returning from Wuhan, Hubei Province, China, January 2020.
Jpn J Infect Dis. 2020.
https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2020.240
(2020/5/29)

日本における中等症以上のCOVID-19に対する未分画ヘパリンを用いた抗凝固療法の提案

Coronavirus disease 2019 (COVID-19)において凝固亢進により肺塞栓症や深部静脈血栓症を生じる症例が報告され、抗凝固療法により致命率が低下する可能性も示されている。COVID-19に対する抗凝固療法の確立された指針はないため、日本国内で初めて未分画ヘパリンを用いた抗凝固療法のアルゴリズムを作成した。アルゴリズムでは酸素投与量1~4Lの中等症例には未分画ヘパリンの予防投与を行い、酸素投与量5L以上の重症例には治療量で未分画ヘパリン投与を行うことを提案した。国立国際医療研究センターでは本アルゴリズムを用いてCOVID-19 に対して抗凝固療法を行い、気管挿管を回避することができた重症例を経験した。抗凝固療法は少なくともCOVID-19に対する支持療法になる可能性がある。

Sato R, Ishikane M, Kinoshita N, Suzuki T, Nakamoto T, Hayakawa K, Bekki N, Hara H, Ohmagari N. P122_Sato_GHM.jpg
  A new challenge of unfractionated heparin anticoagulation treatment for moderate to severe COVID-19 in Japan. 
Global Health & Medicine. 2020;2(2):190-192.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01044
(2020/5/15)

急激な医療システムの変化:COVID-19対策としてのオンライン診療

活動制限や隔離等のCOVID-19対策が医療サービスへのアクセス阻害につながっているが、それに呼応し中国、イギリス、オーストラリアなどの国でオンラインによる医療専門家よる診察や健康情報を提供できるサービスが立ち上がっている。感染流行に対して公衆衛生上の観点からオンライン医療相談に価値はあるが、医療スタッフ不足やオンライン診療と従来の対面診療の未統合、医療従事者の資格や診断、処方、治療行為の検証、データのセキュリティへの厳格な規制がないといった問題がある。安全性と品質が確保され、対面診療と比較して治療の忠実性が評価されるようになって初めて、オンライン診療が国民の信頼と認知に繋がり、医療サービスの選択肢の一つになる。

Wang H, Song P, Gu Y, Schroeder E, Jin C.
  Rapid health systems change: online medical consultations to fight COVID-19. 
Ann Transl Med. 2020;8(11):726.
https://dx.doi.org/10.21037/atm-20-2618
(2020/5/13)

発症早期に咽頭の新型コロナウイルスPCR検査の結果が陰性でも、感染対策を解除することは難しい

入院時の咽頭の新型コロナウイルスPCR検査は陰性だったが、後日再検査で陽性が判明した症例の報告である。武漢からのチャーター便で帰国した患者であり、入院時のPCR検査は陰性だったが、症状が続くために感染対策を継続していた。PCR検査は特に発症早期では偽陰性の可能性があるため、PCR検査の結果だけに基づく感染対策解除は注意が必要である。また、地域の中でもPCR検査の結果に頼った感染対策は注意が必要である。たとえば非流行地域では接触歴がある場合に自主的に隔離を促し、流行地域ではPCR検査に頼らず症状があれば自主的に隔離を促すなど、現実的に実施可能な方法を確立する必要がある。

Suzuki T, Kutsuna S, Nakamura K, Ide S, Moriyama Y, Saito S, Morioka S, Ishikane M, Kinoshita N, Hayakawa K, Ohmagari N.
 Difficulty of downscaling the precautions for coronavirus disease-19 based on negative throat polymerase chain results in the early phase of infection. 
J Infect Chemother. 2020;26(8):851-853.
https://doi.org/10.1016/j.jiac.2020.05.002
(2020/5/8)

2020年4月掲載

COVID-19の感染性に対する気温の影響

日本における各都道府県において、3月16日時点での人口1,000,000人あたりの累計患者数と2020年2月の各県の平均気温との関係を評価したところ、低い平均気温とCOVID-19のリスク増加との関連性が示唆された。追加の説明変数として、中国からの渡航者数及び老年人口指数についても評価したところ、同様に累積患者数との関連が示唆された。今後、より広域での関連性や湿度等の別の指標での評価、検討が望まれる。

Ujiie M, Tsuzuki S, Ohmagari N.
 Effect of temperature on the infectivity of COVID-19.
Int J Infect Dis. 2020;95:301‐303.
https://doi.org/10.1016/j.ijid.2020.04.068
(2020/4/30)

日本のCOVID-19対応戦略

日本は、COVID-19流行対策として、他国に比較して社会活動の規制が緩やかであったにもかかわらず、感染者・死者が少なく、医療サービスも破綻しなかった。この要因としては、国民の衛生習慣や肥満等のリスク因子の罹患率が低いことに加えて、医療政策も寄与していると考えられる。具体的には、保健所による感染者隔離の徹底と濃厚接触者の調査、政府から市民に対する簡潔・明瞭な行動指針の発信、自治体を調整役とした地域毎のCOVID-19治療病床の確保・調整が挙げられる。

Inoue H.GHM_No2.jpg
 Japanese strategy to COVID-19: How does it work?
Global Health & Medicine. 2020;2(2):131-132.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01043
(2020/4/30)

COVID-19入院患者における精神的負担と退院後の懸念

2020年1月から3月までに当院に入院したCOVID-19患者を対象とし、入院中の精神的負担と退院後の懸念に関してインタビュー調査を行った。入院中に会社から偏見・差別を受け解雇されたり、疾患の再燃や家族への感染を懸念し自己隔離を継続したりする患者がいた。退院後、COVID-19患者が長期にわたり社会的に孤立する可能性が示唆され、自殺が危惧された。社会がこのことを認識し、今後はメンタルサポートなどの体制整備が必要である。

Morioka S, Saito S, Hayakawa K, Takasaki Jin, Suzuki T, Ide S, Nakamura K, Moriyama Y, Akiyama Y, Miyazato Y, Nomoto H, Nakamoto T, Ota M, Sakamoto K, Katsuno T, Kusaba Y, Ishikane M, Kinoshita N, Ohmagari N.
 Psychiatric burdens or stress during hospitalization and concerns after discharge in patients with severe acute respiratory syndrome coronavirus-2 isolated in a tertiary care hospital.
Psychiatry Res. 2020;289:113040.
https://doi.org/10.1016/j.psychres.2020.113040
(2020/4/29)

流行早期における東京都内のCOVID-19患者の特徴と産業保健の役割

東京都のCOVID-19の公表データ(2020年4月27日時点)を分析した結果、3月27日までに報告された成人患者(20歳以上で、学生は除く)は243名であった。最初に発生したクラスター患者10名を除外した233名のうち、162名は男性で、176名は70歳未満の就労世代であった。就業に関するデータが得られた203名のうち、就労していたのは151名で、内訳は会社員114名、自営業31名、医療スタッフ6名であった。感染者の4分の3が就労者であるという結果は、本感染の拡大防止における産業保健の重要な役割を示している。COVID-19制圧のため、社会としてテレワークや時差出勤を推進するとともに、社会生活の維持に必要な仕事に従事する人々(エッセンシャルワーカー)を感染、過労、誹謗中傷や差別から守る多面的な取り組みが求められる。

Kuwahara K, Hori A, Ohmagari N, Mizoue T.GHM_No2.jpg
 Early cases of COVID-19 in Tokyo and occupational health. 
Global Health & Medicine. 2020;2(2):118-122.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01041
(2020/4/29)

ダイヤモンド・プリンセス号におけるCOVID-19流行の疫学と検疫措置

2020年1月20日~2月22日の間に37.5℃以上の発熱を生じた合計403人の乗船者に対して観察研究を施行した。403人の発熱者のうちCOVID-19確定例は、乗客165人と乗員58人であった。検疫開始時には既に感染は多くのデッキに拡大しており、流行は乗客のデッキから乗員のデッキにも拡大を認めた。確定例数は、2月6日までは3人/日未満で推移したが、2月7日には体温計配布により、新たに43人の確定例が確認され、以後漸減した。全乗客・乗員の下船後14日以上経過した3月17日時点で、乗船者による日本国内でのクラスター発生の報告もなく、今回の検疫措置が前例のない感染症コントロールに貢献した可能性を示唆している。

Tsuboi M, Hachiya M, Noda S, Iso H, Umeda T.P119_advpub_2020.jpg
 Epidemiology and quarantine measures during COVID-19 outbreak on the cruise ship Diamond Princess docked at Yokohama, Japan in2020: a descriptive analysis.
Global Health & Medicine. 2020;2(2):102-106.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01037
(2020/4/29)

国立国際医療研究センターにおける湖北省在留邦人の帰国のためのチャーター便対応について

中国でのCOVID-19の拡大に伴い、湖北省の数都市が封鎖され、邦人退避のため日本政府により計5便のチャーター便が派遣された。当センターでは帰国者の大半(793/829人[95.7%])への対応を行い、医師107名、看護師115名、事務110名、検査技師45名、医療通訳数名が参加した。当センターでのトリアージ後の医療機関入院者数は48名であり、空港でのトリアージ人数(n=34)を上回った。トリアージ後入院患者のSARS-CoV-2の陽性率は、トリアージされなかった患者より有意に高かった(4/48人[8.3%]対9/745人[1.2%]:p=0.0057)。

Hayakawa K, Kutsuna S, Kawamata T,  Sugiki Y, Nonaka C, Tanaka K, Shoji M, Nagai M, Tezuka S, Shinya K, Saito H, Harada T, Moriya N, Tsuboi M, Norizuki M, P118_advpub_2020.jpgSugiura Y, Osanai Y, Sugiyama M, Okuhama A, Kanda K,Wakimoto Y , Ujiie M, Morioka S, Yamamoto K, Kinoshita N, Ishikane M, Saito S, Moriyama Y, Ota M, Nakamura K, Nakamoto T, Ide S, Nomoto H, Akiyama Y, Suzuki T, Miyazato Y, Gu Y, Matsunaga N, Tsuzuki S, Fujitomo Y, Kusama Y, Shichino H, Kaneshige M, Yamanaka J, Saito M, Hojo M, Hashimoto M, Izumi S, Takasaki J, Suzuki M, Sakamoto K, Hiroi Y, Emoto S, Tokuhara M, Kobayashi T, Tomiyama K, Nakamura F, Ohmagari N, Sugiyama H.
  SARS-CoV-2 infection among returnees on charter flights to Japan from Hubei, China: a report from National Center for Global Health and Medicine. 
Global Health & Medicine. 2020;2(2):107-111.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01036
(2020/4/29)

2020年4月2日時点における国内外のCOVID-19治療に関する臨床試験

2020年4月2日時点において、COVID-19治療に関しての臨床試験につき検索を行った。国外でのCOVID-19治療に関してclinicaltrials.govに登録された48件のうち、複数の臨床試験が行われている治療薬はレムデシビル(6件)、ロピナビル/リトナビル(6件)、ヒドロキシクロロキン(6件)、インターフェロン(5件)、メチルプレドニソロン(3件)、一酸化窒素(3件)、オセルタミビル(2件)、アルビドール(2件)、ビタミンC(2件)であった。また、日本国内において実施または計画されている臨床治験(ロピナビル/リトナビル、レムデシビル、ファビピラビル、シクレソニド、ナファモスタット)の概要につき報告を行っている。

Ito K, Ohmagari N, Mikami A, Sugiura W.GHM_No2.jpg
 Major ongoing clinical trials for COVID-19 treatment and studies currently being conducted or scheduled in Japan.
Global Health & Medicine. 2020;2(2):96-101.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01034
(2020/4/29)

COVID-19. これまでに明らかになったことと、臨床現場での対応

新型コロナウイルスに関する2020年3月末時点でのウイルス学的特徴、伝播様式、臨床症状、検査、治療薬の進展、感染対策などに関する総説である。
厚生労働省が提示していた「4日間続く発熱」のルールや、日本感染症学会のCOVID-19治療指針など、特に日本の臨床医の立場から記載したものである。

Kutsuna S.P115_advpub_2020.jpg
 Coronavirus disease 2019 (COVID-19): research progress and clinical practice.
Global Health & Medicine. 2020;2(2):78-88.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01031
(2020/4/26)

COVID-19パンデミックにおけるNHS(イギリス国民保健サービス)の危機対応:一外科医の経験

第一線の外科医の立場から、今回の危機においてイギリス政府およびNHSがどのように対応したかの報告である。政府の対応は当初緩慢であったが、状況の急速な悪化に伴い方針転換してからは極めて迅速となった。『Stay at home. Protect the NHS. Save lives.』のスローガンの下に、医療(すなわちNHS)崩壊を最小限に抑えるという明確な目的を国民全体が共有し、その実現のために国全体でロックダウンによる大幅な制約・不利益・不便を甘受した。執筆時点でのCOVID-19総死亡数1万人超、一日死亡数700-800人(在院死のみでケアホーム・自宅死含まず)という状況が日々悪化するなか、NHSの最前線の現場でマネジメント・実臨床、様々レベルでどのような対応が取られたかを報告している。

Yano H.P117_advpub_2020.jpg
 The National Health Service (NHS) response to the COVID-19 pandemic: a colorectal surgeon’s experience in the UK.
Global Health & Medicine. 2020;2(2):138-139.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01035
(2020/4/24)

COVID-19流行からみるカンボジア国立母子保健センターでの新生児ケアの将来

カンボジアでは2020年2月に初のSARS-CoV-2感染例が確認され、4月9日までにPCR陽性者は119例を数えた。しかし同国での感染者同定には大きな限界があり、病的新生児に対しても潜在的脅威となっている。1992年以来NCGMが協力を継続している国立母子保健センターの新生児室では国家ガイドラインに沿った感染防止対策を遵守している。しかしスタッフが量・質ともに不足しているため、家族1名が室内に24時間滞在して患児に対するケアの多くを担っている点が、我が国の新生児集中医療とは大きく異なる。家族の常時付き添いは深刻な院内感染を引き起こす危険性が高い。感染拡大防止対策のみならず、家族に医療行為を任せざるをえないシステムの再考が急務である。

Iwamoto A, Tung R, Ota T, Hosokawa S, Matsui M.P114_advpub_2020.01030.jpg
 Challenges to neonatal care in Cambodia amid the COVID-19 pandemic.
Global Health & Medicine. 2020;2(2):142-144.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01030
(2020/4/23)

COVID-19診断能力確立のための継続的な国際協力の必要性

効果的な感染症対策のための検査診断能力の重要性は近年広く認識されているが、COVID-19のような新たに発見された疾患が発生した際には、その確立に苦慮している国が多い。ミャンマー国でも、COVID-19の診断能力を確立するため、日本やWHOなどが協力して支援を行なった結果、2020年3月23日に初の確定診断が報告され、3月31日時点で15例の陽性例が報告されている。近隣諸国での発生を抑制することなく、特定の国での発生を抑制することは困難であるため、自国の流行対策と並行して、近隣国の診断能力確立のための継続的な国際協力の必要性は極めて高い。

Nozaki I, Miyano S.GHM_No2.jpg
 The necessity of continuous international cooperation for establishing the coronavirus disease 2019 diagnostic capacity despite the challenges of fighting the outbreak in home countries. 
Global Health & Medicine. 2020;2(2):145-147.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01023
(2020/4/21)

COVID-19パンデミックによる渡航制限期間の国際保健医療協力プロジェクトの実施

外務省ウェブサイトによると2020年4月11日時点で、日本からの渡航者や日本人に対して「入国制限措置をとっている国・地域」は181、「入国後に行動制限措置をとっている国・地域」は69であった。また3月末時点で世界の全ての国に対し「渡航中止勧告」もしくは「不要不急の渡航やはめてください」の注意が海外安全情報として出されている。日本人専門家による低中所得国渡航が不可能な期間に、国際保健医療協力プロジェクトを実施するには、(1)インターネットを活用した会議・研修の活用、(2)それらの国・地域での保健優先課題の状況に応じた技術支援、(3)保健医療従事者の権利・環境を守るためのアドボカシーが重要である。

Obara H, Noda S, Fujita N, Miyoshi C, Akashi H.P100_GHM_Obara.jpg
 Sustainable implementation of international health cooperation projects while Japanese technical experts cannot go to low- and middle-income countries because of the COVID-19 pandemic travel restrictions.
Global Health & Medicine. 2020;2(2):148-150.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01029
(2020/4/21)

低所得国におけるCOVID-19:西アフリカでのエボラ対応からの教訓

COVID19は、各国における健康の社会的要因や保健システムの積年の課題をあぶりだしている。低所得国では特に、保健医療従事者の質・量両面の不足と偏在が致命的である。エボラ出血熱流行時には、限られた医療資源が同疾患への対応に集中したことで、他疾患の罹患率・死亡率が上昇した。その教訓をCOVID19に反映すべきである。国際支援の際は、「仏語圏アフリカ保健省人材管理ネットワーク」など、保健システムの課題を把握した現地メカニズムとの協力が鍵となる。この支援アプローチは、短期的なCOVID-19流行の制御だけでなく、持続可能で回復力のある保健システム実現に向けた、長期的な課題解決にも貢献する。

Nagai M, Oikawa M, Tamura T, Egami Y, Fujita N.P99_GHM_Nagai.jpg
 Can we apply lessons learned from Ebola experience in West Africa for COVID-19 in lower income countries? 
Global Health & Medicine. 2020;2(2):140-141.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01028
(2020/4/19)

体外式膜型人工心肺(ECMO)装着下のCOVID-19患者への看護ケア

ECMOを装着したCOVID-19患者への国立国際医療研究センター病院での看護ケアについて報告した。看護師は、N95マスク、撥水性隔離ガウン、キャップ、N95の上にシールドマスク、二重手袋を標準装備とし、エアロゾルが飛散する処置の時のみ、つなぎスーツの着用、電動ファン付き呼吸用防護具を装着した。看護師は、安楽の提供、患者の力を引き出すよう身の回りの世話をする、テクノロジーに対応した管理やモニタリングをすることが役割であるが、COVID-19患者にも同様であった。基本に忠実な感染症対策を行えば、不必要に恐れる必要はなく、基本に忠実な看護を行うことが最良の方法だと今回の経験から学んだ。

Umeda A, Sugiki Y.P49_GHM_Umeda.jpg
Nursing care for patients with COVID-19 on extracorporeal membrane oxygenation (ECMO) support.
Global Health & Medicine. 2020;2(2):127-130.
https://doi.org/10.35772/ghm.2020.01018
(2020/4/16)

2020年3月掲載

確率的状態遷移モデルを用いた日本におけるCOVID-19流行の分析

COVID-19の感染広がりを防ぐため日本政府が2月下旬に提唱したテレワーク及び学校の休校措置による3密状態を避ける政策の効果を検証及び評価するために、感染症数理モデルであるSusceptible-Infected-Removedモデルをベースとして人々が密状態の場所を避ける行動をベースに確率的モデルを構築した。1時間毎にその人が滞在している場所に応じて決まる感染確率をもとにCOVID-19に感染するかが決定される。通常時の密な場所の平均滞在時間を1日あたり8時間とし、政策により平均滞在時間が4時間に減ることで、1日あたりの感染者増加数が一定値に収まり、2時間に減ると流行が収まる結果が得られた。

Karako K, Song P, Chen Y, Tang W.
 Analysis of COVID-19 infection spread in Japan based on stochastic transition model.
Biosci Trends. 2020;14(2):134‐138.
https://doi.org/10.5582/bst.2020.01482
(2020/3/19)